2019年2月28日 木曜日
著作権等の相続税評価はどうなる?
相続財産は、きわめて多種多様です。
電話加入権のようにどこの家庭にもある財産だけではなく、被相続人の職業によっては著作権や、特許権などの知的財産権が含まれている場合があります。
また、被相続人の趣味によっては、リゾート会員権等があるかもしれません。
そのような相続財産があっても、相続税評価で困らないように、本コンテンツでは相続の基本から著作権を中心として、上記資産の相続における取り扱いや、相続税評価方法についてご紹介します。
目次
相続について
相続と聞いて、どのような相続財産を思い浮かべるでしょうか。
預貯金や不動産、宝飾品などが目に付きやすく、イメージしやすいかもしれません。
しかし、不動産といっても宅地や家屋、農地、山林などとさまざまな地目・分類がありますし、借地権も相続財産に含まれます。
また、さまざまな権利も相続財産となります。
例えば、著作権や特許権、ゴルフ会員権、最近は一般家庭では持たなくなった電話加入権なども含まれます。
「相続なんてお金持ちが行うこと」と思われている方がいたら、その認識は覆るかもしれません。思わぬ相続財産を持っている、と認識を新たにするでしょう。
本記事では、さまざまな相続財産を評価する方法について紹介します。
周囲の人が中々知る機会のない少し特殊な相続財産について、詳しくなれること間違いなしですよ。
相続税とは
遺産相続時には、全ての遺産に相続税が課せられると誰もが思うところでしょうが、実は違います。
相続税には基礎控除が設けられており、それを超えた相続財産に対して相続税が課せられます。その計算式は以下です。
<相続税の基礎控除の額を求める式>
3千万円 + 600万円 × 法定相続人数
この計算で求めた値よりも、相続財産額が低かった場合は、相続税が課されませんのでご安心ください。
そのほかにも、最大で1億6千万円の相続税が控除される配偶者控除や、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除などの控除制度も設けられています。
相続税は、相続財産の額によって相続税の税率が異なります。
()内の金額を控除して得られた額が相続税です。
1千万円以下:10パーセント(控除額なし)
3千万円以下:15パーセント(50万円)
5千万円以下:20パーセント(200万円)
1億円以下:30パーセント(700万円)
2億円以下:40パーセント(1,700万円)
3億円以下:45パーセント(2,700万円)
6億円以下:50パーセント(4,200万円)
6億円超:55パーセント(7,200万円)
詳しくは本サイトの「相続税で悩んだら専門家に相談しましょう」を参考にしてください。
相続財産となるものとは
相続税の課税対象となる財産は先にお伝えした通り、現金や預貯金、株式などの金融財産をはじめ、不動産、自動車や貴金属など財産として分かりやすいものから、著作権や商標権などのほか、売掛金や損害賠償請求権などの債権者としての権利など、保有している権利も含みます。
相続税の対象となる相続財産は、上記のようにプラスの価値を持つものだけではありません。マイナスの価値を持つ負債なども相続財産の中に含まれ、相続税の対象となります。プラス・マイナスの価値を持つ相続財産は両方とも、相続税の課税対象として計算するのです。
相続税の課税対象とならない財産は、墓地や墓石、仏具(投資対象とならないもの)などのほか、上限は設けられていますが、死亡保険金や死亡退職金などです。
相続の流れ
被相続人が遺言書を残していたら、その内容に不備や極端な偏りなどがない場合や、法定相続人が納得している場合は、基本は遺言通りに相続をしていきます。
遺言書に法定相続人以外の人に財産を渡すと記されていることもあります。
こちらの場合は、相続に対して「遺贈」と呼ばれます。
遺言書がない時は、法定相続人全員が集い遺産分割協議を開き、分配について協議します。
遺産分割協議が無事に決議した際には、遺産分割協議書にまとめます。
遺産分割協議は相続財産を把握した後に開始しますが、実は相続財産を探し、その価格を評価するのに時間と手間がかかります。
相続財産が預貯金や現金であれば、簡単に分配することができますが、不動産などの場合、現物をそのまま相続することも、売却して現金化してから分割することもあり相続にかかる時間は変わってきます。
また、相続人の間で相続内容がまとまれば、それぞれの名義変更についての手続きが必要になってきます。
これからご紹介する著作権などの少し特殊な相続財産の場合は、見つけるのが難しいだけでなく、相続財産を評価することがとても難解であり、それぞれの財産ごとに別の法が定められており、相続は困難を極めます。
