2019年5月28日 火曜日
電話加入権を相続した場合の相続税は?
近年、スマートフォンの普及により、若者世代を中心に固定電話の利用大幅に減少しています。
しかし年代ごとの固定電話保有率(2018年)を見てみると、20代・30代の固定電話保有利用率が50%以下なのに対し、40代の固定電話保有率は約80%、50代に関しては90%以上と、まだまだ固定電話を使用する家庭は多いといえます。
「電話加入権」という言葉はあまり聞きなれない言葉だと思いますが、実は相続財産として評価がつく財産として理解しておく必要があります。
固定電話の所有者が亡くなってしまった場合、親族はどのような手続きを行えばよいのでしょうか?
また、電話加入権を相続した場合、相続税はかかるのでしょうか?
本稿では、具体的な相続税の額、申請方法などについてこの記事で詳しく解説していきます。
電話加入権とは?
そもそも電話加入権とは、NTT東日本とNTT西日本の加入電話回線を契約するために必要となる権利のことをいいます。
この権利は、電話回線を設置する際に「施設設置負担金」を支払うことによって得ることができます。電話加入権を得るための施設設置負担金は、2019年現在、37,800円を支払う必要があり、権利所有者は加入している電話を再設置、移転などを無料で行うことができます。
ただし、電話の利用を休止する場合は、工事費を支払わなければなりません。休止の場合は5年ごとに更新の手続きが必要で、更新手続きを行わなかった場合、NTT側は5年間の自動延長手続きを行います。
電話加入権はもちろん解約することもできますが、解約をしても設置負担金は返還されないので注意が必要です。
ちなみに、現在では、NTT電話回線を経由しないサービスや、ひかりIP電話などが登場し、電話加入権が不要な電話回線が広まっています。もしご家族が、それらの電話サービスを利用している場合、電話加入権の相続は発生しないので一度確認してみることを推奨します。
電話加入権も相続税の対象。評価額は?
電話加入権も相続税の対象
NTTの電話回線を引くために必要な電話加入権は、「相続財産」としてカウントされ、相続税が発生します。つまり、財務上は資産として計上される権利です。
電話加入権は、もともと電話会社が設備投資の一部を顧客に負担してもらうことを目的に、加入電話を使用する権利として設けたものです。したがって、途中で契約変更や電話加入権の売却等をすることなく、そのまま権利を維持し、続けていく人が多く存在しているのが現状です。
もし、相続する財産の中に、電話加入権が含まれている場合には、後述の方法で相続税評価を行うことになります。
相続税評価額を調べる方法
電話加入権には、土地や建物などの相続財産と同様に、相続税評価が存在します。
それでは、電話加入権の場合、相続税評価額はどのように計算するのでしょうか?
電話加入権の評価額は国税庁が提示する、「財産評価」のうち「第7章 第7節 電話加入権」の通り決定されます。以下にその内容を記述しておきます。
“第7節 電話加入権
161 電話加入権の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。(昭41直資3-19改正)
(1) 取引相場のある電話加入権の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。
(2) (1)に掲げる電話加入権以外の電話加入権の価額は、売買実例価額等を基として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価する。”
つまり、評価の方法は大きく分けて2パターン考えられます。
まず1つ目は、「取引相場のある電話加入権」の場合です。こちらは、課税時期において「通常」と判断される時価で評価されます。
2つ目は、「取引相場のない電話権加入権」の場合です。こちらは、国税局長が定める各地域の標準価額に従って評価するのが一般的で、1本あたり全国一律で1,500円と決まっています。
具体的に、地域別・年度別の標準価額を知りたい場合には、国税庁のホームページ「財産評価基準を見る」にアクセスすることで、知りたい年度と都道府県を選択できます。
そして、各都道府県の目次の中で、「2.土地関係以外」の項目内にある「電話加入権の評価」を選択することで、標準価額を確認することが可能です。
