2019年6月14日 金曜日
相続における二重資格とは?二重資格はどのようなケース
「相続」という言葉を聞くと、ドキッとする方も多いのではないでしょうか?
ドラマや小説などでも、資産家の遺産をめぐって争いが起きたり、事件に発展してしまったりしますよね。そのような相続に関するトラブルを聞いてしまうと、資産家でなくてよかったと思う方もいるかもしれません。
しかし、相続におけるトラブルは、実は資産家の家庭の相続に限ったことではありません。
実は、相続トラブルの多くは、遺産総額が数百万円の家庭で起こっているのです。ごく一般的な家庭においても、相続のトラブルは決して他人事ではないのです。
事実、平成27年1月の相続税の改正で、より多くの場合の遺産継承の際に、影響のあるもの(相続税のかからない基礎控除の額が大きく引き下げられるなど)となり、相続が身近な事柄として感じられるようになってきました。
ごく一般の家庭でもトラブルが起こりやすく、身近なものとなってきている相続ではありますが、実際には相続を経験していない人も少なくありません。また、人生で何度も相続を経験するものではなく、実際に自分の身にふりかかる瞬間までどうなるかは深く考えていないでしょう。
では、今後に起こるかもしれない遺産相続のトラブルを、どのように回避すればよいのでしょうか?
遺産の引継ぎの際のトラブルを回避するためには、事前に相続に関する知識を得ておくとよいでしょう。トラブルに発展しやすい事例を事前に知っていれば、その対策がとりやすくなります。スムーズに遺産の引継ぎができるよう、しっかりとした知識を身につけておくことが重要です。
この記事では、予期せぬ遺産継承が起こったとき、少しでもトラブルを回避できるような知識をお伝えしたいと思います。
目次
相続における二重資格とは?
相続における知識の一つとして、「二重資格」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
民法には相続について、相続の資格を持てる相続人の範囲と、その相続人が相続できる割合を定めています。
通常は1人の相続人は、1つの相続人の資格しか持たず、シンプルにその資格が持つ相続ができる割合を遺産引継ぎする権利を持ちます。
相続における二重資格とは、1つの遺産の引継ぎ事由が発生した際の相続人の中に、相続人としての権利を二重に保有している人のことをいいます。
つまり、相続の二重資格者は、1人で2人分の遺産継承の権利を有することになり、それぞれの相続資格に基づいて、相続権の主張が認められています。
しかし、二重資格の権利があるとしても、相続分として受け取ることができるかどうかというのは、ケースによって判定は異なってくるので注意が必要です。
相続において二重資格の状態が生じるケースとは?
では、相続の際に二重資格が発生するとは、どのような家族構成の状況で起こるのでしょうか。
日本では、相続税や跡継ぎ対策、そのほかの事情から、養子縁組が行われるケースがあります。その養子縁組や婚姻などにより、相続人と被相続人との間に、二重の異なる親族関係が存在しています。この二重の異なる親族関係が、相続の際に二重資格を発生させることとなるのです。
なぜかというと、孫を養子にしたり、養子と養親の子(実子)が結婚したりすることが制度上あるためです。このような場合に、複雑な親族関係ができたことで、二重資格を生み、遺産継承においてトラブルになる事例が多くあります。
しかし、二重資格の取り扱いについては、その資格の重複の内容により、異なります。正しく把握しておかないと、相続人の人数をはじめ、法定相続分や相続税にも関係してきますので、注意が必要です。
この注意が必要な二重資格を持つ相続人のいる遺産継承のケースには、どのようなものがあるのか、どのような判定になるのか、ケースを挙げて具体的にみていきましょう。
※ケースを理解するための大前提として、通常の各相続人の順位や取り分の目安、そしてその割合は以下となります。
- 遺産の引継ぎでは戸籍上の関係を重視
- 配偶者がいる場合は、必ず相続人となる
