2019年6月19日 水曜日
父子家庭での相続の注意点やポイントは?
離婚や元妻の他界などの事情により、シングルファザーと子供だけで構成された父子家庭で生活する家族は少なくありません。
しかし、父親に万が一のことあった時、父親の財産はどのように相続されるのでしょうか。
また、残されてしまった父親の子供は具体的に何をすれば良いでしょうか。
父子家庭における相続は、元妻との関係性や、子供の親権の所在、遺言書の作成など考慮すべき大切なポイントがいくつかあります。
この記事では、父子家庭における相続の進め方や、ひとり親家庭ならではの注意点、子供が未成年だった場合の対処法などを解説していきたいと思います。
大切なご家族に多くの財産をお渡しできるように、ぜひご活用ください。
目次
法定相続人と法定相続分について
まず、相続を考える上で基本となる法定相続人と法定相続分について簡単にご説明します。
亡くなった父親(被相続人)が所有していた財産を譲り受ける人を相続人と言いますが、民法上で定められた相続人のことを「法定相続人」と呼びます。
被相続人が遺言などを残していない場合、被相続人の一切の権利義務が、民法の定めによって相続人に包括的に承継されることになります。
法定相続人の範囲は、大きく分けて「配偶者」と「血族相続人」の2つがあり、相続をする際には被相続人との関係を踏まえた一定の優先順位が設けられることになります。
それでは、民法886条で定められている法定相続人の順位について詳しくみていきましょう。
・第1順位の相続人
被相続人に子供がいる場合には、その子供と配偶者が第1順の相続人となります。
「子供」には実子だけではなく養子も含み、認知した子や胎児も対象になります。
また、子供が被相続人より先に亡くなっている場合には、直系卑属(孫・ひ孫等)が相続人となります。
・第2順位の相続人
被相続人に子供とその孫がいない場合には、直系尊属(父母・祖父母等)と配偶者が相続人となります。
もし、被相続人が養子の立場ならば、養親と実親も相続人となり、合計の4人が相続人となることができます。
父母も祖父母も健在の場合には、被相続人に一番近い世代(父母の代)のみ相続人として認められます。
・第3順位の相続人
被相続人に子供や孫がおらず、直系尊属も死亡している場合には、兄弟姉妹と配偶者が第3順位の法定相続人になります。
ただし、兄弟姉妹の中に相続人より先に死亡している人がいる場合、兄弟姉妹の子、すなわち被相続人とっての甥姪が代襲相続人となります。
しかし、代襲相続は甥姪までの範囲となり、甥名も死亡している場合には再代襲はできません。
このように誰が相続人になるかは民法で定められています。
しかし、相続人になる人が決まっているだけでは、遺産の相続を進めることはできません。
そこで、次は遺産をどのように分けるかついて定めている「法定相続分」についても解説いたします。
相続には、家族の形態だけ多種多様なケースが存在し、法定相続分通りの分配が必ずしも公平だとは限りません。
法定相続分はあくまで基準の1つであり、最もよく使われている相続分割の方法にすぎないということを覚えておきましょう。
民法(第100条)では以下のように法定相続分を決めています。
・配偶者と子供が相続人の場合
配偶者に2分の1、子どもに2分の1
・配偶者と直系尊属(父母・祖父母など)が相続人の場合
配偶者に3分の2、直系尊属に3分の1
・配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
配偶者に4分の3、兄弟姉妹に4分の1
なお、子供が2人以上いる場合や父母がどちらも存命だった場合、兄弟姉妹が複数いたりする場合など、均等に割るのが基本的なルールとなっています。
例えば、被相続人と配偶者に、長男、次男、長女がいた場合には、配偶者が2分の1、長男が6分の1、次男、長女も同様に6分の1という割合で相続されます。
父子家庭での相続はどうなるか
それでは、父子家庭の場合における相続はどのように行われるのでしょうか?
