2019年2月22日 金曜日
相続時に必要な準確定申告とは?
相続手続きの手順のひとつとして、準確定申告というものがあります。
準確定申告は、給与所得や年金のみで生計を立てていた被相続人(亡くなった人のこと)の場合には、手続きそのものが不要とされている場合が多いことから、相続税の申告・納付と比べると知名度は低いものです。
一方で、生前の被相続人に確定申告が必要な所得があった場合には、相続人が確実に行っておく必要があるため、この基礎知識を得ておくことは他の相続対策と同様に重要です。
本コンテンツでは準確定申告の基礎知識および手順についてご紹介します。
目次
準確定申告とは
所得税の確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税の額を計算し、源泉徴収された税金や予定納税額などがある場合に当該過不足を精算する手続きのことです。
通常、所得税の確定申告は前年1年間の所得について翌年の2月16日から3月15日の間に原則として本人が行います。
これに対し準確定申告とは、被相続人の確定申告を相続人が代わって行うことです。
相続人本人の所得に関する確定申告ではありませんので、ご注意ください。
具体的には、被相続人の相続が発生(亡くなること)した年の1月1日から相続が発生した日までの所得に対する所得税を、遺族などの相続人が申告・納付します。
生前に確定申告を必要とする所得があった被相続人の遺族など相続人は、必ず被相続人に代わって準確定申告を行わなければなりません。
また、被相続人が以下に該当する場合は、準確定申告を行うことで、被相続人が生前に支払っていた税金の還付を受けることが可能な場合もあります。
・高額の医療費を支払っていた場合
・高額の寄付を行っていた場合
・収入が給与または年金のみで源泉徴収の対象であり、その年の年末調整未了のまま亡くなった場合
・年末調整を受けていない生命保険料や地震保険料など各種控除を受けることが可能な支払いがある場合
・住宅ローンの残債がある場合(一定の要件有り)
・認定住宅新築等特別税額控除の対象となる自宅を新築していた場合
・盗難や自然災害などによる被害を受けていた場合
なお、準確定申告により各相続人が負担した税額は、相続人の相続財産額から債務として控除され、同じく準確定申告により各相続人が還付を受けた金額は相続財産に加算されます。
また、被相続人の所得金額が38万円以下の場合、生前に同一生計だった相続人については配偶者控除や扶養控除を受けることが可能です。
申告期限について知っておく
準確定申告の申告および納税期限は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」と定められています。
期限までに申告・納税が為されない場合や過少申告を行った場合、加算税(無申告加算税・過少申告加算税・不納付加算税・重加算税)や延滞税などの追徴が課されることになり、さらに悪質と判断された場合は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が課されることになりますので、ご注意ください。
また、前年に確定申告の必要な所得があった人が翌年の確定申告を行う前に亡くなった場合は相続人が被相続人の前年分の確定申告を行わなくてはならず、これについても準確定申告と同様の期限とされています。
なお、準確定申告が不要であり還付金を受け取るために申告する場合は、上記の期限内でなくてもよいとされています。
もちろん、還付金が生じる場合に準確定申告を行わなかった場合については何も罰則規定はありません。
準確定申告の手続き方法
準確定申告は、後述する書類を揃えて遺族などの相続人が被相続人の死亡当時の納税地を所管する税務署に申告・納付します。
なお、準確定申告は書類を郵送することは認められていますが、国税電子申告・納税システム(e-Tax)を利用することはできません。
また、国税庁による確定申告書作成コーナーの利用もできないため、基本的にすべて手書きで作成することになります。
また、納付は現金かクレジットカードでのみ可能です。
申告者の規定
国税通則法第5条第1項によりますと、準確定申告の義務者は相続人または包括受遺者(法定相続人ではないが被相続人から遺言などで財産を特定せず受け取る人)とされています。
相続税の申告と異なり、包括受遺者が法人であっても準確定申告の義務者となります。
相続人が2名以上いる場合、準確定申告は相続人全員で行うことを基本としており、具体的には「死亡した者の平成○年分の所得税の確定申告書付表」に相続人が連署することで申告します。
なお、相続人が個別に申告することも認められていますが、この場合でも自身の申告内容を他の相続人に通知することが義務付けられています。
したがって、準確定申告の手続きでは相続税の申告・納税と同様かそれ以上に相続人間での連携・協調が求められるのです。
なお、準確定申告による相続人の負担割合は、遺言書の有無により異なります。
遺言書が無い場合は、実際の相続割合によらず法定相続割合で按分して計算した額を負担するものとされています(国税通則法第5条第2項)。
これに対して遺言書がある場合は、当該遺言書に指定された分割割合に応じて各相続人が負担します。
必要書類
準確定申告における主な必要書類は、以下のとおりです。
「平成○年分の所得税の確定申告書(AまたはB)」および「死亡した者の平成○年分の所得税の確定申告書付表」については、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
・平成○年分の所得税の確定申告書(AまたはB)
・死亡した者の平成○年分の所得税の確定申告書付表(相続人の数が複数以上の場合に提出。各相続人の氏名、住所、被相続人との続柄、相続割合、相続額、マイナンバーなどを明記)
・給与や年金の源泉徴収票
・生命保険や損害保険の控除証明書
・医療費の領収書(医療費控除を受ける場合)
・納付書(100円未満切捨て)
・委任状(代表者が一括して還付金を受け取る場合)
・青色申告決算書、収支内訳書(事業所得がある場合)
・マイナンバー通知カードまたはマイナンバーの記載のある住民票の写し
・本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)の写し
基本的に、準確定申告で提出が要請される書類は通常の確定申告と同様のものとなります。
大きく異なる点は、本紙である「平成○年分の所得税の確定申告書(AまたはB)」の表題部分に「準」と書き足すこと、相続人が1名の場合は申告者の氏名欄に被相続人の氏名に加えて相続人の氏名も記載すること、相続人の数が複数以上の場合は「死亡した者の平成○年分の所得税の確定申告書付表」を提出することが定められていることです。
申告が不必要な場合もある?
