2019年3月22日 金曜日
みなし相続財産は課税対象となるの?
相続の対象となる資産は多種多様ですが、財産の相続の方法は家族構成や状況によってさらに変化していきます。
なかには、身内の方が現役で働いている年代にもかかわらず亡くなり、生命保険金の死亡保険金や死亡退職金、死亡弔慰金を、遺族として受け取る方もいらっしゃるかと思います。
ところで、「みなし相続財産」という言葉をご存知でしょうか。
相続の手続きにおいて、上記のような、生命保険金の死亡保険金・死亡退職金・死亡弔慰金はみなし相続財産として扱われ、相続税の課税対象となります。
しかし、各種の控除制度が設けられていることから、相続税を計算する際には、他の相続財産とはやや異なった計算をする必要があるのです。
本コンテンツでは、みなし相続財産の基本についてご紹介します。
目次
相続財産にかかる税金
相続によって財産を取得した人に課される税金(国税)のことを、相続税といいます。
2019年3月時点における相続税率は、以下のとおりです。
別途算出された相続財産評価額に以下の税率を乗じ、カッコ内の金額を控除して得られた額が相続税となります。
- 1,000万円以下:10%(控除額なし)
- 3,000万円以下:15%(50万円)
- 5,000万円以下:20%(200万円)
- 1億円以下:30%(700万円)
- 2億円以下:40%(1,700万円)
- 3億円以下:45%(2,700万円)
- 6億円以下:50%(4,200万円)
- 6億円超:55%(7,200万円)
家族構成のパターンに応じた相続税の速算表をよく見かけますが、それらは法定相続割合のみを考慮したものとなっていることがほとんどです。
実際の各相続人の相続税額は、遺産分割協議によって決まった分割割合や、特別受益の有無、相続時精算課税制度の活用の有無などに応じて、大きく変わります。
そのため、速算表だけで自分の相続税を完璧に計算することは難しいです。
利用する際は、あくまでも参考程度にしておきましょう。
相続税の計算方法は、諸制度や法律、さらには相続関係者たちの個別の事情が組み合わさったものですので、非常に煩雑で分かりにくくなっています。
そのため、相続税や各種制度、法律について何も知らない人が計算・申告をすると、過大申告・過少申告となってしまう可能性があります。
もし、うっかり計算方法を誤って過少申告になってしまった場合でも、税務署に”故意に誤った悪質な過少申告”と判断されてしまうと、追徴課税などが課されてしまうリスクがあります。
したがって、相続税の計算・申告や税務署との折衝については、多少のコストが生じたとしても、税理士などの専門家に依頼することが安全です。
各相続人の相続税額は、以下の算式およびステップによって計算することができます。
(1)で各項目の評価額を誤ると、適正な相続税額そのものが算出されなくなりますので、相続税評価額は慎重に行う必要があります。
(1)相続人それぞれの課税価格
=A+B-C-D+E
A:相続または遺贈により取得した財産の価額(相続時精算課税制度を適用し贈与を受けた財産を含む)
B:みなし相続財産の価額
C:非課税財産の価額
D:被相続人の債務および葬式費用の額
E:被相続人から3年以内に贈与を受けた財産の価額
(2)課税価格の合計額
=相続人それぞれの課税価格をすべて足し上げ
(3)課税財産総額
=課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円+法定相続人の人数×600万円)
(4)各相続人の法定相続割合に応じたそれぞれの取得金額
=課税財産総額×各相続人の法定相続割合
(5)上記(4)をもとにした税額
=各相続人の法定相続割合に応じたそれぞれの取得金額×税率
(6)相続税総額
=上記(5)で算出された各相続人の法定相続割合に応じた相続税額をすべて足し上げ
(7)各相続人の相続税額
=相続税総額×相続人それぞれの課税価格÷課税価格の合計額(=上記(6)×(1)÷(2))
課税対象財産
相続税の課税対象財産は以下のとおりです。
基本的に、被相続人が死亡時に所有していた財産価値・換価可能性がある財産については、相続税の課税対象になると考えておきましょう。
- 土地、借地権、地上権、家屋などの不動産
- 預貯金、有価証券などの金融資産
- 絵画、高級家具、立木などの家庭用財産
- 事業用、農業用の財産
- 生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産
- 相続時精算課税制度の適用により被相続人から贈与を受けた財産
- 被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産
- その他、ゴルフ会員権や債権など
非課税対象財産
以下のように祭祀財産や葬儀に要した費用や、相続せずにそのまま寄付する財産については、相続税は課税されません。
- 墓地、墓石、仏具、仏像、仏壇などの祭祀財産(ただし、骨董品や投資対象の品は相続税の課税対象)
- 心身障害者救済制度に基づく給付金の受給権
- 相続税の申告期限までに、特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭
- 相続税の申告期限までに、国や地方公共団体、特定の公益法人などへ寄付した財産
- 公共事業を行う人が相続し、引き続き公益事業のために使用することが確実と認められる財産
みなし相続財産は課税対象となる??
