2019年3月22日 金曜日
代償分割で分割相続をする前に気をつけたいこと
相続人として被相続人の財産を相続することになった場合には、どのような財産があり、自分がどの程度の財産を相続するかということを正確に知る必要があります。
被相続人が遺言書を作成していれば、遺言書に従って財産を相続することになりますが、遺言書に法的効力があることが前提となるだけでなく、遺留分がきちんと考慮されているかなど、遺言書通りの相続が可能であるかも確認しなければなりません。
また、遺言書がない場合は、法定相続を行いますが、不動産など分けることが難しい財産しかないことも珍しくありません。
このような、さまざまな状況に応じて相続方法を選択するために、相続する日が来る前に分割相続の方法を知っておくことが大切です。
本コンテンツでは、代償分割をはじめとした、分割相続について詳しくご紹介いたします。
目次
分割相続のパターン
相続人が複数人いる場合は、基本的には財産を分割して相続することになります。
分割相続をする場合には、代償分割・現物分割・換価分割・共有分割の4パターンを選択して相続することになります。
これらは基本的には、財産の種類や相続人の都合などによって、選択をすることができます。
ただし、遺言書がある場合には、遺言書の内容が優先されるため、遺言書の内容に従って相続します。
今回は代償分割・現物分割・換価分割の3つの分割方法について、詳しく見ていきましょう。
代償分割
代償分割とは、共同相続人が複数人いる場合に、1人または複数人が財産(現物)を相続して、その相続人たちが財産を相続しなかった他の相続人に、本来相続するはずだった額の金銭を支払う相続方法のことです。
このとき、財産を相続した相続人が支払う金銭のことを代償金といいます。
財産を相続した相続人は、代償金を支払うだけの資力が必要となるため、代償分割をする際にはその点も含め、考慮する必要があります。
また、代償分割は、財産に不動産しかない場合など、相続人で財産を分割して相続することができない場合などに選択される傾向があります。
現物分割
現物分割とは、財産をそのままの形で相続する方法のことをいいます。
たとえば、預貯金、現金、不動産、貴金属といった財産があり、相続人が長男と長女だった場合、長男に預貯金と不動産、長女に現金と貴金属といった形で財産を相続させる相続方法のことです。
現物分割だと、わざわざ財産を売却して換金する手間などがなく、比較的楽に分割相続することが可能となります。
ただし、相続財産が同じくらいの価値があることは珍しいため、財産を公平に相続することが難しく、不平等な分割が生じる可能性が高いという特徴があります。
そのため、同じくらいの価値がある財産がない場合は、トラブルの原因となることが多いので、不向きな相続方法であるといえるでしょう。
換価分割
換価分割とは、財産を売却して現金に換えたのち、相続人がそれぞれの割合に応じて現金を相続することをいいます。
換価分割は売却するといった手間があるものの、現物分割のように不平等が起きづらく、平等に財産を分割相続できるといった特徴があります。
また、代償分割のように代償金の支払いを巡り、トラブルになるといったこともありません。
ただし、不動産を売却するときに、手数料などがかかり、本来の財産の価値よりも受取金が安くなってしまう可能性が考えられます。
また、現物が残らないので後々財産として残すことができなくなります。
しかしながら、財産の不動産が田舎にあるなどの理由で誰も住む予定がない場合は、劣化が進み、売却したいと思ったときには売却ができないこともありえます。
そのため、住みたい相続人がいないなどの条件が合えば、換価分割は効率的な相続方法であるといえるでしょう。
代償分割による分割相続方法
代償分割による分割相続方法は、事前にその要件と手順を知っておく必要があります。
代償分割の場合、1人または複数人の相続人が現物を相続し、現物を相続しなかった相続人に現物を相続した相続人が代償金を支払うため、現物を相続した相続人にはやらなければならないことが多くあります。
それらを理解し、自分の手に負えない部分に関しては、専門家の指示を仰ぎながら相続についての手続きをすることが望ましいと考えられます。
それでは、代償分割の要件および手順について詳しくみていきましょう。
代償分割の要件
代償分割の要件には、財産を相続し、代償金を支払う相続人が代償金を支払うだけの資力を持っていることが挙げられます。
代償金は、基本的に相続するときまでに用意しなければなりません。
代償金は一般的に数百万以上必要であると考えられるため、財産を相続するまでに用意することが難しい場合もあるでしょう。
しかし、そんなときは被相続人の生命保険金を代償金の一部として使用することが可能ですので、それでは足りない分を代償金として用意すればよいことになります。
将来的に代償分割を考えている場合には、代償金の用意をし、代償分割に備えておくことが大切です。
代償分割の手順
代償分割をする場合には、まず、遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議は相続人全員で行い、全員がしっかりと確認し、納得した上で結論を出す必要があります。
相続手続きの中で多くの場合、この遺産分割協議でトラブルが発生してしまいます。
トラブルを起こさないためにも、専門家を交えて遺産分割協議をするなど対策を取るとよいでしょう。
また、遺産分割協議を行い、代償分割がすることが決まったら、必ず「遺産分割協議書」を作成することが大切です。
遺産分割協議書には、どの財産を誰が相続するかといったことを細かく記載します。
そして、このとき、不動産などの現物を相続した相続人が、現物を相続しなかった相続人にいつまでにいくらの代償金を支払うかも明記します。
これにより、遺産分割協議が正しく行われ、すべての相続人が財産の分割に同意したことが証明されます。
この遺産分割協議書がない場合、代償金が贈与だと考えられることがあるため、贈与ではなく、代償金の支払いであることを証明するためにも遺産分割協議書は必要となります。
