2019年2月22日 金曜日
親の連帯保証は相続される?相続時の対処法
せっかく相続財産が手に入ると思っていたら、実は被相続人に連帯保証があり請求を受けてしまった…。
このような事例は少なくありません。
連帯保証は、債権者に対して法的に極めて強い弁済義務を負うものであり、そのことを知らずに相続して自己破産に陥ったという事例もあるほどです。
そのような事態を防ぐために、今回は『連帯保証とは何か』という基礎知識から、『被相続人に万一連帯保証があった場合に相続人としてとるべき方策』までをご説明します。
目次
相続時の連帯保証の扱い
連帯保証とは?
民法では、連帯保証人はこのように記載されています。
民法第446条
第1項:保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
第2項:保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
第3項:保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
この内容をまとめると、「連帯保証人とは、お金などを借りている主たる債務者が債務の弁済を行わないときに、主たる債務者に代わって債務の弁済を行う義務を負うことを契約(デジタル方式でも可)により保証した人のこと」と定義されます。
連帯保証人には、主たる債務者の債務弁済について強い拘束力が課されており、通常の保証人とは以下の点が異なります。
・「催告の抗弁権」が無い
債務の弁済について主たる債務者と連帯保証人のどちらかに請求することは債権者の任意です。
しかし、連帯保証人には債権者に対して主たる債務者に先に請求するように要求する権利がないのです
・「検索の抗弁権」が無い
連帯保証人から主たる債務者に先んじて債務弁済の請求があった場合、主たる債務者に弁済する財産があったとしてもそれを理由に債務弁済を拒む権利がありません。
・「分別の利益」が無い
通常の保証で保証人が複数いる場合、保証人の人数で按分した金額しか保証債務はありません。
しかし、連帯保証は保証人が複数いる場合でも保証人全員が主たる債務者の全ての債務を保証する義務を負います。
したがって、被相続人に連帯保証がある場合、相続人の利益が過度に侵害されないように、慎重に相続手続きを進める必要があります。
連帯保証に対する相続人の義務は?
民法896条に、相続発生時の相続人に対する連帯保証の扱いが定義されています。
民法896条:
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
『権利』とは被相続人が遺した不動産や預貯金、あるいは貸付金のような債権などプラスの財産(積極財産)と解釈できます。
また、『義務』とは未払いの税金や被相続人が弁済義務を負った借金の支払いなどマイナスの財産(消極財産)と解釈できます。
連帯保証については、この消極財産の範疇に入るものと考えられます。
つまり、「連帯保証人が亡くなった場合、その相続人は基本的に連帯保証債務も相続する」ことになるのです(ただし、一部例外はありますので、この点は後述します)。
さらに、連帯保証債務を相続すると相続人は原則として債権者からの債務弁済の催促に応じなければなりません。
なお、相続人が複数以上いる場合、法定相続割合に応じて、あるいは相続人間の話し合いで決めた割合に応じて、各相続人は債務の弁済を行うことになります。
被相続人の連帯保証を調査する
生前に自身が連帯保証人であることを周囲に話している被相続人は、少ないかもしれません。
したがって、被相続人の連帯保証の有無については相続が発生してから相続人によって調査して発覚することが多いと考えられます。
以下で代表的な調査方法をご紹介しましょう。
(1)契約書を確認する
先述のとおり、連帯保証は書面で契約が締結されていなければ無効です。
別の言い方をすると、連帯保証の当事者としての契約書がある場合は、被相続人は連帯保証人となっているということです。
まずは被相続人の遺品や身辺周辺、貸金庫を丹念に探し、連帯保証に関する契約書の有無を確認してください。
(2)預金通帳を確認する
既に連帯保証人として債務の弁済が始まっており、かつ返済が約定弁済(一定期間に渡って一定額ずつ弁済していくこと)の場合、銀行預金から引き落としているケースが多く見られます。
相続対象となる連帯保証は?
