2019年3月13日 水曜日
相続税がかかる場合は障害者控除を活用しましょう
相続税は「相続した遺産のすべてに対してかかる税金であり、誰しもが必ず平等に支払わなければならない」とお考えの人がいるかもしれません。
しかし、実際には相続人や遺産の状況に応じて、相続税の控除制度や、相続税評価額の減額制度が設けられています。
そして、これらの制度をうまく組み合わせることで、最終的な相続税の支払い額を減らすことを、「相続税の節税対策」といいます。
本コンテンツでは、相続税の基礎的な説明と、各種の相続税控除制度のなかから、主に障害者控除に焦点を当てて、その他の節税対策についても説明をしていきます。
目次
相続税の税率・課税対象財産
相続税とは、被相続人から相続または遺贈(※)によって遺産を取得した個人に対し、その取得した遺産の額に応じて課される税金です。(※遺言の指定により遺産を取得すること)
相続税の納税義務者は、被相続人が死亡し、相続が発生した日、もしくは相続が発生したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に税務署へ相続税を申告・納付する必要があります。
相続税率とは
平成31年3月時点の相続税率は、以下のとおりです。
相続財産評価額の合計を算出し、後述する相続税の基礎控除額や、配偶者控除額の範囲に収まらなかった相続税対象財産に対して以下の税率を乗じ、カッコ内の金額を控除して得られた額が相続税となります。
- 1,000万円以下:10パーセント(控除額なし)
- 3,000万円以下:15パーセント(50万円)
- 5,000万円以下:20パーセント(200万円)
- 1億円以下:30パーセント(700万円)
- 2億円以下:40パーセント(1,700万円)
- 3億円以下:45パーセント(2,700万円)
- 6億円以下:50パーセント(4,200万円)
- 6億円超:55パーセント(7,200万円)
相続の課税対象財産
そして、相続税の課税対象財産は以下のとおりです。
基本的に、被相続人が死亡時に所有していた財産価値・換価可能性がある財産については相続税の課税対象になると押さえておきましょう。
- 土地、借地権、地上権、家屋などの不動産
- 預貯金、有価証券などの金融資産
- 絵画、高級家具、立木などの家庭用財産
- 事業用、農業用の財産
- 生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産
- 相続時精算課税制度の適用により被相続人から贈与を受けた財産
- 被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産
- その他、ゴルフ会員権や債権など
なお、以下のように祭祀財産や葬儀に要した費用、あるいは相続せず寄付する財産については、相続税は課税されません。
- 墓地、墓石、仏具、仏像、仏壇などの祭祀財産(ただし、骨董品や投資対象の品は相続税の課税対象)
- 心身障害者救済制度に基づく給付金の受給権
- 相続税の申告期限までに、特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭
- 相続税の申告期限までに、国や地方公共団体、特定の公益法人などへ寄付した財産
- 公共事業を行う人が相続し、引き続き公益事業のために使用することが確実と認められる財産
障害者控除を活用した相続税の節税
障害者控除に必要な要件
障害者控除とは、相続人、相続人と同一生計の配偶者、または相続人の扶養親族が障害者である場合に、満85歳になるまで相続税額から一定額の控除を受けることができる制度です。
障害者控除における障害者とは、所得税法上の障害者を指します。
そして、所得税法では障害者を(一般の)障害者と特別障害者に区分しています。
国税庁による所得税法上の障害者の定義を、以下で見てみましょう。
(1)精神上の障害により事理を弁識する能力を常に欠く状態にある人(無条件で特別障害者)
(2)児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定の判定により知的障害者と判定された人(重度の知的障害者と認定された人は特別障害者)
(3) 2級または3級の「精神障害者保健福祉手帳」を交付されている人(障害等級1級であれば特別障害者)
(4)身体障害者手帳(3級から6級)に身体上の障害がある人と記載されている人(障害等級が1級または2級であれば特別障害者)
(5)精神または身体に障害がある満65歳以上の人で、障害の程度が上記(1)((2)または(4)に当てはまり、かつ市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている人(特別障害者として市町村等や福祉事務所の認定を受けている人は特別障害者)
(6)戦傷病者特別援護法の規定に基づき戦傷病者手帳の交付を受けている人(うち、障害の程度が恩給法に定める特別項症から第3項症までの人は特別障害者)
(7)原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定に基づき厚生労働大臣の認定を受けている人(無条件で特別障害者)
(8) その年の12月31日時点で、身体の障害により寝たきりの状態が6カ月以上続いており、複雑な介護を必要とする状態の人(無条件で特別障害者)
この他、障害者控除の適用を受けるためには所得税法上の障害者であることに加えて以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人の法定相続人であること
- 遺産の相続時に、日本国籍があり日本国内に居住していること
- 相続または遺贈(被相続人の遺言により遺産を受け取ること)であること
障害者控除による控除額
障害者控除の額は、(一般の)障害者であれば10万円、特別障害者であれば20万円と定められています。
障害者控除申請での注意点
もし、相続人が過去の相続で障害者控除を受けていた場合は、新たに受けることができる未成年者控除の金額などが制限される場合があります。
また、障害者控除はもし相続人の相続税額から差し引いても余った場合、余った分については相続人の扶養親族の相続税額から控除できるという点を忘れないようにしてください。
相続税障害者控除の計算方法とは
障害者控除は、相続税の申告時に適用を申請します。
具体的には、相続税申告書第6表を用いて計算のうえ、申請します。