国税庁のホームページ「財産評価基準を見る」:http://www.rosenka.nta.go.jp/
また例外として、付与された電話の「番号」によって電話加入権の市場価値が左右されるケースがあります。
電話番号の中でも、1が並ぶ番号、100番など覚えやすい番号、ネガティブな印象を与える4989番などの番号を「特殊番号」といい、一般的な電話番号と区別されます。。特殊番号が使われている電話加入権の評価に関しては、上記の標準価額が適用されません。その代わり、売買実例価額や、電話加入権の取引市場に詳しい専門家の意見価格を参考にしながら、最終的な相続税評価額を勘定されることになっています。
実際の相続時における手続き方法
それでは、実際に電話加入権をどのように相続するのか、具体的な手順について説明していきます。通常、手続きは以下の流れで進めます。
1.必要書類をダウンロード
まずは、NTTのWebサイトから直接必要な書類をダウンロードしましょう。
電話加入権等承継・改称届出書:
https://web116.jp/shop/meigi1/images/syoukei.pdf
2.書類の記入
書類がダウンロードできたら必要な項目に記入しましょう。
3.その他の必要書類の準備
必要な書類は個人の場合と、法人の場合によって異なります。
<個人の場合>
- 死亡の事実及び相続関係が確認できる書類(写し可)
- 戸籍全部事項証明書・戸籍個人事項証明書または遺言書
- 新契約者の印鑑(※承継・改称届出書の印・押印欄の2ヶ所に押印が必要)
<法人の場合>
- 承継関係が確認できる書類(写し可)
- 登記簿謄本、または履歴事項全部証明書
- 新契約者の印鑑
※一般的な内容は上記の通りですが、具体的な内容はNTTのサイトを参照してください。
4.NTT加入権センターへ郵送
必要書類の準備ができたら、NTT加入権センターへ郵送してください。
郵送の宛先は、名義変更を行う回線が存在する都道府県によって異なります。下記のサイトを参照して、郵送を行ってください。
東日本:https://web116.jp/shop/meigi1/pdf/atesaki_file.pdf
西日本:https://www.ntt-west.co.jp/denwa/mousikomi/name/syoukei.html#dl
電話加入権の相続資産の総額に対する影響は少ない
かつて電話加入権の購入価格が70,000円くらいだった時代と比べると、現在の電話加入権の相続資産は全国一律で1,500円とかなり負担が軽くなりました。
つまり、電話加入権の評価額は、相続税の財産評価を算出する際に、大きな影響を及ぼすほどの財産とはいえないでしょう。将来的に、電話加入権の価額設定すらなくなってしまうともいわれているので、いずれ無くなってしまうのかもしれません。
電話加入権は持っているだけで資産価値として計上され、休止しない限り月額の利用料金がかかるため、もはやそんな権利はいらないと思った方もいるかもしれません。今や、1人が1台以上のスマートフォンを所有する時代です。
もし固定電話が不要になった場合は、生前から契約解除や売却することで、相続における一切の手続きを行わずに済みます。
また、相続を行った後に名義を変更することで、ご自身でそういった手続きを進めることもできます。
電話加入権を売却する際には、その電話加入権の名義はちゃんと自分であるかチェックすることも重要です。
相続額や相続人の人数次第では、相続税は発生しない
相続税が発生しない場合
ここまで、電話加入権の相続についてご紹介してきました。
しかし、実は相続税は、すべての人が申告しなければならない税金ではありません。実は相続税は、一定額以上の遺産がある場合のみ申告が必要になります。
遺産の総額が「基礎控除」というボーダーライン以下の金額だった場合、支払い義務は生じません。この一定金額は、下記算式で計算を行います。
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
つまり、遺産の総額が基礎控除を上回っていた場合に相続税の申告を行う必要があり、基礎控除を下回っていた場合は、相続税の申告をする必要はありません。
