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【相続の基礎知識 】
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2019年3月31日 日曜日

換価分割は遺産分割方法の一つ、その他分割方法との違いは?

被相続人が亡くなった直後の「共有」状態にある遺産は「遺産分割」の手続きを経て、最終的に各相続人の所有や権利に属することになります。

この記事をご覧の方は、おそらく遺産分割において現金以外の遺産をどのように相続をするのかを懸命に話し合われていることでしょう。

現金は数字だけ見れば協議できる一方、土地や住宅などの不動産はその遺産価値を明確に分割しづらく、税金制度も含めて検討されていることでしょう。

おそらく、この記事にアクセスしているあなたは「悪い事が起きた」にも関わらず立ち上がり、現金以外の複雑な遺産についての話し合いを進めようと勇気を振り絞っているのだと思います。

勇気あるあなたの遺産分割の話し合いが前進するために、今回は現金以外の遺産価値をどのように相続人と分割するのかを決める「換価分割」を解説していきます。

本コンテンツでは、不動産の遺産分割方法について重要な換価分割の基本的な知識を得て頂くとともに、特に注意して頂きたいポイントについてご紹介します。

読み慣れない説明箇所もありますが、あなたの遺産分割が後悔なく解決されるように、詳細に説明していきます。

最後に、この記事を読み終わった方へ、弁護士と税理士を本当にお勧めしたい理由をお伝えします。

換価分割とは??

換価分割とは、各相続人の同意のもと分割前の相続人全員で共有状態となっている不動産を相続人の共有名義あるいは代表する相続人の名義で第三者に売却し、各相続人がそれぞれの相続割合に応じて売却代金を取得することです。

もっと分かりやすく言うと、お金の形ではないものをお金に換金して、そのお金を相続人同士で合意した割合で分配する方法です。

他の遺産分割方法との違い

現物分割

現物分割とは、亡くなった方の遺産である土地、建物、現金をそれぞれ別の相続人が100所有する分割方法です。

換価分割と異なるのは、それぞれの遺産の金銭価値が違うケースが多く、すなわち各相続人が所有する遺産の価値が不平等となり得る点です。

さらに、不動産自体を分割することもあります。

例えば、亡くなった方名義の土地を各相続人間で物理的に分割して、分割後の不動産を各相続人名義で100パーセント単独所有とする方法です。

ただし、仮に均等の面積で分割するとしても、分割後のそれぞれの不動産に道路への接面状況や高低差、日照状況などに違いが出ると、財産価値の観点から不平等な遺産分割になります。この場合は一般的に面積割合で調整することになります。

しかし、そもそも不動産は価額的に均等に分けることが難しいことから、調整の過程で相続人それぞれに主張の食い違いが生じ、トラブルに発展してしまう可能性があります。

また、周辺の環境から一団の土地を分割することで1坪当たりの価額が低くなる(面少減価)場合、あるいは分割したあとの土地の面積が建物を建築することすら不可能なほど極端に狭くなってしまう場合は、現物分割そのものを再検討する必要があります。

