2019年5月28日 火曜日
相続税の圧縮とは?圧縮の方法や対策は?
みなさんは、現在おいくつですか?
どの年代だとしても、現在所有している資産の相続について考えておいて損はありません。特に年配の方は、既に資産を相続する相続人が決まっていて、それなりの準備を進めている方もいるでしょう。しかし、ただ資産を相続させるだけでは、相続人が「相続税」という大きな負担を抱えることになってしまいます。
そこで、負担を少しでも軽くする手段として、「相続税の圧縮」をおすすめします。様々な圧縮法の中から、自分の資産額に合った方法を選択することで、相続にかかる税金を最小限に抑えることができます。
本記事では、「相続税の圧縮」という言葉を初めて聞いた方でも、その全体像を理解できるように、圧縮方法や対策について詳しくご紹介します。
目次
相続税の圧縮とは
「相続税の圧縮」は、納税額を合法的に引き下げることをいいます。相続財産の内容や形を変えることで、相続税そのものの減額を図ります。
相続税を節税できる圧縮には、主に以下の3つの方法があります。
- 被相続人が保有する資産の組み換え・評価方法の見直しを行う
- 相続財産自体を圧縮してしまう
- 非課税枠・基礎控除額を増やし、課税部分を圧縮する
相続税の圧縮を行うメリット
相続税の圧縮方法は複数あるため、相続人にとってどの方法が一番節税になるのか、様々な角度から検証しなければなりません。圧縮方法によっては検討や手続きに多くの時間を要しますが、その手間をかけることで、大きな効果を得ることができます。
ここでは、相続税の圧縮をすることでどのようなメリットが得られるのか解説します。
より多くの資産を残すことができる
被相続人が現金として資産を残した場合、相続される資産の全てが課税対象になってしまいます。
しかし、不動産の購入や非課税枠の活用、生前贈与などによって相続税を圧縮することで、相続人の実質的な負担額を大きく減らすことができます。
資産に対する評価や引き下げ率は圧縮方法によって変わるため、より多くの資産を残すには、できるだけ多くの方法を検討し、自分に合った方法を見つけることが重要です。
子や孫と相続について生前のうちに考えることができる
相続税の圧縮は、被相続人が存命のうちから考えることができる節税対策です。
例えば下記のような方法について、子供や孫と一緒に最適な手段を検討することができます。
- 法定相続人を増やす場合、誰と養子縁組するか
- 不動産を購入する場合、どのように運用していくか
- 生前贈与を行う場合、誰に対して・どのくらいの期間・どのくらいの金額を贈与するか
- 被相続人自身の老後の資金をどのくらい確保・運用していくか
相続税の圧縮方法の例
相続税の圧縮による節税効果は、「制度上規定された評価減」と「市場価格と相続税評価額の差」によって生じます。
ここでは、相続税の圧縮方法の一例として挙げられる、「不動産の購入」「非課税枠の活用」「相続人数の増加」についてご紹介します。参考までに、具体的な数字でのシミュレーション結果もご紹介します。
不動産の購入
土地・建物といった不動産の購入は、従来から代表的な相続税の圧縮法として用いられてきました。不動産の価値は相続において実際の市場価格よりも低い額で評価されるため、相続税の節税対策として活用されています。
以下では、いくつかのパターンに分けて不動産購入による節税効果を見ていきます。
不動産を購入した時の評価額
そもそも、被相続人が現金を残していた場合、残した現金の額面がそのまま評価対象となります。1億円の現金が残された場合、1億円に対する相続税を支払う必要があります。
一方、土地の評価額は、国税庁が定める「路線価」を評価基準に算出し、「路線価×地積」の計算をもとに相続税が決まります。
例えば、購入価格1億円の土地(400㎡)・路線価20万円の場合、評価額は8,000万円になります。現金で1億円を相続した場合と比べ、課税対象の金額に2,000万円の差が生じます。
同じ不動産でも建物の場合は評価方法が異なります。
建物の評価額は「固定資産評価額」を基に算出されます。独自の算出方法を使い、固定資産税を納付するときの基となる評価額が決まります。
