2019年1月30日 水曜日
家を相続する際に必要な手続き
多くのご家庭で、もっとも大きな価値を持つ資産は家ではないかと思います。
その家について相続が発生した場合、そもそも相続が人生の中で何度も経験するイベントではないため相続手続きのノウハウが無いことと、さらに家の相続手続きの複雑さから途方に暮れてしまう人が数多くいます。
しかし相続が発生する前に多少の予備知識をつけておけば、そうでない場合と比較して実際に相続が発生した際の動き方は異なってくるでしょう。
本記事は、家の相続が発生した際の相続手続きについて、押さえておくべき予備的な知識をまとめたものです。
ぜひご覧になり、家を相続する際の予習としておいてください。
目次
相続の基本
相続とは、亡くなられた方(被相続人)から相続人が財産を受け継ぐことをいいます。
財産と一口に言っても、預金や株などの金融資産をはじめ、家や土地などの不動産、著作権や会員権、債権まで、とても多岐に渡ります。
相続の分配の方法
家などの財産を相続するルールは、遺言書があるかどうかなどによって決まります。
法律で相続する人は決められていますが(これを法定相続人といいます)、相続人ではない人に財産を受け継ぐと遺言書に書いてあった場合には、それに従うことになります。
法で定められた人ではない人が財産を受け継ぐ場合は、「遺贈」と呼びます。
遺言書で特定の人に偏った内容が書いてあったとしても、子や親などが被相続人の法定相続人であった場合には必ずもらえる財産「遺留分」が定められています。
遺言書が残されていなかった場合には、相続人が集まり、遺産分割協議を開き、協議して遺産の分配を決め、遺産分割協議書にその結果を残します。
相続税と相続税評価額
遺産を相続する際には、相続税がかかることはご存じの方も多いかもしれませんが、実は全ての人が対象になる税金ではありません。
相続税には税金の掛からない基礎控除額が次のように設けられています。
- 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
【例】法定相続人が妻と子2人の場合は、3,000万+600万×3人=4,800万円が基礎控除額となります。
家などの遺産がこの金額以下であれば、相続税は掛からないのです。
基礎控除額内に収まる家のほかに特に財産は残されていないけれど、生命保険金などを受け取る予定の場合も、非課税限度額次のように設けられています。
- 生命保険金や死亡退職金の非課税限度額=各500万円×法定相続人の数
家などの不動産は、預金のように価値が分かりにくいですが、相続税の計算には、路線価方式と倍率方式の2種類の土地評価方法を使って評価します。
家の相続税評価額の計算方法は、家を被相続人が使用していたのか、家を誰かに貸していたのかなどで異なってきます。
家を相続するときにかかる税金
遺産として家を相続した場合にかかる税金は主に「相続税」「譲渡所得税」「印紙税」となります。
遺産に家などの不動産が含まれない場合と比較して、より手続きや課税額の算出が複雑になってきますので注意が必要です。
相続税
家を相続した場合の相続税を算出するには、まず、金額に換算すると家の価値がいくらになるかを調べる必要があります。これを評価額といいます。
家の他にも相続する財産がある場合はそれらと合わせて遺産の総額を算出し、そこから各種控除を差し引いた金額が課税対象となります。
そのため、家などの不動産の相続がある場合の節税を考えるにあたっては、不動産に対して適用できる控除制度を効果的に利用することによって家の評価額ができる限り低くなるように算出することが重要です。
譲渡所得税
相続した家を売却して利益が出た場合、「譲渡所得」となり所得税と住民税の課税対象になります。
従って、相続税の申告・納税とは異なり、家の売却の翌年3月の確定申告による納税となります。
売却益(家が売れた値段)から「取得費(家を購入した時の金額、その際支払った仲介手数料、諸経費)」と「譲渡費用(家を売却するために支払った仲介手数料、諸経費)」を差し引いた上で利益があった場合に課税されます。
相続税に加えて譲渡所得税も課税されると、相続人の負担が大きくなってしまうため、相続に起因した不動産の売却益に対しては「取得費加算の特例」が設けられています。
これは相続税の申告期限から3年以内に売却した場合、取得費と譲渡費用に加えて相続した家についてかかった相続税額も差し引くことが出来る制度です。