現物分割をするときは、協議の際に知識を持つ専門家と一緒に検討しなければいつまでも合意ができない恐れがあると言えるでしょう。

代償分割

現物分割が難しい不動産である場合、当該不動産を特定の人が相続し、その不動産を相続する代わりに他の相続人にお金を支払う方法です。

例えば、実家の住宅を相続した人が、相続しなかった人に1000万円を代償として支払うのが代償分割です。

代償分割の対象となる不動産の経済的価値をどのように評価するか、当該不動産を相続する人が代償分の金銭を確保できているかがポイントになります。

共有

共有とは、上記のような分割をせずに、ひとつの不動産を相続人の数とそれぞれの相続割合に応じて、それぞれの持分という形で共同所有することです。

円満かつ公平な方法に思えますが、相続人の間で最もトラブルになりやすいのが共有なのです。

まず、民法では共有する不動産の売却や建て替えなどを行う場合、原則としてその不動産の共有者全員の合意が必要と定められています。

相続税納税資金が不足していた際に物納する場合も同様で、共有者全員が物納要件を満たしたうえで共有者全員で物納しなければなりません。

これらについて共有者間で意見の食い違いが生じた場合、裁判にまで発展する可能性があります。

共有者が配偶者や子供なら、このような心配は少ないかもしれません。

しかし、時が流れて相続発生時の共有者が死亡してその相続人が新たな共有者となり、共有による相続を繰り返すと、権利関係は複雑となってしまいます。

たとえば、叔父・叔母が甥・姪と不動産を共有するようなことや見知らぬ人が共有者になっていたということも想定されるのです。

このようになると、トラブルが生じる可能性は一層高くなります。

後々の子孫のことを考慮すれば、共有による相続は避けたほうがよいでしょう。

換価分割のメリット・デメリット

メリット

各相続人の相続割合通りに分割することが難しい不動産でも、売却・換価後の金銭であれば平等に分けることが可能です。

また、例えば、現金ではなく不動産を相続した人の遺産価値が下がった場合、なぜ現金を相続した人との不平等感が高まります。

今後資産価値が下がる可能性がある不動産を換金することで、相続人間同士の将来的な不平不満も防ぐ効果的な方法といえるでしょう。

デメリット

被相続人の不動産を売却することは、相続人がその不動産にかつて居住するなど慣れ親しんでいた場合、やや心苦しい面がでてくるかもしれません。

また、換価分割は不動産を売却することが前提ですから、それに応じて所得税・住民税が発生します。

換価分割と税金の関係

不動産を換価するということは売却、すなわち第三者に譲渡することを意味します。

税金について触れる前に、まず不動産の譲渡に関する基本事項を押さえておきましょう。

不動産を譲渡、換金することによる収入を譲渡収入、そして各種の費用等を控除した所得を譲渡所得といいます。

課税譲渡所得金額は、所得税・住民税の課税対象であり、以下のように計算します。

・課税譲渡所得金額=譲渡収入の金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

取得費とは、譲渡した不動産の購入価額、建築価額、不動産の取得に支払った金額の合計額です。

建物の取得費は、購入代金又は建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額となります。

なお、事業に用いていない建物の減価償却費は、建物の法定耐用年数の1.5 倍の年数に対応する旧定額法により計算します。

取得費が不明の場合、あるいは実際の取得費が譲渡収入の5パーセントを下回る場合は、譲渡収入の5パーセント相当額とすることができます。

なお、相続や贈与により取得した不動産を売却した場合の取得費は、被相続人や贈与者が当該不動産を購入したときの価額や取得費などを基に計算します。

譲渡費用とは、不動産を売却するために直接かかった費用のことで、主に不動産を売却するために仲介業者などへ支払った仲介手数料、売主負担の印紙代、テナントの立退き料、建物の取り壊し費用などが該当します。

簡単に事例を使って計算してみましょう。

【所有期間3年の不動産を3000万円で譲渡したケース】

収入金額(売却価格) 3000万円
購入時価格 2500万円(土地1000万円、建物1500万円)
購入時費用 75万円(土地分30万円、建物分45万円)
売却時費用 105万円

譲渡所得=

収入金額3000万円-取得費(購入時価格2500万円+購入時費用75万円-減価償却費62万5725円※1)-譲渡費用(売却時費用105万円)=382万5725円

税額

382万5725円×短期所有税率39.63%=151万6100円(100円未満切り捨て)

※1 減価償却費は以下のように計算されます=(建物価格1500万円+建物分購入時費用45万円)×90%×償却率0.015×経過年数3年

となります。

相続税および所得税との関係

換価分割で相続税そのものが低くなることはありませんが、「取得費加算の特例」を適用することで不動産譲渡の所得税・住民税を抑えることができます。

「取得費加算の特例」とは、被相続人から取得した資産の相続税評価額が基礎控除額などを超えていたため相続税を支払っていた場合、相続や遺贈により取得した不動産などの資産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年以内に売却すると、売却した資産の取得費について一定の方法により計算した取得費に、以下の算式により求められた相続税の一部の金額を加算することを認める制度です。

・確定相続税額×譲渡した資産に係る相続税評価額÷相続税の課税価格(債務控除前)

取得費加算の特例により相続税の一部が取得費に加算されることで、譲渡による所得税・住民税を軽減することができるのです。

分かりにくいので、もっと簡単に言うと概要は以下となります。

● 相続開始から3年10カ月以内に相続財産を売却していることが条件。
(契約が完了していれば、実際の引き渡しが期間外でも適用可)

● 売却した資産に対応する相続税を、譲渡益より控除できる。

贈与税との関係

複数人以上の相続人で換価分割を行う場合、他の相続人が遠方に居住しているなどの都合から、便宜上ひとりの相続人が単独名義で当該不動産の相続登記を行ったうえで売却し、その売却代金を他の相続人に分配することがあります。

売却代金を分配するときに気になるのが、贈与税でしょう。

たとえば、相続登記を経て登記名義人となった相続人が相続したAさんが不動産を売却し、他の相続人であるBさんとCさんに相続割合に応じて当該不動産の売却代金を分配した場合、共有名義による売却ではないわけですからBさんとCさんには贈与税が課されることになるのではないかという懸念です。

結論からいいますと、遺産を換金ケースでも換価分割が前提である場合は、贈与税が課税されることはありません。

これは、国税庁による質疑応答事例でも明確になっています。

ただし、税務署に明確に回答できるように、遺産分割協議書には「相続人甲が当該不動産を売却し、その売却代金を相続割合に応じて乙と丙に分配する」と明記しておくべきでしょう。

譲渡所得税

相続した不動産を実際に譲渡した場合のケースをさらに詳細に解説します。

基本的には、先述した不動産譲渡の基本事項を理解していれば大丈夫で、こちらは補足となります。

税率

不動産の売却に対する所得税・住民税は、課税譲渡所得金額に税率を乗じて計算されます。

所得税・住民税は、売却した年の1月1日時点で売却した不動産の所有期間が5年を超えていたか否かにより異なります。

(1)居住用

・5年以下の保有(短期譲渡所得):所得税パーセント(復興特別所得税を含む)、住民税9パーセント

・5年超の保有(長期譲渡所得):所得税15 .315パーセント(復興特別所得税を含む)、住民税5パーセント

・10年超所有軽減税率の特例:課税譲渡所得6,000万円以下の部分に対しては所得税10.21パーセント・住民税4パーセント、6,000万円超の部分に対しては所得税15.315パーセント・住民税5パーセント(いずれの所得税も復興特別所得税を含む)