著作権のような少し特殊な相続財産は、その総額を知るのにも時間がかかり、相続財産を対象に計算していく相続税を割り出すのにもより時間がかかるかもしれません。
しかし、相続税が課されるだけの財産を相続する場合には、相続が始まってから10カ月以内に相続税の申告・納付をしなくてはならず、スピーディーに作業していくことが求められています。
相続税評価とは
相続手続きは、遺産分割協議で相続人を決め、遺産分割によって被相続人から名義人を変更し、相続税を申告・納付することで終わります。
相続税に関する一連の相続手続きで大きなポイントとなるのが、相続税評価額の算出です。
一部の資産を除き相続税は相続財産の時価や取得価額にそのまま相続税率を乗じて計算するのではなく、決められたルールに基づいて相続財産を評価して得られた相続税評価額に対して相続税率を乗じて求められるのです。
相続税を計算するために相続財産の価額を評価するに際しては、国税庁による「財産評価基本通達」による方法で行います。
そして、その評価方法は相続財産の種類によって異なります。
平成31年1月現在における、相続税を計算するための主な相続財産評価方法は以下のとおりです。
相続税評価額の算出方法
宅地
- 自用地(自分で使っている土地)…市街地およびその周辺の土地であれば路線価方式、それ以外は倍率方式で評価
- 貸宅地(貸している土地)…自用地の評価額×(1-借地権割合)
- 貸家建付地(貸家が建っている土地)…自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権
- 借地権(借りている土地の使用権)…自用地の評価額×借地権割合
- 貸家建付借地権(貸家が建っている借地)…自用地の評価額×借地権割合×(1-借家権割合×賃貸割合)
家屋
- 自用…固定資産税評価額×1.0
- 貸付用…固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
農地・山林
- 純農地と中間農地、純山林と中間山林…倍率方式
- 市街地農地、市街地山林…宅地比準方式または倍率方式
- 市街地周辺農地…市街地用地としての価額の80%相当額
上場株式
以下4つのうち、最も低い価額
- 相続開始日の終値
- その月の終値の平均額
- 前月の終値の平均額
- 前々月の終値の平均額
投資信託
- ETFやリートなど、上場している投資信託は上場株式の評価に準じる
- 上記以外の投資信託は、相続が発生した日に解約請求した場合に証券会社や銀行など指定金融機関から受け取ることができる金額
預貯金
- 普通預貯金は、預け入れ残高
- 定期預貯金は、預け入れ残高に既経過利子の額を加え、それから既経過利子の額から源泉徴収される所得税額を控除した金額
ゴルフ会員権
- 取引相場があるものについては、取引相場の70%(預託金などがある場合はそれを加算)
- 取引相場がないものについては、未上場株式の評価に準じ類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式を用いて算出(預託金がある場合はそれを加算)
- 預託金については、それがすぐに返還を受けることができる預託金等である場合は当該金額、相続が発生しても一定の期間を経過しなければ返還を受けることができない預託金等については、その預託金に返還されるまでの期間(1年未満は1年に切り上げ)に応じた基準年利率による複利現価率を乗じて得られた金額
- 不動産所有権がある場合は、その評価額を加算
書画・骨董品など
- 売買実例価額、あるいは価値鑑定に精通する人の意見による価格などを考慮した価額
著作権等の相続税評価対象の権利
著作権の評価方法
著作者の思想または感情を創作的に表現したものであり、美術・音楽・文芸・学術などの範囲に属するものを著作物といいます。
そして、著作物に対する著作者の権利を通常は広い意味で著作権といいます。
著作権ついては、申請・登録など特段の手続きを経ずして著作者に発生します。
著作者の権利には、人格的権利である著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)と、財産的側面である著作権(複製権、上演権及び演奏権、上映権、公衆送信権等、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権及び翻案権等、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)があります。
