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【相続の基礎知識 】
相続について基礎知識を説明しています。相続とは、相続の手続き、生前にできる相続対策など、相続について知っておくべき情報をまとめています。

2019年3月31日 日曜日

単純承認とは何か|3つの遺産相続パターン

残念ながら、相続とは、放っておいても誰かが完了してくれるものではありません。

亡くなった方、そして相続されるご遺族の方々によるコミュニケーションと選択こそが相続です。

その一方で、私は「何か悪いことが起きた」時は、それ以上傷つかないように被害者になりがちです。

そのような在り方でじっとしていると、どこかの知らない誰かが定めたルールに当てはめられ、さらに被害者感が増長して、いつまでも不満を言い続ける立派な私を作り上げます。

相続では特に、誰もが自分の損失を避けたいと思うでしょう。

しかし、自分の利益を議論しているうちに時間が経ち、民法に従い「相続を単純承認した」と見なされ、自分が望まない結果を相続することもあります。

本コンテンツでは、被相続人に相続が発生した場合に相続人がとるべき相続の態様としてもっとも一般的な「単純承認」を中心に、他の態様である限定承認や相続放棄と比較しながらご説明します。

単純承認はもっとも一般的な相続の態様といえど、安易に選択すれば被相続人から資産を超えた額の債務まで引き継いでしまうこともあり得ます。

そのようなことにならないために、本コンテンツで単純承認以外の相続の方法についても知っておいて頂ければと思います。

この記事で紹介する知識を持つことで、読者の方がご自身の遺産相続を自ら選択し、悔いのない結果になることを願っています。

3つの遺産相続パターン

相続が発生した場合、被相続人(亡くなった人のこと)が残した遺産に対して相続財産に対して相続人が取る選択肢は「単純承認」、「限定承認」、「相続放棄」の3つとなります。

以下でこれら3つのパターンを詳しくみてみましょう。

単純承認

単純承認とは

単純承認とは、プラスの財産に加えマイナスの財産についても遺産分割協議などで決めた割合通りに相続することです。

相続の形式として、民法では単純承認を原則としており、実際の相続においても限定承認や相続放棄と比較すると圧倒的に単純承認が多いです。

相続人が積極的に単純承認の意思表示を示す場合のほか、相続人に以下の民法第921条のような一定の行為があれば単純承認したものとしています。

これを、「法定単純承認」といいます。

それでは、単純承認に関する民法第921条の規定をみてみましょう。

「次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。

ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二、相続人が第915条第1項の期間(3ヶ月間)内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三、相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。

ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

なお、被相続人の遺族として社会通念上相応の葬式費用を相続財産から支弁することは上記における法定単純承認には該当しませんが、形見分けであっても著しく財産価値の高いものを受け取ると法定単純承認に該当する可能性があります。

単純承認の効果

単純承認をすると、民法第920条「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」にあるとおり、相続人は被相続人の義務、つまり負債などについても無限に承継することになります。

したがって、相続財産にプラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合、相続人は被相続人の債権者(相続債権者)に対して相続財産だけでなく自分の本来の資産つまり固有財産からも弁済する義務を負うことになります。

つまり、単純承認することにより相続財産は相続人固有の財産と完全に一体化するわけですから、相続人は被相続人が債権者に対して負担していた債務の弁済もすべて負担しなければならなくなるのです。

また、被相続人の債権者は相続人固有の財産に対しても強制執行をすることが可能になります。

このように、単純承認において相続人は大きな利益を受ける場合もあれば、著しく不利益を被る場合もあるのです。

限定承認

限定承認とは

限定承認ついて、民法第922条では「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる」とされています。

簡単に言うと、限定承認とは相続するプラスの財産でマイナスの負債を解消し、プラスが余ったら相続する、と言う留保つきの相続のことです。

相続人は相続債務に対して無限責任を負うことが原則ですが、限定承認は相続するマイナスの財産が過大な場合に、相続人の生活を守るために被相続人の財産でのみ弁済責任を負うことになります。

これにより、相続人固有の財産は責任の対象とはなりません。

限定承認の手続き

限定承認の手続きについて、民法第924条では「相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間(3ヶ月間)内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない」と規定されています。

つまり、限定承認をするためには家庭裁判所でしかるべき手続きを行う必要があるのです。

被相続人の生前に限定承認を行うことは認められていませんので、一連の手続きは相続が発生してから着手することになります。

まず、被相続人が亡くなったことを知ってから必ず3ヶ月以内に、被相続人が生前最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所へ限定承認をする旨を必要書類とともに申し出てください。

もし、相続発生後3ヶ月に到達しつつあるのにも関わらず限定承認をする決心が付かない場合、家庭裁判所に期間延長の審判を申し出てそれが認められれば、延長してもらえます。

なお、限定承認は共同相続人全員で申述する必要があります。

もし限定承認について他の相続人の同意が得られなかった場合、債務の弁済を免れるためには相続放棄するしかありません。

限定承認が認められると、相続財産は一種の凍結状態になります。

そして被相続人の債権者に対し相続財産を限度して弁済する清算手続きが開始されます。

この手続きは、単独相続の場合はその相続人が、共同相続の場合は家庭裁判所から選任された相続人が行います。

この一連の手続きについて、民法第927条の規定をみてみましょう。

「1.限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。

この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。

2.前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。

ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。

3.限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。

4.第一項の規定による公告は、官報に掲載してする。」

具体的には、限定承認の申請が受理されてから5日以内に全ての債権者に対し限定承認をしたことおよび2ヶ月以内に債務の弁済の請求すること、およびその期間内に申し出がなければ清算手続きから除斥する旨を官報で公告します(除斥公告)。

