2019年1月24日 木曜日
相続時に住民税は相続税の課税対象になる?
「相続することになったけれど、住民税は相続税の課税対象として考慮されるのか、よくわからない」なんて、疑問に思ってはいないでしょうか。
相続を経験したことがなければ、何が課税対象なのかがわからず困ってしまう人が多いです。
課税対象の財産がわからなければ、相続税の金額を計算することもできません。
したがって、課税対象の財産にはどのようなものがあるのかを知っておくことが必要となるのです。
そこで今回は、住民税が相続税の課税対象として考慮されるのかどうかについて解説していきます。
相続税の課税対象を理解して、正しい相続税の金額を計算できるようになりましょう。
目次
相続税とは
相続税とは亡くなった方の遺産を相続した際に相続した人が国に払う税金のことです。
相続財産を残して亡くなった方を被相続人、被相続人の財産を受け継ぐ権利を持つ人を相続人と呼びます。
課税対象となるのは被相続人の親族だけではありません。遺言によって財産を受け継ぐ人にも相続税が課せられます。
なぜ相続するだけで税金がかかってしまうのでしょうか。
それは相続税に「所得税の補完機能」と「富の集中抑制機能」という2つの目的があるためです。
所得税の補完機能とは、被相続人が生前受けていた税制上の特典や負担軽減で蓄えた財産を相続開始の際に精算する機能のことをいいます。
そして富の集中抑制機能とは、被相続人の死亡によって相続人等が受け取る財産は偶然の富であり、その一部を相続税として徴収することで、相続した者とそうでない者の財産の均一化を図る機能をいいます。
これは相続で受け取った財産の額に応じて課税されるため、資産格差を是正し公平性を保つための仕組みとなっています。
では、相続した全ての人が相続税を支払わなければならないのでしょうか。
相続税には基礎控除があり、この基礎控除額を超えた場合のみ相続税を負担することになります。
基礎控除額は下記の計算方法で求められます。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の人数
法定相続人とは民法で定められた相続人で、配偶者と血族相続人を指します。
法定相続人の人数には制限がありますが、養子縁組も含まれ、人数を計算する場合には相続を放棄した人も含まれるので注意が必要です。
法定相続人には被相続人との関係性によって優先順位があり、順位ごとに法定相続分が決まります。
自分よりも優先順位が上位の人がいる場合は、相続できない場合もあります。
またすべての財産に相続税が課税されるわけではなく、相続税がかからない非課税財産というものもあります。
代表例となるものを下記にまとめました。
- ・仏壇や墓地などの祭祀財産
- ・生命保険金の非課税限度額内
500万円×法定相続人の人数
- ・死亡退職金の非課税限度額内
500万円×法定相続人の人数
- ・国や地方公共団体、特定の公益法人に寄付した財産
また、相続の際に被相続人に借入金や未払などの債務があった場合は、遺産の額から差し引くことができます。
これらは債務控除と呼ばれ、被相続人の不動産経営での預かり敷金や住民税、葬儀にかかる費用も妥当な範囲であれば債務控除の対象となります。
この控除できる住民税とは、被相続人が未払いのものを指します。
被相続人の死亡時期により住民税の額が確定していない場合もありますので、故人の住民税の額が確定した後に相続人が住民税を支払うこととなります。
つまり相続税の債務控除の対象となるのは、被相続人の住民税が未払となっている場合に相続人が支払う住民税の額のみです。
住民税については後ほど詳しくご説明します。
続いて、相続税の計算方法をご紹介します。
いったいいくら支払わなければいけないのでしょうか。
計算するにあたっては、まずは相続や遺贈により受け取る財産の合計を出す必要があります。
そして相続財産の合計から基礎控除を差し引いたものを課税遺産総額といいます。
このときに基礎控除額の方が相続財産よりも大きい場合は相続税の申告は必要ありません。
上記で説明した内容をまとめると、計算方法は下記の通りとなります。
この計算結果がプラスとなる場合は、相続税を支払う義務が発生します。
(下記の計算方法は国税庁HP引用) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm)
相続又は遺贈により取得した財産の価額+みなし相続等により取得した財産の価額-非課税財産の
価額+相続時精算精算課税に係る贈与財産の価額-債務及び葬式費用の額=純資産額
純資産額+相続開始前3年以内の贈与財産の価額=各人の課税価格(千円未満切捨て)
みなし相続財産とは生命保険金や死亡退職金のことで、被相続人の固有の財産ではなく被相続人が亡くなったことで相続人が取得する財産のことを指します。
