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【相続の基礎知識 】
相続について基礎知識を説明しています。相続とは、相続の手続き、生前にできる相続対策など、相続について知っておくべき情報をまとめています。

2019年5月28日 火曜日

被相続人・相続人が外国人のときの相続税

日本に在留している外国人の数は増加傾向にあります。

在留外国人が多くなれば、相続の際にも被相続人が外国人であるケース、相続人が外国人であるケースも増えていくでしょう。外国籍の方が被相続人もしくは相続人にあたる場合、相続手続きはより複雑になります

 

まず、どちらの国の法律を適用して、相続を行うかという疑問を明らかにしなくてはなりません。日本でなく、外国の法律が適用になるケースもあるためです。相続に必要な書類手続きも場合によっては、海外に問い合わせて取得する必要があります。

 

本稿では、被相続人、相続人が外国人であった場合の相続税について解説します。

被相続人が外国人(外国に籍を置く)だった場合

外国籍の方が、日本で亡くなった場合の相続についてご紹介します。

基本的には、外国籍の方が日本で亡くなった場合、被相続人の本国の法律に従って相続を行います。ただし、被相続人が二重国籍の場合、どの国の法律を適用するか判断が難しいケースがあります。詳細をみていきましょう。

 

最初に確認しなくてはならないのが、どの国の法律を適用するかという点です。

基本的には、被相続人の本籍のある国の法律が適用されます。通則法第36条でも「相続は、被相続人の本国法による」と規定されています。アメリカなど、州によって法律が異なる国もあります。その場合は出身地や過去の住所を参考に、被相続人に最も密接な関係がある地域の法律を適用します。

 

欧米では多重国籍を認める国もあり、被相続人の国籍が複数ある場合も考えられます。

通則法第38条1項では、

 

  • その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とする
  • その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法を当事者の本国法とする

 

と規定されています。

 

日本国籍を持つ方が日本で亡くなった場合は、日本の法律を適用します。

日本の国籍を持たない場合は、出身地や過去の住所などを参考に、被相続人に最も密接な関係がある国がどこにあたるかを定め、その国の法律を適用します。

また、対象となる外国人が日本を常居所としていた場合は、日本の法律が適用になることもありえます。密接な関係がある土地の判断は難しいケースも多くありますので、悩まれる方は専門家に相談してみましょう。

 

通則法第41条では、「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による」と規定されています。アメリカ、イギリス、中国などでは、現預金・有価証券の相続は被相続人の本国の法律に従うように定められている一方で、不動産の相続については、その不動産が所在する国の法律に従うようにできています。

例えば被相続人の国籍がアメリカである場合、現預金・有価証券の相続はアメリカの法律に従いつつも、日本で所有している不動産については、日本の法律に基づいて相続することになります。

 

日本の相続税の課税に関しては、全世界課税といい、被相続人の国籍は関係なく被相続人と相続人の住所、財産の所在によって課税範囲が決定します

相続税は相続人に課税されるもので、例え被相続人が海外に移住していたとしても、相続人が財産を受け取っている以上、日本の相続税が課税されます。

 

日本の相続税を適用するのであれば、相続税の総額の計算は、被相続人の国籍に関係なく、日本の民法を基に計算されます。

 

相続の際には申告期限に注意が必要です。相続税の申告期限は被相続人の死亡から10カ月以内です。

一方、被相続人が外国人の場合、必要な書類の取得に時間がかかります。10カ月以内に申告できないケースもあります。そんなときは、未分割申告を行います。未分割申告とは、先に法定相続分で遺産分割を行うと仮定して相続税を計算、納付し、遺産分割ができた後で修正申告を行う方法です。

 

日本の相続税が適用になる場合、日本以外の国の財産も含む全世界財産が相続税の対象となります。10カ月という短い期間で円滑に相続手続をするためには、被相続人の国内外の財産を把握することが必要でしょう。

ただし、相続財産を確認する際も外国籍の方の場合は、外国籍ならではの複雑さがあります。

 

近年は厳しくなったものの、過去には金融機関の制度が緩く、外国籍の方が1つの金融機関で複数の口座を開設している場合があります。日本の財産を把握する際は、漏れがないように口座の有無を確認する必要があります。また、日本以外の場所に財産を保有していることが多くあります。中には、出身国以外の国に財産を置く外国人もいるでしょう。海外の金融機関については、ユーザー名、パスワードなどのアカウント情報をおさえておかないと、口座情報が確認できないこともあります。預金者が死亡した後の銀行の対応も国によって異なります。国によってはその国の法律に従って裁判の手続きをとる必要があります。海外の現預金の財産把握は非常に困難といえるでしょう。

相続人が外国人(外国に籍を置く)だった場合

相続人が外国人だった場合、相続権はどうなるのでしょうか。外国人に相続を行う場合は、各国ごとに考え方が異なります。大きな考え方としては、全ての財産を被相続人の本国法で決める相続統一主義と、遺産の種類によって国の法律が異なる相続分割主義があります。

 

日本は、相続統一主義を採用しています。

通則法第36条でも「相続は、被相続人の本国法による」と規定しています。そのため、被相続人が日本国籍である以上、相続人の国籍は一切関係なく、相続人が外国籍であっても日本の法律に従って相続を行います。外国籍の相続人にも、日本国籍の相続人と同様の相続の権利、税金の申告の義務が発生します。在留資格、ビザの種類、婚姻期間なども関係ありません。短期ビザの更新を繰り返している方でも平等に相続の権利が与えられます。

 

遺言についても同様です。

通則法第37条は「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による」と規定しています。被相続人が日本国籍である以上、相続人の国籍は一切関係なく、日本の法律に基づいて遺言は作成されます。

 