シングルファザーと子供だけで構成される父子家庭の場合、唯一の親権者である父親が亡くなってしまった場合、残される子どもへの相続はどうなるのかと心配する人も多いはずです。
父子家庭にいたる背景としては、元々の夫婦が離婚した場合や、母親が死亡した場合が考えられます。
母親が死亡した場合には、そのまま子供が相続することになるのですが、少し複雑なケースが父親と元妻が離婚していた場合です。
子供が複数人いる場合、離婚後には父親の元に残るのか、母親の元に残るのか決めます。
つまり、子供たちの親権を一方に限定する必要があるのです。
では、親権の所在で相続はどのよう変わってくるのでしょうか。
それぞれケースごとに見ていきましょう。
父が親権を持つ子供だけの場合
上記でも述べたように、被相続人の配偶者は常に相続人としてカウントされますが、配偶者が先に死亡している場合や離婚して別居している場合には、配偶者に相続権は失われます。
つまり、相続において元母親の持つ分はゼロとなり、上記で紹介した優先順位に従って相続することになります。
法定相続人が子どもだけの場合の相続割合は100%となります。
子供が複数人いればその数で均等に分けるのが原則です。
ただし、夫婦が離婚した場合、配偶者の遺産の相続権は失われますが、子供の相続権は両親が離婚した後も失われることはありません。
なぜならば、戸籍が変わったとしても、親子という事実には変わりないからです。
ただし、特殊なケースで分割割合が変わることがあります。
生前に被相続人が遺言書を残しており、財産を父母や第三者に渡すように書かれていた場合は、元々の法定相続人には遺留分のみが分配されます。
元妻が親権を持つ子供もいる場合
父と母が離婚する際に、双方が共同して親権を行使することはできないため父母のいずれかを親権者として定めることになっています。
上記でも述べたように、離婚をした際には、元配偶者の相続する権利は一切消滅してしまいます。
しかし、その離婚した夫婦の間に子がいた場合、子供はいつまでたってもその両親の子供であり,親子関係が変化することはありません。
つまり、子の親権を母親が持っていたとしても、その子が親権を持たなかった父親についての相続権を失うことは無いのです。
実子なのか養子なのか,嫡出子なのか非嫡出子なのかは関係なく子供は離婚した父親・母親双方についての相続人になります。
仮に、元妻が再婚して家庭を築いていたとしましょう。
実子の一人が、元妻と生活していた場合、その子供は違う戸籍の持ち主となります。
しかし、この場合においても実の父親の相続人となります。
また、実の父親の相続人になったからといって、母親の再婚相手の相続人になれないという訳ではありません。
新しい父親の相続人になるかどうかは、その父親と養子縁組をしているかどうか決まってきます。
つまり、子が養子縁組されていた場合には、実父と養父両者の財産を相続することになるのです。
以上から、父子家庭におけるシングルファザーが亡くなった場合には、全ての実子の子供のみにすべての相続権が与えられます。
これは養子の場合も同じです。
遺言書の作成
子供が複数いる状態で離婚し、元妻が再婚していて新しい夫との子供もいる、などというような場合には遺産相続で揉める可能性が大いにあります。
このような場合、遺言書をあらかじめ作成し、相続人の負担を軽減することをオススメします。
遺言書に誰が遺産相続をするのかをはっきり指定しておくことで、相続人同士が話し合うことや、遺産分割協議書を作成する必要がなくなります。
また、銀行預金の解約手続きや、不動産の相続登記もスムーズに行うことができます。
遺言書の作成は、かなりケースごとに書く内容をしっかり吟味する必要があるので、専門家に相談するようにしましょう。
子どもが未成年の場合のポイント
父子家庭における相続で、未成年者が相続人になることも多々あります。
子供や養子がまだ20歳未満の人場合、遺産分割協議はもちろん、その未成年者が相続放棄や代襲相続などをする際には手続き上気をつけなければならない点がいくつかあります。
また、両親が離婚した後で未成年者が相続人になったケースなど、離婚が絡む相続も注意が必要です。
代理人が必要
