2019年5月15日 水曜日
相続時精算課税とは?|贈与税の減税に使える制度の利点を解説
皆さんは、相続の前に相続に関わる税制を深く理解しておくことは非常に大切なことと思われていることでしょう。
相続する時、相続する財産によっては多大な税金がかかります。
私たちは、ご遺族の生活を守るために課税額の大きい財産を生前贈与し、相続税を少しでも減らしたいと願う人の力になりたいと思っています。
今回解説する「相続時精算課税制度」を、皆さんはご存知でしょうか。
相続時精算課税制度は、高齢者が持つ財産の移転と有効利用をスムーズにする目的で作られた制度です。
相続時精算課税制度の特徴は、父母から子、または祖父母から孫への生前贈与について、贈与者ごとにその財産の価額が2500万円まで贈与税を非課税にするという制度です。
この記事では、相続時精算課税制度について、そのメリット・デメリット、さらには試算をするにあたってどのような専門家に相談するかに至るまで、詳しく説明していきたいと思います。
目次
相続時精算課税制度とは?
ここではまず、相続時精算課税制度について詳しく説明していきます。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母、または祖父母から20歳以上の子、あるいは孫への生前贈与について、贈与者ごとにその財産の価額が2500万円まで贈与税が非課税になるという制度のことです。
一見すると非常にお得な制度のように思えますが、利点だけではなくデメリットも少なからず存在します。
相続時精算課税制度のメリット・デメリットについては後ほど説明いたします。
相続時精算課税制度を利用するには、3つの条件のすべてを満たしていなくてはなりません。
- 制度を利用する人(受贈者といいます)が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上であること」
- 贈与者が贈与をした年の1月1日時点で60歳以上であること
- 贈与者と受贈者との関係が、親子であるか、もしくは祖父母と孫であること
また、相続時精算課税は受贈者が贈与者ごとに選択することができるので、父からの相続は相続時精算課税制度を利用し、母からは暦年課税にする、といったことも可能になります。
しかしこの選択は、一度選択した後は変更することができないので、注意が必要です。
生前贈与との違い
次に、相続時精算課税制度と生前贈与との違いについて説明します。
生前贈与とは、「生きている間に自分の財産を誰かに贈る」法律行為のことをいいます。
生前贈与をはじめとする贈与行為は、贈与する相手を自由に選択することができるので、特定の財産を確実に誰かに贈りたい場合は大きなメリットとなります。
生前贈与は、贈与者が60歳以上でなくても誰かに財産を贈与することができますので、早期に財産を引き継ぐことができる点も生前贈与のメリットといえます。
また、贈与者と受贈者との関係に血縁がなくてもよく、お互いが了承していれば文書なども必要ありません。
相続時精算課税制度と生前贈与との違いをまとめると次のようになります。
- 生前贈与は生きている間に自分の財産を誰かに贈る「贈与行為」で、相続時精算課税制度は、「相続時」に清算して課税する「制度」
- 生前贈与は誰もが「自分の意思」で、「いつでも」「誰にでも」財産を贈与することができるが、相続時精算課税制度は「贈与者が贈与をした年の1月1日時点で60歳以上」で、「贈与者と受贈者とが親子」であるか、「祖父母と孫」でなければならない
相続税の節税額をシミュレーション
相続時精算課税制度による相続税の節税額をシミュレーションしてみましょう。
相続時精算課税制度を利用すれば、贈与者ごとに2500万円までは財産の贈与税が非課税になります。
仮に父と母から2500万円ずつ、祖父と祖母から2500万円ずつ、計1億円もの贈与を受けたとしても、それぞれに相続時精算課税制度を利用すれば、これらすべての贈与に贈与税はかかりません。
贈与財産の種類には制限はなく、現金の場合でも不動産の場合でも利用することができます。
金額にも制限はないものの、「控除されるのは贈与者ごとに2500万円まで」ということを忘れてはいけません。
