2019年2月26日 火曜日
被相続人の高額療養費も課税対象となる
高額療養費は、高額な治療を受けなければならない人々にとっては、重要な制度の1つです。
高額療養費があることで、高額な医療費を支払っている人が持続して治療を受けられる環境を得続けることが可能となります。
ですが、もし、高額療養費に該当するような治療を受けている本人が亡くなってしまった場合、本来その人が受け取るはずだった高額療養費はどのように取り扱われるのでしょうか?
また、高額療養費は被相続人の財産として相続することができるのでしょうか?
高額療養費の詳細をはじめ、被相続人の高額療養費の取り扱いについて、詳しくご紹介いたします。
目次
相続財産について
相続財産には、預貯金や不動産、収集品や権利などのプラス財産と、借金や未払い金などマイナス財産の2つがあります。
相続財産を相続人が相続する場合、プラス財産が多い場合は、すべてを無条件で相続する単純承認という相続方法で相続することが一般的ですが、相続財産の中で相続したいものがありながら、借金などの負債がある場合、相続した財産を上限として負債も相続する限定承認、マイナス財産の方が多い場合や特定の相続人の1人に財産を相続させたいときに選択する相続放棄といった相続方法を選ぶこともできます。
相続財産の場合、基礎控除を受けることが可能なので、相続財産に相続税が課せられるときは、この基礎控除が差し引かれた後の相続財産になります。
また、相続財産は、課税対象となるものと課税対象にならないものの2つに分けることかできるので、財産を相続するときには、どんなものに相続税がかかり、どんなものに相続税がかからないのかということを把握しておくことが大切です。
課税対象となる相続財産
被相続人から財産を相続した場合、基本的にすべての相続財産が課税対象になります。
たとえば、下記のものが相続財産の中で課税対象になるものの一部に該当しています。
- 農地や山林も家屋や駐車場などの不動産
- 貴金属や宝石、骨董品や自動車などの動産
- 著作権やゴルフ会員権、商標権などの権利
- 機械や備品、売掛金や商品などの事業用財産
また、上記のこれら以外にも、被相続人が亡くなる3年以内に贈与された財産や死亡保険金なども課税対象なります。
ただし、死亡保険金が課税対象なる場合は、被相続人が保険料を全部または一部を負担している場合に限ります。
また、死亡保険金の場合は下記の計算式によって、課税額を算出します。
死亡保険金(相続人1人あたり)-非課税限度額×死亡保険金の合計(すべての相続人合計)÷死亡保険金(相続人1人あたり)=課税される死亡保険金(相続人1人あたり)
このように、多くのものは相続した段階で課税対象としてみなされます。
非課税となる相続財産
非課税となる相続財産とは、つまり「相続税がかからない相続財産である」ということです。
非課税となる相続財産には下記の財産が挙げられます。
- 日常的に礼拝をしているもの(墓地や墓石、仏壇や仏具、神を祭る道具など)
※ただし、投資の対象となりうる骨董的な価値があるものや商品として所有しているものの場合には、相続税がかかります。
- 宗教や慈善、学術やその他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが相続や遺贈によって取得した財産であり、なおかつ、公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
- 地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人、またはその人を扶養する人が取得する心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利
- 相続によって取得したとみなされる生命保険金のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分
※生命保険の負担者が相続人であった場合は、生命保険金に相続税はかかりませんが、所得税がかかります。
- 相続や遺贈によって取得したとみなされる退職手当金等(退職手当金や功労金、その他のこれらに準ずる給与)のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分
※被相続人が亡くなった後、3年以内に支給された退職手当金等は、相続税の課税対象となります。
- 個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で、一定の要件を満たすもの
※ただし、相続人の誰かが引き続き、その幼稚園を経営することが条件です。
- 相続や遺贈によって取得した財産で、相続税の申告期限までに国、または地方公共団体や公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附したもの
- 相続や遺贈によって取得した金銭で、相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したもの
(参考:国税庁のホームページの「No.4108 相続税がかからない財産」)
このように、非課税になる相続財産には財産そのもの自体が相続税の対象にならないものと、一定の金額を超えない限り、相続税の対象にならないもの、ある一定の条件を満たした場合に相続税にならないものがあります。
相続税率はどのくらい?
