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【相続税 】
相続税について説明しています。相続税は相続する人物、相続の対象、評価額などによって納税の有無や納税額が異なります。また相続税を抑えるための対策もあります。相続税についての知識を得て、しっかり相続税対策を行いましょう。

2019年5月31日 金曜日

退職金を受け取る前に亡くなった場合、相続税の対象になる?

退職金を受け取る前に亡くなった場合、相続税の対象になる?

死亡退職金といい、亡くなった方が本来受け取るはずだった退職金を遺族が変わりに受け取ることがあります。この死亡退職金は故人が直接保有していた資産ではありませんが、銀行の預金や不動産と同じように遺産の相続として認められるのでしょうか。

本稿では被相続人が退職金を受け取る前に亡くなった際に発生する死亡退職金について、相続税の課税対象になる条件、非課税枠の範囲を解説します。

 

退職する前に死亡した際に支払われる死亡退職金とは

死亡退職金は、亡くなった人が受け取るはずだった退職金を、故人の代わりに遺族に支払う制度です。会社によっては、「死亡手当金」、「功労金」と呼ばれます。

退職金は企業の退職時にもらえるお金です。法律で定められているものではなく、企業の就業規則によって支給される会社と支給のない会社にわかれています。制度に関しても、退職時にまとめて退職金が支払われる退職一時金制度と、一定の金額を年金として支給する企業年金制度などがあり、会社によって異なります。日本の企業は、一定の年数以上勤続した従業員に対して退職時に退職金を支払うことが多くあります。通常は年齢が定年に達した時に退職になり、その際に退職金が支払われます。勤めている会社の退職金が気になる方は、就業規則の中にある退職金規定を確認してみましょう。

退職金と同様に、死亡退職金についても、会社によって制度の有無がわかれます。退職金給付制度の中で、従業員が死亡した場合に、死亡退職金を遺族に支給する旨が定められていれば、死亡退職金は支払われます。

退職金も死亡退職金も支給額は会社次第です。規模が小さい会社、お金に余裕がない会社であれば、退職金制度を設けていない会社も多くあります。一般的には、対象となる人の勤務年数、役職に応じて変動します。

学校卒業後にすぐに入社し定年まで勤めあげた場合の平均的な退職金の額は、大学卒2374.2万円 高校卒2047.7万円とされています。(参照:2016年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果、日本経済団体連合会)従業員数が少ない場合はその分、額も小さくなる傾向にあります。

遺族が死亡退職金を受け取る際には、故人の勤めていた会社に対して、死亡退職届を提出します。その後、人事は亡くなった社員の厚生年金処理、遺族補償年金の処理などを行います。死亡退職届を提出した後は、担当人事から社員証などの書類の返却を求められます。指示に従って返却しましょう。

 

死亡退職金は、遺産分割となる一般的な財産とは分配の仕方が異なります。遺産分割の対象となる財産には、

現金、預貯金、土地、家屋、借地権・借家権、株式、債券、投資信託、金銭債権、損害賠償請求権、自動車、貴金属、骨董品、美術品、ゴルフ会員権、家財道具、特許権、著作権

などが挙げられます。以下のようなマイナスとなる財産もあります。

借金、買金掛、住宅ローン、未払月賦、未払税金、未払家賃、葬式費用、未払医療費、保証債務

 

死亡退職金については相続財産の決まりとは若干異なり、遺産分割の対象とはならない財産にあたります。勤務先の企業の退職金規程に基づいて、被相続人が事前に受取人を指定していた場合は、その死亡退職金は受取人の固有財産となります。被相続人が直接受取人を指定していない場合でも、企業の退職金規程等において受取人が指定されているケースもあります。その場合も死亡退職金は受取人固有の財産となります。

被相続人からの直接の受取人の指定、退職金規程等の規定がない場合は相続人の全員がそれぞれの相続分に応じて、死亡退職金を分割するケースが一般的です。そのため、死亡退職金は原則として、遺産分割の対象とは異なり、受取人固有の権利であると考えられています。

そもそも相続財産ではないので、相続を放棄した相続人であったとしても死亡退職金だけを受け取ることができます。

遺産分割協議書への記載はどのように対処すればよいでしょうか。
死亡退職金は遺産分割の対象とはならないため、遺産分割協議書への記載も必要ありません

死亡退職金の以外にも、故人が勤めていた会社から遺族が受け取るお金に弔慰金があります。弔慰金は、会社が遺族に慰めの意を表すために贈られるお金です。葬儀の際に参列者から遺族が受け取る香典とは異なります。業務上の事故等で死亡した場合は高額な弔慰金が支払われる傾向にあります。

 

死亡退職金は相続税の対象?