なお、取得費加算の特例と併用はできませんが、2019年末までは「3000万円特別控除」を利用することができます。
従来この制度は、住んでいる家を売却した際の利益に対して3000万円まで控除できるというものでしたが、条件を満たせば相続した実家などの「相続人は住んでいなかった家や土地」についても控除が認められるというものです。
2019年末までの売却になる場合は、取得費加算の特例と比較して節税になる方法を選択すべきでしょう。
印紙税
印紙税とは、商業取引に関する文書について課税される税金です。
印紙税法によって課税対象となる文書や税額が定められており、該当する場合は税額に相当する「収入印紙」を購入し、取引文書に貼付することによって納税します。
相続した家を売却する場合に取り交わす「不動産売買契約書」は課税対象となるため印紙税が発生します。
2020年3月末までは軽減税率が適応されており、課税額は下記のとおりです。
・1万円未満:非課税
・1万円~50万円以下:200円
・100万円以下:500円
・500万円以下:1,000円
・1000万円以下:5,000円
・5000万円以下:10,000円
・1億円以下:30,000円
・5億円以下:60,000円
・10億円以下:160,000円
・50億円以下:320,000円
・50億円を超えるもの:480,000円
・金額の記載のないもの:200円
売主と買主の契約書をそれぞれ作成する場合は2通分の印紙税が発生することになります。
どちらか一方が原本、もう一方がコピーで保存する場合は1通分のみ課税されるため節税とはなりますが、家の売買取引に際してトラブルが発生した場合などを想定すると、双方で作成しておいた方が安心でしょう。
家の遺産分割方法
家を分割する方法は、単独名義による取得・分割して取得・複数名義による共有・売却して現金化の4通りが考えられます。
家の相続が発生した場合は、一名が単独で相続して単独名義となることが理想的であり一般的です。
気をつけなくてはならない点は、法定相続人が複数人以上いる中で相続財産のうち家の価値が突出して高い場合、家を相続しない人に対する遺留分侵害が起こり得ることです。
遺留分とは法定相続人に対して法律で保証された最低限の取り分であり、この取り分を侵害された法定相続人は侵害した他の相続人に対して侵害額を請求する「遺留分減殺請求権」を有することになります。
もっとも、この遺留分減殺請求権の行使は侵害された人の任意であり、事前にしっかりと遺産分割協議などで話し合い納得したうえでの単独名義による相続であれば、揉め事に発展することはないでしょう。
建物を取り壊し、土地を分割する方法も考えられます。
しかし、土地の規模や形状、周辺環境などにもよりますが、不動産はその個別性の強さゆえに平等に分割することが非常に難しい資産です。
分割の方法次第では土地の使い勝手が大幅に悪くなり、さらには建物が建築できないくらいに小さくなってしまうことも想定されます。
続いて、複数名義による共有です。
相続人が複数名いる場合に、一つしかない家を共有で相続することは公平であるように思われます。
しかし、家に限らず不動産を共有で相続することは、後になり様々な問題が生じると考えられます。
まず、共有となった家は売却や建て替え、担保提供、さらには物納など何をするにしても共有者全員の合意が必要となり、共有者単独では何もできなくなってしまいます。
さらに、共有解消の手立てを取らないまま共有者が亡くなり代替わりが生じた際は、その相続人同士の共有財産となります。
これを繰り返していくうちに共有者がネズミ算のように増えて家の権利関係が一層複雑になり、共有者同士で揉め事が生じやすくなります。
そもそも誰が住むのか、という点でもややこしくなりますよね。
このように、共有で家を相続することは全くお勧めできません。
最後に、売却して現金化する方法です。
単独名義による取得も分割も無理であり、かつ共有を避けるためには売却して現金化するしか方法はありません。
現金は客観的な数値で分けることが可能であるため最も透明性が高く後々の揉め事の回避にもつながりますし、相続人全員が相続税納税資金を得ることが可能になります。
もちろん、家に愛着があり第三者に渡したくないという相続人もいるかも知れませんが、売却することの合理性がある場合はその点を理解してもらうように説得することになります。
なお、相続財産は遺産分割協議がまとまるまでは一旦相続人全員の共有財産となるため、相続人全員の名義で売却することになります。
