2019年1月30日 水曜日
農地相続時にかかる相続税は?相続税評価や手続き方法
土地や建物の相続の中でも珍しいケースが農地の相続です。
農地の相続では一般的な不動産の相続とは異なった手続きなどが必要となり、ミスや手続き忘れが起きてしまうことがあります。
そこで、適切に農地の相続をするために、必要な手続きや相続税評価などを詳しく解説していきます。
農業委員会に届出を出す
農地を相続した場合、相続したことを農業委員会へ届出なければいけません。
では、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
相続登記をする
農地を相続した場合、相続登記を行いその土地の名義を相続人へ変更します。
相続登記は土地の種類にかかわらず行う必要がありますが、期限などの定めはありません。
そのため、相続登記を行わなくても法律上問題なく、罰則もないため手続きをしていない方もいます。
ただし、相続登記をしなければその土地があなたのものと認められません。
つまり、相続した農地を売却したり造成したりすることができず、トラブルに巻きこまれるリスクがあります。
したがって、農地を相続したら必ず相続登記を行いましょう。
農地相続等の届出書を提出する
農地は国の食料自給率に直結し、将来の食を担う重要な土地です。
そこで、農業委員会は農地を誰が所有し、全国にどれだけの広さの農地があるのかを管理し、最適な農地利用を促しています。
そのため、新しく農地の所有者が変更されたことを農業委員会への届出を行う義務が定められているのです。
相続登記には期限などが定められていませんでしたが、農業委員会への届出には「農地を相続したときから10ヶ月以内」という期限が定められています。
また、農業委員会への届出を行わなかった場合や嘘の届出を行った場合には10万円以下の過料が科されます。
特に、相続の場合は遺産分割協議が長引いてしまうと、知らない間に期限を過ぎてしまう場合があります。
このような場合には、遺産分割協議が終わる前に相続人全員を名義とした相続登記を行い、農業委員会への届出をします。
そして、遺産分割協議を終えた後に、該当の相続人が改めてこれらの手続きを行うようにしましょう。
必要となる書類
農業委員会への届出には以下の書類が必要です。
- 農地の相続等の届出書
- 相続登記済みの登記事項証明書など相続したことを確認できる書面
必要書類を見て分かる通り、相続登記をしなければ農業委員会への届出を行うことができません。
つまり、相続登記に時間をかけてしまうと農業委員会への届出の期限がなくなってしまうため、どれだけ早く相続登記ができるかが重要なポイントになっています。
相続登記は法務局へ出向く他にも、郵送やインターネットなどでも行えるため、不備がないように書類を揃えてスムーズに終えましょう。
また、農地の相続等の届出書には、土地の住所や面積など詳細な情報を記載しますので、書類を書くための必要な書類もあわせて準備しておきましょう。
農業委員会の許可が必要な場合
もともと農地を誰かに譲る場合には農業委員会から許可がなくては行なえません。
もし、農地を売買する場合にこの許可がなければ売買は無効になり、誰かに譲ることもできません。
ただ、相続は個人の意思により誰かに農地を譲る訳ではありませんので、強化がなくても相続人が農地を相続することができます。
しかし、下記のような相続に伴う所有権の移転がある場合には、農業委員会からの許可が必要となります。
- 相続人ではない人への特定遺贈
- 死因贈与
例えば、お世話になった方へ農地を指定して遺贈させる場合や、亡くなったら譲ることを約束していた場合です。
この場合には、被相続人が亡くなる前に農業委員会の許可を得る必要がありますので、あらかじめ手続きを行っておきましょう。
また、遺贈を受ける場合以下のような条件に当てはまると許可をもらうことはできません。
- 取得後に耕作をしない、効率的に使用しない場合
- 農業生産法人以外の法人が取得する場合
- 取得後の農業経営面積が50アールに満たない場合
- 常時農作業に従事しない場合
- 周囲の農家と協力しないと認められた場合
まとめると、農作業を専業としない限りは、遺贈だとしても譲り受けることができないのです。
ただ、それぞれの条件は細かく定められていますので、必ず農業委員会へ確認してから手続きを進めましょう。
そして、遺贈したい方がいる場合には今後の農地の活用方法までしっかりと話し合ってから、遺贈についての手続きをすることが余計なトラブルを招かないためにも必要です。
農地の相続税評価
続いて、農地の相続税を算出するための相続税評価方法について解説していきます。
農地の種類
農地の相続税評価方法は、その農地の分類によって変わりますので、まずはどのような農地があるのか、その分類を確認していきましょう。
- 純農地:農用地区に区内ある農地、甲種農地、第1種農地
- 中間農地:第2種農地
- 市街地周辺農地:第3種農地
- 市街地農地:農地法の規定による転用許可を受けた農地、転用の許可を要しない農地として都道府県知事の指定を受けた農地
また、この区分は以下のように農地の特徴からも判断することができます。
- 第1種農地:10ヘクタール以上で、原則農地転用ができない
- 第2種農地:駅から500m以内にあるが、農地として発展する見込みがない
- 第3種農地:駅から300m以内にあり、都市整備区域や市街地区域にある
基本的に第1種農地以外は農地転用が認められていないという特徴もあります。
農地の区分によって相続税評価以外にも特徴が異なりますので、相続後の活用方法などを考えるためにも、まずは相続する農地がどの区分に該当するのかを確かめておきましょう。
農地の評価方法