死亡退職金は相続税の対象になります。死亡退職金は被相続人の死亡によって受けとったものであり、「みなし相続財産」の対象です。「みなし相続財産」は被相続人が死亡した際に所有していた財産ではなく、その人の死亡によって発生した財産を指します。生命保険も「みなし相続財産」の対象です。

死亡退職金は被相続人の死亡後3年以内に、支給金額が確定しているかが、課税の基準になります。また、死亡退職金は金銭だけでなく、現物支給された物も含まれます。

退職時には被相続人は生きていたものの、支給時に亡くなっている場合も考えられます。このような場合でもその支給金額が被相続人の死亡後3年以内に確定していれば、相続税の課税対象です。

死亡退職金とは異なり、弔慰金では相続税の課税を行いません。ただし、弔慰金があまりにも高額な場合は、一部の金額が相続税の課税対象になることもあります。

具体的には、故人が業務上の死亡であった場合で、死亡時の普通給与(給料、俸給、賃金、扶養手当、その他手当など)の3年分が限度

業務上の死亡ではなかった場合で、死亡時の普通給与の半年分が限度になります。

 

死亡退職金の非課税枠とは?

死亡退職金には非課税枠があります。死亡退職金を受け取った全ての人が支払をする訳ではありません。また、死亡退職金を受け取っても全ての金額が課税対象になるわけではありません。

非課税限度額は、法定相続人の数によって決定します。法定相続人の数が多いほど、非課税限度額もあがっていきます。具体的には以下の計算式によって算出されます。

非課税限度額=500万円×法定相続人の数

法定相続人が1人なら500万円が非課税限度額、2人なら1,000万円が非課税限度額です。ちなみに相続の放棄をした人がいた場合でも、法定相続人の数に含めます。また、故人に養子がいる場合は、カウントしていい人数に限りがあります。故人に養子とは別に実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までを限度に法定相続人の数に含めて計算します。

仮に3人の法定相続人が2,500万円の死亡退職金を受け取ったとしましょう。その場合は、非課税限度額は、500万円×3人であるため、1,500万円になります。死亡退職金の2,500万円と、非課税限度額の1,500万円の差額が相続税の課税対象となります。もちろん死亡退職金の合計が非課税限度額内に収まる際は、課税の対象にはなりません。

具体的な死亡退職金の相続税の金額の計算式をみていきましょう。死亡退職手当金に相続税が課税される場合は以下の式によって金額が算出されます。

死亡退職金の課税金額=「相続人が受取った死亡退職金」-「非課税限度額」×(「相続人が受取った死亡退職金÷全ての相続人が受け取った死亡退職金の合計」)

上記の計算式を元に具体的なケースを考えてみましょう。

 

ケース①

被相続人の死亡後、相続人は被相続人が勤めていた会社から3,000万円の死亡退職金を受け取りました。相続人は被相続人の配偶者、長男、長女の3名です。死亡退職金の受け取り金額は配偶者が、1,500万円、長男、長女がそれぞれ750万円でした。

 

配偶者の課税金額

1,500万円(相続人が受取った死亡退職金)–1,500万円(非課税限度額)×(1,500万円(相続人が受取った死亡退職金)÷3,000万円(全ての相続人が受け取った死亡退職金の合計))=750万円

非課税限度額は相続人が3人のため、1,500万円(500万円×3人)となります。「配偶者が受取った死亡退職金」を「全ての相続人が受け取った死亡退職金の合計」で割ると、2分の1になります。そのため、配偶者の非課税限度額は750万円(1,500万円×2分の1)となります。配偶者が受取った死亡退職金から配偶者の非課税限度額750万円をひけば、課税金額は750万円であることがわかります。

