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【不動産の相続 】
不動産の相続について説明しています。マンション、土地、貸家建付地、山林など不動産の種類によって、評価額の計算方法が異なります。また相続税の求め方も異なりますので、不動産を相続する場合は注意しましょう。

2019年1月30日 水曜日

地上権を相続する上で知っておきたい基礎知識

地上権の相続に限らず、相続手続きは日常生活では用いられない専門的な知識を要し時間と手間が掛かることから、普段働いている人が単独で行うことはあまり現実的ではありません。

そのため、相続が発生した場合は税理士などの専門家に相談、あるいは代理を依頼して相続手続きを進めることが望ましいのですが、それでも事前に一定度の知識を備えておくことは相続が発生した際に有益です。

ところが、完全所有権の土地や借地権に関する相続について説明している書籍・サイトは多々ありますが、個人が地上権を相続すること自体が珍しいケースのためか、地上権について説明している書籍・サイトはあまり見かけません。

しかし、地上権は借地権と比較すると一般的に資産価値が高く、かつ相続税評価については特殊な方法を採用しています

これについて、地上権を所有している方、あるいは地上権を相続する予定の方であれば基本的なことは押さえておくことが望ましいです。

本記事では今後地上権を相続する可能性がある方向けに、地上権の基礎から相続税評価額の算出方法についてご紹介いたします。

また、地上権を所有している方にも生前に可能な相続対策についてご紹介いたします。

地上権とは

民法第265条に、「地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する」とあります。

地上権者とは、地上権を持つ人のことです。

地上権は財産権のうち「物権」の一つで、所有権と同様に特定の不動産を直接支配することが可能な権利です。

原則として、土地を貸す側である地主と借りる側で、毎月いくらの地代とするか・当該土地を何年間利用するかなどの諸条件を定めた契約により成立します。

さらに法務局で登記することで、「私はこの土地に地上権を持っている」などと第三者に対抗することができるようになります。

登記簿謄本上、地上権は所有権以外の権利に関する区分である「乙区」に記載されます。

なお、上記条文でいう工作物とは、建物や道路、送電線、地下鉄や地下道路など地上・地下を問わずに存在する一切の建築物を指します。

つまり何らかの建築物か竹木が存在することが地上権が存在する前提なのです。

その中でも建物を所有することを目的とする地上権は多くの場合で「借地権」とされ、借地借家法の適用を受けます。

地上権はその権利者が地主の承諾を得なくても自由に第三者に譲渡や転貸などが可能なため、地主にとっては非常にやっかいです。

したがって、土地を利用する契約のほとんどは地上権ではなく第三者への譲渡や転貸時に地主の承諾を要する借地権契約としているのが現状です。

なお、地上権は譲渡や転貸が可能と云っても完全所有権の不動産と比較して一般的に流動性が低いため、なかなか相続をする機会もないのです。

この他、民法第269条第2項では他人の土地の地上・地下の一部について工作物を所有することを目的とした権利として「区分地上権」を定めています。

本来、地上権はそれが設定される土地全体に及ぶものと考えられます。

しかし、例えば地上権者が高架線や送電線、地下鉄などを所有するために空間の一部だけ必要とする場合に、その必要な部分に限定して地上権を設定することを可能としているのが、区分地上権なのです。

なお、区分地上権の設定は工作物所有の目的に限定されており、竹木所有の目的には認められていません。

また、地上権と同様に登記することで第三者に対する対抗力を持つことになります。

また、「法定地上権」と呼ばれる権利も存在します。

通常の地上権や区分地上権が契約の成立により発生する権利であることに対して、法定地上権は要件を満たした場合に民法第388条の定めにより建物の所有者に当然に生じる点が特徴です。

法定地上権の成立要件は、以下の4点です。

  • 抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
  • 抵当権設定時に土地と建物が同一所有者に帰属していること
  • 土地又は建物に抵当権が設定されること
  • 抵当権実行により土地・建物が異なる所有者に帰属すること