みなし相続財産とは
みなし相続財産とは税法上の呼称で、受取人は遺産分割協議を経ずして受け取ることができる財産のことをいいます。
具体的には、後述する生命保険金の死亡保険金や死亡退職金のように、あらかじめ保険契約や会社の退職金規定等で受取人が指定されているもののことです。
結論から言うと、みなし相続財産は相続税の課税対象となります。
ただ、一定金額の非課税控除がありますので、さらに詳しく解説していきます。
みなし相続財産の対象となるもの
みなし相続財産の代表例として、生命保険の死亡保険金・死亡退職金・死亡弔慰金が挙げられます。
以下で、具体的に確認していきましょう。
生命保険の死亡保険金
被保険者(被相続人)を契約者、相続人を受取人とする生命保険の死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。
ただし、相続人が受け取る死亡保険金には非課税枠として「法定相続人の数×500万円」の適用が認められています。
そのため、現預金で相続するよりも、生命保険の死亡保険金のほうが相続税は安くなります。
さらに死亡保険金の総額が上記非課税枠の範囲内であれば、相続人が受け取る死亡保険金に対して相続税は課税されないのです。
また、生命保険の死亡保険金は「相続財産」ではなく「遺族など受取人固有の財産」と位置付けられており、遺産分割協議の対象外です。
このため、先述の代償分割などのために、特定の相続人に対して現金を多く残したい場合は、その人を死亡保険金の受取人とした生命保険を契約しておくことで、他の相続人が遺産分割協議の場で不服を唱えようと、生前のご意向通りその人に現金を相続させることができるのです。
死亡退職金
死亡退職金とは、退職金規定のある企業や役所等に勤務している役職員が在職中に死亡した場合、役職員としての地位は失うものの、生前の勤続年数や役職等に応じて、勤務先から支給されるものです。
通常は、法定相続人として第一順位にある配偶者に支給されます。
そして、役職員の死亡を理由として支給されるものであれば、金銭に限らず現物で支給されたものも含めて考慮されます。
死亡退職金は、被相続人の勤務先からの、被相続人の生前の功労に対する報酬としての性質、または未払い賃金の後払いという性質を含むという考え方もあります。
しかし、基本的に遺族の生活保障を目的として被相続人の勤務先から支給されるものということが一般的な解釈です。
したがって、死亡退職金についても「相続財産」ではなく、「遺族など受取人固有の財産」と位置づけられており、やはり遺産分割協議の対象外です。
そのように聞くと「死亡退職金は遺族にとって相続財産ではないので、受け取る遺族に相続税は課税されないだろう」と思ってしまうかもしれません。
しかし、受給権者としての遺族が受け取る死亡退職金は、税法上「みなし相続財産」と扱われ、原則として所得税ではなく相続税の課税の対象となります。
ただし、例外として被相続人の相続発生後3年を経過してから死亡退職金の支給額が確定した場合は、当該支給額は所得税の課税対象となります。
この場合、「法定相続人の数×500万円」の非課税枠の適用はありません。
死亡弔慰金
勤務先から死亡退職金とは別に支払われることが多い弔慰金についても、一定の額を超過した分については、死亡退職金と同様に、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。
ここでいう一定の額とは、以下の通り被相続人の死亡事由により異なります。
- 業務中に死亡した場合:被相続人の死亡当時の普通給与の3年分に相当する額
- 業務外で死亡した場合:被相続人の普通給与の半年分に相当する額
