2019年2月25日 月曜日
相続時に相続登記を法務局に申請する手順
相続に関する諸手続きは、数多くあります。
そのひとつである「相続登記」は他の手続きと同様に、専門的な知識と煩雑な手続き、そしてたくさんの時間を要するものです。
本コンテンツでは、今後相続手続きを控えている方向けに、相続登記を法務局に申請する方法と、その具体的な手順についてご紹介していきます。
目次
相続とは
相続は、被相続人(亡くなった人のこと)が死亡または失踪宣告・認定死亡を受けたことで発生し、被相続人の配偶者や子どもなど特定の人が被相続人が所有していた財産や権利義務を、各相続人の割合に応じて引き継ぐ制度のことです。
相続の方法は、大きく分けて下記の3つがあります。
- 遺された財産を誰が・何を・どの割合で相続するかを、相続人の間で話し合って決める協議分割
- 被相続人が生前に作成した遺言によって財産を受け取る遺贈
- 贈与者が死亡したら受贈者に財産を残す契約を、生前に贈与者・受贈者間で締結していたことにより財産を受け取る死因贈与
相続は民法や相続税法などの各種法律や制度により規定されています。
これに基づき、被相続人から財産を引き継ぐ相続人は、遺産分割、相続税の申告・納付などの一連の手続きを行わなくてはなりません。
このなかで特に、不動産を相続する際に重要な手続きのひとつが、相続登記なのです。
相続登記とは
まず、登記の総論からご説明します。
日本国内に所在する土地や建物などの不動産については、その所在地・所有者・種類・面積・権利の状況などを「登記記録」として国の機関である法務局に公示します。
登記記録は法務局で誰でも閲覧することが可能であり、手数料として登記印紙を添え登記記録の写しを申請すると、「不動産登記事項証明書」を取得することができます。
※ちなみに、登記記録は電子化されており、一部の地域を除きインターネットでも取得することが可能になっています。
これが不動産登記の制度です。
不動産登記には「公信力」が無く、つまり登記されている内容が必ずしも全て正しいとは限らないのですが、所有権など当該不動産に関する法的な権利を第三者に主張することができる「対抗力」があります。
このため、不動産登記は所有者などの権利関係や当該不動産の状況を公示するとともに、売買や抵当権などで円滑な権利の移転や設定などを可能にする役割を持っています。
不動産登記事項証明書は、「表題部」「甲区」「乙区」の3つで構成されています。
表題部では、当該不動産の所在地・面積・種類などの情報、甲区では当該不動産の所有者、乙区では抵当権や賃借権など所有権以外の権利がそれぞれ記載されています。
さらに、不動産登記事項証明書にはこれまでの所有者や権利の変遷など、当該不動産がどのような歴史をたどって現在に至るかが記載されています。
そして、相続登記とは相続が発生した際に甲区に記載されている不動産の所有者の名義を、被相続人から当該不動産を相続する相続人の名義に変更する手続きのことです。
なお、相続登記は法的に義務付けられているものではなく、相続登記をせず甲区記載の名義を被相続人のままで放置しておいたとしても罰則などが課されるわけではありません。
しかし、相続登記をしなければ、以下のような問題が後々に発生することが考えられます。
(1)売りたいときに売れず、担保にも含めることができない
不動産を売却したり、融資を受けるために銀行などへの担保とする場合、不動産会社や金融機関から必要書類として当該不動産の登記事項証明書の提出が要請されます。
その際、もし当該不動産の相続登記が行わなれておらず名義が被相続人のままだと、当該不動産は売主または抵当権設定者と名義が相違することになってしまいます。
このような状態の不動産の売却を仲介する不動産会社や、抵当権者となり融資を実行する金融機関はいないと考えていただいてよいでしょう。
したがって、売却や担保提供のためには相続登記手続きにより名義変更をする必要があります。
しかし、登記手続きを完了させるまでには相応の時間を要します。
このため、売却や担保などが必要になってから手続きを始めた場合、売却や融資を受けるタイミングを逃してしまう事態も想定されます。
(2)今後の相続人に迷惑をかける可能性
被相続人A氏が亡くなって、その子であるB氏がA氏所有の不動産を相続したとします。