1億円の不動産の贈与があった場合でも相続時精算課税制度を利用することはできますが、控除される2500万円を差し引いた7500万円については贈与税を支払わなくてはなりません。
2500万円を超えた贈与の分には一律20%の贈与税が課されます。
具体的に計算式にすると、
(1億円-2500万円=7500万円)× 20%=贈与税の額は1500万円となります。
ただし、このとき課された贈与税は、贈与者が亡くなった時の相続税からは控除されますので、贈与税の額が相続税の額を上回る場合の差額の還付は受けることができます。
相続時精算課税制度の利点
ここでは、より具体的に相続時精算課税制度のメリットについて説明していきます。
非常に高額な財産を贈与できる点、不動産を購入する際のメリット、将来的に値上がりするかもしれない財産を贈与する際に節税になる点の3つに着目しました。
高額の控除が可能になる
暦年贈与に比べて、相続時精算課税制度を利用した場合には短期間で非常に高額の財産を贈ることができる可能性があります。
その分相続税の課税対象にはなりますが、相続税の基礎控除額は最低でも4100万円であるため、相続財産と足しても基礎控除の範囲内であるならばメリットがあるといえます。
財産の総額が基礎控除の範囲を超える場合は、相続時精算課税制度を利用しない方がよいのですが、この点についてはデメリットを紹介する時に詳しくご紹介します。
不動産を購入する際のメリット
例えば、子供がマイホームを購入する際の頭金を、何の特例もなく贈与してしまうと、多額の贈与税がかかってしまいます。
しかし相続時精算課税制度は贈与者ごとに2500万円までの財産の贈与税が非課税になることから、例えば2500万円以下の頭金のマイホームならば相続時精算課税制度を利用することで、贈与税なしで頭金を贈与することができます。
贈与財産の種類に制限はなく、マイホームなどの不動産の場合でも相続時精算課税制度を利用することができるため、不動産を購入する際にメリットにはたらく場合があります。
値上がり可能性がある財産なら節税に
相続時に「贈与時点の時価額」を相続財産に加算する、という点が相続時精算課税制度の特徴の一つです。
たとえば贈与時に500万円だった有価証券が、相続時には1000万円の評価額に値上がりしていたとしても、贈与時点の時価額である500万円で計算できるため、将来的に値上がりする可能性のある財産を、相続時精算課税制度を使って贈与することで節税になるというメリットがあるのです。
相続時精算課税制度のデメリット
相続時精算課税制度にはメリットだけではなく、当然デメリットも存在します。
贈与税の非課税枠が使えなくなる点、値下がりした財産があると節税にならない点、手続きが大変である点、さらには生前贈与と相続を比較した際の生前贈与のデメリットについてもご紹介します。
贈与した年以降は贈与税の非課税枠が使えない!
相続時精算課税制度を選択した贈与者からの贈与は、選択したその年以降ずっと相続時精算課税となります。
そのため、110万円の非課税枠を使うことができなくなってしまいます。
暦年贈与による贈与の場合は年間110万円が非課税になるので、財産の総額が相続税の基礎控除額を上回る場合は、暦年贈与を選択した方がよいのです。
値下がりした財産があると節税にならない
メリットの3つ目でも触れましたが、相続時精算課税制度には「贈与時点の時価額で持ち戻す」という特徴があります。
これは財産の時価額の値上がりがあった場合には節税になりますが、当然時価額が下がってしまうと節税になりません。
たとえば贈与時に1000万円であった有価証券が、相続時に500万円に値下がりした場合であっても贈与時点の時価額で持ち戻すため、たとえ財産価値がゼロ円であったとしても、1000万円を相続財産に加算しなければなりません。
手続きが大変
それ以外にも、相続時精算課税制度を選択した贈与者から贈与を受けた年は、贈与の金額の大小を問わず申告が必要になるために、その手続きに手間がかかるという点もデメリットといえます。
相続時精算課税制度を選択する場合、その選択による最初の贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までに、税務署に6点の書類を提出する必要があります。
