2019年3月31日 日曜日
相続における嫡出子と非嫡出子の関係とは
失礼に思う方もいるかもしれませんが、私の立場としては、率直にお伝えする必要があります。
亡くなった人の戸籍謄本を取り寄せたら隠し子(非嫡出子)が発覚した、というケースは、遺産相続においてよくあるケースだと言わざるを得ないでしょう。
非嫡出子への遺産相続をドラマチックに捉えすぎるとトラブルが長期化しやすい傾向がありますので、客観的な事実として対処できる専門家に代理交渉をしてもらうのが早期解決のポイントです。
民法で相続人になることが認められている子供とは、被相続人と法律上の親子関係にある者のことをいいます。
法律上の親子関係とは実子(嫡出子・胎児)、非嫡出子および養子(普通養子・特別養子)のことです。
認知されていない子供・配偶者の連れ子・養子縁組していない里子・他夫婦と特別養子縁組をした子供と親の関係は法律上の親子関係とは認められないため、子供には親が死亡し被相続人となった場合でも法定相続人になることはできません。
民法の規定において法定相続人と認められるのは、配偶者を除き被相続人と血のつながりのある直系の親族、すなわち「血族」であるためです。
いわゆる義理の親や義理の兄弟姉妹に法定相続となる権利が認められていないのは、これを根拠としています。
ですが、先述した通り、親子関係の法律の記載には、被相続人の実の子ではない非嫡出子も含まれています。
つまり、非嫡出子であっても、所定の条件を満たせば法律上の親子関係が認められて法定相続人になる権利も認められるのです。
本コンテンツでは、相続における嫡出子と非嫡出子の考え方から、非嫡出子であっても法定相続割合が認められる要件についてご紹介します。
目次
そもそも嫡出子と非嫡出子とは
嫡出子
法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子供、つまり実子のことを「嫡出子」といいます。
ここでいう法律上の婚姻関係とは、役所に婚姻届と出生届を提出・受理されており、民法上も戸籍法上も正式な夫婦であり、親子関係にあることをいいます。
嫡出子には父母の実の子供である生来嫡出子のほかに、生来嫡出子ではないものの父の認知もしくは父母が法律上の婚姻関係になることにより嫡出子となった準正による嫡出子が含まれます。
戸籍謄本上は、父母との続柄欄には、嫡出子(実子)は出生順に「長男・次男~」「長女・次女~」と記載されることで非嫡出子と区別できます。
非嫡出子
これに対して非嫡出子とは、内縁の配偶者や愛人など法律上の婚姻関係にない男女の間で生まれた子供のことをいいます。
戸籍謄本上、非嫡出子は嫡出子と異なり「男」または「女」と表示され、「婚外子」と呼ばれることもあります。
嫡出子と非嫡出子の相続分
相続における第1順位の相続人は、民法第887条第1項「被相続人の子は、相続人となる」の規定による「子供」です。
被相続人の子供である限り、性別、年齢、既婚・未婚、実子・養子、氏の相違、国籍などが問われないのと同様に、嫡出子・非嫡出子の別も問われません。
胎児も相続人になることができます。
ただし、非嫡出子の方が相続する場合は後述する要件を備えていることが前提です。
法定相続分の法改正について
民法第900条第四号によりますと、「子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。
ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする」とあります。
つまり、嫡出子であろうと非嫡出子であろうと子供の法定相続割合は同一なのです。
従前は、ただし書き以降の部分に「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、」との文言がありました。
非嫡出子は嫡出子が相続する割合の半分しか相続することが認められなかったのです。
この不平等性について2013年9月に最高裁判所で違憲判決が出たことから、2013年12月に民法第900条が改正され相続における嫡出子と非嫡出子の法定相続割合は平等となっています。
嫡出子の相続分
民法第900条第一号では、法定相続割合について「子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする」と定めています。
たとえば、配偶者の相続分および嫡出子の相続分は2分の1ずつです。
嫡出子が数人いる場合には、嫡出子それぞれの相続分は均等になり、これは嫡出子と非嫡出子が混在している場合でも同様です。
また、嫡出子の全員が非嫡出子の場合は全員嫡出子の場合と同様に均等で相続します。
つまり、先妻(夫)の子と後妻(夫)の子の間には相続人としての地位に差はありません。
非嫡出子の相続分
先述のとおり、改正後の民法第900条第四号では嫡出子と非嫡出子の相続割合について差分を設けていませんので、非嫡出子の相続割合は嫡出子と同等になります。
嫡出子、非嫡出子の相続トラブルを防ぐには?