このうち、著作者人格権は一身専属権であり、他人に譲渡することはできないため、相続の対象とはなりません。
一方で、著作権は知的財産権のひとつとして相続の対象となります。
著作権の相続については特別な手続等は不要です。
なお、実名の著作権の保護期間は、著作者が死亡してから50年が経過した時点と定められています。
海外では70年に延長されており、日本でも延長について検討されていますなお、既に日本でも映画の著作物の保護期間は、原則として公表後70年となっています。
著作権の相続税評価は、「年平均印税収入額×0.5×評価倍率」で計算します。
年平均印税収入とは、相続開始前3年間における印税収入の平均額です。
また、評価倍率とは複利年金現価率のことで、毎年の複利現価率を合計したものです。
特許権の評価方法
特許権とは、知的財産権のひとつです。
新たに有用な技術を開発した発明者が特許庁に出願申請をし、特許査定を経て設定の登録がされたものについて、特許法所定の特許権が発生します。
特許権は、特許出願から20年経過した場合や、一定の期間内に相続人が現れない場合には消滅すると定められており、さらに特許料(毎年納付)を納付しない場合は消滅してしまいます。
したがって、速やかに被相続人の特許権について特許料の納付状況等の調査を実施し、特許庁長官に相続の届出を行う必要があります。
特許権者は、その発明を独占する実施権、他人に対して専用実施権、通常実施権を許諾する権利等を有します。
これらの権利は、財産権の一種であり、相続の対象となります。
しかし、遅滞なく特許庁長官に届出る必要があり、届出によって初めて効力が生じます。
特許権の相続税評価方法は、その特許権を自ら行使しているか、あるいは他人に行使させているかで異なります。
特許権を自ら行使している場合の計算式は、以下のとおりです。
これは営業権の相続税評価額の計算方法と同じです。
なお、営業権持続年数は原則10年とされています。
特許権の相続税評価額=超過利益額(平均利益額×0.5-標準企業者報酬額-総資産額×0.05)×基準年利率による複利年金現価率
特許権を他人に行使させている場合は、「補償金値額×基準年利率による複利原価」でその年の分の評価を行い、これを目標とする年の数の分だけ計算し、それらを合計して計算します。
電話加入権
電話加入権の相続税評価方法は、取引相場の有無により異なります。
覚えやすい番号など取引相場のある電話加入権については、相続発生時において「通常」と判断される時価で評価することが認められています。
一方で、取引相場の無い電話加入権については、全国一律で1本あたり1,500円とされています。
リゾート会員権
リゾート会員権とは、リゾートホテル・コンドミニアム・リゾートマンション・貸別荘などの滞在・宿泊利用権のことです。
種類によっては預託金や入会金、年会費がかかることがあります。
リゾート会員権には施設利用権のみのものと、施設利用権と共同所有あるいは区分所有型の不動産など、いくつかの種類があります。
なお、不動産の所有権がある形態のリゾート会員権は、取得時に不動産登記費用・所有期間にわたって固定資産税の支払いが生じます。
リゾート会員権の相続税評価方法は、取引相場の有無により異なります。
取引相場があるリゾート会員権については取引相場(売価格と買価格の平均値)の70%で評価し、取引価格に含まれない預託金や不動産の所有権などがある場合は、その評価額を加算します。
預託金については、それがすぐに返還を受けることができる預託金等である場合は当該金額そのもので評価します。
また、相続が発生しても一定の期間を経過しなければ返還を受けることができない預託金等については、その預託金に返還されるまでの期間(1年未満は1年に切り上げ)に応じた基準年利率による複利現価率を乗じて得られた金額で評価します。
不動産所有権については、通常の不動産所有権評価を行います。
取引相場のないリゾート会員権については、リゾート会員権の契約時に支払った金額を、預託金として評価します。
評価方法は取引相場のあるリゾート会員権と同じです。
著作権相続時の相続税計算例
以下のシミュレーションにおいては、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除などは一切考慮しないものとします。
先述のとおり、著作権の相続税評価は「年平均印税収入額×0.5×評価倍率」で計算します。
相続が発生する前3年間の印税の合計が3,000万円の場合、年平均印税収入額は1,000万円になります。
また、評価倍率については簡略化のため複利年金現価7を採用します。