また、売却の際は隣地との境界確定や土地の測量を行う必要がありますので、もし境界画定や測量が未了であれば測量士や土地家屋調査士に依頼しておくことが望ましいでしょう。
家(不動産)の相続手続きの流れ
被相続人(亡くなった人)が亡くなると、一連の相続手続きが始まります。
一般的な家の相続手続きは、遺言書の有無の確認から始まり各種手続きを経て相続税の申告・納付を行うことで終了します。
この一連の相続手続きは、相続が発生してから原則10ヶ月以内に行わなければなりません。
まず、被相続人が遺言書を遺していないか確認しましょう。
遺言書が無く、かつ法定相続割合と異なる割合で遺産を分割する方向であれば、相続人の間で分割割合を話し合う「遺産分割協議」を行うことになります。
これがまとまったら「遺産分割協議書」を作成して後日の揉め事を防止するための証拠とします。
また、遺産分割協議書は後述する相続登記の際にも法務局へ提出が求められます。
もし相続人同士の主張が折り合わず遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停ないし審判を仰ぐことになります。
遺言書が見つかった場合、その遺言書が公正証書による遺言ではない場合は必ず家庭裁判所で「検認」という手続きを経なくてはなりません。
この検認は遺言書の偽造や改竄などを防止するために行う手続きで、通常約1ヶ月程度かかります。
検認手続きが完了したら遺言書の内容どおりの分割手続きを進めます。
なお、遺言書があったとしても相続人全員および遺言の執行者が合意すれば、遺言書の内容とは異なる遺産分割も可能です。
また、もし遺言書が無く、あったとしても遺言書の内容が家をはじめとする遺産の全てを相続人の一部または全員に相続させる内容では無い場合は、遺産分割協に先行して法定相続人の調査と確定を行う必要があります。
具体的には、戸籍謄本などを取り寄せながら調べることになります。
相続財産に家があることを知っていても、それだけでは相続手続きを進めるうえでは不十分です。
今後の相続手続きでは土地と家の登記簿謄本を取得しておく必要があるのですが、これを法務局に申請する際は土地と家を識別する情報である「地番」と「家屋番号」が必要になりますので、これらを把握しておく必要があります。
地番と家屋番号は固定資産税の納税通知書や権利証などに記載されていますので、こちらで確認してください。
もし固定資産税の納税通知書や権利証などが見つからない場合は、市町村役場や都税事務所で固定資産税を取り扱っている窓口から「名寄帳」を取得してください。
被相続人名義の名寄帳には、名寄帳を発行する役所が管轄する地域内で被相続人が所有する土地や建物が一覧化され、地番と家屋番号も記載されています。
これにより、相続人が存在すら認識していなかった不動産が見つかることもあります。
遺産分割協議や遺言書により各相続人への分割割合が確定したら、家を相続する人は相続登記手続きを行います。
相続登記とは、家を相続した相続人が自身の名義に変更する手続きであり、法務局に登記申請書などの各種書類を提出して行います。
なお、相続人による相続登記は必ずしも法律で義務付けられているものではありませんが、後々に発生する売却や相続のことを考慮すると確実に行っておくべきです。
最後、相続する家の適正な相続財産評価額に基づいて算出された相続税を税務署に納付することで、一連の相続手続きは終了します。
相続登記を行ってはじめて、相続した家を売却して遺産分割する、現金化して相続税支払いに充てる、取り壊しや改修を行う、金融機関での借り入れ時の担保とするなどの取り扱いが可能になります。
ここで相続登記の手順をしっかり把握しておきましょう。
①相続登記の対象となる不動産を特定
基本的には、被相続人が生前のうちに保有している家などの不動産や関連書類の所在について情報を共有しておくことが望ましいです。
共有できていなかった場合は、被相続人のもとに届いている固定資産税の納税通知書、権利証などから確認することができます。
②不動産の登記簿謄本を取得
特定した保有不動産の登記簿謄本を、法務局で取得します。相続登記とはつまり、この登録内容を書き換えることです。
③遺産分割協議を実施
登記簿謄本によって詳細な情報を把握した上で、遺産となった家などの不動産をどのような割合で誰に配分するかを相続人全員で協議し、決定します。
④必要書類の収集
ケースによって異なりますが、主な必要書類は以下になります。
・被相続人の戸籍謄本