あらかじめ遺言を残しておく
相続発生時における非嫡出子を含めた財産の分割割合を生前に遺言で指定しておけば、たとえ非嫡出子と法律上の親子関係になかったとしても当該非嫡出子に遺産を相続させることができます。
法的な親子関係にない非嫡出子へ遺産を相続させたい場合は、もっとも確実にその意思を実現することを可能とする方法といえます(なお、遺言により遺産を誰かに残すことを、「遺贈」といいます)
遺言にはいくつかの種類がありますが、一般的なものは公正証書遺言と自筆証書遺言です。
公正証書遺言
公正証書遺言は公証役場で2人以上の証人が立ち会い、公証人が遺言者の遺言を筆記し、最後に遺言者・立ち会いの証人・公証人が署名押印することで作成されます。
そして、作成された遺言は公証役場で保管されます。
自宅で保管する場合の自筆証書遺言と異なり、公正証書遺言はその作成に決して安くない手間と費用がかかりますが、遺言の改竄や紛失・盗難を防ぐうえでは最も確実です。
自筆証書遺言
従前の自筆証書遺言は全て手書きで作成し、相続が発生するまで自宅等に保管しておくというものであり、手書きによる労力が高齢者に負担であることに加えて遺言書が常に盗難や紛失、改竄の危険性に晒されているものでした。
また、相続発生時の自筆証書遺言は家庭裁判所で「検認」の手続きが義務付けられており、さらに法的な形式要件の不備がある場合は自筆証書遺言そのものが無効とされていました。
自筆証書は手軽に作成できる半面で、これらのような数多くの不便性を問題点として抱えていたのです。
これを踏まえ、2018年7月の民法改正により、2019年1月13日以降はパソコンによる作成や第三者による代筆、さらに財産目録については全ページへの記名押印することを前提に預金通帳や不動産登記事項証明書のコピー添付で済ませることが可能になりました。
また、2020年7月10日から自筆証書遺言の法務局での保管を申請できるようになり、法務局が保管した自筆証書遺言については法務局でチェックされるため、家庭裁判所による検認も不要となりました。
このように、従来の自筆証書遺言と比較すると自筆証書遺言の利便性・確実性は公正証書遺言に大きく近づいたといえます。
非嫡出子は認知しておく
判例や通説によりますと、子供と母親の親子関係(非嫡出母子関係)は母親による分娩という事実により当然に生じます。
したがって、母親が被相続人の場合は戸籍の記載を要せず子供は当然に相続人となります。
しかし、被相続人が父親であり子供の非嫡出子の場合は、認知するか養子縁組をしていないかぎり法律上の子には該当しません。
母の遺産:出生届による親子関係に該当して相続
父の遺産:認知か養子縁組による親子関係に該当して相続
非嫡出子は、父親に認知されることで法律上の親子関係が認められるようになり、遺産相続においては嫡出子と同等の法定相続分の権利が発生します。
具体的な手続きは、父親が本籍地の市区町村に認知届を出すだけです。
これを「任意認知」といいますが、父親が認知を行わない場合は、子供自身か母親、あるいは弁護士などの法定代理人が家庭裁判所に対して父親の認知を求める「認知調停申立書」を提出し、それが調停、審判、または裁判により認められれば、子供は父親から認知されたものとすることができます。
これを「強制認知」といいます。
なお、非嫡出子の子供が嫡出子と同等の相続権を得るためには認知だけで事足ります。
専門家へ相談する
もし非嫡出子への相続などでお悩みの場合は、法律面や税制面のアドバイスを受けるために弁護士や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
特に財産構成や家族関係が複雑な場合は、遺言書の書き方や財産の分与割合、さらには相続税対策など多面的かつあなたにとって最良なアドバイスが期待できるでしょう。
生前のうちに専門家に相談してしっかりとした相続対策を立てておくことは、相続発生後のトラブルを避けるうえでもっとも有用です。
また、現在非嫡出子への遺産相続が協議のトラブルとなっている方には、可能な限り早く専門家への相談をお勧めします。
人間関係の構築が無い中で協議するには、客観的な事実と専門知識しかありません。
非嫡出子の方は、ご自身で遺産相続を頑張らなくてもいいのです。
非嫡出子の方はご自身の望みを専門家に理解してもらった上で、代理交渉をしてもらうことが可能です。
嫡出子の方も、なるべく専門家と今後の対処を話すようにすることで感情的なトラブルを回避できるケースがあります。
早期解決の後、気兼ねなく新しい家族の方との出会いに向き合われることをお勧めします。
嫡出子に相続させないことは可能?