相続税率は、相続した財産にそのままかけられる税率ではありません。
まず、財産を相続したら、基礎控除額として、「3000万円+法定相続人の数×600万円」分が課税価格の合計額から差し引かれます。
また、課税される遺産の総額は、課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の計算式を用いて求めることができます。
この計算式から算出された課税される遺産の総額が下記に掲載している相続税の速算表の「法定相続分に応ずる所得金額」にあたります。
そして、相続税の税率はこの法定相続分に応じた取得金額によって変動があるといった特徴があります。
では、下記の相続税の速算表を見ていきましょう。
≪相続税の速算表≫
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※国税庁ホームページの「No.4155 相続税の税率」の「相続税の税率」より、データを引用し、速算表を再現しています。
※この速算表は、平成27年1月1日以降の場合であり、平成26年12月31日以前に相続を開始した場合の相続税の税率は異なります。
※この速算表は平成30年4月1日現在のものです。
この相続税の速算表には、法定相続分に応ずる所得金額と税率及び控除額が一覧にまとめられているので、相続財産に関わる相続税の控除額とその税率がわかるようになっています。
また、上記の相続税の速算表からもわかるように、相続財産の金額が大きくなるにつれて、相続税の税率が5%ずつ上がっていくと、同時に控除額も高くなるといった傾向があります。
財産の相続人は「遺産分割協議」で決まる
被相続人が遺言を残されているかどうかは大変重要な問題です。
遺言が見つかれば、基本的にはその内容に従って遺産を相続していくことになります。
遺言が残されていなければ、遺産分割協議が必要です。
遺産分割協議とは?
遺産分割協議とは、相続人全員が参加して遺産相続について話し合うことです。
その協議の結果は、遺産分割協議書に書き記しておきます。
遺産分割協議のポイント
遺産分割協議のポイントを5W1Hに当てはめてご紹介します。
【遺産分割協議のポイント】
<Who(だれが)>
相続人全員が参加することが必要。
<When(いつ)>
相続税は、被相続人の死後10カ月以内が申告期限。期限を過ぎると追徴課税のペナルティーを負います。
そのほか、保険金や給付金などの請求時効などにも注意。
<Where(どこで)>
遺言書のありかを調べる。
不動産や金融資産の保管先を調べる。
※債権などの権利や高額療養費など、財産として気付きにくいものに注意する。
<What(なにを)>
総資産額を提示し、話し合った結果を遺産分割協議書にまとめる。
<Why(なぜ)>
不動産や金融資産などの財産を関係者が円満に受け継げるようにする。
<How(どのように)>
遺言書の内容や法律を照らし合わせて相続人が納得する形にまとめていく。
相続人が全員参加して遺産分割協議を行ったとしても無効とされる場合があります。
それは、参加者の中に認知症などで判断能力が不十分とされる人や、未成年者がいた場合です。
認知症患者などの場合は、判断能力の程度にもよりますが、成年後見人を家庭裁判所に選任してもらい、その成年後見人が遺産分割協議を行うことができます。
未成年者がいる場合は、親が代わりに遺産分割協議を行いますが、親も共に相続人の場合は、家庭裁判所で親の代わりに特別代理人を選任してもらい、遺産分割協議に参加してもらいます。
遺言書がある場合、遺産分割協議は行わない
遺言があればその内容に従って遺産を相続していくことが大前提ですので、遺産分割協議は必要ありません。
しかし、遺言から漏れていた財産が見つかるなど、遺言とは違った分割方法で分配することが必要な場合があります。
遺言とは異なった内容を話し合うための遺産分割協議を行うこともあります。
遺言で遺言執行者が選任されていても、遺言執行者の了解を得ずとも協議は可能ですが、その経緯を説明しておくと禍根を残さずに済むでしょう。
また、既に遺産分割協議を行ったとしても、その後の状況の変化で協議内容を変えたい時には遺産分割協議をやり直すこともあり得ます。
注意すべきことは、遺産分割協議をやりなした場合には税金が発生することです。
改めて遺産分割協議を行った場合には、取得財産の差額に贈与税や所得税が課税されます。
税金の観点では遺産分割協議をやり直すということではなく、以前の分割案と新しい分割案の間で改めて財産を移動するという扱いになり、差額に課税がされるのです。