しかし、B氏は当該不動産の相続登記を行わないまま亡くなり、B氏の子C氏が当該不動産を相続することになりました。
そして、当該不動産がA氏のままであることに気づいたC氏は、適正な相続登記を行いC氏の名義にすることになりました。
果たして、C氏はどのように手続きが必要になるのでしょうか。
C氏が当該不動産を自身の名義とするためには、親であるB氏の相続人の同意の他にA氏の相続人全員の同意が必要となるのです。
もし、当時A氏の相続人にはB氏のほかに甲氏と乙氏がおり、すでに甲氏と乙氏の一方もしくは両名が亡くなっている場合は、亡くなった人の相続人全員の同意が必要となります。
必要な同意を対象となる相続人全員から円滑に得られれば良いのですが、甲氏・乙氏本人、あるいは甲氏・乙氏の相続人とC氏は関係が希薄なため相続手続きに同意を求めるC氏に非協力的である可能性もあります。
中にはC氏に金銭的な見返りを要求してくる人がいるかもしれません。
このように相続登記を行わないことにより、後々の相続人に大きな負担を強いる可能性があるのです。
(3)詐欺に巻き込まれる可能性
大手不動産会社が土地売買をめぐって巨額の買付代金を騙し取られた事件で、「地面師」と呼ばれる詐欺師が注目されました。
地面師に狙われやすい不動産の特徴のひとつとして、相続登記手続きが行われていないために長い期間にわたり登記事項証明書上の所有権の移動が無いこと、登記事項証明書上の名義人と実際の所有者が異なっていることなどが挙げられます。
もっとも、先述のとおり登記事項証明書には対抗力があるため地面師による詐欺に巻き込まれたとしても、不動産を失うわけではありません。
しかし、このような地面師の動きを少しでも封じるために適宜適切に相続登記を行っておくことは社会的な意義があると考えられます。
法務局へ申請手続きをする
相続登記は法務局宛てに行います。
以下では、必要書類や手順などについてご紹介します。
法定相続人の確認
相続人は、配偶者や子供など法定相続人のほかに、遺言で定められている人が該当します。
そして、法廷相続人を客観的に確定させるためには、その確認資料として被相続人の戸籍謄本と、相続人全員の現在の戸籍を証明する戸籍謄本や、戸籍全部事項証明書を集めておかなければなりません。
戸籍は役所に行って申請すれば全て揃うものと簡単に思われがちですが、実際は思いのほか大変です。
まず、相続登記に限らず、一連の相続手続きには被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍と何種類もの書類が必要であり、さらに記載事項の連続性が担保されるように書類を漏らさずに集める必要があります。
さらに、戸籍は本籍地の役所でしか取得できないことから、戸籍に記載のある本籍地の役所が市町村合併などにより他の役所に合併されている場合などは、そもそも本籍地の役所はどこかということから調べなくてはならないのです。
また、これまでの度重なる戸籍法の改正により、戸籍の様式には「明治31年式」・「大正4年式」・「昭和23年式」・「平成6年式」があり、それぞれ記載内容や様式が異なります。特に平成6年式以前の戸籍謄本については、昔の書体や記載慣習に通暁している人ではない限り記載事項を読み解くことは非常に難しいでしょう。
さらに、相続人の誰かが既に死亡している場合は、その子供が代襲相続人として法廷相続人に該当することになるため、取得しなければならない戸籍がさらに増えることが想定されます。
このように、法定相続人を確認するために必要な疎明資料である戸籍謄本の収集を、相続人が個人で行うには、多大な時間と労力を要します。
費用はかかりますが、一連の相続登記手続きと併せて司法書士に依頼することも一案です。
必要書類を揃える
不動産の相続登記で一般的に必要とされる書類は以下の通りです。
この中には、遺言書や他の相続人の有無など相続そのものの状況によって不要となるもの、あるいは何らかの個別事情により以下のリストに無い書類についても提出が要請される場合がありますので、事前に法務局にしっかりと確認するようにしてください。
なお、戸籍謄本(抄本)・除籍謄本・改正原戸籍謄本は相続関係説明図を作成することで、遺産分割協議書・遺言・印鑑証明書・住民票の写し・除票の写し・戸籍または除籍の附票の写し・固定資産評価証明書は原本還付の手続きをすることで、相続登記完了後に返却を受けることができます。