基本的に未成年者が財産上の法律行為をする際には親権者が法定代理人となって手続きを進めることになっています。
そのため、未成年者が相続人になった場合、法定代理人が必要とされています。
しかし、父子家庭の場合、父親が亡くなってしまった時、一時的に「子供の親権者がいない」という状態になってしまいます。
また、死亡と同時に親権が元妻に移るということもありません。
親権者がいない状態になると、未成年の子供では、親の相続手続きが出来ず、親の預貯金の引き出すことすら出来ません。
それを防ぐために、家庭裁判所に申立て「未成年後見人」というものを選任してもらう方法があります。
未成年後見人とは、未成年者に対して、親権を行う者がいなくなってしまったときに、未成年者の法定代理人となる人のことをいいます。
しかし、この申し立てですら親族などの協力が必要です。
もし、父親がいきなり交通事故などで亡くなるなどのリスクを想定すると、最も確実な方法は、遺言書で「未成年後見人」をあらかじめ指定しておくことです。
生前のうちから遺言書を作成することで、自分が亡くなった場合に備えて、誰に子供の後見人になってほしいかを遺言書で決めておくことができます。
例えば、自分に亡くなった時、元妻ではなく、自分の両親に子どもの法定代理になってほしいという希望があれば、その意思を遺言書形に残しておくことにより、法的な効力が発生するのです。
また、遺言書で未成年後見人を指定することで、家庭裁判所の手続きもしなくて済むので、負担も軽減できます。
未成年者控除が利用できる可能性がある
相続をする際に必ずつきものなのが、相続税です。
相続税は、遺産を受け継ぐ際に遺産総額の金額が大きいとかかってくる税金のことを言いますが、基礎控除額を超える場合には「未成年者の税額控除」の適用を検討しましょう。
未成年者控除とは、共同相続人の中に未成年者がいる場合に、その未成年者が支払うべき相続税額から一定の額を差し引くことができる制度です。
具体的にどれほど控除されるかは、以下の計算方法で算出されます。
「(20―未成年者の満年齢)×10万円」
例えば18歳の子供が相続した場合、100万円の相続税を支払う必要があったとします。
その場合、(20―18)×10=20万円の控除を受けることができます。
なお、既に結婚した未成年者の場合に関しても、相続税法によって適用が認められています。
したがって、仮に婚姻により成年とみなされた未成年者がいたとしても、法律上は通常の未成年者と同様に未成年者の税額控除が利用できますので、忘れないようにしましょう。
相続放棄も可能
ここまで、相続する際の注意点などご紹介してきましたが、相続権には預貯金や土地などの「プラス財産」だけではなく、借金やローンなどの「マイナス財産」も含まることも忘れてはいけません。
例え未成年の子供であっても、負の遺産は引き継がれることになります。
もし、マイナス財産がプラス財産より多いことが分かった場合には、相続が開始したことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄を申し立てる必要があります。
しかし、相続放棄は放棄する人の自分の意思で行う必要があり、強要することはできません。
つまり、相続人が未成年者だった場合、その意思決定は特別代理人か未成年後見人に委ねられることになります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
父子家庭における相続で気をつけるポイントはいくつかありますが、最も大切なことは、父子家庭であるが故のリスクを想定し、早めに相続の準備を進めることです。
そして、子供が相続人であると認知した時に、元妻の家族間や兄弟間、親戚同士で揉め事少しでも防ぐために、遺言書の作成を心からオススメします。
また、父親自身の意思表示や親族との連携、財産の整理など生前にやれることは早めに済ませておくことが先決です。
また、遺言書の作成や、相続の手続き方法などはケースごとに内容が異なってくるので、弁護士などの専門家に相談することでトラブルを完璧に防ぐことができます。
専門家に何を相談するべきか、この記事が少しでも参考になれば幸いです。