建物を購入すると、建てた場合に比べて課税対象の金額が少なくなります。通常、建築時の40~70%の額で推移しているようです。例えば1億円の建物を購入した場合、評価額は7,000万円前後になる計算です。
上記2つの不動産の評価額を見ると、これらを現金として持っていた場合は、合わせて2億円がそのまま相続財産として課税対象となります。しかし、土地を1億円、建物を1億円でそれぞれ購入すれば、課税対象額を1億5,000万円まで引き下げることができます。
このように、保有財産を組み替えることで、相続税の圧縮ができます。
なお、購入した不動産を貸し出す場合は、借主に不動産の権利が一部移転するため、貸主は移転分を差し引いて相続税を支払うことができます。
また、土地も賃貸用の建物が建っていることで「貸家建付評価」という異なる基準で評価されます。前述の評価額よりも、借地権・借家権をかけた割合分の評価額の引き下げが実現できます。
借地権は、その土地を利用できる権利をいい、自用地に対する「借地権価格の割合」によって借地割合が決定します。
割合は地域ごとに設定され、概ね60~70%とされており、路線価図・評価倍率表で確認することが可能です。
借家権割合は、通常の建物の評価額に対する「建物の貸家の評価額の割合」を指します。借家権割合も地域ごとに設定されており、概ね30%となっています。こちらも、路線価図・評価倍率表で確認することが可能です。
このように、「貸家建付地」の評価は自家用地よりも低くなり、より一層相続税の圧縮を行いやすくなります。
その他、「小規模宅地等の特例」によって節税効果をアップさせることもできます。
「小規模宅地等の特例」は、一定の要件を満たした場合、被相続人が生前居住用に利用していた宅地に対して、その評価額を80%減額する制度です。
1億円の土地の場合、8,000万円の減額となります。よく知られているのが、夫婦の居宅の敷地に関する相続で、原則として無条件で評価額が80%引き下げられます。
非課税枠の利用
非課税枠を増やすのも、相続税の圧縮に有効な手段です。
相続税の非課税枠とは、基礎控除以外の課税対象とならないものを指します。
非課税枠に該当する「非課税財産」は、被相続人の名義になっていた財産のうち、課税するのに相応しくないものです。この非課税枠を増やすことで、相続税を圧縮することができます。
財産の判断
相続財産は、「被相続人の死亡時」のタイミングで判断されます。
ただし、非課税枠に含まれるものは例外となるので注意が必要です。
相続財産のうち、非課税枠に含まれるもの
被相続人の死亡前から所有していた、
- お墓や仏壇などの祭祀財産
- 生前に購入した墓地や墓石
- 葬儀費用
- 国や地方公共団体などに寄付した財産
- 生命保険金の非課税枠(※1)
- 死亡退職金の非課税枠(※2)
その財産の性格上、課税対象として適さないものが該当します。
(※1)生命保険金の非課税枠:
生命保険金の非課税枠は、「500万円×法定相続人の人数」で設定されています。
例えば、収めた保険料の総額より、生命保険金の保険金額が少ないケースもあるでしょう。このとき、その差額が非課税枠の金額内であれば、現金で保有しているよりも相続税評価額を抑えることができます。
(※2)死亡退職金の非課税枠:
死亡退職金の非課税枠は、「500万円×法定相続人の人数」までの金額で設定されています。
相続人を増やす
相続人を増やして、基礎控除額を増やすこともおすすめです。法定相続人の数は、相続税の計算に大きく影響します。
養子を迎えることは、法定相続人を増やすこととなり、基礎控除額を増やすことにもつながります。つまり、「法定相続人の人数が多いほど税額が安くなる」のが相続税です。
相続税の基礎控除とは
2015年1月、相続税、及び贈与税の改正により、基礎控除額が大幅に引き下げられました。
改正前:5,000万円+(1,000万円×法定相続人数)
改正後:3,000万円+(600万円×法定相続人数)
上記のように、約40%の減少となりました。