この他、限定承認者に知れている債権者に対しては公告のほかに個別の債権申出の催告が必要です。

この公告期間が満了したら、限定承認者は申出債権者および知れている債権者に対して、法律や債権者との調整に基づき債務の弁済に向けた清算手続を行っていくことになります。

なお、仮に限定承認者が除斥公告や債権者等に対する催告手続きを怠るなど、催告期間内に弁済して他の債権者等が正当な弁済を受けられなかった場合は、民法第934条第1項「限定承認者は、第927条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第一項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

第929条から第931条まで(公告期間満了後の弁済、期限前の債務等の弁済、受遺者に対する弁済)の規定に違反して弁済をしたときも、同様とする」の規定により、債権者等に対して損害賠償義務を負うことになります。

限定承認の効果

清算手続きの結果残ったプラスの財産を、相続人が引き継ぐことになります。

清算手続きの結果、たとえマイナスの財産つまり債務だけが残ったとしても、すでに相続財産の限度額で債権者に対する弁済はなされていますので、相続人は被相続人から引き継いだマイナスの財産の弁済をそれ以上強制されることはありません。

被相続人の債権者は相続人に対して残債務の請求はできますが、その時点で相続財産が残っていなければ強制執行は認められません。

また、相続人固有の財産に対して、返済の請求ないし強制執行もできません。

相続放棄

相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が相続財産に対して有する権利や義務の一切を放棄し「何も相続しない」とすることです。

相続放棄の法的な効果は民法第939条「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」にあるとおり、最初から相続人そのものに該当しないことになるのです。

したがって、法定相続人が3人の場合、1人が相続放棄をすると、相続手続き上の相続人は2名として進めることになります。

相続放棄の手続き

相続放棄をするためには、民法第938条「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない」規定されているとおり、家庭裁判所でしかるべき手続きを行う必要があります。

被相続人の生前に相続放棄を行うことは認められていませんので、一連の手続きは相続が発生してから着手することになります。

まず、被相続人が亡くなったことを知ってから必ず3ヶ月以内に、被相続人が生前最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所へ、相続放棄をする旨を申し出てください。

もし、相続発生後3ヶ月に到達しつつあるのにも関わらず、承認するか放棄するか決心が付かない場合、家庭裁判所に期間延長の審判を申し出てそれが認められれば、延長してもらえます。

なお、遺産分割協議の場で自分は一切財産を受け取らないと表明し、それを明記した遺産分割協議書を作成する方法は家庭裁判所を通していないため、正式な相続放棄とは認められません。

相続放棄の効果

相続放棄により、プラスの財産よりマイナス財産が多くても負債を引き継ぐことはなく、支払う義務は負わなくなります。

また、心情面などで相続そのものに関与したくない場合は、相続放棄を検討する価値があります。

さらに、相続放棄の場合は何も相続しないわけですから当然に相続税は発生しません。

この他に法的な効果としては、相続放棄の効果は当然に第三者への対抗することが可能であり、さらに代襲原因にもならないことが挙げられます。

事実上の相続放棄

相続方式の態様には、通称「事実上の相続放棄」とよばれるものがあります。

事実上の相続放棄とは、家庭裁判所に対して正式な相続放棄の手続きをとらず形式上は他の相続人と共同相続したことにしておいて、事実上は相続財産を特定の一人が集中して相続し、他の相続人は相続放棄したものと見なされることです。

この方法としては、遺産分割協議で特定の相続人一人に遺産分割の割合と取得分を集中させる遺産分割協議書方式と、共同相続の外見を保ちつつも他の相続人は被相続人から生前贈与を受けているから取得分はない旨を証する文書を作成する「特別受益証明書方式」があるようです。

事実上の相続放棄は、相続放棄の熟慮期間を経過してしまった相続人または相続放棄の手続きを面倒に思う相続人に相続放棄と同じ効果をもたらし、または被相続人の生前に本来の相続分を超える贈与を受けた人や不動産以外の財産を相続することになった相続人との間の利害関係を調整し、相続登記など後続の相続手続きを簡便にする機能を果たしているといえます。

単純承認をする前に準備するべきことは?

非相続人の遺言の有無、遺言があった場合はその記載内容、そして相続発生時の被相続人の財産状況をしっかりと確認しておきましょう。

あわせて遺産分割協議を踏まえた結果、相続する財産がマイナスの財産よりもプラスの財産が多い場合は単純承認をすることになると考えられますが、そうでない場合は限定承認や相続放棄も選択肢になります。

単純承認をするメリットは?

単純承認の場合、相続する財産がマイナスの財産よりもプラスの財産が多かった場合は、その超過分を取得できることが最大のメリットでしょう。

また、限定承認や相続放棄と異なり、自筆証書遺言の検認手続きや遺産分割調停・審判を除き家庭裁判所に対する手続きが不要であることもメリットといえます。

単純承認の手続き手順は?

限定承認や相続放棄と異なり、相続の単純承認に特別の方式は要請されていません。

これを「不要求方式」といいます。

まとめ

以上、単純承認について限定承認や相続放棄と比較しながらご説明致しました。

単純承認はもっとも一般的な相続の態様ですが、安易に選択することなく事前に被相続人の財産内容をしっかりと把握しておくことが、思わぬ負債を引き継いでしまうことを防ぐうえで欠かせません。

他の共同相続人との情報共有はもちろんのこと、必要に応じて弁護士や税理士などのような専門家に相談しながらベストな相続手続きを進めることをお勧めします。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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