2019年1月27日 日曜日
遺産相続で損をしないためにも、知っておきたい控除の仕組み
遺産を相続する際には、その遺産額が基礎控除額を超えた分に関して相続税を支払う義務があります。
課税される相続税は基礎控除額を超える遺産の価額により決定しますので、相続で損をしないためにも、相続税に関する控除の仕組みについて理解する必要があります。
今回は、相続税に関する控除の仕組みについて分かりやすく説明していきます。
目次
相続税の控除とは
相続税には控除があります。
相続税の控除について理解するためには、相続税を支払う必要があるケースを理解しておく必要があります。
相続税は相続を受けた人であれば誰でも支払う義務のあるものではありません。
相続税は一定以上の金額を相続した際に支払う義務があるものになります。
この一定額以上というのが、基礎控除額に当たります。
基礎控除額は一律に定められているものではなく、法定相続人の数によって変動します。
相続税の基礎控除額 |
3000万円+(600万円×法定相続人) |
この基礎控除額を超える相続を受けた場合に限り、相続税を支払う義務が生じます。
例えば法定相続人が1人の場合では、どうなるのか見ていきましょう。
法定相続人の人数が1人ですので計算式は次のようになります。
3000万円+(600万円×1)=3600万円
法定相続人が1人の場合は、基礎控除額が3600万円になります。
そのため相続する遺産額が3600万円を下回る場合には、相続税は発生しません。
しかし、3600万円を上回る場合には、相続税の申告と納税の義務が発生します。
では、相続する遺産額が4500万円で、法定相続人が2人の場合と3人の場合をそれぞれ見ていきましょう。
- 法定相続人が2人の場合
3000万円+(600万円×2)=4200万円
4500万円-4200万円=300万円
相続する遺産額が4500万円で法定相続人が2人の場合、基礎控除額は4200万円ですので300万円上回ることになります。
一定額以上の遺産を相続することになり、この300万円に対し相続税が課税されます。
そのため相続税の申告と納税の義務が発生します。
- 法定相続人が3人の場合
3000万円+(600万円×3)=4800万円
4500万円-4800万円=-300万円
相続する遺産額が4500万円で法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4800万円ですので300万円下回ることになります。
この場合は一定額以上の遺産を相続していないことになり、相続税は発生しません。
相続税は相続する遺産額だけで決定されるものではありません。
法定相続人の数により変動する基礎控除額が大切な要素となるのです。
そのため遺産を相続した場合には、遺産額と基礎控除額をそれぞれ計算し、相続税を支払う必要があるのかどうかを確認する必要があります。
相続税において、控除の仕組みを理解することが大切だと言われるのはこのためです。
基礎控除と税額控除
相続税の控除は、基礎控除と税額控除と呼ばれるものに分けられます。
基礎控除と税額控除は、同じ控除と呼ばれるものではあるものの、性質は大きく異なります
基礎控除
相続税は相続を受けた者全員が支払う義務があるものではありません。
前述したとおり、基礎控除額を上回る相続を受けた場合にのみ、相続税を支払う義務が生じるのです。
税額控除
相続税の基礎控除の計算は相続を受けてすぐに行えます。
基礎控除の計算により、相続税が発生するかどうか分かる仕組みになっているためです。
税額控除の場合は、相続税を支払う必要があると分かった後で行うものです。
相続税額から差し引くことの出来るもののことで、支払うべき相続税額を抑えることができます。
相続税は誰が支払うべきものであるかご存知でしょうか。
相続税は法定相続人の代表が納めるものと思っている方も多くいますが、相続税は相続を受けた各人に納税の義務があるものです。
税額控除は各人が行うことの出来る控除のことで、各人が支払う義務のある相続税額から税額控除を行うことになります。
基礎控除額分を差し引いた、残りの相続額に掛かる税額を相続税額と言います。
この相続税額を法定相続人で分配し、それぞれが相続税を支払う必要があります。
税額控除は、法定相続人の中で控除が当てはまる方がいた場合に、納付税額から控除を受けることができるようになっています。
税額控除を行う際に注意して欲しいことは2点あります。
1点目は、基礎控除額と一緒に税額控除を引いてしまわないことです。
基礎控除と税額控除は同じ控除という名前のため、相続する遺産額から基礎控除と税額控除を一緒に引いてしまう間違った方法で計算してしまう方がいます。
このような間違った計算を行うことで本来は相続税の支払い義務があるのにも関わらず、申告また納税を行わず、税務署からペナルティを受けてしまうことがありますので注意しましょう。