先述のとおり、障害者控除を受ける要件のひとつは、対象者が相続開始時において満85歳未満であることです。
障害者控除は以下の算式で求められます。
- (一般の)障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×10万円
- 特別障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
年齢について1年に満たない期間は切り捨てて計算します。
たとえば、相続発生時に40歳6ヶ月だった場合は、6ヶ月を切り捨て、40歳として計算します。
他にも知っておきたい節税方法
相続税の節税方法は、様々なものがあります。
以下でその代表例をご紹介しましょう。
まずは基礎控除で節税
基礎控除は、相続が発生すれば法定相続人であることを前提に誰でも受けることができる控除制度です。
そして、相続税評価額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」未満であれば、相続税は発生しません。
ここでいう「法定相続人」とは、相続人になれる人の目安のひとつとして、民法第887条、第889条および第890条において規定されている相続人のことです。
これは、被相続人の配偶者(内縁関係や愛人関係を除く)・子(養子を含む)または孫・親・兄弟姉妹を指します。
基本的に、この法定相続人は誰でもなることができます(民法の欠格事項や廃除要件に該当する場合を除く)。
しかし、それだけのルールでは、相続人の地位や相続割合をめぐって争いが起き、収拾がつかなくなる事態も想定されます。
その事態を防ぐために、法定相続人という相続人の一定基準を定めているのです。
民法の規定において法定相続人と認められるのは、配偶者を除くと、血の繋がりがある直系の家族である「血族」です。
そのため、義理の親や、義理の兄弟姉妹などとよばれる血の繋がっていない親族たちは法定相続人に該当しません。
生前贈与で節税
自分の持っている財産を、生きている間に次の世代に贈与しておくことも有効な相続税対策のひとつです。
これを、生前贈与といいます。
相続税は、亡くなった時点における財産の額に比例して高くなることから、亡くなる前に自身の財産を相続人に贈与して、死亡時点での財産額から切り離すことにより、相続税を安くすることができるという仕組みです。
ただし、贈与を受けると、その人には贈与税が課税されます。
そのため、税金を支払うことには変わりなく、被相続人の生前に支払う贈与税と、相続発生後に支払う相続税では、支払う時期が異なるだけだと思われる方もいるかもしれません。
たしかに、そのように解釈をすることもできますが、生前贈与においては、先述した相続税の基礎控除や配偶者控除と異なる控除制度が設けられています。
なお、贈与税は相続税と比較すると、低い財産額から課税されます。
したがって、生前贈与を検討する際は、相続財産を単純に相続した場合に 納付すべき相続税の税率と贈与税の税率を慎重に比較してください。
そして、生前贈与による受贈者の贈与税負担が、相続発生時における相続税負担よりも少なくなるような配慮が必要です。
以下で、生前贈与の具体例を一部ご紹介しましょう。
暦年贈与
その年の1月1日から年末に受けた贈与の合計額が110万円に満たない場合は、贈与税は課税されないため、申告も不要です。
ただし、この特例が適用されるように、コンスタントに1年間に110万円ずつの贈与を、10年間続けた場合に、「最初から合計1,100万円贈与する意図があった」とみなされ、「連年贈与」として贈与税が課税されてしまうこともありますので、十分に注意して行うようにしてください。
住宅取得等資金の贈与税の非課税特例
直系尊属(親や祖父母など)から、子どもや孫のために、居住用家屋の建築、または購入の資金を贈与すると、契約日や住宅の種類などの条件に応じて、一定の贈与額に対し贈与税が非課税となる特例制度です。
この制度は、年間110万円以下の基礎控除が併用可能です。
配偶者贈与の特例
婚姻期間が20年以上など、一定の条件を満たす配偶者から、居住用不動産または居住用不動産を購入するために資金の贈与を受けると、贈与税の課税価格から最大2,000万円までの控除が適用される制度です。
この特例についても、年間110万円の基礎控除と併用することが可能です。
なお、居住用不動産取得にかかる登録免許税や、不動産取得税については課税されますので、この点にご注意ください。
不動産の購入も検討しましょう
いずれ相続の対象になる可能性が高い現預金などの金融資産を、生きているうちに不動産に変えておくことは、相続対策として非常に有用です。
自用の不動産には小規模宅地等の特例などが適用されますが、不動産で一層効果的な節税対策を図るためには、収益物件の購入をすることが特にお勧めです。
収益物件とは、賃料収入を得ることを目的に所有する一棟あるいは区分所有のマンションやアパート、商業ビルのことです。
手元にある現預金で収益物件を購入することで、安定的な賃料収入を得られることと建物の減価償却が損金に算入できることから、相続発生時の相続税納税資金の蓄積になります。
さらに、一般的に不動産の相続税評価額は時価(実際の取引価額)に比べて低く算出されます。
そのため、相続発生時に評価額減が採用されない現預金や、有価証券など金融資産を保有していた場合よりも相続税評価額が低くなるため、相続税額も安くなるのです。
収益物件の相続税評価額は、以下のように計算されます。
- 土地=路線価×補正率×(1-借地権割合×借家割合)
- 建物=固定資産税評価額×(1-借家割合)
この結果、土地の形状や所在地、建物の構造や築年数など不動産の個別性にもよりますが、三大都市圏の土地は、時価の30パーセントから40パーセント程度、建物は時価の60パーセント程度低くなることが一般的です。
ただし、収益物件を保持することには、賃料収入が想定以下になるリスク、経済環境や周辺環境の変化によって、収益物件の価値が落ちてしてしまうようなリスクがあることを忘れないようにしてください。
まとめ
以上、障害者控除を中心に、相続税の節税対策についてご紹介してきました。
この他にも、相続税の節税対策はさまざまなものがあります。
その対策方法の組み合わせは、相続の発生件数分だけあるといっても過言ではありません。
可能であれば、税理士のような専門家と相談しながら、最適な相続税対策を見つけて頂ければと思います。