相続財産額が3,600万円の場合、これまで課税対象外であった人は支払の義務が生じる可能性があります。また、以前より課税対象者であっても、より大きな額を収める可能性があるでしょう。
法定相続人と養子の数
法定相続人が1人増えた場合の各種控除額を考えてみましょう。
- 相続税の基礎控除額:600万円増
- 生命保険金の非課税枠:500万円増
- 死亡退職金の非課税枠:500万円増
ただし、相続税法上認められる「法定相続人としての養子」には限りがあります。
実子がいる場合は1人・実子がいない場合は2人までです。
相続税の基礎控除額と暦年贈与(贈与税)との関係
相続税と贈与税の法改正により基礎控除額が下がりました。被相続人が多額の財産を保有しているほど、相続税が高額になりかねません。
そこで、税額調整のために行いたいのが、生前贈与の1つである「暦年贈与」です。
節税対策の暦年贈与とは
「暦年贈与」は、法定相続人に対して行う贈与であり、贈与税の非課税額は年間110万円に設定されています。課税対象は贈与を受けた側ですが、1人に10年間の贈与を行えば、最大で1,100万円の資産を法定相続人に移すことができます。
一方で、10人に贈与を行うと、1年間で最大1,100万円の財産を移すことができるでしょう。
このように、実質の相続財産を減らすことで、相続税を圧縮することができます。
ただし、暦年贈与には「持ち戻し(※3)」の規定があるため、贈与するタイミングや相続人の設定に留意しながら取り入れることをおすすめします。
(※3)暦年贈与の持ち戻し:
相続税対策で暦年贈与を行う場合は、早めの行動が求められるでしょう。相続前3年分については、相続財産として扱われるからです。
ただし、この「持ち戻し」は、相続人に対する規定であることがポイントです。相続人の配偶者・被相続人の孫など「相続人以外」へ贈与しておけば、持ち戻されることなく、節税効果が維持できます。
また、被相続人の「老後資金」に注意しましょう。
法定相続人を増やし、暦年贈与などで相続財産を減らす方法を取り入れた場合は、前もって被相続人の老後資金を確保しておきましょう。課税枠による贈与分は取り戻すことができません。贈与を受けた側も、すでに使っていれば返金できなくなります。
法定相続人が押さえるべきポイント
【「相続放棄」が与える影響範囲を考慮】
基礎控除額に影響を与える法定相続人の数は、相続税の計算上、相続放棄が無いことが前提です。
このため、相続放棄があっても相続税の総額は変わりません。ただし、各相続人の法定相続割合や遺留分の割合は変わります。
被相続人の妻と一人息子が相続人であるケースを考えてみましょう。
一人息子が、母(相続人である妻)に全て相続させるために相続を放棄したとします。この場合、法定相続人が夫の両親・兄弟になってしまうため、一人息子は相続放棄ではなく「相続分をゼロで相続」することになります。
【相続の「回数」を頭に入れておく】
「相続税は2回分考慮せよ」という言葉があります。
夫の相続が発生するのが1回目、その財産を相続した妻の相続となったときを2回目となります。2回分の相続税を最も抑えられるように遺産分割することを示唆しています。
先に、法定相続人の数が多いほど、税額が安くなる旨を説明しました。
配偶者は、1億6千万円か相続財産のいずれか多い額まで、相続税が課されないとされています。
このことから、2度の税負担を鑑み、被相続人が残した財産をどのように分割し、どのくらいの額を誰が相続するのかを熟慮しなければなりません。
まとめ
相続というと、「被相続人が亡くなって初めて考える」という方も多いでしょう。
しかし、相続に対して何も策を練っていないと、多額の相続税が発生し、大きな負担となってしまう可能性があります。そのような事態を避けるためにも、早めに可能な限り相続税を圧縮できる方法を検討しなくてはなりません。
自身の総資産を踏まえながら、不動産で相続させることが適しているのか、生前贈与で少しずつ資産を分けていくことが適しているのかなど、引き下げや減額率を踏まえて検討してみましょう。
個人でそれぞれの税率を算出することが困難である場合は、一度税理士に相談してみても良いかも知れません。