また、勤務先から支給された香典については、それが社会通念上妥当と考えられる金額であれば死亡退職金等とは扱われず、みなし相続財産としても扱われないため、相続税は課税されません。
みなし相続財産の計算方法・計算例
計算方法
みなし相続財産の相続税課税対象額は以下の数式で算出し、1章の手順に従って、他の相続財産の相続税評価額と合算したうえで相続税額を計算します。
生命保険の死亡保険金
生命保険の死亡保険金にかかる非課税額は、「法定相続人の数×500万円」とされています。
また、受取人がそれぞれ異なる場合の非課税額は以下の算式で算出します。
相続人の非課税額=A×B÷C
A:保険金の非課税枠
B:その相続人が受け取る保険金の金額
C:すべての相続人が受け取る保険金の合計額(相続放棄した人は除く)
そして相続税の課税対象額は、実際の受取額から上記で算出したその相続人の非課税額を控除した金額となります。
死亡退職金
国税庁の各通達や相続税申告書第10表「退職手当金などの明細書」などによりますと、みなし相続財産として相続税の課税対象となる死亡退職金の額は、以下の式で計算されます。
相続人の課税される死亡退職金の金額=A-(B)×{(C)÷(D)}
A:相続人が受け取った退職手当金等の金額
B:非課税限度額
C:その相続人が受け取る退職手当金等の金額
D:相続放棄した人以外の、すべての相続人が受け取る退職手当金等の合計額
そして、死亡退職金の非課税枠は、生命保険の死亡保険金と同様に「法定相続人の数×500万円」とされています。
計算例
生命保険の死亡保険金
夫が亡くなり、妻が3,000万円、息子が1,000万円の死亡保険金を受け取ることになりました。
法定相続人は妻と息子のみです。
非課税枠は、500万円×2人で1,000万円となります。
妻の非課税額は、1,000万円×3,000万円÷5,000万円により600万円となります。
そして、受け取る3,000万円の死亡保険金から、600万円を控除した2,400万円に相続税が課税されます。
一方、息子の非課税額は、1,000万円×1,000万円÷5,000万円により200万円となります。
そして、受け取る1,000万円の死亡保険金から200万円を控除した800万円に相続税が課税されます。
死亡退職金
夫が亡くなり、勤務先から3,000万円の死亡退職金が入ることになりました。
法定相続人は妻と息子ですが、夫の勤務先の退職金規定により妻が全額受け取ることになりました。
非課税枠は、500万円×2人で1,000万円となります。
そして、相続税課税対象となる死亡退職金の金額は、3,000万円-1,000万円×(3,000万円÷3,000万円)で2,000万円となります。
みなし相続財産を相続する際の注意点
相続人ではない人が、生命保険金や死亡退職金などみなし相続財産を取得する場合は、非課税枠の適用はありません。
また、死亡退職金の非課税枠が適用されるのは、被相続人が死亡して相続が発生してから3年以内に確定した死亡退職金に限定されています。
まとめ
以上、みなし相続財産の基本をご紹介しました。
みなし相続財産は、他の相続財産と比べてやや特殊であることから、みなし相続財産の特質や相続税について十分な知識のない人が申告をした場合、誤った計算をしてしまって必要以上に多額の税金を支払ってしまったり、過少申告となってしまったり、税務署から追徴課税などが課されてしまったりするような、大きなリスクがあります。
したがって、みなし相続財産が相続財産にある場合は相続税の申告については、費用を投じて、税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。