(1)申請人(相続人)の確認書類
- 住民票、除票の写し
- 印鑑証明書
- 戸籍謄本(抄本)
- 戸籍の附票の写し
(2)被相続人の確認書類
- 戸籍謄本または除籍謄本
- 出生時から亡くなるまでの除籍謄本、改正原戸籍謄本
- 戸籍または除籍の附票の写し
(3)申請人が相続人であることの証明
- 相続関係説明図
- 遺産分割協議書
- 委任状(他の相続人などに自身の相続登記手続きを依頼する場合)
- 遺言書
- 検認済証明書(遺言書が公正証書遺言以外の形式だった場合)
(4)不動産に関する書類
- 登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 名寄帳
(5)その他
- 収入印紙(登録免許税を現金で納付しない場合)
- 定額小為替(市町村役場などに郵送で請求する場合)
登記申請書の作成
登記申請書は、A4用紙片面を用いて、原則として、相続する不動産ごと(不動産番号ごと)に作成します。
登記申請書の作成方法は、遺産分割のパターンにより異なります。
具体的には、遺言書が無く法定相続割合通りに相続する場合、遺言書が無く遺産分割協議で合意した割合で相続する場合、遺言書の記載内容通りに相続する場合の三通りです。
それぞれの場合で登記の原因などを証明する「登記原因証明情報」における記載内容や添付書類などが異なりますので、法務局に確認しながら作成してください。
なお、全ての遺産分割のパターンで共通する記載事項は以下の通りです。
- 表題に「登記申請書」と記載
- 登記の目的
- 登記の原因
- 相続人の住所、氏名、住民票コード
申請手続きの注意点
登記申請手続きには、「オンライン申請」「法務局の窓口で申請」「郵送申請」の3つ方法があります。
オンライン申請は自宅にいながら登記申請が可能なので、最も便利ですが、そのためには電子証明書を取得しなければならず、さらに不備の内容次第では窓口まで赴かなくてはならないこともあります。
これに対して窓口での申請は平日の開局時間に法務局まで赴かなければならない不便さはありますが、窓口で各種の相談や登記申請を行った旨の確認ができるため、確実性を追求する上ではもっともお勧めです。
なお、郵送で申請する場合は書留で送付する必要があることと、オンライン申請同様に不備次第では窓口まで赴かなくてはならなくなる可能性があることにご注意ください。
手続きでお困りの方はご相談ください
相続登記は、特定の専門家に依頼することを義務付けられているものではなく、本コンテンツに書かれている手順に沿えば誰でも行うことができます。
しかし、これまでお読み頂いた通り相続手続きは決して簡単なものではなく、日常の生活では目にすることが無いような書類を漏れなく揃え、法務局へ申請しなければなりません。
また、法務局や役所は土日祝日は各種の申請を受け付けていないことから、平日の昼間は働いている方は仕事を休まなければ相続登記に関する手続きが行えません。
いずれにせよ、相続登記をご自身で行うことは相当な負担になるものと推察されます。
特に相続する不動産が多ければ多いほど負担は増加します。
それならば、ご自身で行うより費用はかかるものの相続登記のことは専門家に任せて、ご自身は本業など生産性があるものに集中する方が、経済的合理性があると言えるのではないでしょうか。
ここで、相続登記に関する専門家についてご説明します。
土地家屋調査士には、相続する不動産の表題部に関する登記手続きが依頼できます。
また、相続税を納付するためなどに不動産の売却を行う場合は、隣地との境界確定や土地の測量を行う必要があります。
土地家屋調査士には、この業務についても依頼できます(勘違いされやすのですが、測量士は不動産の測量に関する業務のみ対応可能であり、登記に関する業務はできません)。
また、司法書士には法定相続人を確定させるための戸籍謄本の取り寄せることの他に、相続する不動産の甲区および乙区の登記手続きが依頼できます。
なお、表題部に関する登記がないと甲区および乙区の登記ができませんので、ご注意ください。
もちろん、ご自身で相続登記を行う場合でも何か困ったことが生じた際は相談を受け付けている土地家屋調査士や司法書士がいます。
困った際はお一人で悩まず、ぜひ専門家の知見を借りてみてください。