具体例を見てみましょう。

土地と建物を所有する甲氏が乙銀行から融資を受け、乙銀行は甲氏所有の建物に抵当権を設定しました。

その後、甲氏の返済が滞ったため乙銀行は建物に対する抵当権を行使し競売に掛け、それを丙氏が落札しました。

しかし丙氏は建物の所有権は得たものの甲氏の土地を使用する権利が無いため、このままでは甲氏から建物を取り壊すように要求された場合は応じざるを得ません。

そこで、このような経緯で土地と建物の所有者が異なった場合に建物の所有者に対して地上権の発生を認めており、これが法定地上権なのです。

なお、法定地上権の発生要件に建物の登記の有無は問われません。

法定地上権に関する地代は裁判所が定めることになります。

地上権にともなう権利と義務

地上権者の権利

地上権は先に述べたとおり、所有権と同様に特定の不動産を直接支配する事が可能な権利です。

非常に強力な権利があり、地主の承諾を得なくても他人に譲り渡したり賃貸出来ます。

その為、非常に価値が高く、設定料はその土地の価格の20〜70%程度となっています。

財産としての価値が高いので、相続すると相続税が高額になる傾向があります。

相続する見込みの地上権がある場合は、事前によく調べておきましょう。

地上権者の義務

地上権者には契約を結ぶ事で責任も生じます。

法律上の義務ではありませんが、地主と地上権者の間で地代が定められれば、地代の支払いの責任が生じます。

契約で、支払いのないケースも中にはありますが、大半の場合は地代の設定があります。

また、地上権には登記の責任があります。

その為、登記簿を見れば地上権の設定の有無がわかります。

不動産相続について

相続とは、被相続人(亡くなった人)が亡くなったときに家族などの相続人が被相続人の財産を引き継ぐことをいいます。

相続の主な一連の手続きは、以下の通りです。

  • 遺言書の有無の確認
  • 相続人および相続財産の調査・確定
  • 準確定申告(被相続人の所得税申告)
  • 相続人間での遺産分割割合や方法について、協議・合意
  • 遺産分割協議書の作成(任意)
  • 遺産分割手続き
  • 相続税の申告・納付

この一連の手続きを、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内までに終わらせる必要があるのです。

不動産を相続する場合は、登記簿謄本、公図、地積測量図、建物図面などの書類を整えることから始めます。

地上権の場合は、契約書一式も必要です。

難所は、相続割合の確定と相続税の申告です。

不動産は財産価値が高く、さらに平等に分けることが難しい特徴を持つ資産です。

このために被相続人による遺言書などが無い限り、分割割合や方法をめぐって相続人の間で争いごとの原因になりやすいのです。

また、当然ですが相続税を申告・納付する際は適切な評価に基づいて正しい相続税額が算出されていることが前提となります。

しかし、不動産に関する相続税については法律などにより不動産の用途に紐付けられた評価方法や計算方法、さらに小規模宅地の特例など相続税評価額減につながる各種特例などが極めて複雑に定められており、かつ預金などの金融資産と異なり個別性が非常に強いという特徴を持つ資産のため、税理士などの専門家の力を借りない限り適切な算出は難しいのです。

特に相続税の知識が無い人がゼロから始めた場合、その調査や計算に膨大な時間を要してしまいます。

また、知識のにわか仕込みに起因する誤った法令解釈や計算が原因で、相続税の過少申告や過大申告にもつながる可能性があります。

特に過少申告について税務署が悪質と判断した場合は、追徴課税に至る危険性もあります。

これは地上権のように、完全所有権ではない不動産の権利についても例外ではありません。

特に地上権は、先述の通り所有権と同様に特定の不動産を直接支配することが可能な権利であり、借地権と比較すると資産価値は一般的に高いため、相続税評価額を適正に算出することは非常に重要です。

もし地上権を相続することになった場合は必ず相続登記を行うことを忘れないようにしてください。

ご自身で行うことが煩わしいとお考えであれば、司法書士に依頼することをお勧めします。

また、地上権は借地権の特定遺贈(遺言により相続する人を特定した相続)や死因贈与契約による贈与と異なり地主からの承諾や承諾料の支払いは不要とするのが一般的ですが、ご自身が地上権を相続したことを何らかの形で地主に一報しておくことは地主との関係を良好に保つために必要と考えられます。

なお、もし何らかの事情で相続発生後10ヶ月以内までに相続税納税資金が用意できない場合は延納あるいは物納という手段がありますが、地上権については基本的に物納が認められないと認識しておきましょう。

地上権の相続税評価

それでは、地上権の相続税評価方法について具体的に見てみましょう。

相続税法第23条および地価税法第24条によりますと、地上権の評価額は「自用地の価額×権利の残存期間に応じた割合」で算出すると規定されています。

ここでいう自用地とは所有者の自宅や駐車場などに用いられている土地のことであり、使用目的に関する他人の権利が付着していない土地のことです。

貸宅地や貸家建付地(アパートなどを建て他人に賃貸している所有地)と異なり評価に対する減額が適用されないため、相対的に高い相続税評価額となります。

なお、貸宅地の評価は「自用地評価額-自用地評価額×借地権割合」、貸家建付地の評価は「自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」となります。

