2019年4月2日 火曜日
2019年から順次施行|相続税の改正でどう変わる?
民法には、人が死亡した場合の財産の継承について基本的なルールが定められています。
それらの相続に関する決まりが、相続法です。
人が亡くなった後、残された家族はこの相続法に基づいて故人の資産を分配します。
分配によって取得する財産に課せられるのが相続税です。
この記事では、2019年度から施行される相続税改正について主に配偶者居住権に重点を置きながら、実際にどのような影響があるのかを見ていきたいと思います。
目次
相続税改正の背景
相続税は、1980年に改正されて以降、大きな改正は行われず手つかずのままでした。
が、昨今の急速な少子高齢等の社会経済情勢の変化に対応するため、2018年7月におよそ40年ぶりに大きな見直しが行われました。
今回の相続税改正の主なポイントは以下の通りです。
|配偶者居住権が創設される
|自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンでも可能になる
|法務局で自筆証書による遺言書を保管することが可能になる
|被相続人の介護や看病に貢献した人は、法定相続人でなくても金銭要求が可能になるとい う特別寄与分制度の制定
|遺留分については、遺言状の中身がどうであれ、法律に基づいて保障されるようになる (遺留分とは、どの相続人にも認められた最低限の取り分)
|故人の金融資産の引き出しについて、一定限度額であれば金融機関から個人の預金を引き 出す事ができる仮払い制度が創設される
この改正案は2018年の通常国会に提出されて成立し、2019年から順次施行されます。
配偶者居住権を新設
2018年7月に成立した相続に関する民法の一部改正の中に、配偶者居住権の新設があります。
これは、残された配偶者の生活の安定を図る事を目的としています。
配偶者居住権とは、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利の事を言います。
居住権は、不動産所有権よりも評価額が低くなるため、故人の配偶者は住居以外の財産の取り分を増やせます。
これまでは、相続で配偶者が住居の所有権を取得したため、その他の財産取り分が少なくなり、生活が困窮するケースがあったため、これに対処するものとして新設されました。
新たに制定される配偶者居住権は配偶者の終身制度で、一生涯その権利が保障され、配偶者の死亡時に無効となるものです。
従って、二次相続(他記事参照)の対象額は減り、住居の売却や他の人への譲渡は原則できません。
配偶者の相続分は、居住権と敷地利用権を評価し、相続税申告の対象になります。
一方で、その価格は、建物・土地の相続人の取得財産額から控除できます。
増改築や第三者が使用をするには建物所有者の承諾が必須要件となります。
配偶者居住権の新設は、2020年4月1日から施行されます。
配偶者居住権が成立する場面
住居はあるけれども、他には大きな相続財産がないというケースでは、他の相続人に対する代償金を支払うための現金がないために、故人の配偶者が自宅を相続できず手放さなければならなくなり、結果、配偶者は転居をせざるを得ないという状況が発生することがありました。
また、故人の遺言により、自宅を配偶者以外の者に相続させるとの遺志がある場合、自宅を相続した相続人が配偶者に対し立ち退きを要求するといった場合もありました。
しかし、高齢者が長年住み慣れた自宅を離れ、新しい住居へ移ることは、精神的にも肉体的にも負担が大きく、こうした事態は極力生じないようにする必要があります。
配偶者居住権は、相続開始の時に居住していた配偶者に認められる権利です。
遺産分割、遺贈や死因贈与、家庭裁判所の決定のうちいずれかによって認められます。
しかし、配偶者が相続時に、居住建物に配偶者以外の者、例えば子供や兄弟等と共有していた場合には無効となります。
原則的に、配偶者居住権は、配偶者が生存している間が対象期間となります。
配偶者居住権の適用例
配偶者居住権の主な適用例は以下の3点です。
|被相続人の配偶者であること
|配偶者は、被相続人が所有していた建物に、被相続人の死亡時に居住していたこと
|遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判により取得したこと
但し、これは一次相続の場合のみ適用され、二次相続には、軽減措置がないため相続税がかかることが多くあります。