準確定申告の要否は、被相続人の相続が発生する前年1月1日から亡くなるまでの所得および控除対象の支出の状況により変わってきます。
被相続人の生前の所得に関することなので、複数以上の先から収入がある場合や自営業の場合などはすべての把握が難しいこともあります。
その場合は、銀行預金の異動状況や各種郵送物などから探っていくしかありません。
申告が必要な場合
まず、税金が生じる所得の項目を把握しましょう。
・利子所得…公社債や預貯金の利子、合同運用信託などの収益分配金
・配当所得…法人から受け取る剰余金や利益の配当および分配、投資信託などからの収益分配金
・不動産所得…不動産および不動産の上に存する権利、船舶や航空機などの貸付による所得
・事業所得…農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業などの事業から生じる所得
・給与所得…俸給、給料、賃金、歳費および賞与ならびにこれらの性質を有する給与
・退職所得…退職手当など、その他の退職により一時的に受ける給与およびこれらの性質を有する給与
・山林所得…山林を伐採して譲渡し、または立木のまま譲渡したことによる所得
・譲渡所得…資産の譲渡による所得
・一時所得…賞金、競馬の払戻金、保険の満期返戻金など、上記以外の所得のうち営利を目的とした継続的行為から生じた所得以外の一時所得であり、労務その他の役務の対価または資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの
・雑所得…公的年金など、他の所得のいずれにも該当しない所得
被相続人の生前の所得のすべてが「源泉分離課税制度(他の所得と分離し、所得の支払者が税金を源泉徴収する方法)」により所得税の課税関係が終了するものであれば準確定申告は必要ないのですが、以下の課税制度によるものであれば必要です。
(1)総合課税制度
各所得の金額を合計して税額を計算し、確定申告を行う方式です。この方式による所得税は、「(各所得の合計金額-所得控除)×累進税率」で算出されます。
なお、所得控除とは基礎控除(38万円)、医療費控除(最大200万円)、配偶者控除、生命保険料控除、寄付金控除などが該当します。
(2)申告分離課税制度
各所得の金額は合計せず分離して税額を計算し、確定申告を行う方式です。
この方式による所得税は、「(所得金額-所得控除)×比例税率」で算出されます。
この場合の所得控除可能額は総合課税制度で控除しきれなかった分であり、比例税率は長期譲渡所得、短期譲渡所得などにより所得別に定められています。
そして、所得税は「総合課税による税額+申告分離課税による税額-税額控除」により算出されます。
ここでいう税額控除とは、配当控除、住宅借入金等特別控除、政党等寄付金特別控除などが該当します。
続いて、準確定申告が必要となるケースを被相続人の所得に関する状況別に見ていきます。
被相続人の所得状況が以下に該当する場合は、原則として準確定申告が必要です。
基本的に被相続人が生前に確定申告を行っていた場合は、準確定申告が必要となる可能性が高くなります。
(1)共通して必要な場合
・所得税の額の合計額が、配当控除額と年末調整対象である住宅借入金等特別控除の合計額を超える場合
・個人事業を行っていた場合
・賃料などの不動産所得や貸付金の利子所得がある場合
・保有する土地や建物を売却した場合(法人への遺贈など、みなし譲渡所得を含む)
・医療費控除の対象となる高額の医療費の支払いがある場合
・寄付控除の対象となる高額の寄付を行っていた場合
・生命保険などの満期還付金や一時金を受け取っていた場合
(2)年金生活者の場合
・公的年金等による雑所得が基礎控除未満の場合
・公的年金等による雑所得以外の所得金額が20万円を超えている場合
・公的年金等による収入が400万円を超えている場合
(3)給与所得者の場合
・その年中の支払給与等の合計額が2,000万円を超える場合
・1ヶ所のみから給与等の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得(外貨預金の為替差益を含む)が20万円を超えている場合
・2ヶ所以上から給与等の支払を受けている人で、年末調整を受けていない受けていない従たる給与等の金額と給与所得および退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える場合
・同族会社の役員等で、当該同族会社から貸付金の利子または資産の賃貸料などを収受している場合
・災害減免法に基づき給与に関する所得税等の源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けていた場合
・給与から源泉徴収されない制度の在日外国公館に勤務していた場合
・外国企業から受け取った退職金など、源泉徴収されない所得がある場合
・パートタイマーであり、その収入が103万円以下で他に所得がない場合
申告が不必要な場合
被相続人が以下に該当する場合、準確定申告は不要です。
基本的に、4.1の裏返しとお考えください。
(1)共通して不要な場合
・相続放棄をした場合
(2)年金生活者の場合
・公的年金等の受給額が400万円以下、他の所得が20万円以下の場合
(3)給与所得者の場合
・1ヶ所のみから給与等の支払を受けている人で、すべての所得が源泉徴収されている場合
準確定申告に関する相談は税理士へ
準確定申告に関して分からないことなどがあれば、ぜひ税理士にご相談ください。
税理士であれば、各種相談に対する対応はもちろんのこと、普段は仕事などで忙しく準確定申告の手続きに時間を割くことが難しい人の代理として一連の手続きを請け負うことが可能です。
また、準確定申告はその後に控える相続税の申告・納付にも大きく関連しており、財産が相続税が発生する規模の場合、準確定申告と相続税の申告・納付は不可分ともいえる手続きです。
この2つの手続きを一体で税理士に依頼することにより、手続きの正確性やご自身の時間の有効活用にもつながります。