2019年2月8日 金曜日
遺産分割協議で重要な書類、遺産分割協議書とは
遺産分割協議は、これから相続する遺産の割合や種類などを決めるため他の相続人と話し合う場であり、遺産に対する相続人の権利を確定するうえで最も重要なイベントです。
そして、遺産分割協議で合意した内容を後日に活かしトラブルを防ぐために非常に重要な書類です。
本コンテンツでは、円滑な相続手続きを進めるうえで重要な遺産分割協議の基礎、および遺産分割協議書の意義や作成方法についてご紹介します。
目次
遺産分割協議とは
被相続人が亡くなると、それと同時に被相続人の財産(遺産)について相続が発生します。民法第898条によりますと、相続発生時の遺産は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」とあります。
しかし、相続発生による相続人間の遺産の共有関係は、基本的に遺産分割によって最終的には消滅する一時的なものです。
相続人が1名であれば遺産は一括して当該相続人が包括承継するだけですが、相続人が複数人いる場合は全ての遺産が相続人全員が共同で相続することになります。
土地や建物など不動産だけではなく預貯金や有価証券までも当然に相続人全員の共有となりますので、このような状態では権利関係の面からどの相続人も遺産を有効に活用することが難しくなります。
したがって、共有状態にある遺産は例えば自宅不動産は配偶者・預貯金は相続人全員で均等に分けるなどというように、相続人それぞれの相続割合を決めてその割合に応じて分割し、それぞれの相続人に帰属させるようにしなければなりません。
これが「遺産分割」であり、遺産分割によって遺産の共有関係は消滅します。
遺産分割は民法第906条に「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」とあるとおり、遺産の種類や各相続人の状況などを考慮したうえで行われます。
しかし、遺産分割は民法第907条第1項「共同相続人は、次条の規定(被相続人による遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる」にあるように、被相続人が遺言で指定した方法以外の遺産分割協議そのものを禁止している場合、あるいは遺言の執行者が遺言の内容と異なる遺産分割に反対した場合以外は、原則的に相続人間の協議が行われ相続人全員の合意によって決定されます。
これが「遺産分割協議」です。
相続人間の協議分割の場合、すなわち遺産分割協議の結果として民法の原則である法定相続割合と異なる分割割合あるいは被相続人の遺言とは異なる分割割合になったとしても、それが各相続人の自由な意思に基づくものである限り有効です。
なお、相続人間での協議が調わない場合は民法第907条第2項「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる」にあるとおり家庭裁判所における調停または審判により定められることになります。
この間に、家庭裁判所が遺産分割割合の判断を下すに際して、相続人の関係などに何らかの特殊な事情を認めた場合は、同第3項「前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる」に従い預貯金などの部分分割すら認められなくなることもあります。
遺産分割協議書の作成について
遺産分割協議書の効力
相続人全員の合意のもと遺産分割協議が結了すると、「遺産分割協議書」を作成することが一般的です(家庭裁判所における調停または審判により遺産分割割合などが定められた場合は、裁判所により調停調書または審判書が作成されます)。
遺産分割協議書の作成は任意となっています。
しかし、法務局における不動産の相続登記(不動産の名義を被相続人から相続人に変更すること)や金融機関から受ける被相続人名義の預貯金の払い戻しなどの場面において、登記を請求している人や払い戻し請求者が遺産分割協議を経た正当な相続人であり相続人全員の合意のもと権利を行使していることを証明する書類のひとつとして、通常は法務局や金融機関から遺産分割協議書の提示を求められます。
また、仮に遺産分割協議成立後であるのにも拘らず相続人間で遺産をめぐり争いが起きたとしても、この場面で遺産分割協議書は後日に他の相続人と紛争が起きたとしても遺産分割の内容について他の相続人全員と正式に合意済みである旨の証拠として機能すること、あるいは紛争そのものを防止する機能が期待できます。
遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議書には法律で定められたルールや書式はありません。しかし、以下の諸点については漏れが無いようにして頂きたいと思います。
- 日付を明記する。
- 相続人全員の住所と氏名は手書きとし、押印は実印とする。
- すべての換価可能な財産および債務について、種類と金額を記載する。
- 預貯金などの金融資産は、保護預り先の金融機関名を明記する。
- 土地や建物など不動産については、登記事項証明書通りに記載する。
- 代償分割(特定の相続人が不動産など特定の高額な資産を相続する場合、これにより生じる他の相続人との不公平分を金銭の支払いで補填すること)がある場合、その金額や支払う相続人および支払いを受ける相続人を明記する。
- 遺産分割協議書締結後に新たに見つかった財産および債務の取り扱いについて明記する。
契約書、証明書としての性質
遺産分割協議書は遺産分割の内容について相続人全員が合意したことを記名・押印している書面ですから、契約書に準じる性質を有するものと考えられます。
併せて、先述したとおり相続登記など各種の相続手続きの場面において遺産分割協議が行われ、全ての相続人が遺産分割の内容に合意したことを証する証明書に準じる性質も有しています。
このように、遺産分割協議書は契約書として後日に紛争が起きた場合の証拠になるものであることと同時に、既に遺産分割協議は結了しており遺産について当該相続人は正当な権利を有していることの証明書でもあるのです。
遺産分割協議の流れ
遺産分割協議は相続人全員の合意をもって成立します。したがって、相続人全員が一堂に会して話し合うことが好ましい形でしょう。