また相続開始3年以内の贈与財産とは、相続人が被相続人から贈与を受けた財産があるとき、その財産が相続開始3年以内に(死亡日から遡って3年前の日から死亡日までの間に)行われた贈与である場合は相続税の課税対象とります。
住民税とは
住民税には、個人住民税と法人住民税の2つが存在しています。
ほとんどの人が関わっているのは、そのうちの個人住民税でしょう。
個人住民税は道府県民税と市町村民税から成り立ち、一般的に住民税と呼ばれているものは、これらの道府県民税と市町村民税を合わせたものです。
個人住民税は、その年の1月1日現在の住所地で、前年の1月から12月までの1年間の所得に対して課税がされます。
個人住民税の主なものには、所得割と均等割というものがあるので、2つの違いを理解しておかなければなりません。
所得割とは、所得に対して課税されるもので、税率は一律10%が原則です。
ただし、所得割は条例などで変更することができるようになっています。
そして、最終的な所得割は、所得に税率を掛け合わせた金額から、税額控除を差し引くことで算定するという方法です。
税額控除には、一定の配当所得が存在している場合に適用できる配当控除や、外国で所得が生じていてその外国で所得税などの税金が課せられているという場合に適用できる外国税額控除、地方自治体などに2,000円を超える寄附金を支払った場合に適用できる寄附金控除などのさまざまなものがあります。
次に、均等割とは、所得に関係なく、1月1日現在で住所を持つ個人に対して、その住所を有する都道府県及び市町村が均一に課しているもののことです。
事務所や家屋敷を持っているのであれば、同じ市町村内に住所がなかったとしても均等割が課税されることになってきます。
標準税率は、以前は道府県民税が1,000円で市町村民税は3,000円でした。
しかし、平成26年度に改正されて、10年間にわたって500円引き上げがなされているので注意が必要です。
所得割と均等割以外にも、支払いを受ける預貯金の利子に課される利子割や、支払いを受ける上場株式の配当に課される配当割、証券会社などに設けている源泉徴収を選択した特定口座内の上場株式などの譲渡益に課される株式等譲渡所得割が存在しています。
それぞれについて簡単に説明しておくと、利子割は、金融機関が利子を支払うときに5%分を特別徴収して都道府県に納めるというものです。
そして、配当割は、上場会社が配当などを支払うときに5%分を特別徴収して都道府県に納めます。
最後に株式等譲渡所得割は、株式の譲渡におい手に入れた所得の支払いを行う証券会社などが譲渡による所得などの額の5%分を特別徴収して、都道府県に納めるものです。
ちなみに、住民税には会社勤めで給料から天引きで支払っている人と、個人事業主などで自ら一括で支払うことになる人がいます。
住民税について考える際には、自分がどちらのパターンに当てはまるかを確認しておかなければなりません。
住民税は課税対象になる?
住民税は、相続税とは別の税金であるので、別で納める必要があります。
相続税の課税対象となるのは、亡くなった人の遺産です。
遺産とは、亡くなった人が死亡時に残してくれた財産のことを言います。
財産と言っても、現金だけではありません。
現金以外には、不動産、動産、債権、株などが考えられます。
ここで注意が必要なのは、このようなプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も引き継ぐことになるという点です。
マイナスの財産とは、たとえば、借金や保証債務、買掛金、預かり品の返還義務などが考えられます。
相続が起こったときに課税対象となるものが知りたい場合には、プラスの財産である資産とマイナスの財産である債務をリストアップした相続財産目録というものを作らなければなりません。
ただし、相続財産目録に含むことができない、相続できない財産も存在しています。
それは、一身専属権と使用貸借権です。
一身専属権とは、亡くなった人しか行うことのできない親権や扶養料請求権などのことを指しています。
一身専属となっている権利や義務は、亡くなった人の死亡したタイミングで消滅してしまうのです。
したがって、消滅しているので相続はできず、相続財産目録にもリストアップすることができません。
次に、使用貸借権とは、物を無料で貸借する権利のことを言います。
使用貸借権は、貸している人と借りている人の特別な契約関係で成立しているので、契約当事者のどちらかが亡くなってしまうと効力を失うのです。
しかし、例外もあります。
不動産の使用貸借については、相続を認めてもらえる可能性も出てくると考えられているのが実際のところです。
不動産の使用貸借を相続することになった場合には、専門家に契約関係などを確認してもらったほうが安心できます。
基本的に、一身専属権と使用貸借権以外の財産は相続財産となるので課税対象です。
住民税は財産ではなく税金なので、そういったものとは別として考えましょう。