 

長男、長女の課税金額

750万円(相続人が受取った死亡退職金)–1,500万円(非課税限度額)×(750万円(相続人が受取った死亡退職金)÷3,000万円(全ての相続人が受け取った死亡退職金の合計))=375万円

配偶者と同様に非課税限度額は相続人が3人のため、1,500万円(500万円×3人)となります。「長男、長女のそれぞれが受取った死亡退職金」を「全ての相続人が受け取った死亡退職金の合計」で割ると、4分の1になります。そのため、長男、長女の非課税限度額は375万円(1,500万円×4分の1)となります。

 

ケース②

被相続人の死亡後、相続人は被相続人が勤めていた会社から1,000万円の死亡退職金を受け取りました。相続人は被相続人の配偶者、長男の2名です。死亡退職金の受け取り金額は配偶者が750万円、長男がそれぞれ250万円でした。

 

配偶者の課税金額

750万円(相続人が受取った死亡退職金)–1,000万円(非課税限度額)×(750万円(相続人が受取った死亡退職金)÷1,000万円(全ての相続人が受け取った死亡退職金の合計))=0円

 

長男の課税金額

250万円(相続人が受取った死亡退職金)–1,000万円(非課税限度額)×(250万円(相続人が受取った死亡退職金)÷1,000万円(全ての相続人が受け取った死亡退職金の合計))=0円

このケースではどちらも、相続税の課税がかかりません。非課税限度額は相続人が2人のため、1,000万円(500万円×2人)となります。「受取った死亡退職金」を「全ての相続人が受け取った死亡退職金の合計」で割ると、配偶者は4分の3、長男は4分の1になります。そのため、それぞれの非課税限度額は受取った死亡退職金と同額になります。差し引けば、課税金額は0であることがわかります。

 

なぜ非課税枠が用意されているのか?

基本的に税金は、たくさん稼いだ人ほど高く支払うようにできています。身近な税金でいうと、所得税、住民税、固定資産税、消費税などがあります。それぞれ課税の仕組みは違っても、お金を多く稼いだ人からより多くの税金をとれるように設計されています。一般的にこの仕組みは累進課税と呼ばれ、富の集中を是正することが目的となっています。

相続税も同じように、相続額の多い人からより高い税金をとるように設計されています。相続税の税率もたくさんもらっている人ほど、高くなります。相続税の支払額に傾斜をつけるその他の仕組みが非課税枠です。非課税枠があることによって少額の相続を受けた人からお金をとらないようにしているのです。

加えて、死亡退職金、生命保険金は、残された遺族の生活保障の為に用意されているお金です。多くの金額が税金でもってかれてしまっては、死亡退職金を会社が用意した意味も、わざわざ生命保険に加入した意味もありません。そのため非課税枠を設け、死亡退職金、生命保険金の意図を守るようになっています。

特別受益といい、「特別に多くの利益を得ているか」が、死亡退職金の相続税の課税対象の判断になります。生命保険金の受取金も同じ考えで課税対象が決まっています。基本的な死亡退職金、生命保険金の目的を超えて、多額の利益を獲得した場合に限って相続税を課税しようとしています。

前述の通り、死亡退職金は特定の人が全てのお金を受け取るというケースも考えられます。その場合、相続財産と比べても死亡退職金の額が、非常に高額となる場合もあります。一人の相続人が全てのお金を受け取った場合に、他の相続人が不公平に感じることもあるでしょう。そのため、相続人間の格差や不公平を失くすために、生命保険金と同じように死亡退職金を特別受益として扱う見方がなされています。

 

まとめ

死亡退職金の相続税の取扱いについてご理解いただけたでしょうか。土地、不動産、預貯金といった遺産とは取扱いが異なることがわかったと思います。企業の就業規則等によって受取人も、金額も大きく変わってくるものなので、気になる方は被相続人がお勤めの企業の規則を確認しておくようにしましょう。

死亡退職金は被相続人が高い役職についている時、勤続年数が長い時には、高額になります。納税義務について正しい理解をしていなければ、税金の延滞に繋がってしまいます。

心配な方は弁護士、税理士といった専門家に相談してみるようにしましょう。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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