仮に遺言で「嫡出子には一切の財産を相続させない」と明記したとしても、先述のとおり嫡出子には法定相続割合が認められているため、当該遺言は当該嫡出子の遺留分が侵害されていると言います。
遺留分とは、法定相続人に対して民法が保証する最低限の取り分であり、被相続人の子供であれば民法第1028条の規定により「被相続人の財産の二分の一」の遺留分が認められているのです。
そして、この遺留分を侵害された子供は侵害した他の相続人に対して侵害された遺留分相当額を請求する「遺留分減殺請求(改正民法施行後は遺留分侵害額請求」を行使する権利を有します。
したがって、遺言で嫡出子に何も遺産を相続させないとしたとしても限りなく無効に近いといえるでしょう。
ただし、遺留分制度は法定相続権を前提としていますから、当該嫡出子が以下のように相続欠格・廃除・放棄により相続権を失えば、遺留分減殺請求権もなくなります。
相続欠格者
民法第891条では、相続欠格に該当する事由として以下を定めています。
「次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。
ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」
上記に制限列挙された事由に該当する相続人は、相続欠格者として当然に相続権を失います。
また、相続欠格者は民法第965条「第886条(相続に関する胎児の権利能力)及び第891条の規定は、受遺者について準用する」にあるとおり、遺贈を受けることも不可能になります。
ただし、仮に父の遺産相続に関しては欠格者であっても母との関係では相続人になることができるケースもありますので、お悩みの場合は専門家への相談が必要です。
廃除
相続人の廃除について、民法第892条では「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる」と規定しています。
つまり、遺留分を有する相続人が被相続人に対して損害を与えたことを理由に、被相続人の廃除の意思を家庭裁判所が是認することにより相続権を失います。
廃除またはその取消は、被相続人の申立てあるいは遺言による廃除またはその取消意思の表示があるときは遺言執行者による申立てにより、家庭裁判所が審判することになります。
なお、民法第887条2項「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。
ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない」にあるとおり、相続欠格者または廃除を受けた嫡出子に子供がいる場合は、その子どもが代襲相続人となります。
相続放棄
相続放棄とは、相続人が相続財産に対して有する権利や義務の一切を放棄し「何も相続しない」とすることです。
相続放棄が認められれば、民法第939条「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」にあるとおり相続人ではなくなります。
相続放棄をするためには、民法第938条「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない」にあるとおり、相続放棄をする嫡出子自身が定められた手続きを被相続人が亡くなったことを知ってから必ず3ヶ月以内に被相続人が生前最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所で行う必要があります。
また、被相続人の生前に相続放棄を行うことは認められていません。
このように、被相続人の意思では相続人である嫡出子に強制力を以って相続放棄をさせることはできないのです。
まとめ
以上、嫡出子と非嫡出子の違いに着目しながら、相続において取り得る選択肢をご紹介しました
家族関係の複雑さに比例して、相続は生前の対策を含め複雑になります。
遺産相続に関するトラブルを解決できるポイントは、父の認知、被相続者の遺言による相続分の指定、遺産分割協議となります。
できる限り早いうちに弁護士や税理士と相談しながら、遺された人たち全員にとって悔いのない相続になるように、全員が協力することのみが最高の結果に繋がるのです。