税額控除は各法定相続人の納付税額から引くということを頭に入れておきましょう。
そしてもう1点注意して欲しいのは、税額控除は各相続人の納付額から引くため、相続人によって控除の有無が異なるということです。
税額控除は相続税額全体における控除ではありません。
各相続人の納付額から引くことできるものですので、法定相続人が3人いた場合でも税額控除が適用される方が1人であれば、その方の分だけ納税額が低くなるということになり他2名の納付税額に変動はありません。
相続税に関する計算には3段階あると知ることで、基礎控除と税額控除を混同しにくくなり、計算の間違いを起こしにくくなります。
【税額控除の種類一覧】
- 贈与税額控除
贈与税額控除とは、相続開始3年以内に贈与を受けた財産は相続税の対象になりますが、贈与税を支払っていた場合、支払った贈与税を相続税から引くというものです。
3年以内に被相続人からの贈与により贈与税を支払ったことがある方が対象です。
相続税-3年以内に贈与を受けた際の贈与税=納付税額
- 配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減は、配偶者が対象の控除になります。
配偶者は相続した財産のうち法定相続分または1億6000万円までは税額が軽減されます。
つまり法定相続分または1億6000万円以下の相続の場合には、課税されません。
法定相続分とは配偶者の場合は、全財産の2分の1のことです。
例えば、全財産が5億円の場合では、法定相続分は2億5000万円になります。
これは1億6000万円よりも大きな額ですが、法定相続分は課税されない決まりですので、全財産が5億円の場合では2億5000万円の相続をした場合でも相続税の課税対象にはなりません。
相続税-法定相続分または1億6000万円=納付税額
- 未成年者控除
法定相続人が未成年者の場合には、未成年者控除を受けられます。
1年間10万円の控除として考え、法定相続人である未成年が成人になるまでの期間により計算し控除額が決定します。
1年未満は切り捨てで考えていきますので、10歳と1か月でも10歳と11か月でもどちらも10歳として計算します。
四捨五入して計算し、控除額の計算に誤りがある場合がありますので、注意するようにしましょう。
未成年者控除計算式 |
(20歳-相続を受けた際の年齢)×10万円=未成年者控除額 |
相続を受けた際の年齢が10歳の場合で実際に計算してみましょう。
(20歳-10歳)×10万円=100万円
相続を受けた際の年齢が10歳の場合は100万円の未成年者控除を受けることができます。
相続税-(20歳-相続を受けた際の年齢)×10万円=納付税額
- 障害者控除
法定相続人が障害者の場合には障害者控除を受けられます。
障害の程度が一般障害者に該当する場合には1年間10万円の控除として、特別障害者に該当する場合には1年間20万円の控除として考え、85歳になるまでの期間を計算し控除額が決定します。
1年未満は切り捨てで考えていきますので55歳1か月の場合も50歳11か月の場合も50歳として計算します。
障害者控除計算式 |
(85歳-相続を受けた際の年齢)×10万円=障害者控除額 |
※特別障害者の場合は20万円で計算します。
一般障害者に該当する方が相続を受けた際の年齢が55歳の場合で実際に計算してみましょう。
(85歳-55歳)×10万円=300万円
一般障害者に該当する方が相続を受けた際の年齢が55歳の場合は、300万円の障害者控除を受けることができます。
相続税-(85歳-相続を受けた際の年齢)×10=納付税額
- 相次相続控除
この控除は10年間の間に2回以上の相続があった場合に適用されます。短い期間の間で相続が繰り返されると、同じ財産に相続税を支払う必要が出てきてしまいます。
そのため相続税の負担が大きくなってしまいますので、これを軽減するために作られた控除になります。
相次相続控除の計算式は次の通りです。
相次相続控除計算式 |
A×C/(B÷A)×D/C×(10-E)/10=相次相続控除額 |
A=相続人が前回の相続で支払った相続税額
B=相続人が前回の相続で受け取った純資産額 C=今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与により財産を取得したすべての人の純資産価額 D=今回の相続人の純資産額 E=前回の相続から今回の相続までの期間(1年未満切り捨て) |
5年前に1000万円相続し100万円の相続税を支払い、今回2000万円の相続を受けた場合で計算してみましょう。
100万円×2000万円/(1000万円÷100万円)×2000万円/2000万円×(10-5)=250万円
この場合では250万円の控除を受けることができます。
相続税-A×C/(B÷A)×D/C×(10-E)/10=納付税額
- 外国税額控除
外国の財産を相続し、外国の相続税が課税された場合に適用されます。