・被相続人の住民票の除票
・相続人全員の戸籍謄本
・不動産を相続する相続人の住民票
・遺言書、または遺産分割協議書
・全員分の印鑑証明書
・相続関係説明図
・対象となる不動産の登記簿謄本(全部事項証明書)
・対象となる不動産の固定資産評価証明書
⑤登記申請
必要書類の提出、登録免許税の支払いをして登記申請を行います。
⑥登記簿謄本の取得
更新された登記簿謄本を取得します。遺産分割協議で決定された内容になっているか、不備がないかを必ず確認しましょう。
このように、登記申請はきちんと手順を踏まえた上で、自分で行うこともできますがかなり煩雑で時間と手間がかかるため、専門家に依頼した方が安心です。
相続税は金銭で一括して納付することが基本ですが、これが困難な場合は延納と物納の制度があります。
延納でも相続税が納付できない場合と税務署が判断した場合に物納となりますが、家を物納する際は先述した境界画定や測量が為されていることなどの条件があります。
家の相続登記の方法
先述したように、家の相続登記に必要となる書類をそろえたら、いよいよ相続登記の手続きに入ります。
申請書類に加えて必要な書類を添えて手続きをすることで、家の所有者の名義を変更することができると伝えましたが、どこで何をすればいいのでしょうか。
手続きは、相続する家などの不動産が所在する地を管轄する法務局で行うことができます。
ということは、田舎に住む親から家や土地を受け継ぐ場合、家や土地のある現地の法務局に行って相続登記の申請をしなくてはならないのです。
その家や土地が遠方だった場合、交通費などのお金はもちろん、時間も労力も掛けないといけませんが、うれしいことに郵送による手続きも可能になっています。
しかし、申請書の記入漏れがあったり、必要書類が不足していたりした場合には、手続きは完了しません。
法務局からの連絡を受け、その都度、対応していかなくてはなりません。
申請をするのが初めてであっても、法務局内では申請書の記入方法の相談を受けてくれる場合があり、何度も法務局に通えば無事に申請することはできます。
しかし、そのような時間がない方には司法書士の力を借りるといいでしょう。
司法書士は、郵送に加え、オンラインで申請を行うことができ、しかも、管轄を越えて申請ができるので、自分の家の近くに事務所を構える司法書士に遠方の家の登記を頼むことができます。
被相続人名義のまま家を相続するリスク
家を相続登記しないままでも、相続税の申告のように期限やペナルティーは設けられていません。
しかし、相続した土地や建物を持て余していた中、急に購入の申し出があった場合などは、相続人名義にしておかないと売却できませんので、相続登記から始めなければならず、タイミングを逸してしまうかもしれません。
また、複数の相続人がいた場合に、その相続人が亡くなってしまうと、さらにその相続人がいることになるので手続きが複雑化します。
相続登記をしようとする時に、関係性の薄い、顔も知らない相続人に内容を確認し、相続登記のための書類の提供を依頼することになるのです。
さらに、不動産を全ての相続人が相続分に応じて共有している状態になりますので、債務を抱えた相続人の持ち分が差し押さえられたり、共有の登記が行われたりして共有持ち分を売却されてしまう可能性もあります。
相続登記は相続人が確認できるうちに、相続税の申告手続き後などに、早めに行ったほうが賢明といえます。
相続登記の添付書類は、相続税の申告に必要な書類と重複するものがあるため、相続登記を早く行うとメリットもあります。
相続税の申告期限は10カ月と期限が設けられていますが、それ以前に相続登記をする場合は、相続登記で返却された添付書類をそのまま相続税の申告に利用できます。
家の相続でかかる相続税
以下では、家を相続する場合に相続税はどのように課税されるかをご紹介します。
なお、相続税は相続によって財産を取得した人であれば誰でも支払わなくてはならない性質の税金ではなく、相続税評価額が「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の「基礎控除額」の範囲内に収まれば課税されません。
仮に家を含む相続財産の相続税評価額が基礎控除を上回ったとしても、家については後述する小規模宅地等の特例などを併用すればこの基礎控除の範囲内に収めることができることもあるのです。
家の相続税評価額
まず、土地について見てみましょう。
相続税の計算上、家の土地は「自用地」としての評価を受けます。