遺産分割協議後に財産の分配方法を変える場合は、不動産などの名義変更の手数料や課税される税金の額などを計算した上で、協議をやり直すのか、相続に関係なく贈与や売買にするのかを検討するといいでしょう。
高額療養費を相続した場合の課税額
高額療養費とは、ひと月(月の初日から月末まで)にかかった医療費(医療機関及び薬局の窓口で支払った金額)が高額になってしまった場合、年齢によって(69歳未満と70歳以上によって異なります)決められた上限額(自己負担限度額)を超えたときに、超えた分の金額があとから支給される制度のことをいいます。
ただし、入院したときの食費や差額ベッド代などは高額療養費の対象になりません。
また、もし、事前に医療費が高額となり、上限額を超えることがわかっている場合には、「限度額適用認定証」を提示する方法を選択することも可能です。
このとき、提出しなければならない書類には、「健康保険高額療養費支給申請書」があります。
基本的に高額療養費は年齢や所得水準によって算出されますが、自己負担限度額に達しない場合であっても、同じ月に同一世帯で21,000 円以上の自己負担が複数ある場合は、医療費を合算し、自己負担限度額を超えた金額が支払われます。
これを世帯合算といいます。
また、同じ人が2つ以上の医療機関にかかった場合に、自己負担額がそれぞれ21,000 円以上あるときも医療費を合算し、自己負担限度額を超えた金額が高額療養費として支払われます。
このほか、直近の12ヶ月以内に、3回以上の高額療養費の制度を受けている場合には、4回目から「多数回」に該当するため、負担額の上限が引き下げられるといった仕組みもあります。
このように、医療費によって家計が圧迫されないように、高額医療費制度は存在しています。
また、本来、高額療養費を受け取るはずだった被相続人が亡くなった場合は、高額療養費を相続人が申請し、受け取ることができます。
相続税法上、高額療養費は相続財産なので、相続人が複数いる場合は遺産分割をすることになります。
遺産分割が終了したら、相続税の申告をしなければなりません。
ただし、相続放棄をした場合は、高額療養費は相続財産の対象となるため、相続放棄をすると還付金を受け取ることはできません。
高額療養費を相続した場合の課税額は、財産として課税されることになります。
そのため、相続財産の総額から基礎控除額である(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を引いた分が相続税の課税対象となります。
高額療養費の請求方法
もし、高額療養費を支給される対象者が亡くなった場合、相続人は被相続人が受けるはずだった高額療養費を申請することができます。
このとき、下記の書類が必要となります。
- 高額療養費支給申請書兼請求書
- 預金通帳など世帯主名義の振り込み先がわかるもの
- 医療機関や薬局の領収書(コピー可)
- 申請者の印鑑(認め印可)
- 国民健康保険被保険者証
- 個人番号の記載に必要なもの(通知カードなど個人番号のわかるもの及び運転免許証などの身元確認書類)
- 相続人は被相続人の相続人であることを証明できる戸籍謄本
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本
- 届出人の認め印
- 相続人名義の振り込み先がわかる金融機関の預金通帳など
- 免許証など本人であることが確認できる書類
- 相続人受領念書(相続人が配偶者や子どもではない場合)
※ただし、これらの必要書類は加入している公的医療保険によって異なるため、被相続人が加入している公的医療保険に問い合わせてください。
これらの書類は被相続人が加入している公的医療保険に申請しなければなりません。
被相続人が加入している公的医療保険によって、窓口はそれぞれ異なります。
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合……各全国健康保険協会支部の窓口
- 後期高齢者医療広域連合の場合……連合の各都道府県の窓口
- 国民健康保険の場合……各市町村の国民健康保険の窓口
- 共済組合の場合……各共済組合の担当窓口
※ただし、公的医療保険によっては、郵送申請にも対応しているので、わざわざ窓口までいって手続きをする必要がない場合もあります。
これらの手続きを経て、高額療養費の申請が受理されると高額療養費は支払われます。
また、高額療養費の支給日は、毎月1日から15日に申請した場合は翌月の20日以降に、16日から月末に申請した場合は翌月末以降になります。