二次相続では、配偶者に適用される相続税を軽減する控除や土地評価額の特例が適用されないためです。
一次相続の金額決定に際しては、来るべき二次相続での相続税も考慮に入れておく必要があります。
配偶者居住権の詳細条件
2018年度相続税改正は、相続人と共同生活を営み、家事や介護に携わってきた被相続人の生活の安定を1つの目的としています。
被相続人の配偶者は、被相続人の財産とする住居に、相続前から居住していた場合に於いて配偶者居住権を取得します。
但し、以下の該当要件が必要です。
|相続に際して配偶者居住権を取得すること
|被相続人の遺言により無償で配偶者居住権が贈与されること
配偶者居住権の制度そのものは、残された配偶者に住居の使用を無償で認め、収益権限や処分権限のない権利を創設するものです。
それにより、遺産分割の際に、配偶者が建物の居住権を得るより低い算定価格で終身且つ無償の居住権を手にする事ができるようになります。
配偶者居住権の評価
遺産分割における建物の評価方法としては、固定資産税評価額が広範に適用されています。
相続税評価に於いては、家屋の評価はその家屋の固定資産税評価額と同額とされています。
ゆえに、配偶者居住権の対象となる居住建物についても同様に固定資産税評価額を基本とした評価を行う方法が考えられます。
配偶者居住権の評価方法の計算式は下記の通りです。
|建物敷地の現在価格-負担付所有権の価値=配偶者居住権の価値
上記の負担付所有権の価値とは、建物の耐用年数、築年数、法定利率等を換算し、配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定した上、これを現在価値に引き直して求めることができます。
この評価の具体例として一例を見てみましょう。
(例) 同い年の夫婦が35歳で自宅を新築しました。
妻が75歳の時に配偶者が死亡。
その時の土地建物の価値は4,200万円とします。
建物敷地の現在価格( 4,200万円) - 負担付所有権の価値(2,700万円)
= 配偶者居住権の価値(1,500万円)
この場合の2,700万円は、平均余命に基づいた終身までの算出額です。
このケースでは、配偶者居住権がなくなると、建物の価値はなくなるため、土地建物の総額4、200万円を法定利率年3%で15年分割り戻したものとなります。
したがって、配偶者居住権の価値は1,500万円となり、約35%に価値を圧縮することができ、相続税額が減少する結果となりました。
自宅の生前贈与は特別受益の対象外に
特別利益とは、相続人が生前贈与や遺贈などで被相続人から特別の利益を受けている時、その利益を特別利益と言います。
今回の改正で、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が配偶者に対して、その居住用建物・またはその敷地(居住用不動産)を遺贈・贈与する場合は特別受益の対象外になりました。
これには、居住権と共に、配偶者の生活を保護するという目的があります。
被相続人から居住用建物等をもらった場合に、遺産分割時にはカウントしないというものです。
配偶者は生前贈与により遺産の先渡しを受けたものと取り扱われます。
特別寄与料
改正相続法のうち、親族の特別寄与料請求制度は、高齢した社会を見据えた改正の1つです。
かつては、被相続人の子どもは親を介護や看病するのが一般的でしたが、核家族化や被相続人の高齢化により、相続人以外の人が介護・看病をするケースが多くなってきました。
それに対応する制度として新設されたものです。
現行の制度では、長男の嫁が、長男の父である義父の介護にいくら尽くしていたとしても、義父の死亡後、現行制度では、長男の嫁は相続人ではないため、相続財産の分配に加われません。
一方、被相続人が死亡した場合、他の相続人(長女や次男等)は父親の介護・看病に全く携わっていなかったとしても、相続財産を取得することができます。
相続法の改正では、相続開始後、介護の貢献度が高かった長男の嫁は、相続人に対して、特別寄与料として金銭の請求ができるようになります。
遺贈とみなして相続税が課される
相続と遺贈は、遺言者が死亡した場合に、特定の者が財産を取得することになるという意味では似ているのですが、大きな違いがあります。
人が亡くなると、その人が生前有していた財産上の権利・義務等は法定相続人に相続されます。
一方、遺贈とは、遺言書によって財産を無償で譲ることをいいます。