連帯保証は、契約書に「被相続人の死亡により本件連帯保証は消滅する」などと明記されていない限り、基本的に相続の対象になるとお考えください。
一方、例外的に相続の対象とならない連帯保証もあるので、そちらについてご説明します。
さきほどご紹介した相続時の連帯保証の扱いを規定する民法896条には、「ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」とあります。
この「被相続人の一身に専属」するものに、「根保証」というものがあります。
根保証とは、例えば銀行の手形割引契約や当座貸越契約のように債務者の継続取引関係により生じる債務を将来にわたり保証するものです。
参考:民法第465条の4
「貸金等根保証契約の元本の確定事由」
次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。
一、 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
二、 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三、 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
根保証は契約に限度額や期間に定めがない場合、保証人の抱えるリスクが制限無く大きくなる性質を持つため、保証人の死亡に伴って消滅し、相続人には引き継がれないものとされています。
これは当該保証人の連帯保証人についても同様と考えられています。
ただし、期間に定めがあり、その期間内に保証人である被相続人が死亡した場合は、その限りではありません。
このほかに、被保証人の就職や賃貸住宅を借りるためなどに保証人となることが考えられますが、この類例は一般的に被保証人が第三者に損害を与えた場合に保証人が当該損害を賠償する「身元保証」です。
この場合についても原則として民法第896条の「被相続人の一身に専属したもの」として相続人には承継されないと考えられています。
しかし、被相続人の死亡前に保証契約に基づく賠償義務が発生していた場合は、相続人に承継される可能性が高くなります。
相続放棄などでの対処
もし被相続人が連帯保証人になっていたことが分かった場合は、どうすべきなのでしょうか。
その際の具体的な方策についてご紹介します。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続人が相続財産に対して有する権利や義務の一切を放棄し「何も相続しない」とすることです。
相続放棄により、積極財産より消極財産が多くても、連帯保証などの消極財産を相続することはなく、支払う義務は負わなくなるのです。
特に連帯保証の場合に限らず、心情面などで相続そのものに関与したくない場合は、相続放棄を検討する価値があります。
相続放棄の場合、何も相続しないわけですから、当然相続税は発生しません。
相続放棄をするためには、定められた手続きを家庭裁判所で行う必要があります。
被相続人の生前に相続放棄を行うことは認められていませんので、一連の手続きは相続が発生してから着手することになります。
まず、被相続人が亡くなったことを知ってから必ず3ヶ月以内に、各相続人にて被相続人が生前最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所へ、相続放棄をする旨を申し出てください。
もし、相続発生後3ヶ月に到達しつつあるのにも関わらず、承認するか放棄するか決心が付かない場合、あるいは被相続人の連帯保証の有無について調査が未了の場合、家庭裁判所に期間延長の審判を申し出てそれが認められれば、延長してもらえます。
相続放棄の申し立てに際して、家庭裁判所に提出する書類は概ね以下の通りです。
被相続人との属柄によって変わりますので、ご注意ください。
・相続放棄の申述書
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申述人(相続放棄する相続人)の戸籍謄本
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(*申述人が被相続人の配偶者の場合)
・.被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(*申述人が被相続人の子またはその代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合)
・申述人が代襲相続人(孫,ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(*同上)
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(*申述人が,被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おい、めい)(第三順位相続人)の場合)
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(*同上)
・被相続人の直系尊属に死亡している人(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母))がいる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(*同上)
この他、相続放棄で注意して頂きたいこととして、仮に被相続人の子供たち全員が相続放棄した場合、被相続人の父母や兄弟姉妹など法定相続人として後順位にいる人たちが相続することになる点が挙げられます。
連帯保証など消極財産の相続をしないために相続放棄したとしても、後順位の人に相続権が渡ればその人たちに迷惑を掛けることになります。
相続放棄をする場合は他の後順位の人に自身が相続放棄をすること・被相続人に連帯保証があることなどをしっかりと伝えたうえで、順次相続放棄の手続きを取るようにしてください。
また、遺産分割協議の場で、自分は一切財産を受け取らないと表明し、それを明記した遺産分割協議書を作成する方法は、家庭裁判所を通していないため正式な相続放棄と認められず、連帯保証などの消極財産を引き継ぐことになりますのでご注意ください。
なお、相続の発生後に債権者からの督促によって初めて被相続人が連帯保証人になっていたという事実を知ったという事態も少なからずあります。
先述のとおり、相続放棄は被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に行うものと定められています。
しかし、相続開始後3ヵ月後を経過して初めて被相続人に連帯保証が発覚した場合、それを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てれば例外的に相続放棄が認められることがあります。
その他の対処法
相続が発生した場合、被相続人が残した相続財産に対して相続人が取ることのできる選択肢は、相続放棄のほかに「単純承認」と「限定承認」があります。
単純承認とは、積極財産と消極財産のいずれについても相続することです。
もし相続発生後3ヶ月以内に後述する限定承認や相続放棄の手続きを行わなかった場合、相続人は単純承認したものとみなされます。
限定承認とは、相続する積極財産の範囲内で被相続人の連帯保証など消極財産についても相続することです。
被相続人が残した遺産が積極財産と消極財産が混合している場合、消極財産を積極財産で弁済、すなわち被相続人から引き継ぐ預貯金などの範囲で連帯保証に関する債務の弁済が可能であれば、単純承認または限定承認を選択することとなります。
この場合、相続税評価額はプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた正味の財産について計算され、それが基礎控除額(3,000万円+法定相続人の人数×600万円)や配偶者控除額(1億6,000万円)の範囲を超えた分に対して、相続税が課税されます。
相続でお困りの方はご相談ください
以上、被相続人に連帯保証がある場合の対応についてご説明致しました。
被相続人に連帯保証が発覚した場合、相続発生後の期間によらず相続放棄を行うことが一般的ですが、この相続放棄の手続きは手間などを考慮すると弁護士などの専門家に依頼することがお勧めです。
特に弁護士であれば、あなたの代理として債権者と交渉することも依頼できます。
決してお一人で悩まず、お困りの際は弁護士などの専門家にご相談ください。