2019年6月14日 金曜日
非嫡出子がいる場合の相続の注意点。どんな点に気をつければいい?
最近のテレビドラマでは、結婚せず一生パートナーとして暮らすカップルや同性同士の結婚などの多様な家族像を描いていたり、未婚で子を産み育てる女性アーティストや女性スポーツ選手などがいたりと、多様な家族像や家族感を知る機会も多いです。
あえて結婚せずに出産し、子育てをしている一般女性がメディアに登場したり、 シングルマザー専用のシェアハウスができたりしていることから、一般の社会で家族の形が多様になり、さまざまな価値観を認める社会になってきていることを感じられます。
フランスは先進国の中でも高い合計特殊出生率1.88(2017年実績)です。これは、結婚にかわる緩いパートナーシップ契約が可能なことが背景にあるようですが、生まれた子の半分は婚外子だといわれています。
少子化に悩む日本社会でも、多様な家族のあり方がもっと認められていけば、婚外子が増えていくでしょうか?
多様な家族のあり方に対して、現在の法律はどうなっているでしょうか?
今回は婚外子の相続について調べていきます。
目次
非嫡出子の相続の対象になる?
婚外子は、民法上では婚姻関係にある男女の間に生まれた子を嫡出子というのに対して、そうではない子の意味で「嫡出でない子」と表しています。
「嫡出でない子」は、一般的には「嫡出子」に打ち消す意味の「非」の文字を付けて「非嫡出子」(ひちゃくしゅつし)と呼ぶことが多いです。
非嫡出子は日本にどのくらいいるのでしょうか。政府の統計によると、2017年に生まれた全946,065人に対し、非嫡出子は21,097人で、全体の2.2%に当たります。2004年に2%台となり、以降は2%台が続き、2014年から2016年は2.3%になりました。
100人に2人以上の割合で生まれているということです。
日本にいる未婚のシングルマザーの数は、総務省が5年ごとに実施している2010年〜2015年の国勢調査結果に基づき、同省が記したレポート「シングル・マザーの最近の状況(2015 年) 」によると、17万 7千人です。
シングルマザー全体は106万 3千人で、2010年からわずかに減っているのに対し、未婚のシングルマザーは5年間で4万5 千人増(33.8%増)と、急増しています。
その背景には前述の非嫡出子出生数の増加があるようです。
1947年以降、低下傾向にあった合計特殊出生率が、2005 年の1.26を底に、徐々に回復傾向になり、2015年には1.45となったのは未婚のシングルマザーの急増が影響していると分析されています。
また、下図の通り未婚のシングルマザーは、年齢層ごとに見ると、一番多いのが40~44歳であるものの、10代からなだらかな山型を描いていて、死別や離別と比べてグラフが比較的左側に位置しているため低年齢層に多いといえます。
非嫡出子は意外と多く存在し、しかも増え続けていますので、その子の相続は身近な問題となりつつあるようです。
非嫡出子とは
非嫡出子は、婚姻関係のない男女の間に生まれた子ではありますが、母親とは親子関係があることは明らかです。
非嫡出子の相続といった場合、親子関係が明らかな母親の遺産を相続することではなく、主に父親もしくは父方の遺産を相続できるのかどうかが焦点になるでしょう。
ここで「認知」が関係してきます。
認知とは、婚姻関係のない男女間に生まれた非嫡出子を男性が実の子と認めることです。
認知という言葉自体は、耳にしたことがある方も多いと思います。
再びテレビドラマの話をしますが、愛人関係の男女の間に子ができた場面で、よく出てくる言葉ですね。
子が男性に認知されると、父親とその子との間に法律上の父子関係が生じます。
しかも、特別養子縁組をした場合を除き、一生涯、父子の関係が続きます。
親子には扶養義務が法律に定められていますので、子が経済的に自立していなければ、親はその子を扶養する義務を負います。
子を扶養するために、父親と母親で分担するお金のことを養育費と呼びます。
子が生まれ、しかも母親一人で育てていくとなれば、頭の中は子育てで精一杯ですので、「認知=養育費」と考えがちです。
しかし、実は非嫡出子が認知されることは、父親の遺産相続権を得ることでもあるのです。
認知されている非嫡出子の相続分
法律上、親子関係が認められていない非嫡出子は、父親の遺産を相続することはできません。
しかし、父親から認知されていれば、父親との親子関係が認められるので、遺産を相続することができるようになります。
具体的に認知には「任意認知」「胎児認知」「遺言認知」「強制認知」「死後認知」があります。
簡単に説明すると以下の通りです。
- 任意認知:父親自らが進んで子を認知すること
- 胎児認知:母親が妊娠していることが判明した段階で認知すること
- 遺言認知:遺言によって子を認知すること
- 強制認知:父親が認知しない場合に、家庭裁判所の調停手続を利用すること
- 死後認知:父親が認知せず死亡した場合に認知請求訴訟を起こすこと
非嫡出子が認知されると、子の戸籍に父親の名前が載り、認知した父親の戸籍にも誰をいつ認知したかが記載されます。
認知された非嫡出子の相続権は、認知した父親に実子がいた場合でも、その実子の持つ相続権と全く同じです。
遺産の相続分は、具体的には父親にどのような相続人がいるかで決まってきます。
- 父親に配偶者がいて子がいない場合:配偶者は1/2、非嫡出子1/2
- 父親に配偶者の間に嫡出子が1人いる場合:配偶者は1/2、実子1/4、非嫡出子1/4
ちなみに、認知された非嫡出子であっても、その母親には相続の権利はありません。
認知されていない非嫡出子の相続分
非嫡出子が父親から認知されていない場合は、法的に親子関係が認められていないので、父親の遺産を相続することはできません。