- 配偶者以外の相続順位は、子が第1順位、親が第2順位、兄弟(姉妹)が第3順位となる
- 配偶者と第1順位が相続人にいた場合、配偶者1/2、第1順位1/2(第1順位が複数いた場合は1/2を分け合う)
- 配偶者と第2順位が相続人にいた場合、配偶者2/3、第2順位1/3(第2順しが複数いた場合は1/2を分け合う)
- 配偶者と第3順位が相続人にいた場合、配偶者3/4、第3順位1/4(第3順位が複数いた場合は1/2を分け合う)
配偶者の親の養子となり子がいないケース
配偶者の親の養子になっているケースについて考えてみます。配偶者と兄弟姉妹という二つの資格、すなわち二重資格が認められるのではないかと思われます。しかし、このケースでは、二重資格は認められないのです。
具体的な例をあげてみましょう。AとBが結婚し、Bの親であるCが、Aと養子縁組を行ったとします。AとBの間に子がなければ、AはBの配偶者としての遺産継承の権利と、兄弟姉妹としての遺産継承の権利を両方有しているかどうかが問われます。
しかし、この事例の先例では、配偶者としての権利は認められますが、兄弟姉妹としての遺産継承分は認められていません。
実は、二重資格はあくまで、同じ順位の資格が重複した場合に限られます。
この場合はAの立場は、異順位(配偶者である立場と兄弟姉妹である第3順位)のため、兄弟姉妹としての遺産継承分は認められず、上位の配偶者としての遺産継承分だけになります。
両親が亡くなっている場合の法定相続分は、配偶者としての遺産継承分の3/4のみで、兄弟姉妹としての1/4の遺産継承分は認められません。
孫が祖父母の養子となったケース
遺産を残した親が孫を養子縁組していた場合は、法定相続と代襲相続(先に亡くなっている人の相続分を相続すること)の二重資格が発生するケースです。ここでは、二重資格を認めることとなります。
具体的な例を挙げてみましょう。3世代(祖父D、父E、子Fとする)で、祖父Dの養子に子Fがなったとします。
養子縁組のあと、子Fは父Eの兄弟となります。
この事例で、先に父Eが亡くなり、そのあと祖父Dが亡くなり、相続が発生した場合に子Fは相続の二重資格を保有しているといえます。
ひとつは、祖父Dの子としての遺産引継ぎ権利、もうひとつは、すでに死亡している父E(実親)の相続分の代襲相続の権利です。
このような法定相続と代襲相続が二重となった際、ふたつの資格は有効で、相続割合は合算されます。
法定相続分としては、祖父の配偶者が2/4、子Fは父Eの子としての相続分1/4と、代襲相続としての1/4を合算して2/4です。
ただし、養子縁組が実親との親子関係を残したままの普通縁組である場合のみ二重資格が認められ、実親との親子関係を解消する特別養子縁組の場合には当てはまらないので注意が必要です。
兄弟姉妹間で養子縁組を結ぶケース
遺産を残す親に実子がおらず、兄弟姉妹間で養子縁組を行い、兄弟姉妹であり、子でもあるという立場を持つ相続人が発生するケースです。
ここでは、二重資格は認められることはありません。
具体的な例を挙げてみると、Gには配偶者も実子もおらず、両親は先に死亡し、弟Hと妹Iがいるとします。
Gが弟Hを養子にした場合、HはGの弟であって子でもあります。Gが死亡した時、Hの立場はどうなるのでしょうか。
先に述べたように、二重資格はあくまで、同じ順位の資格が重複する場合のみです。
この場合はHの立場は、異順位(子である第1順位、弟である第3順位)のため重複せず、子の立場の第1順位のみです。
法定相続分としては、弟Hが子としての遺産の引継ぎ分を1/1を受け取る形をとります。
実子と養子が婚姻関係にあるケース
実子の配偶者を養子とした、または、養子とした子を実子が配偶者としたケースです。
この場合は、二重資格は認められません。
具体的な例を挙げると、ある両親の実子Jは配偶者Kと結婚をしていて、子どもがいません。その配偶者Kを実子Jの両親が養子縁組しているとします。
子のない実子Jが死亡すると、両親も死亡している場合、配偶者と兄弟姉妹が相続人となりますが、配偶者Kは、両親の養子でもあるため、JにとってKは配偶者でもあり、兄弟姉妹でもあります。