相続登記についても、日本国籍を持つ相続人と同様の手続きを取ります。

相続登記を行う際には、相続する権利を証明する書類として、被相続人の戸籍謄本もしくは除籍謄本を用意します。

また、住所を証明する書類として、住民票の写しも必要です。外国籍の方でも、中長期在留者、特別永住者等であれば、住民票の写しは取得できます。外国人登録原票の写しを要求されるケースもあります。法務省で取得できますが、取得までの時間がかかる書類なので、早めに準備を進めるようにしましょう

外国税額控除などを使えば相続税は軽くなる場合もある

外国税額控除は、外国で納付した税金の一部、または全部を日本の税額から控除する仕組みです。所得税、法人税では有名な制度ですが、相続税にも外国税額控除が存在します。

 

外国税額控除を活用できる人は、次の要件に当てはまる人です。

 

  • 外国にある財産を相続した人
  • 外国にある財産について、外国で「相続税に相当する税」が課税された人

 

外国税額控除の上限は次の計算式によって決まります。この計算式で算出される外国税額控除の上限に、外国で納めた相続税が控除されます。

 

日本で納める相続税の額 × 外国にある財産の額 ÷ 財産総額

 

外国税額控除を試算する際は、遺産分割協議で確定した各々の納税額を基に行います。海外で徴収された相続税が、日本で徴収される相続税を上回る場合は、その金額以上の税金を納める必要がなくなります。日本で徴収される相続税が、海外で徴収された相続税よりも高い場合は、差額分を日本で納税します。

海外で相続税を納めていても、日本で支払うべき相続税以上の額は控除できないようなっています。

 

具体的なケースを見ていきましょう。

 

  • 被相続人の財産が日本と海外で2億円ずつ
  • 相続人は被相続人の配偶者1名
  • 日本で納める相続税が1億円、外国で納める相続税が8,000万円

 

このケースでは外国税額控除の適用をしなければ、この配偶者は海外分の相続税8,000万円分を余計に納める可能性があります。具体的に控除可能な額を計算してみましょう。

 

「日本で納める相続税の額 × 外国にある財産の額 ÷ 財産総額」の計算式に当てはめると、

 

1億円万円 × 2億円 ÷ 4億円=5,000万円

 

が控除の上限額になります。

 

そのため、

8,000万円(海外で納める相続税)-5,000万円(外国税額控除の上限額)=3,000万円

が控除の対象にならない相続税額になります。

 

相続税の総額は

 

1億円 +3,000万円 = 1億3,000万円

 

となります。

 

この事例が示すように外国税額控除は全てを控除できるわけではありません。

控除を適用した際に、控除可能額が外国で支払った相続税に不足する可能性もあります。この事例では、控除をしてもなお、3,000万円の税金を余計に納めないといけません。

 

また、海外で納めた相続税額は日本円に換算します。換算は、該当する外国の法令による納付すべき日の電信売相場(TTS)の為替を使用します。電信売相場(TTS)とは、(Telegraphic Transfer Selling Rate)の略で、外国との電信為替送金の際に銀行が提示する為替を指します。

 

外国税額控除の手続きの際には、相続税申告書第8表を記載して税務署に提出します。

記載方法は、あまり複雑ではありません。

添付書類としては、海外で課せられた相続税の支払いを証明する書類が必要です。詳細が知りたい方は国税庁のホームページを確認するようにしましょう。

 

国税庁ホームページ:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm

一部の相続人が外国人で連絡がつかない場合は専門家に相談を

相続税、相続のお手続き等での悩みがある方は、弁護士・税理士に相談してみてはいかがでしょうか?

 

時間と手間をかけて申告書を作成したまではいいものの、後の税務調査で申告の誤りが見つかりペナルティを払うケースもあります。

もちろん、税理士報酬は安い金額ではありませんが、わからない手続きを無理して行うことで、余計な税金を支払ってしまっては本末転倒です。弁護士・税理士に事前相談をすることで、節税のアドバイスも受けることができます。

将来に発生する税金を減らすアドバイスがあれば、弁護士・税理士に報酬を支払ったとしても、最終的な収支が改善するかもしれません。

 

被相続人・相続人に外国人が含まれる場合、相続税の計算や手続きは複雑性を増します。

前述の通り、被相続人が外国籍を持つ方で、かつ、日本で亡くなっている場合には、基本的に被相続人の出身国の法律で相続がなされます。複数の国籍を保有する人など、人によっては、どの国の法律が適用されるかの判断が難しくなり、国際私法についての高度な知識が必要となります。

日本の相続がそのまま適用される場合でも、手続き上、注意すべき点が多くあります。

 

外国籍の方を含む国際相続であれば、日本、外国の双方の法律に強い専門家に任せた方がいいでしょう

まとめ

今後、日本のグローバル化はますます発展していくことでしょう。日本に在留している外国人の数は増加を続け、相続の際に外国人が関わるケースも増加していくはずです。

 

日本に住んでいる外国籍の方が日本で亡くなられた場合でも、日本の法律に従って相続が行われるとは限りません。外国の法律が適用になる可能性もあります。

また、日本の法律に従って相続が行われる場合でも、10カ月という短い申告、納税期間の間に、国内外の相続財産を包括的に確認する必要があります

相続関係を証明するための必要な書類の手続きも、国内のみで手続きを行う場合に比べて、非常に複雑になるでしょう。

 

該当する方は、本稿を参考に外国人にまつわる相続税の制度を事前に確認するようにしましょう。必要に応じて弁護士、税理士等の専門家に相談し、事前に相続を円滑に進めるための準備をしておきましょう。手続きや法律の解釈が複雑であるため、外国人を含む相続は、国内相続に比べて事前の資産承継計画の重要性が増します

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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