しかし、遺産分割協議そのものは必ずしも相続人全員が一堂に会して行う必要はありません。
実際には相続人が各地に分散していることも多いことから、全ての相続人に遺産分割の内容や各相続人の主張が明確にされている限りにおいて持ち回りによる協議も認められています。
遺産分割協議で注意するべき点
相続税の申告・納税期限まで終わらせることを目指す
遺産分割協議には、その合意について期限に関する規定はありません。
しかし、相続税の申告・納税期限は、被相続人が亡くなり相続が発生した日の翌日から起算して10ヶ月以内と決められています。
たとえ遺産分割協議が整っていなかったとしても、それを理由にこの期限が延長されることはありません。
相続税の申告・納税期限までに遺産分割協議が整わず遺産分割ができていない「未分割」の状態である場合、いったん法定相続割合で各相続人に遺産分割が為されたものと仮定し、期限までに相続人それぞれが相続税を申告・納税することになります。
しかし、ここで税務上のデメリットや余計な手間が生じることになります。
まず、未分割の状態では「小規模宅地等の特例(一定の条件の下に、土地の相続財産評価額が最大で80パーセント減額)」および「配偶者の税額軽減の特例(相続財産1億6,000万円に満たない部分について、相続税額ゼロ)」の適用を受けることができず、遺産分割協議が整い各特例が適用できていた場合と比べ相続税額が上がってしまいます。
また、未分割の状態では先述の通り遺産は相続人全員の共有となりますので、他の相続人全員の同意が得られていないと遺産の一部であろうと単独で処分することができません。
このため、相続税の納税資金が不足する場合は被相続人の預貯金を納税に充てることは非常に難しくなるうえに不動産を物納することも難しくなるのです。
なお、相続税申告・納税の時点で小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例が適用できなかったとしても、税務署に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで原則3年以内に遺産分割協議が整えば、上記特例の適用を受けることができます。
また、たとえ3年以内に遺産分割協議が整わなかったとしても、税務署に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して承認されれば、さらに上記特例適用の延長が可能です。
しかし、これらの手続きは相応の手間を要します。
分割する遺産に漏れが無いようにする
遺産分割協議を行う前に、必ず被相続人の遺産を詳細に調査して、それについて漏れがないか入念に確認しましょう。
もし遺産分割協議後に新たな遺産が見つかった場合は、遺産分割協議のやり直しやその財産について新たに遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割のやり直しによる再分割の結果次第では、相続人に想定外の手間が生じる可能性もあります。
具体的には、再度の遺産分割協議の結果、相続税額が増加する相続人は追加の相続税を支払う「修正申告」を行う必要があるのです。
相続人が一部でも欠けた遺産分割協議書は無効となる
先述のとおり、遺産分割協議は相続人全員(代襲相続人・包括受遺者を含む)で行う必要があります。
そのため、一部の相続人を除外して行われた遺産分割協議は無効となってしまいます。
遺産分割協議を行う際は事前に被相続人の戸籍謄本を辿るなどして、すべての相続人を探し遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
しかし、遺産分割協議を行う段階になっても相続人の居所が不明であったり、時には生死すらも不明の場合があります。
このような場合、行方不明となっている相続人に対して何らかの手当てを行ったうえで遺産分割協議を進めないと、後日になって行方不明となっている相続人が出現し遺産分割無効の主張がなされた場合に再度の遺産分割を行う必要が生じます。
もし、十分に調査したのにも拘らず行方不明の相続人がいる場合は、当該相続人が失踪宣告の要件を満たしている場合は失踪宣告を行い死亡したという法律効果を発生させます。
単なる不存在のように失踪宣告の要件を満たしていない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てを行い、この不在者財産管理人との間で遺産分割協議を行うことになります。
利益相反関係に注意
遺産分割協議の対象となる相続人の中に制限行為能力者がいる場合、利益相反の問題が生じ得ます。
制限行為能力者とは、未成年者・成年被後見人・被補助人など、単独で完全な法律行為を行うことを制限された人を指します。
遺産分割協議では、特に未成年者とその父母あるいは未成年者間のケースで利益相反関係が生じると考えられます。
例えば、被相続人Aの相続人はその実子BとBの実子かつAと養子縁組であるCであるケースを想定します。このケースでは、BとCが同時に相続人となります。
このような場合、BとCとの間は利益相反取引となり、民法第826条第1項「親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」の規定により遺産分割協議を行うためにはCのための特別代理人の選任が必要になります。
もしBがCの特別代理人の同意を得ずして、Cと遺産分割協議書を締結したとしても、民法第5条第2項「前項の規定(未成年者との法律行為は当該未成年者の法定代理人の同意が必要)に反する法律行為は、取り消すことができる」の規定に従い無効とされます。
したがって、遺産分割協議に際しては当事者たちの利益相反関係の有無について入念に確認しておく必要があります。
まとめ
以上、遺産分割協議および遺産分割協議書の基本についてご紹介しました。
遺産分割協議書は契約書としての機能を有することから、軽はずみな合意による締結により本来相続ことができた遺産を喪失し、後々の後悔につながることもあり得るのです。
したがって、遺産分割協議の段階から弁護士や税理士などの専門家に相談しながら、あなたの相続における利益を最大化できるようにして頂ければと思います。