①相続時精算課税制度の届出書
②贈与税の申告書
③自分の戸籍謄本または戸籍抄本
④自分の戸籍の附票の写し
⑤贈与者の住民票の写しと
⑥戸籍の附票の写し
生前贈与を行うことのデメリットもある
生前贈与によるデメリットもあります。
たとえば、不動産を贈与する際にはデメリットが大きく、注意が必要です。
具体的に説明しますと、相続の場合は発生することのない不動産贈与税が発生することが挙げられます。
不動産の贈与の場合は、取得不動産の固定資産税の評価額の4%が不動産贈与税として課税されます。
不動産を贈与する際には、余分な費用がかかってしまう、ということです。
さらには登録免許税も課税されます。
登録免許税とは不動産の登記等に対して課税される税金のことです。
相続の場合は、登録・取得不動産の固定資産税の評価額の0.4%の課税で済みますが、贈与の場合は2%が課税されます。
この点にも注意が必要です。
また、将来的に年金の支給額は減っていくことが予想されるので、老後の資金が不足してしまうというデメリットも考えなくてはなりません。
税額の試算など、困ったら専門家に相談を
相続に関わる諸々の制度について学んだとしても、相続問題は難しいと思います。
そのため、税理士や弁護士等の専門家に相談することも必要になってくるでしょう。
ここでは、税理士、弁護士、司法書士のうち、どの専門家に相談すればよいか、利点と注意点をそれぞれ説明致します。
税理士に相談する
税務の申請代理、相談、税務書類の作成など、税に関する様々な仕事を請け負うのが税理士です。
相続には相続税等、いろいろな税金がかかります。
税金に関する問題は税理士に相談すると良いでしょう。
相続税を申告することは、税理士にしかできないことでもあります。
ただ、相続税を申告する必要があったのは相続が発生した人のうちの4%ほどであり、相続したからといって必ず相続税が発生するわけではありません。
最低でも3600万円を超える相続財産がなければ相続税を支払う必要はないですし、3600万円を超えたとしても即座に相続税が発生するわけでもありません。
弁護士に相談する
調停や裁判などで裁判所での手続きが必要になった場合は、弁護士に相談すべきでしょう。
正式な代理人になることができるのは弁護士だけだからです。
仮に相続人同士がもめたことで裁判になった場合も、原則として「法定相続分」という法の下で定められた相続の割合になることがほとんどです。
一般的に相談にかかる費用などは高くなってしまうことが多いので、その点も注意しましょう。
ホームページなどに、相談料などの料金プランが記載されている法律事務所を選ぶとよいでしょう。
司法書士に相談する
不動産の名義変更(相続登記)ができるのは司法書士です。
相続が発生した中でも半数が不動産を相続することを考えると、不動産を持っているという人は、最終的には司法書士に相談を仰ぐ必要性が出てきます。
特に相続税を支払う必要がなく、なおかつ相続者同士で争っていないのに支払う必要のない税金を払う必要がある場合には、司法書士が諸々の手続きをしてくれるので、最初から司法書士に相談した方が相談者の苦労は小さくなるでしょう。
注意点は司法書士の事務所によっては相続登記しか専門でない事務所が存在する点です。
なるべくホームページを設けている事務所を選び、口コミサイトに書かれている評価も参考にするとよいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
相続時精算課税制度について、メリットとデメリットを中心に解説しました。
相続税だけでなく贈与税の計算も含めると、時には専門家の力を借りなければならないほど比較検討は複雑です。
しかし、ご遺族のこの先の生活と比べると、相続手段の検討期間は一瞬と言えます。
相続時精算課税制度の他にも様々な制度が存在します。
円滑な相続を終える為にははやり事前の準備が大切といえるでしょう。
皆さまの相続時精算課税制度についての疑問点が解消されれば幸いですが、少しでも疑問や特殊事例を含む場合は専門家に相談されることを心からお勧めします。