地上権に話を戻しますと、先述の通り地上権は地主との当初の契約で利用期間を定めることが一般的です。

そのため、地上権の財産価値を判断するうえでは評価時点における残りの契約期間が重要と考えられているため、自用地評価額に残りの契約期間すなわち地上権の残存期間に応じた一定の評価割合(地上権割合)を乗じることで評価額を算出するのです。

2018年10月現在、地上権の残存期間に応じた評価割合は以下の通りです。

  • 10年以下:5パーセント
  • 10年超15年以下:10パーセント
  • 15年超20年以下:20パーセント
  • 20年超25年以下:30パーセント
  • 25年超30年以下、地上権の存続期間の定めがないもの:40パーセント
  • 30年超35年以下:50パーセント
  • 35年超40年以下:60パーセント
  • 40年超45年以下:70パーセント
  • 45年超50年以下:80パーセント
  • 50年超:90パーセント

このように、地上権の残存期間が長くなればなるほど所有権に近くなると考えられていることから、残存期間に比例して評価額は上昇するのです。

言い換えると、残存期間の長い地上権ほど相続税が高くなるのです。

なお、国税庁の財産評価基本通達27-4によりますと、地下鉄などの「ずい道」の所有を目的として設定した区分地上権の評価については、30パーセントの割合を用いることとされています

また、レアケースだと考えられますが「立木一代限り」、つまり木の所有を目的として地上権を設定し、その木が伐採されたら地上権は消滅するとの内容で契約した地上権に対しては、「残存期間の不確定な地上権」として若干異なった評価方法を用います。

この場合、国税庁の財産評価基本通達53によりますと、木の伐採に至るまでの期間をその残存期間として上記の評価割合を乗じることになります。

以上を踏まえて、地上権に関する生前の相続税対策についても考えてみましょう。

これまでご説明したとおり、地上権は権利の残存期間に比例して相続税評価額ひいては相続税額が増えてしまう特徴を持っています。

そのため、まず現状の利用目的に照らして現時点における権利の残存期間が果たして適切か否かを分析することが必要になります。

もちろん、ご自身が亡くなったあとも相続人が引き続き当該地上権を必要とするか否かの見極めも重要です。

この結果次第で、地主の合意を前提に地上権契約期間の短縮化・地上権契約の解除・地上権から定期借地権への移行、あるいは第三者への売却などを検討する必要があります。

いずれの場合も、税理士などの専門家と相談しながらシミュレーションを行うことをお勧めします。

そして、地上権に限った話ではありませんが相続財産として遺す場合は遺言を用意しておくと良いでしょう。

これが相続人の間における揉め事を回避するための最良の対策となります。

地上権と貸借権

貸借権とは

地上権とともによく使われる言葉で貸借権という言葉があります。

貸借権とは、地上権と同じく他人の土地を借りて、その土地に建物を所有する為の権利の事です。

実際の契約で結ばれる事が多いのは圧倒的に貸借権の契約です。

理由は次の項目で述べる地上権との違いにありますが、ひと事で言えば、貸借件の方が地主にとって有利な内容になっているからです。

それでは、それぞれの違いに関して見ていきましょう。

地上権と貸借権は何が違う?

地上権・貸借権は非常に紛らわしい言葉ですが、どんな差があるのでしょうか。

地上権と貸借権を合わせて「借地権」と言います。

借地権については借地借家法で定められています。

借地権とは、他人の土地で不動産を所有する為の権利をさします。

地上権も貸借権もその点においては同じなのですが、いくつかの特徴に違いがあります。

1つ目は、地上権は所有権と同様に物権的な権利で、貸借権は契約で定める債権的な権利の意味合いをもつ点です。

地主は地上権の登記に応じる責任があり、登記されれば土地の持ち主に変更があった場合も権利は存続出来ます。

他方貸借権は、土地の持ち主に変更があった場合、権利の存続を主張する事ができません。

貸借権の登記は義務ではない為、登記されないケースが多いです。

2つ目の違いは権利の強さです。

地上権は、先にも述べたとおり、地主の許しがなくても、他人に譲り渡したり賃貸する事が出来ます。

他方で貸借権は地主の方が権利が強く、登記をする場合も地主の許可を得る必要があり、貸借権を持っているからといって、権利者が一存でその土地を譲渡したり賃貸する事ができません。