自用地とは、自宅や舗装等がされていない青空駐車場、個人で営んでいる店舗の敷地をいいます。
地役権や借地権など他人の権利が付着しておらず、土地の所有者が自由に利用できることが前提です。
そして評価額は、家が市外地にある場合は「路線価方式」、市街化調整区域など市街地以外にある場合は「倍率方式」により計算されます。
路線価方式の場合は「路線価×画地調整率×面積」、倍率方式の場合は「固定資産税評価額×評価倍率」により計算されます。
面積と固定資産税評価額は固定資産税の納税通知書、路線価と画地調整率および評価倍率は国税庁のホームページなどでそれぞれ確認することができます。
なお、自用の建物は固定資産税評価額がそのまま相続税方価額となります。
相続税の計算例
以下では、法定相続人は長男と長女で、相続税評価額が3,000万円の家を長男が相続するケースを想定します。
まず、法定相続割合に応じて長男と長女が家を共同で相続すると仮定します。
この場合長男と長女の法定相続割合はそれぞれ2分の1ですから、1,500万円ずつ相続することになります。
次に国税庁による相続税の速算表に基づき、長男と長女の相続税額を計算します。
評価額が1,500万円の場合は税率は15パーセント・控除額は50万円とされていますので、1,500万円に15パーセントを乗じて得た額から50万円を控除した金額である175万円が、長男と長女それぞれに課される相続税となり合計は350万円となります。
最後に、長男が家を実際の相続する場合に割合に応じて支払う相続税を計算します。
家は長男が相続しますから長男の相続割合は100パーセント・長女は0パーセントになりますので、長男が支払う相続税は350万円・長女が支払う相続税は0円となります。
小規模宅地等の特例
被相続人と同居していた家族にとって、遺された家は大変重要な資産です。
これが何も減額されることないまま相続人として相続税が課された場合、その支払いのために相続人の今後の生活がままならなくなる可能性もあります。
また、相続税納税資金を確保するために足元を見られた低い価額で売却せざるを得ないことにもなりかねません。
そのような事態に相続人が陥らないようにするための救済策としても機能している制度が、「小規模宅地等の特例」です。
具体的には、被相続人が居住や事業に用いていた土地について一定の要件を満たすことで相続税評価額を土地面積最大330平方メートルまで・相続税評価額は最大80パーセントまで減額することを認められます。
つまり、相続税評価額が減額された分だけ相続人が納める相続税が安くなるのです。
この特例は借地権付きの土地や分譲マンションの土地の共有持分でも適用されます。
また、相続人が相続税申告期限後も引き続き居住する・しないによらず適用されます。
なお、建物には適用されませんのでご注意ください。
この特例の適用を受けるためには、細かな要件があります。
その中でも代表的なものを押さえておきましょう。
まず、原則として被相続人と相続人が特例を受ける対象の土地に建っている家で同居していたことが必要です。
たとえ、同じ土地に建っている家であっても分譲マンションのように専有部分が別々に登記されていたり、実態は被相続人と相続人が別々に居住していたりするとような状態では、この特例の適用を受けることはできません。
また、原則として被相続人と相続人が同一生計で生活していたことが必要です。
同一生計とは、ひとつの家に住んでいる人全員がひとつのお財布で生活していることです。外見的には、住民票の記載から同一の世帯と認められること、電気代や水道代などが同一世帯として請求され、ひとつの口座などから支払われていことなどが税務署が同一生計であると認めるために必要です。
なお、上記はあくまで原則論です。
仮に被相続人と別居していたとしても、被相続人が老人ホームで亡くなった場合や被相続人からの仕送りなどで相続人が生計を立てていた場合は、一定の条件を満たすことで本特例は適用されます。
また、この特例を居住用宅地として適用を受ける場合はあくまで居住用の土地に限定されます。
親族などの被相続人以外に賃貸していた場合などは事業用宅地となり、居住用の土地とは異なった評価減が適用されることになります。
家の相続にまつわるトラブル
家は簡単に分割できない
家の相続にまつわるトラブルは多くありますが、その原因は家が簡単に分割できないという点にあります。
上記で様々な方法をご紹介しましたが、それぞれの方法が孕んでいるトラブルのリスクについてご紹介します。