高額療養費を相続した場合の注意点
被相続人の高額療養費は、相続財産に含まれるとお伝えしました。
高額療養費の請求が可能なのは、診療月の翌月1日からの2年間です。
高額療養費の請求には2年間の猶予があるからと、高額療養費の請求を後回しにしていると危険です。
なぜなら、相続税の申告期限は相続開始から10カ月ですので、高額療養費の請求を待っていると相続税の申告期限を過ぎてしまう可能性があるからです。
高額療養費の請求の有無にかかわらず、うっかり相続税の申告期限を過ぎてしまうと、相続税に延滞税を加えた金額が課税されます。
【延滞税課税額】
納期限の翌日から2カ月以内に納付した場合
「年7.3%」と「前年の11月30日の公定歩合+4%」のいずれか低い方
納期限から2カ月を超えた場合…年14.6%
2カ月間を超えた場合、カードローンなどと同じ金利の税金が課税されます。
さらに、正しく申告をしなかった場合、追加で課税されるさまざまな追徴課税が待ち受けています。
被相続人を思い、悲しみに暮れ、高額療養費はおろか、相続税の申告自体を諦めてしまった場合には、無申告加算税が課税されるかもしれません。
無申告課税は、正当な理由がないのに申告期限までに申告しなかった場合に課税されるものです。
【無申告加算税の課税額】
- 申告期限までに申告せず、自ら期限後申告する場合:5%
- 申告期限まで申告せず、税務調査により期限後申告する場合:
納税額のうち50万円までの部分は15%
納税額のうち50万円を超える部分は20%
高額療養費の請求を忘れてしまっていたものの、思い出して相続税申告を終えてから高額療養費を請求し、高額療養費を受け取ったものの、高額療養費が相続税の課税対象だと理解しておらず高額療養費の金額を申告していなかった場合には、過少申告加算税が課税されます。
【過少申告加算税課の税額】
- 期限までに相続税の申告書を提出したが、その申告税額が過少であった場合に、自ら修正申告するとき:追徴課税なし
- 期限までに相続税の申告書を提出したが、その申告税額が過少であった場合に、税務署に指摘されて修正申告するとき:10%
- 税額が期限内申告税額と50万円のいずれか大きい金額を超える場合、超える部分:15%
過少申告加算税は、誤りに気づいたら早めに修正申告をすることで、課税されないこともあります。
「高額療養費を受け取ったことくらい、分からないだろう…」と悪意を持って隠していた場合には、重加算税が課税されます。
【重加算税の課税額】
- 申告書を提出した場合で、財産を隠蔽又は事実を仮装していたとき:35%
- 申告書を提出しなかった場合で、財産を隠蔽又は事実を仮装していたとき:40%
被相続人に代わって受け取った高額療養費も、れっきとした財産だという認識を持つようにしましょう。
高額療養費の請求はもとより、高額療養費を受け取ったら、相続税申告をすることを忘れないようにしましょう。
相続の相談は専門家に
財産を相続することになった場合、多くの手続きを行わなければなりません。
まず、遺言書の有無を確認し、遺言書があれば、その遺言書の内容に従って、相続に関する手続き進めていきます。
遺言書の場合、財産の分割についても詳しく記載されているため、相続の手続きに関する手間が幾分か省略されますが、遺言書がない場合は、被相続人のすべての財産の把握をするところから始めなければなりません。
被相続人の財産をすべて把握するためには、預貯金から不動産をはじめ、あらゆるプラス財産を調べたあと、借金などの負債まで細かく調べなければなりません。
そのため、相続人にとってはかなりの負担になります。
相続財産を把握するには時間がかかってしまうので、すべての財産がわかってから、遺産分割や相続方法を選択し、相続税の計算をすると想像以上の手間と時間がかかります。
しかも、相続財産の把握も相続税の計算も間違えることは許されません。
万が一、相続税の申告に間違いがあった場合は、加算税のペナルティが課せられますし、納税が遅れてしまったら延滞税が課せられてしまいます。
このように、相続税の手続きを自分で行うリスクはとても高いので、できれば、相続に関することに特化した弁護士や税理士、司法書士などに相談するとよいでしょう。
専門家の事務所では、無料相談も行っているため、どのような手続きが必要であるかを確認することもできますし、依頼した場合に必要となる費用などについても聞くことが可能です。
相続税の申告期限と納税期限に間に合うように手続きを行うためにも、専門家への相談は最善策であるといえるでしょう。