日本と外国とで二重に税を支払うことにならないように設けられたものになります。
外国税額控除計算式 |
相続税額-外国で支払った相続税に値する税の納付額 |
相続税-外国で支払った相続税に値する税の納付額=納税額
- 相続時精算課税制度贈与税額の控除
相続時精算課税制度を利用していた方が適用されます。
相続時精算課税制度とは、生前相続を行った際に贈与税ではなく、相続税を支払うという制度のことです。
相続時精算課税制度を利用する際に申請した相続時精算課税選択届出書に基づいて控除額が決定しますので、届出書を確認するようにしましょう。
控除額を増やすことで節税になる
相続税の控除額を増やすことにより、相続税の節税を行うことができます。
相続税の節税を行うための方法にはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
生前贈与を活用
生前贈与とは、負債以外の財産を贈与することができるもので、相続税を支払う必要がなくなるものです。
生前贈与は生前贈与という項目のある贈与ではなく、相続税を節税する目的、または相続時にトラブルを予防する目的として行われる贈与のことを指しているものです。
しかし、相続税は掛かりませんが贈与税は必要になります。
そのためただ単に財産を手放せば良いというものではなく、計画をもって生前贈与を考える必要があります。
贈与税は1年間に110万円を超えるものに対して必要になります。
つまり、1年間に110万円未満の贈与を行うことで贈与税も不要となるわけです。
毎年109万円の贈与を10年間を行ったとすれば1090万円を贈与税なしに贈与することが出来るようになりますから、節税効果が期待できます。
財産の評価額を下げる
相続税は相続する財産評価額によって課税される利率が変動するものです。
そのため、財産の評価額を下げるというのは相続税の節税対策になります。
現金の評価額を下げることは出来ませんが、不動産の評価額であれば下げることができます。
そのため現金ではなく不動産を購入してしまうのも財産の評価額を下げる一つの方法です。
それ以外では、不動産の価値をしっかりと計算し直すという方法もあります。
不動産の価値は土地の評価額も影響します。
土地の評価額は路線価を用いて計算されることが一般的ですが、現地調査によりより詳細に評価することができます。
現地調査による詳細な評価により、土地の評価額が下がれば、それは財産の評価額を下げることを意味するのです。
優遇制度を利用する
優遇制度には色々種類がありますが相続税対策の優遇制度と言えば、住居用住宅に関する優遇制度が挙げられます。
住居用住宅には小規模宅地等の特例があります。
この特例を利用することにより、特定居住用宅地等の評価額を減額することができます。
330㎡までの土地を80%減額することが出来る仕組みで、仮に小規模宅地等の特例に該当する土地の評価額が1000万円の場合は、800万円減額されますので200万円の評価額として計算することができます。
ただし、この特例は生前贈与で土地を贈与した場合など適用されないケースも多いですので、慎重に考える必要があります。
被相続人が生前にできる相続税の節税対策
遺産の相続にあたり被相続人が生前にできる節税対策として、生命保険を利用した様々な控除の活用や会社の設立による相続以外の方法として、遺産の移転や養子縁組を利用した控除枠の拡大などが挙げられます。
節税対策としての控除について、順に見ていきましょう。
生命保険を利用する
死亡保険金という形で遺産を相続させれば、様々な控除による節税が可能です。
生命保険の死亡保険金は「残された家族の生活保障」という目的で支払われるので、「500万円×法定相続人の人数」といった非課税枠が設けられています。
例えば、死亡保険金の受取人が妻で、法定相続人が3人いる場合、「500万円×3人=1,500万円」が非課税となり、この金額が妻の受け取る死亡保険金から控除されます。
死亡保険金から被相続人の債務を支払えば債務控除を受けることができますし、相続人が負担した葬式費用も遺産の総額から控除することができるでしょう。
また、配偶者が遺産の相続人である場合、1億6,000万円までが実質非課税となる配偶者控除が利用できるので、死亡保険金の受取人が配偶者なら非課税枠内の保険金を控除の対象とすることができるのです。
さらに、死亡保険金は相続税の基礎控除対象にも含まれるみなし相続財産なので、配偶者控除や死亡保険金の非課税枠を組み合わせることで控除額を増やすことが可能です。
ただし、被保険者である被相続人が死亡する前に解約して支払われた解約返戻金も、遺産として相続税の対象となります。
この場合には死亡保険金にはならず、控除対象とならないので注意しましょう。
会社を設立する