3つ目の違いは、権利の継続する期間です。

地上権は期限の設定がなく、永久に存続する事も出来ます。

他方、貸借権は、期間が定められており、必要に応じて両者の合意の上で更新する事が出来ます。

基本的には貸借権は目的を終えた際に土地を地主に返す事が前提の権利です。

このように同じ目的の為の権利を表す2つの言葉ですが、様々な違いがあります。

相続時は貸借権に関するトラブルが起きやすい

実は、相続のタイミングは貸借権に関する揉め事が起きやすいタイミングです。

貸借権はそのほかの財産と同様で相続する事が可能ですが、場合によっては地主から相続人に対して更新料や承諾料などの名目で費用を請求される可能性があります。

相続する際、どんな揉め事のリスクがあるでしょうか。

いくつかのパターンを見ていきましょう。

まずは、相続人が通常の相続ではなく遺贈であるケースです。

通常、相続する際には地主に対して相続した旨を通知するだけで、地主から特別な許可は必要ありません。

ところが、被相続人から遺贈を受ける場合は、承諾請求を行い、地主の承諾を得て貸借権の移転手続きを行う必要がありますし、承諾料を支払う必要があります。

次のケースは、相続した貸借権を売却したい場合に起きやすい揉め事です。

相続したタイミングでは、相続税を支払う必要がある為、貸借権を売却によって現金化したいと考える方も多いでしょう。

ですが、これまで述べてきた通り、売却には地主の許可が必要です。売却の許可を得る為には、承諾料を支払わなくてはなりません。

譲渡承諾料は借地権価格の10%程度が相場だと言われています。不動産は高額な資産の為、承諾料も高額になりがちです。

さらに、承諾を得る際、地主がスムーズに承諾してくれればいいのですが、何らかの理由によって不承諾になる場合があります。

その理由は様々ですが、地主が土地の活用を望んでいる場合や、過去に被相続人との間で揉め事などがあったという可能性もあるでしょう。

不承諾になった場合は家庭裁判所へ申し立てをし、許可を得る為の手続きを行う事が出来ます。

しかし、それでも申し立てが却下される場合はあります。

最後のケースは、相続人間で相続に関して揉め事が起こるケースです。

不動産の貸借権は、遺産分割が必要な財産です。つまり相続人の法定相続分に応じて、権利を得るという事です。

相続によって権利だけではなく、賃料の支払いも負の財産として相続されます。

遺産分割の手続きを進めている間も賃料は発生しますので、誰が支払うのか不明確になっている期間に滞納が起こらないよう十分注意して、地主と揉め事になる事を避けましょう。

問題がありそうなときは早めに専門家に相談を

これまで見てきたように貸借権の相続時は揉め事が起きやすいタイミングでもあります。

不動産の相続には複雑な手続きが必要で、土地の種類や権利の種類によって行う内容も全く異なります。

全く経験のない人が自分で全てやろうとすると、大変な労力を要する上に、正しい手続きが行われておらず、後々大きな揉め事にもなりかねません。

地上権や貸借権に関しては相続人だけではなく地主という利害関係者も関わっていますので、より慎重に相続を行う事が求められます。

さらに、不動産の相続税に関する計算は非常に複雑で、専門的な法律や税の知識の有無によって、収める相続税が大きく変わるケースがあります。

後々、知らなくて揉め事を大きくしてしまったり、相続税で損をしたと感じないよう、少しでも問題があると感じたら、早めに相続の専門家に相談をしましょう。

専門家にはそれぞれ得意な分野があり、出来る事と出来ない事があります。

あなたの依頼の目的を明確にし、目的にマッチした不動産の相続に関するプロフェッショナルを探しましょう。

まとめ

地上権の基本的な概要と相続税評価額の算出方法についてはご理解いただけたかと思います。

地上権は所有権以外の不動産に対する権利の中では相対的に資産価値、ひいては相続税評価額が高い資産であり、相続した際は地上権の残存年数次第で高額の相続税が課される可能性があります。

したがって、相続発生後の土地に対する利用目的や期間などを考慮しながら、被相続人の生前から適切な対策を取っておく必要があります。

難しいこともあるかと思いますが、もし今後ご両親などのご家族から地上権を相続する可能性があれば、相続税対策について一度話し合ってみてはいかがでしょうか。

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監修者太田諭哉
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公認会計士・税理士
自身の親族の相続を経験し、複雑で難解な手続の数々を特別な知識がなくても簡単にできる方法を提供しようと思い立ち、『すてきな相続』を設立。
一般家庭の相続や申告のサポートはもちろん、会社の相続ともいえる、中小企業の事業承継にも早くから取り組んでいる。
日本公認会計士協会東京会渋谷地区会長。

執筆
「小説で読む企業会計」(法学書院)
「公認会計士試験合格必勝ガイド」(法学書院)
「オーナーのためのM&A入門」(カナリア書房)
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