これにより、相続税評価額は3,500万円となります。
2019年1月時点の相続税率は、以下のとおりです。
円換算後の外貨建て資産とそのほかの資産額(相続財産評価額)を合算し、後述する相続税の基礎控除額や配偶者控除額の範囲に収まらなかった相続税対象財産に対して以下の税率を乗じ、カッコ内の金額を控除して得られた額が相続税となります。
- 1,000万円以下:10%(控除額なし)
- 3,000万円以下:15%(50万円)
- 5,000万円以下:20%(200万円)
- 1億円以下:30%(700万円)
- 2億円以下:40%(1,700万円)
- 3億円以下:45%(2,700万円)
- 6億円以下:50%(4,200万円)
- 6億円超:55%(7,200万円)
これにより相続税評価額3,500万円に対応する税率は20%、控除額は200万円ですから、相続税額は500万円になります。
著作権移転登録の手続きをする
財産権としての著作権を相続する場合、移転登録など特別な手続きは不要です。
なぜなら、著作権は著作物が制作された時点で自動的に発生しているためです。
ただし、著作権を複数の相続人で分割して相続する場合は、「著作権・著作隣接権の移転等の登録手続き」を文化庁に行う必要があります。
必要なことを強いて挙げるとしたら、誰が相続するかということについて遺産分割協議でしっかりと決めておくことでしょう。
そして、遺産分割協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成することを強くお勧めします。
遺産分割協議書の作成は任意です。
しかし、法務局における不動産の相続登記(不動産の名義を被相続人から相続人に変更すること)や、金融機関から受ける被相続人名義の預貯金の払い戻しなどの場面において、登記を請求している人や、払い戻し請求者が遺産分割協議を経た正当な相続人であり、相続人全員の合意のもと権利を行使していることを証明する書類のひとつとして、通常は法務局や金融機関から遺産分割協議書の提示を求められます。
また、仮に遺産分割協議成立後であるのにも拘らず、相続人間遺産をめぐり争いが起きたり、後日に他の相続人と紛争が起きたとしても、遺産分割の内容について、他の相続人全員と正式に合意済みである旨の証拠として機能すること、あるいは紛争そのものを防止する機能が期待できます。
なお、相続人間での遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所における調停または審判により遺産分割割合などが定められた場合は、裁判所により調停調書または審判書が作成されます。
不明点があれば専門家に相談!
著作権を所有する家族がいた場合、いつかそれを相続する日がやってくるかもしれません。しかし、例えば芸術家だった場合、著作権を持つ作品について家族がどこまで理解し把握できるでしょうか。
また、著作権の管理や著作物の権利関係については、仕事を共にしていない限りは知りようもありません。
遺言書が残され、仕事関係の方や特別に思い入れのある方に著作権を遺贈すると記されている可能性もあります。
著作権のような少し特殊な財産を所有する方が亡くなった場合、著作権のようなものは目に見えませんので、相続財産を探し出すだけでも相当な時間がかかるでしょう。
しかし、相続税の申告・納付期限は10カ月と定められていますので、その間で著作権のような隠れた相続財産を探し出し、著作権の価値を割り出し相続税を計算する必要があります。
著作権をたくさん持つような方だった場合は、著作権を探すこと、権利関係確認すること、著作権の価値を割り出すことなど、手分けをしないと相続税の申告は間に合わないかもしれません。
被相続人の著作権について法的な権利関係を明らかにして、法を順守し、被相続人が築いてきた著作権を守っていくのであれば、著作権に詳しい弁護士に頼むといいでしょう。
登記手続きなどが関係してくるようであれば、司法書士に相談すれば、書類の申請まで面倒を見てくれるはずです。
著作権の相続税評価となる印税収入や著作権の相続税についてなど、税金関係で詳しく知りたいのであれば税理士に相談してみましょう。
まとめ
以上、著作権を中心に、特殊な財産の相続税評価方法についてご説明しました。
著作権は評価倍率を見積もることが難しく、採用する基準年利率や複利年金現価については著作権の専門家の意見を取り入れてなければならないこともあります。
つまり、恣意的に見積もるはできないということです。
したがって、もし著作権を相続することになった場合は、その評価方法や相談先のコーディネーターとして税理士に相談することをお勧めします。