個人事業主が住民税を納める予定だったのに、納付前に亡くなってしまうこともあると思います。
住民税は前年の所得に対して支払う税金ですので、亡くなった年の翌年は支払う必要はありません。
しかし前年の所得に対して、まだ支払いが済んでいない場合は、相続人が代わりに支払う必要があるのです。
ただし、相続税の申告をすることによって債務控除ができるので、損をしないためにも覚えておきましょう。
必要な手続き
ここからは、住民税について必要な手続きについて見ておきます。
前年に所得があったのであれば、市区町村に住民税の申告をしなければなりません。
ただし、税務署に所得税の確定申告書を提出しているという場合には、市区町村への申告は必要ありません。
会社員であれば、一般的に毎年だいたい5月のはじめ頃に住民税の税額通知書が市区町村から会社宛に送られてくるはずです。
会社はその送られてきた住民税の税額通知書で示されている税額を、6月から次の年の5月までの12回、毎月のその会社員の給与から天引きして市区町村に納付することになります。
このような方法で、会社が給与から天引きして市区町村に税金を納める方法が特別徴収です。
したがって、個人で住民税の申告をしなくても会社が行ってくれているので問題ありません。
自営業をしている場合や、住民税を給与から差し引かれていないという場合には、住民税の納税通知書と納付書が毎年だいたい6月のはじめ頃に市町村から家に送られてくるはずです。
住民税の納税通知書と納付書を見て、指定された税額を6月と8月、10月、次の年の1月の年4回に分けて納めることになります。
このような方法で郵送されてきた納税通知書と納付書をもとに個人で納税することを普通徴収と呼びます。
個人事業主が住民税を納める前に亡くなってしまったら、相続人が代わりに納めなければならないと前述しました。
その際、債務控除の手続きを行うことができます。
債務控除とは、マイナスの財産をプラスの財産から引くことです。
債務控除を行うには、相続税の申告書の第13表に債務についての明細を書けば良いので、もし故人が住民税を納める前に亡くなっているのであれば申請しましょう。
相続税控除をすることができる
なお相続税には、債務控除以外にも様々な控除の制度が存在しています。
例えば以下のものがあります。
- 贈与税額控除
- 配偶者の税額軽減
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
- 外国税額控除
これらの控除制度を利用することで、相続税額を軽減することができます。
それぞれについて、順番に確認していきましょう。
贈与税額控除とは、相続開始前3年以内に贈与された財産は相続税の課税価格に加算されるという制度のことです。
次に、配偶者の税額軽減とは、配偶者にのみ特別に控除が認められている制度です。
ただし、相続税の申告期限である10ヶ月以内に遺産分割が確定していることが要件とされています。
亡くなった人の配偶者にあたるのであれば、早めに遺産分割を行って控除の制度を利用するべきです。
ちなみに、この制度を利用できる配偶者とは戸籍上の配偶者のみなので覚えておいてください。
内縁関係でずっと夫婦のようにやってきたというときでも、利用することはできません。
未成年者控除とは、法律で定められた相続人が未成年者なのであれば、満20歳になるまでの年数に応じた控除が使える制度のことです。
1年間につき、10万円の控除をすることができます。
つまり、満20歳になるまでに4年間かかるのであれば、「10万円×4年間=40万円」という金額が控除できるのです。
ちなみに、年数に1年未満の端数があれば、1年に切り上げることができます。
未成年者が相続するのであれば、知っておいて損はない制度です。
障害者控除とは、法律で定められた相続人が障害者の場合は、85歳になるまでの年数に応じて障害者控除が適用されます。
1年につき10万円が最低でも控除されるので覚えておいてください。
たとえば、85歳になるまでの年数が8年間であれば、「10万円×8年間=80万円」という金額が最低でも控除されます。
相次相続控除とは、短い期間で立て続けに相続が発生した人の負担を軽減するために作られた制度です。
10年以内に2回以上の相続が起こったときには、最初の相続にかかった相続税の一部分を2回目に起こった相続税から控除することができます。
連続して相続が起こると、場合によっては相続税がたくさん課せられる可能性が出てくるので、注意が必要です。
外国税額控除制度とは、相続財産の中に外国の財産があったときに利用できる可能性のある制度です。
相続財産の中に外国の財産が含まれていると、相続した人が日本に住んでいれば、日本での相続税を納めるだけではなく、財産があった国でも税金が発生することがあります。
税金の二重課税が起こってしまうので、これは避けなければなりません。