代償分割で相続するメリット・デメリット
代償分割での相続には、メリットとデメリットの両方が存在しています。
代償分割を選択する場合のメリットもデメリットのどらちも知った上で、代償分割を選択することが重要です。
それでは、代償分割で相続するときのメリットとデメリットについて、詳しくみていきましょう。
メリット
代償分割で相続するメリットは、大きく分けて4つあります。
まず、1つ目のメリットは、「代償分割をすることでスムーズな財産の相続ができること」が挙げられます。
相続人が多い場合、財産分割の手続きには、多くの工程を要します。
相続人の中に遠方者がいる場合には、署名・捺印をもらうだけでも手間と時間がかかります。
ですが、代償分割であれば、財産を相続する人以外の署名・捺印は不要となるため、スムーズに財産の相続を行うことが可能となります。
2つ目のメリットは、「現物のまま相続が必要な財産をそのまま相続できること」が挙げられます。
財産が不動産しかなかったり、事業をしており、事業用地を事業継承する相続人が相続しなければならなかったりしたときに、現物の相続ができるため、代償分割はとても便利です。
3つ目のメリットは、「後々、財産の売却で揉めないこと」が挙げられます。
共同分割といって、不動産などの分割が難しい財産の場合、共同で相続することも可能です。
ですが、共同分割の場合、財産を相続した後に相続人のうちの誰かが売却をしたいと言い出し、別の相続人が売却をしたくないと思ったときに共同財産のあり方について揉めてしまうことがあります。
また、共同相続人のうちの誰かが亡くなると相続権が移行し、気がつくと相続人が増えているなどといった問題も生じることがあります。
しかしながら、代償分割であれば、不動産などの財産でも1人または複数人の相続人がそれぞれ相続し、他の相続人には代償金という本来の相続財産に当たる金銭が支払われているため、財産を相続した後に売却などで揉める心配がありません。
4つ目のメリットは、「不動産の場合、次の代に財産として残せること」が挙げられます。
換価分割などで不動産を売却してしまった場合、次の代に財産として残せるものがありませんが、代償分割として不動産を相続した場合は、次の代に財産として残せるものができるといったメリットがあります。
このように、代償分割には相続をするときだけでなく、将来をみすえた際にさまざまなメリットがあるといえます。
デメリット
代償分割で相続するデメリットは、大きく分けて2つあります。
まず、1つ目のデメリットは、「代償分割をする際、代償金の金額で揉めてしまうとこと」が挙げられます。
不動産などの現物を相続する相続人はできるだけ代償金の金額を低くしたいと思っているのに対し、代償金を受け取る相続人はできるだけ代償金の金額を高くしたいと思っている場合、話がまとまらないことがあります。
兄弟であっても、お金のことで揉めてしまうと、なかなか関係を修復するのは難しいので、争わずに冷静な話し合いが必要となります。
代償分割をする場合には、不動産などの評価について、専門家に依頼し、的確な評価をしてもらうことがデメリットを避ける方法の1つであるといえるでしょう。
2つ目のデメリットは、「代償金を支払ってもらえないこと」が挙げられます。
代償金は一括で支払う方法と分割で支払う方法の2つの方法があります。
基本的に代償分割をする場合には、代償金を支払うだけの資力があることが条件となります。
ですが、現物を相続した相続人に代償金を支払う能力があったとしても、支払いを渋られてしまうことがあります。
このような状況を避けるためには、遺産分割協議書の作成と同時に支払いをしてもらう方法がありますので、代償金の支払いについて不安がある場合は、専門家に相談し、一番よい方法を選択するとよいでしょう。
このように、代償分割にはデメリットもあるものの、そのデメリットを生じさせないようにする方法も存在しています。
専門家に相談するなど、多少手間はかかりますが、トラブルを未然に防げる可能性が高くなるといえるでしょう。
代償分割前に気をつけたいこと
代償分割をする前に気をつけたいことには、大きく分けて4つあります。
まず、1つ目に気をつけたいことには、「相続人が平等な相続を希望しているかという意思確認」が挙げられます。
相続人が法定相続分に従った平等な相続を希望している場合には、代償分割という方法は適しているといえます。
それは、相続人のうちの誰かが不動産を相続し、他の相続人に対して、本来相続するはずだった金銭を不動産を相続した相続人が代償金として支払うため、不平等が起らないためです。
2つ目に気をつけたいことには、「不動産以外の財産の有無」が挙げられます。
もし、不動産以外に現金や預貯金が多くある場合には、代償分割よりも現物分割といって、相続人それぞれが現物で財産を分割相続する方法の方が向いている可能性があります。
あくまで、代償分割の場合は、不動産以外の財産が少なく、平等に財産を分割することができずにやむを得ず選択することが多い傾向にあります。
3つ目に気をつけたいことには、「財産の評価の一致」が挙げられます。
代償分割では、代償金を支払う相続人と代償金を受け取る相続人との間で、財産の評価が異なり、代償金の金額で揉めることがあります。
そのため、財産の評価が一致しているかをきちんと確認しておくことが大切です。
4つ目に気をつけたいことには、「代償分割についての遺産分割協議書の作成」が挙げられます。
代償分割をする場合には、代償分割がされたという証明が重要となります。
これは代償金の支払いを滞りなく行うためだけではなく、代償金が贈与だと疑われた際に代償金であることを証明するためにも必要だからです。
このように、代償分割をする前に気をつけることを知っておけば、トラブルを防ぐことができるのです。
まとめ
分割相続には、4つのパターンがありますが、その中でも代償分割は財産に偏りがある場合に利用しやすい相続方法の1つです。
しかしながら、メリットだけでなく、デメリットもあるため、代償分割を利用する場合には、相続人全員で話し合いを行うだけでなく、手続きやトラブル防止のために専門家に相談するとよいでしょう。