なお、10年超所有軽減税率の特例は居住用家屋と敷地の所有期間が10年超、つまり築10年超の中古住宅が対象となりますが、居住期間は10年超でなくても本特例は適用可能とされています。

また、10年超所有軽減税率の特例においては後述する「居住用財産の3,000万円控除の特例」を併用することが可能ですが、「居住用財産の買換特例」との重複適用はできません。

(2)非居住用

・5年以下の保有(短期譲渡所得):所得税パーセント(復興特別所得税を含む)、住民税9パーセント

・5年超の保有(長期譲渡所得):所得税15 .315パーセント(復興特別所得税を含む)、住民税5パーセント

取得時期

短期譲渡所得と長期譲渡所得の判定は、当該不動産を取得した時期が重要なポイントになることは言うまでもありません。

相続や贈与で取得した不動産の取得時期は、被相続人や贈与した人が当該不動産を取得した時期がそのまま相続や贈与で取得した人に引き継がれることになります。

したがって、被相続人や贈与者が取得した時から、相続や贈与で取得した人が譲渡した年の1月1日までの所有期間で長期か短期かを判定することになります。

たとえば、取得した年から5年目となる場合は、5年以内とカウントされます。

被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例

自宅など居住用不動産を相続したものの、今後居住の用に供することがないため売却する場合は、一定の要件を満たすことで所有期間が長期であったか・短期であったかに関係なく、譲渡所得から最高3,000万円までの控除ができる「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」の特例があります。

本特例を受けるための要件は、以下の通りです。

・建物は1981年5月31日以前に建築されたこと(マンションおよび新耐震基準の建物は対象外)。

・区分所有建物登記がされている建物でないこと。

・相続の開始の直前において被相続人以外に居住していた人がいなかったこと(被相続人が一人暮らしであったこと)。

・売却時に一定の耐震基準を満たすものであること、または家屋を取り壊しのうえ敷地を売却すること。

・相続から売却又は家屋の取り壊し時までに事業、貸付、居住の用に供されたことがないこと。

・相続開始日から3年目の12月31日までの売却であること。

・売却価額が1億円以下であること(固定資産税や都市計画税などの精算金は売却価額の一部に加算される)。

・2019年12月31日までに売却すること。

・「取得費加算の特例」との併用はできない。

居住用財産の3,000万円控除の特例

所有する自宅(居住用財産)を売却したときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000 万円まで控除ができる特例があります。

本特例を受けるための要件は、以下の通りです。

・売却する人が生活の拠点としている家屋または土地または借地権の売却であること。

別荘やセカンドハウスなど一時的な利用目的である家屋は適用不可。

また、居住の実態の有無がポイントであるため、住民票を移したうえでの売却でも適用不可。

・売却した年の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていないこと(「被相続人の居住用財産にかかる譲渡所得の特別控除の特例」により、本特例の適用を受けている場合を除く)。

・現在は居住していないものの、以前に居住していた家屋や土地等を売却する場合には、居住しなくなった日から3年目を経過する日の属する年の11月31日までに売却すること。

なお、居住しなくなってから売却するまでの期間における家屋の用途は問われず、第三者に賃貸していたとしても本特例の適用を受けることは可能。

・建物を取り壊したあとの敷地は、取り壊した日から1年以内の応答日までに売買契約を締結すること。

建物を取り壊した日から売買契約締結までの間に敷地を賃貸した場合は、本特例の適用不可。

・家屋が災害などで滅失した場合の敷地は、災害などが発生したあとの3年目の年末までに売却すること。

・売却した家屋や土地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。

・自宅の買換えや自宅の交換の特例もしくは、自宅の譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと(ただし、軽減税率は併用可能)。

・当該家屋や土地について、「住宅ローン控除」の適用を受けていないこと。

・売主と買主が、親子や配偶者、生計を同一にする親族など特別な関係ではないこと。

まとめ

ここまでお読みの方で、おそらくこの記事にある不動産価値や譲渡に関する知識を持っていた、という方は多くないでしょう。

換価分割では不動産の売却がスムーズに行うことができるかという点が大きなポイントのひとつとなります。

税理士とタッグを組み、さらに換価分割の経験がある不動産会社の選定も重要になります。

これらの専門知識を習得するのに、数ヶ月では全く足りないと思います。

遺産相続は、古来より人間の心理的な設定・メカニズムが表に出やすく、思ってもいない言葉が出てきてトラブルが絶えなかった出来事です。

歴史から学び、家族の未来について話し合うための時間を少しでも増やすために整備された法律制度と、それらを扱う専門家にできるだけ早く依頼されることを、心からお勧めします。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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