以前に比べると、相続は平等に行うべきという考えが浸透してきましたが、家は簡単に分割することができず、トラブルの大きな焦点となります。
相続対象の敷地内に家が二つ以上あるというなら分割できるかもしれませんが、そういったことは滅多にありません。
それでは、家を取り壊して更地にし、土地を分割してはどうかというアイデアもあるでしょう。
しかし、先ほどにも述べたとおり分割することによって土地が小さくなってしまい家が建てられない、使い勝手が悪く売却できないという、価値の低い土地になってしまう可能性もあります。
実家に思い出が詰まっているため、取り壊したくない場合もあるでしょう。
それでは、誰かが家を相続して、そのほかの人が家以外の財産を相続すればいいという考え方はどうでしょうか。
ですが、家と同等、もしくはそれ以上に価値の高い相続できる財産があるという場合はほとんどありません。
そうなると、家を相続できなかった人から不平等感によって不満が生まれ、トラブルの元になります。
実際に多くのケースでは、被相続人に家以外に財産がない場合も多く見受けられます。
そうして、唯一の財産である家をどう扱うかということが、トラブルの火種になります。
その場合に取られるのが次に述べる差額精算や共有持分という方法です。
差額精算や共有持分など様々な方法
差額精算という方法に潜むトラブルのリスクをご紹介します。
家を分割することができないので、差額精算の方法が取られる場合があります。
差額精算とは、1人が家を相続して、その価値がほかの人の相続した財産と比較して高い場合、そのほかの人に差額を支払って精算するという方法です。
この場合、もともと家に住んでいた人が家を相続できればそのまま住み続けることができるので、大変ありがたい方法のように思われます。
しかし、家を相続する人には、ほかの被相続人に精算する現金が必要になります。
家の価値が突出して高ければ高いほど、必要な現金も大きくなります。
この現金が用意できない場合、トラブルが発生します。
それでは、共有持分という方法はどうでしょうか。
これは、家を共同の名義で所有し、相続する方法です。
誰か1人が損をしたと感じることもなく、トラブルが避けられる妙案と感じる方も多いのではないでしょうか。
しかし、共有で相続することは、権利関係を複雑にするため、のちにさらなるトラブルを先送りしただけにすぎません。
共有で相続した人が、次の世代へその権利を相続した場合、さらに権利が細かく分割され、相続人同士の縁も遠くなってしまい、アクションを起こすには大きな労力がかかります。
家を売却するにも、貸与するにも各相続人の同意が必要になるため、いざ精算したいと考えた時にはもうどうすることもできなくなっていたということにもなりかねません。
トラブルを解決するためには、先送りせず、なるべく早いタイミングでアクションを起こすことが大切です。
賃貸物件・投資用物件の場合
アパートやマンション経営をしていた被相続人から物件を受け継いだら、そのまま経営を引き継ぐか、売却をしてしまうか、その物件の用途を変更するなど、いくつかの活用方法が考えられます。
そのような賃貸物件や投資物件を相続人と一緒に管理していたのなら、今後の方針は立てられそうなものですが、相続人がその物件の存在をまったく知らない場合もあり得ます。
物件の経営をそのまま引き継ぐ場合は、どういった経営状況にあるのか、しっかり調べていく必要があります。
経営をしていくのであれば、アパートの修繕費なども必要となり、ある程度の予算が必要になるかもしれませんし、誰かに管理を任せるのであれば、管理会社の選定も必要になります。
経営は無理だ、と諦めて売却をするのであれば、自分でその物件の価値を調べる必要もありますが、不動産業者に任せることもできます。
難しいのは、賃貸物件に居住者がいる場合の土地の用途変更です。
居住者には借地借家法という、借りている人に有利な法律があり、退去してもらうには正当な理由が必要だからです。
「アパートやマンションを壊して、自分の家を建てたい」「管理が楽そうなコインパーキングに変更したい」といったような理由は、正当な理由と認められないからです。
その他にも、家の相続はトラブルになりがち
実は、全国で今問題になっている空き家問題も、相続のトラブルを発端としているケースが多いのをご存知でしょうか。
共有持分としてしまったことによって、売却が困難になり、空き家のまま放置されているケースが大変多くなっています。
家の保有には固定資産税などの他にも、思った以上に手間や費用が発生します。