算式にある「法定相続人の数」とは、「民法で定められた相続人の人数」のことをいいます。仮に相続人の中に相続放棄をした人がいたとしても、放棄した人の人数を含めて計算するということに注意しましょう。
例えば、財産を受け取った相続人が1人であっても法定相続人が3人であれば3人として計算を行います。また、相続放棄をしたことにより、新たに相続人になった人の人数は含めません。
例えば、被相続人の父が死亡し、相続人が母と子供2人の合計3人の場合の基礎控除は、
3000万円+600万円×3人 =4800万円
となり、4800万円が基礎控除額となります。
相続税が特例によって軽減される場合
相続税にはいくつか条件が当てはまれば、減税される場合があります。
こちらにいくつかご紹介していきます。
非上場株式等についての相続税の納税猶予
相続または遺贈において、一定の条件の取引相場がない株式を取得した際に、一定の条件内で株式にかかわる相続税の納税額を猶予することができる特例です。
特定居住用宅地等の小規模宅地等の特例の条件
下記に当てはまる場合、330㎡までは、宅地等の評価額から8割減額することが可能です。
- 被相続人が居住していた土地を配偶者が取得するとき(取得者ごとの条件なし)
- 被相続人が居住していた土地を被相続人と同居していた親族が取得し、かつ申告期限まで住み続けるとき
- 被相続人に配偶者、同居親族がいないとき、被相続人が居住していた土地を被相続人が死亡する前の3年以内に自己の所有する家に住んだことがない親族が取得し、申告期限まで保有するとき
配偶者控除
配偶者が被相続人の財産形成に寄与したことを評価し、被相続人の死後の生活を保障することを目的とした制度です。配偶者を優遇するために、相続税が大幅に軽減されます。
実際に軽減される税額は以下の計算式で算出します。
相続税の総額×(a)と(b)のうち、少ないほうの額 / 課税価格の合計額=軽減される税額
(a) 課税価格の合計額×配偶者の法定相続分
(b) 配偶者の課税価格
未成年者控除
20歳未満の未成年者が相続人の場合、相続税額から一定の金額が控除される制度です。控除額は以下の計算式で算出します。
20歳になるまでの年数×10万円
障害者控除
85歳未満の障害者が相続人の場合、相続税額から一定の金額が控除されます。障害者控除は課税対象額から控除されるのではなく、納める相続税額自体から直接金額を差し引かれます。
控除額は以下の計算式で算出します。
一般障害者の控除額=(85歳-相続した時の年齢)×10万円
特別障害者(※1)の控除額=(85歳-相続した時の年齢)×20万円
(※1)特に重度の障害があると判断された場合(1級や2級の障害者手帳を保持していた場合など)は、特別障害者とみなされて控除される金額がさらに多くなり、税負担がより軽くなります。
相次相続控除
ひとつの財産が10年以内に2回相続税の対象となる場合は、一定額を控除し税負担が軽くなります。
例えば、父親が亡くなり財産を配偶者の母が相続したが、母も3年後に亡くなってしまい、息子が相続することになった場合などに、この控除が認められます。
条件としては、母の相続時に相続税を払っていれば、息子の相続では相次相続控除が適用可能です。1年以内であれば、1次相続の相続税額を全額差し引くことができ、5年以内であれば、1次相続の相続税額を半分差し引くことができます。
贈与額控除
贈与税をすでに払っている場合、贈与税と相続税の二重課税を防ぐために設けられている制度です。相続税から控除することができます。
外国税額控除
海外で相続税を支払った場合、その金額分を日本の相続税から控除することができます。
ただし、海外に移住してから10年以上が経てば日本の相続とは関係なくなるのもポイントです。
まとめ
電話加入権は、相続財産として評価のつく財産の1つです。
ただし、その額はかなり低額であり、遺産の評価額として大きな影響を与えることはなさそうです。だからこそ、電話加入権に関しての相続は、ついつい忘れられてしまうことが多いのも事実です。
相続税申告に漏れがないようにするためにも、ご家庭の電話の契約内容の確認や、電話加入権の有無のチェックは必ず行うようにしましょう。
被相続人が電話を所有しているかどうか不明な場合や、名義が分からないという場合は、すぐに電話会社の窓口へ問い合わせることをおすすめします。