しかし、父親が亡くなって遺言認知される場合や、父親の死後3年以内に死後認知の訴訟を起こして認められれば認知されたことになり、父親の遺産の相続権を得ることができます。
なお平成25年9月4日以前の相続では
現在は認知さえされていれば、嫡出子と非嫡出子の相続分に違いはありませんが、2013年9月5日の民法900条の改正前までは、非嫡出子の相続分と嫡出子の相続分は大きく違っていました。
非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分の1/2と定められていたのです。
しかし、同じ父親の子でありながら、摘出子と非嫡出子の相続遺産に差が出るのは、憲法第14条が定める「法の下の平等」に反しているという最高裁の判断から、民法が改正されました。
民法第900条
(改正前・抜粋)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
④子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(改正後・抜粋)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
④子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
日本国憲法第14条1項:
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。
愛憎交わるテレビドラマ番組などでは、正妻の子が愛人の子を卑下する場面などもありますが、こと父親の遺産相続についてはどちらも対等になりました。そのようなシーンを見る目が変わるかもしれませんね。
非嫡出子がいる場合の相続の注意点
次は、非嫡出子を持つ父親側の視点から考えていきましょう。
何らかの理由で未婚の状態で子を持つことになった方など、さまざまなパターンがあるでしょう。
しかし、父親の死後には非嫡出子と遺族が、接点を持つ機会が出てきます。自分の死後に何が起こるのかあらかじめ理解しておきましょう。
生前の間に非嫡出子の存在を知らせておく
すでに配偶者や嫡出子がいた場合、非嫡出子を認知している状況なら戸籍にも記載されていますので家族もその子の存在を認識している状態といえますが、認知していない、または、その子が存在していることすら伝えていない場合もあるでしょう。
また、認知した非嫡出子がいて、家族がそれを理解してくれたとしても、居住地や連絡先が分からなければ、いざ父親が亡くなった場合に遺族は相続の話を伝えることができません。
父親との思い出に浸る時間もなく、居場所探しに時間を費やすことになってしまいます。
自分の死後、残された家族に非嫡出子とのトラブルなどで余計な負担を掛けないためにも、きちんと伝えておくといいでしょう。
生前の間に伝えられない場合は遺言書を
しかし、今の家族関係に亀裂が入ると危惧していて生前に非嫡出子の認知を避けたいという場合には、遺言で認知することもできます。
ただし、「遺産を非嫡出子に渡したくない。今の家族に遺産を全部残したい」「愛人と非嫡出子に遺産を全て渡したい」などと遺言書に極端にかたよった相続分を書いて残したとしても、民法には相続人に最低限の割合の遺産を保障する遺留分を受けることができます。
遺留分が定められていますので、全部の遺産などと書いた遺言書の内容は実現しません。
一口に遺言といっても、遺言には複数の種類があります。
法律的に一番覆されにくいとされるのは「公正証書遺言」です。
公証役場へ出向き、証人2人を立ち会わせて遺言書を作成します。
遺言書を作成した時点で認知症などを発症しており判断能力に疑いがあった場合など、公正証書遺言であっても覆されることがあります。
病院のカルテの資料や日記など、認知症でないことが分かるような資料をあらかじめ用意しておくといいでしょう。
制度を良く理解し、必要な準備をしてからの遺言書作成をおすすめします。
死後認知の訴えを起こされる可能性もある
非嫡出子は、父親の死亡から3年以内であれば検察官を相手に認知の訴えを起こすことが可能です。
父親の相続人が遺産分割を終えた後に非嫡出子が認知された場合でも、民法では「価額の支払い(金銭の支払い)」が認められています。
認知していない非嫡出子を相続から除外することはできないのです。
最高裁は、この「価額」については、認知された非嫡出子が価額の支払いを請求した時点の遺産の価格を基準にすると示しました。
遺族は、非嫡出子がいたことにショックを受けるだけでなく、まずは遺産分割や墓参りなど、さまざまなことで関わっていく必要が出てきます。
非嫡出子がいることが分かっているのであれば、やはり生前に家族に伝えておくといいのかもしれません。
遺産がある人なら、自分の知らない非嫡出子が、死後に突然現れるかもしれない…と恐れることもあるかもしれませんが、死後認知のためには、裁判所が判断するための証拠や証人尋問、DNA鑑定などが必要とされます。
非嫡出子を偽った人が死後認知を訴えるのは難しいと考えられます。
まとめ
近年、多様な家族の形が認められる社会になりつつあるためか、未婚のシングルマザーの出産により非嫡出子の数も増えています。
父親による認知は、育児に直結する扶養義務の点が注目されがちですが、相続にも重要だということ分かりました。
これまで、非嫡出子が父親の遺産を相続する場合には嫡出子の1/2しか相続分がありませんでした。
しかし、憲法の「法の下の平等」によって民法が改正され、嫡出子と同じ相続権が最近与えられました。
わずか5年ほど前の法改正なので、まだご存知でない方もたくさんいらっしゃるかもしれません。
非嫡出子を持つ父親の方、母親の方、非嫡出子の方などが、いつかは訪れる相続問題について知識を持ち、あらかじめできることをしておくことがスムーズに遺産相続を進めることにつながりそうですね。