共有持分にしてしまうと、売却以外でも家の補修が必要になった場合の費用負担について、都度相続人同士での話し合いが必要になります。
また、もし空き家にしたまま状態が悪化して、周辺住民に迷惑をかけたり、損壊によって怪我をさせてしまったりして賠償の話になれば、相続人間だけでなく、周囲も巻き込んだ大きなトラブルになってしまう可能性もあります。
実際にトラブルとなったケースとしては、人間関係に起因するもの、または不動産相続の複雑さに起因したものが多い傾向にあるようです。
家の相続時に起こるトラブルの要因を以下にまとめました。
【遺産の分割に関するもの】
・兄弟のうち、実家に住んで両親の面倒を見てきた者が増額を要求した
・相続権のない親族が強硬的に相続を主張した
・兄弟から家の売却に反対された
【手続きに関するもの】
・家に関する書類の所在が分からず、手続きが難航した
・名義が祖父母のままになっていたため手続きが複雑になった
・相続税の申告期限が過ぎて追徴課税されてしまった
ご自分に当てはまるものや、思い当たることはありませんか?良好な関係にあった兄弟でも、相続となると「争族」の関係に変化してしまうこともあります。
これらのトラブルは、事前に関係者同士できちんと相談をしておいたり、必要な手続きを把握しておいたりすることで未然に防ぐことができます。
相続はいつ発生するかわかりませんので、出来る限り早めに対策をとっておくことが重要です。
家をどうするか、方針をまず固めるべき
まずは、家をどうするのか、方針を明確にしましょう。できれば、被相続人の生前に、相続人も含めて話し合っておくことが理想的です。
誰かが住むのか、売却するのか、第三者に貸与するのかを決めましょう。もし住まないとなった場合は、共有持分にするのは、やはりおすすめしません。
だらだらと存続させていると、上記で述べたように管理の手間も費用もかかるため、合理的ではありません。
トラブルになる前に、相続人同士で方針を固め、お互いに公平感のある方法を選択しましょう。
早めに専門家にサポートしてもらうのも有効
トラブルが深刻化する前に、専門家にサポートを依頼するのも有効な方法です。
それには、2つの理由が挙げられます。
1つ目の理由は、家の相続に関する法律にはわかりにくいものが多い点です。
私たちは日常生活で相続に関する専門知識に触れることはほとんどありません。したがって、いざ自分が直面した時にうろたえてしまいがちです。
手続きには期限の決まっているものもあり、然るべきタイミングで実施しなくてはなりません。
しかし、被相続人が亡くなったことで精神的にもショックを受けますし、やるべきことが山積しており、詳しく調べる時間がありません。
ご紹介した小規模宅地特例のように、条件が適用すれば、相続税を大きく抑えられるルールもありますが、見落としてしまっては後ほど「あの時もっと相続に関して知っていれば・・・」と後悔することにもなりかねません。
専門家であれば、様々なケースに精通しており、状況を鑑みて、もっとも良い方法を提案してくれるはずです。
2つ目の理由は、相続の専門家という第三者が入ることで公平感が増すので、相続人間でのトラブルを防ぐことができるという点です。
家の相続は非常にデリケートな問題であるため、相続人間での力関係や立場によって、本来主張したいことが主張できなかったりして不公平感を感じ、不満が溜まりやすいという傾向があります。
お互いに主張し合う場に第三者が介入することで、より客観的な意見をもらうことができますし、他の事例などを参考に、もっとも自分たちの相続にあった方法を検討することができるでしょう。
専門家にも様々な得意分野があり、特に家の相続に精通した専門家に依頼することが大切です。
手続きをスムーズに行い、相続人間での不要なトラブルを防ぐことができるよう、まずはあなたにあった専門家を探すことから始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ
これまでご覧頂いたとおり、家の相続手続きは非常に複雑かつ煩雑です。
特に平日は働いている人の場合、仕事と両立させつつ相続税の納税期限までにすべての手続きを確実に済ませることは難しい場合も想定されます。
したがって、多少の費用が生じたとしても司法書士や税理士などの専門家に任せたほうが時間を有効に使えますし、何らかの間違いも起きにくくなると考えられます。
くれぐれも、ご自身ひとりで抱え込むことがないようにしてください。