個人事業主の場合、たとえ事業用の財産だったとしても個人の遺産とみなされ相続税の課税対象となりますが、個人で行っている事業を法人化し、個人の財産を会社のものとすることで個人の資産を分散させ、様々な控除を受けながら効率的に遺産を引き継ぐことができます。
被相続人以外の家族を社員とし、役員報酬や給与という形で遺産を分配していけば、正当な業務を行っている限りで贈与にあたらず贈与税を支払う必要がありません。
給与として支払うことで所得税の課税対象にはなりますが、給与所得控除が適用されます。
単純に生前贈与で遺産を分配していくよりも給与所得控除分だけ非課税にし遺産を贈与することで、生前贈与と同じ効果が得られるのです。
さらに、法人であれば遺産を退職金という形で支払うことも可能です。
退職所得には「退職所得控除」という税控除が設けられており、所得税の中でも優遇されているので、遺産を退職金として相続人に支払い、退職所得控除を利用することでさらなる節税になります。
そして土地や建物などの不動産と比べて、会社の株式の方が評価額を調整しやすいというのも会社設立のメリットのひとつです。
会社の財産は株式の評価額で決まりますが、その評価額は会社の財務状況が良ければ高くなり、相続税も高くなります。
そこで、退職金の支払いや通信費、交通費など事業に関する経費を計上することで株式の評価額を下げることができれば、遺産の評価額を下げることにつながり、相続税も安く抑えられるのです。
ただし、会社を設立するには設立費用や法人税などの費用が発生するほか、経理等の事務手続きを行う必要があったり、事業を廃止する場合に清算の手続きが必要になったりするなどのデメリットもありますので、考慮が必要です。
会社を設立し、税控除をうまく活用しながら給与や退職金として遺産を次世代に残していく方法は、相続税だけでなく、贈与税の節約にもつながる有効な節税方法であると言えるでしょう。
養子縁組を利用する
養子縁組を行うことのメリットは、遺産を相続する法定相続人の数を増やすことができ、その分控除を受けられる枠を広げられるという点にあります。
相続税の基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)です。
つまり、法定相続人の数が増えればそれに伴って600万円ずつ基礎控除額が増えることになるのです。
遺産の総額が基礎控除額内に収まっていれば、相続税の支払い義務は発生しませんので、養子縁組を利用して控除額を増やすことは節税につながります。
また、死亡退職金や死亡保険金の非課税限度額も法定相続人1人につき500万円ずつ加算されます。
例えば、法定相続人が3人いる場合、死亡退職金および死亡保険金の非課税限度額は「500万円×3人=1,500万円」となります。
死亡退職金や死亡保険金の金額がこの非課税枠内であれば相続税は課税されませんので、さらなる節税ができるのです。
さらに、相続税は累進課税であるため、法定相続人の数が増え相続人1人当たりが相続する遺産が減ることで、税率が引き下げられる可能性もあります。
生前に養子縁組を行って相続人の数を増やしておけば、受けられる控除の枠も増え、効率的に遺産を相続させることができますので、有効な節税対策として検討してみると良いでしょう。
相続税控除の注意点
ここまで相続税の控除を受ける手段についてご紹介してきましたが、相続税控除には注意点もあります。
相続税の基礎控除額を計算する際に重要なのが法定相続人の数です。
法定相続人の中に相続を放棄した人がいたとしても、法定相続人の数に含めて計算する必要があります。
法定相続人が3人いて、そのうちの1人が相続放棄をしたとすると、実際に遺産を相続するのは2人ですが、法定相続人は変わらず3人として計算するため、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。
また、遺言書により法定相続人以外が遺産を相続する場合、相続税の基礎控除額を計算する際の法定相続人の人数には含めないので注意する必要があります。
次に、養子縁組を行う場合、控除額を増やすためとはいえ無制限に養子縁組を行ってよいというわけではありません。
相続税法上、被相続人に実子がいる場合、養子の数は1人まで、実子がいない場合は2人までと養子の人数には上限が定められています。
この上限を超えて養子縁組を行ったとしても法定相続人の数に含めることはできず、基礎控除額をはじめとする様々な控除の枠を増やすこともできませんので注意しましょう。
詳しく知りたい方は相談窓口へ
相続税の節税は専門的知識を要することも多いです。
それぞれ計算方法はそれほど複雑なものではありませんので、個人で節税対策ができないわけではありません。
しかし、控除や特例は併用することが出来ないものもありますので、どのように対策を行うことが最も節税対策に効果的であるかどうかなどを知りたい場合には、専門家に相談することがおすすめです。
相続税に関する節税対策をしっかり行いたいと考えている方は、ぜひ相談窓口を利用してみましょう。