このようなことになった場合には、外国で課せられた税金の金額を日本の相続税額から控除することができます。
以上が、相続税の控除制度でした。
住民税の債務控除以外にも、様々な控除で相続税の負担を減らすことができます。
さまざまな場合に使えるものなので、相続が発生したら利用できないかどうかを冷静に考えてみてください。
相続税は控除制度をうまく利用しなければ、必要以上に多く納めてしまう可能性があります。
相続税と一口にいっても、対象となるもの、控除できるもの・条件は様々です。
不安な際には税理士などの専門家を頼ってみましょう。
おすすめの節税対策
相続の際に支払う税金をなるべく少なくしたいと思う人は多いと思います。
相続では相続税以外に住民税や所得税といった税金も支払わなければならないケースもあります。
ここからは、身近なもので節税が見込めるものに絞っておすすめの節税対策をご紹介します。
不動産投資で所得税や住民税を節税できる
マンションなどの不動産を所有することによって発生した損失は、給与所得から差し引かれるため、同じ収入でも所得税や住民税を軽減することができます。
また、これらを相続した場合は翌年から確定申告することで所得税が還付されたり、住民税を軽減することができます。
ふるさと納税で住民税、所得税、相続税を節税できる
自分で選んだ都道府県や市町村などの自治体に寄付をすると、寄付した額から2,000円差し引いた金額が所得税と住民税から控除されます。
相続財産を国や地方公共団体に寄付した場合、その金額は非課税となります。ふるさと納税はこれに該当するため、住民税や所得税の控除と併せて相続税が節税できます。
保険控除の活用で住民税と所得税を節税できる
生命保険や介護保険料を支払っている場合、支払額に応じて控除を受けることができます。控除を受けることで課税所得が小さくなり住民税や所得税の支払いを減らすことができます。
確定拠出年金で所得税や住民税が節税できる
老後の資産形成ができる制度で、企業型と個人型があります。
掛金が全額所得控除となるため、所得税や住民税の負担が軽減されます。
保険金の受取人で節税できる
被相続人が生命保険に加入していた場合、満期保険と解約返戻金を一時金として受け取ることができます。
保険の契約者と被保険者、受取人が誰かによってかかる税金の種類(相続税・所得税+住民税、贈与税)が異なります。
保険の契約者と被保険者が同一の場合は相続税の対象となります。
相続税には非課税枠があるため、大きな節税効果があります。
保険料負担者と受け取る人が同一の場合は、所得税と住民税の対象となり、これを一時所得といいます。
一時所得の場合の課税金額は(一時所得の金額-経費-特別控除額)×1/2となり、特別控除額は最大50万円です。
契約者と被保険者、受取人が全てが異なる場合は、贈与税の対象となります。
多くの場合でもっとも節税が見込めるのは、非課税枠のある相続税です。
この他にも多くの節税対策がありますが、住民税や所得税は身近なものですので、今から節税を考えている方には取り組みやすいと思います。
資産運用や控除をうまく利用して、普段から住民税や所得税を節税しておくと相続の際にも役に立ちます。
相続の際の税金は相続税だけに注目されがちですが、所得税や住民税も小さな積み重ねで大きな節税効果を見込めますので、自分自身に合った節税対策を行いましょう。
相談する専門家の選び方
相続はその計算方法や手続きなどが複雑であることから専門家に依頼する方が多くいます。
主な依頼先は、弁護士・行政書士・司法書士・税理士・社会保険労務士などです。
ただ、税金に関することは税理士、遺産分割の協議については弁護士といったように、それぞれ専門としている分野が違いますので、ご自身がどの悩みを抱えているかによって依頼先を検討しましょう。
相談先を間違えてしまうと、専門家でないために無駄な費用がかかったり、トラブルの原因となります。
- ・自宅や職場から近い場所を選ぶ
- ・資格を持った人が代理で手続を行ってくれるのか確認する
- ・何社か見積を取る
- ・自分の相談内容と相談先がリンクしているかどうか確認する
- ・他の専門家と連携している、または様々な専門家が在籍している事務所を選ぶ
上記を踏まえて相談する専門家を選ぶことをおすすめします。
弁護士事務所には司法書士や税理士と連携している、または様々な専門家が在籍しているところもありますので、どこに相談したらよいのかわからない場合は、一度相談してみるとよいでしょう。
まとめ
相続税の課税対象となるのは、亡くなった人の遺産だとされています。
プラスの遺産だけではなく、マイナスの遺産も相続することになるので注意しなければなりません。
そして場合によっては未払いの住民税も相続の対象になります。
しかし、債務控除ができるので、必ず制度をしっかりチェックしておきましょう。
相続についてはさまざまな控除制度が存在しているので、損をしないためにも一度ご相談いただければと思います。