贈る相手には制限はありません。
親しい友人や特定のボランティア団体への寄付なども認められています。
遺贈により取得した財産は、遺言書によって受け継ぐので相続になります。
つまり、遺贈をしたら支払う税金は相続税です。
遺贈には、大きく分けて2種類があります。
与える割合を指定する包括遺贈と、与える財産を指定する特定遺贈です。
包括遺贈とは、与える財産の割合と相手を指定する遺贈です。
遺言作成時から時間が経ち、財産構成が変化しても対応しやすい一方、権利だけでなく義務も課すことになります。
自筆証書の遺書が作成しやすくなる
遺言書を作成するには、公正証書遺言、秘密証書遺言、自筆証書遺言の三つの方法があります。
この中で、自筆証書遺言については2019年度から制度が変更されます。
改正点は幾つかありますが、重要なのは以下の2点です。
・遺言書に添付する財産目録をパソコンで作成できる。
・作成した遺言書を法務局で保管する制度ができる。
2019年1月13日からは、遺言書に添付する財産目録をパソコンで作成できるようになります。
これまでは、財産目録は全文を手書きで書く必要がありました。
更には、自筆証書遺言については、保管方法が指定されていません。
そのため、相続の時点で見つからない、日付の違う複数の遺言書が出てくるなどの問題がありました。
相続人が自分に不利になる内容の遺言書を捨ててしまうこと、書き換えてしまうことも加納でした。
こうした事例を踏まえて、2020年7月10日からは法務局が自筆証書遺言を保管してくれる制度ができました。
これまでのように自宅等で保管するよりも紛失のリスクを回避した上で、ずっと確実に遺言書を残すことができるようになりました。
また、保管時には法務局が検認した上で保管するなど、遺言書の不備で内容が無効になりにくい制度に変わっていくでしょう。
故人の預貯金を引き出せるように
これまでの民法の下では、亡くなった方の葬儀費用や、残された家族の生活費など、緊急に必要となるお金については、遺産分割が終了するまでは、故人の金融口座から引き出しができないことになっていました。
今回の法改正により、遺産分割前の預貯金であっても、単独の相続人によって引き出しを認める制度が新設されます。
この制度は2019年7月12日までの間に施行されます。
実際に故人の預貯金を下す場合には、家庭裁判所に申立てをしなくても、一定の金額の範囲内であれば引き出すことができるとされています。
金額については、法令等できめられていますが、最低でも100万円を引き出せるように制度化されています。
今回の制度改正を契機に、相続の際に預貯金の引き出しを行う人は増加するものと考えられます。
遺留分のルールを見直し
遺留分とは、前述したように、遺言状の中身がどうであれ、各相続人の身分によって法定で認められる最低限の取り分の事です。
今回の改正のポイントは、以下の2つです。
・遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の請求ができるようになる。
・遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備できない場合は、裁判所に対し、支払い期限の猶予を求めることができる。
の2点です。
今までとは違い、遺留分減殺請求権の行使により、遺族と贈与を受けた人に財産の共有関係が生じることを回避することができます。
また、遺贈や贈与などの財産を相続人たちに相続したいという遺言者の遺志を尊重することができる、という2つのメリットを得ることが可能になります。
まとめ
2015年1月1日から相続税の課税ベースが改正され、これまで全体の約4%だった課税対象者が約6%にまで拡げられるようになりました。
特に都心部では、20%前後までの課税対象者の増加が見込まれています。
これに今回2018年の改正が加わります。
相続税の申告は、一生のうちでそう何度も経験するものではありません。
誰もが何も知らないところから、死後10カ月以内に煩雑な書類を完璧に用意しなければなりません。
相続税を支払うか否かにかかわらず、自分にはまだ関係ないと思っていても、その時は必ずやってきます。
申告に直面した場合、慌てず、親族との亀裂を避けるためにも、予め相続税の仕組みや改正点を知っておくことが大切になります。
そして、税理士や司法書士等専門家のアドバイスや助けを借りて、故人の死を悼みながらも完璧に処理を終えることを、心からお勧めします。