ここで、配偶者Kに、二重の権利が生じます。
しかし、先でもふれたように、二重資格が認められるケースは、同順位の資格が重複した場合に限られます。
つまりこの場合には、配偶者としての遺産引継ぎ分のみ認められ、兄弟姉妹としての遺産引継ぎ分は認められません。
法定相続分としては、Jに兄弟姉妹がいるとして、配偶者としてKは3/4、兄弟姉妹が1/4を遺産の引継ぎ分として、人数で分け合う形となります。
相続において二重資格が生じている場合は専門家に相談を
ここまで述べた、二重資格を知る上での重要なポイントは、「養子」「順位」の2点が挙げられます。ここまでの内容を簡単にまとめてみます。
- 養子縁組は、二重資格が発生する要因になることがある
- 「普通養子」に限り二重資格が発生する可能性があり、実子(特別養子を含む)のみの場合は、二重資格は発生しない
- 「同順位」の場合だけ、二重資格と認められる。異順位で資格が重複したとしても、本来の資格のみとなる
また、もう1点重要なのが、二重資格があったとしても、相続人の「数」は二重資格という扱いにはならない点です。
よって、相続税の基礎控除や生命保険金の非課税などの計算には注意が必要です。
例えば、Lの子がMとNで、Mには子OとPがいるとします。LがOを養子とした時、Lの子は3人ということになります。
Mが先に死亡し、その後にLが死亡したら、Lの相続人の数は、Mの代襲相続人としてOとP、子N、養子としてのOの4人と考えがちですが、Oは重複してしまっているので、相続人の数として数えるのはNとOとPの3人です。
このように、相続人に二重資格者がいるケースでは、法定相続人の数と法定相続分の考え方では、二重相続者の扱いが異なってくるので気をつけなくてはいけません。
ここまで、ケースをまじえながら、二重資格についてふれてきましたが、わかりにくい部分も多く、難しく感じてしまったかもしれません。
それほど、二重資格の発生する遺産継承は簡単ではなく、理解するのが困難なケースが多くなっています。
また、相続の二重資格が認められるか否かは、最高裁判所で真正面から検討されたことはありません。
したがっていくつかの学説が対立しています。また状況に応じて、同じ立場の人の法定相続分が違うことも、子より孫が多くなることもあります。
このように、実際の相続における二重資格の判断は複雑であり、専門家でないと大変難しい分野です。
先に述べたように、遺産継承を受ける立場になったときトラブルを避けるためにも事前に勉強することはもちろん必要なことですが、二重資格のような特殊な相続では、ぜひ専門家に相談をすることをおすすめします。
まとめ
今回は、相続における二重資格について説明しましたが、「養子縁組」という相続対策が要因となって、遺産の継承がより複雑になっていることがおわかりいただけたと思います。
養子縁組をすることは、相続対策には大変有効ですが、結果次第で想定していなかった親族関係の争いが発生してしまうこともあるようです。
このような親族関係のトラブルを避ける一つの方法として、遺産を残す側の立場として、生前に遺言書を残すという方法もあります。
遺言書があることで、原則として、相続人はその内容の通りに遺産を分けることができるのです。
自分が死んでしまったとき、相続人である大切な自分の家族がもめてしまうことがないよう、生前にしっかりと話をし、その内容を法的に有効な形で残しておく、ということも重要です。
また、生前に専門家に相談ししっかりと準備しておくことで、自分の「遺志」を相続人に伝えることができます。
しかし、遺言の内容は、亡くなったあとから効力を発揮するため、話し合いの場を持たず遺言を作成し、残された遺族全員が納得できない内容であった場合、トラブルの火種になりかねません。
やはり元気なうちにきちんと親族で話し合いの場を持つことが大事です。
ここまで述べてきたような相続という事象は、自分の身に一生に何度も起こるものではありません。
しかし、だれにとってもいつ起きてもおかしくないものです。
今回の記事を参考に、相続トラブルを回避しながら、上手に遺産継承の対応を進めていただけたらと思います。