農地の相続税評価方法は、区分によって以下の方法が用いられます。
- 純農地:倍率方式
- 中間農地:倍率方式
- 市街地周辺農地:市街地農地であるとして評価した金額の80%
- 市街地農地:宅地比準方式、または倍率方式
多くの農地で使用されている倍率方式とは、固定資産税を算出するための評価額を用いて計算する方法です。
固定資産税評価額には土地の種類や区分によって特定の倍率が定められています。
そのため、固定資産税評価額に田畑の倍率として定められた割合をかけることで、純農地などの相続税評価額を求めることができます。
また、宅地比準方式とは農地を宅地としてみなして評価をする方法で、路線価を使用して算出します。
ただ、農地を宅地とする場合は造成費が必要となります。
したがって、宅地としてみなした価格から造成費を差し引いた価格を基準にして計算します。
市街地周辺農地では宅地比準方式で求めた評価額を基準に計算しますので、この宅地比準方式をマスターしておくことが特に重要となります。
具体的な計算例
それでは以下の例を用いて実際の評価額を計算してみましょう。
- 固定資産税評価額:1,000万円
- 倍率:0.8
計算式は「固定資産税評価額×倍率」ですので、1,000万円×0.8となり評価額は800万円であることが分かります。
また、以下の例で宅地比準方式について考えてみましょう。
- 路線価:20万円
- 奥行き補正率:0.9
- 1㎡あたりの造成費:5万円
- 面積:50㎡
まずは宅地としての評価額を「路線価×奥行補正率」で計算します。
すると、20万円×0.9=18万円となります。
そして、宅地比準方式の計算式である「(宅地としての1㎡あたりの価額-1㎡あたりの造成費)×面積」に当てはめて計算します。
(18万円-5万円)×50㎡=13万円×50㎡=4,500万円となるため、評価額が4,500万円だと算出できます。
また、市街地周辺農地の場合はこの金額の80%となりますので、3,600万円と計算ができます。
このように区分によって計算方法が変わり、必要となるデータや数字も異なりますので、しっかりと区分を把握することが適切な評価を求めるための重要なポイントです。
納税猶予制度とは
農地の相続を行う場合、相続税の納税猶予特例が定められています。
では、この特例はどのような制度なのでしょうか?
概要
農地を相続すると評価額に応じた相続税を納める必要があります。
ただ、農地を相続した人が全員農業を続けるかどうかは分からず、納税のために農地を売却するという人が増えれば日本の食料生産に大きな影響を与えてしまいます。
そこで、農業を継続する方の支援となるために、相続税の納税猶予特例が定められたのです。
ただ、特例には「猶予」とありますが、実際にはそのまま免除となることがほとんどのため、この特例を活用することで相続税を大きく削減することが可能です。
また、この特例は相続税だけでなく贈与税も軽減させることができるため、知っているか知らないかで納めるべき税金が大きく変わる特例であることも覚えておきましょう。
納税猶予の特例の適用要件
相続税の納税猶予特例を適用させるためには以下のいずれかの要件を満たさなければいけません。
相続人 |
|
農地 |
|
重要なポイントは、農業を継続することです。
継続というとその後も続けることだけ考えていますが、そもそも相続をする前から農業を行っている必要があります。
そのため、被相続人が農業を行っていた、あるいは誰かに農地を貸して農業を行っていたことも特例の適用要件となっているのです。
また、この特例が適用されるのは、本来の課税額から国税局が定めた農業投資価格による税額を差し引いた部分のみです。
基本的には納める税額は大きく減額されるのですが、全てが猶予対象となるわけではありませんので注意しましょう。
納税猶予の手続き
納税猶予特例を適用するには、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出します。
手続きの際には以下の書類を添付する必要があります。
- 相続税の納税猶予に関する適格者証明書
- 相続税の納税猶予の特定貸付に関する届出書(特定貸付を行っている場合)
- 担保として提供する財産の明細書、その他担保の提供に関する書類
納税猶予特例を適用するためには、猶予がなくなり相続税が支払えなくなった場合の担保を提供する必要があります。
そのため、担保として提供する財産の書類も手続きには必要です。
また、納税猶予特例には3年ごとに以下の書類と一緒に継続届出書を提出する必要があります。
- 相続税の納税猶予の継続届出書
- 農業を引き続き行っている旨の農業委員会の証明書
- 営農困難時貸付け、または特定貸付に関する農業委員会の証明書(貸付の場合)
- 特例農地等の異動明細書(譲渡などの異動があった場合)
- 特例農地等に係る農業経営、または貸付に関する明細書
もし、継続届出手続きを行わない場合には、猶予されていた相続税と利子税を納めなければいけません。
ただし、猶予を受けていた相続人が死亡したときや20年継続して農業を行った場合などには、納税自体が免除されますので有用は解消されます。
しかし、免除される前に農業を廃業した場合や譲渡した場合などには、同様に猶予されていた相続税と利子税を納める必要があります。
したがって、猶予の申請を行う場合20年間は継続しないと高額な相続税と利子税を支払わなければいけないため、よく考えてから納税猶予特例の手続きをしましょう。
農地がいらない・農業を継がない場合の対処法
相続放棄
農地がいらない、農業の継承を希望しないケースでは、相続を放棄するやり方があります。
その名の通り、相続開始後に手続きを経る事で相続の権利を放棄するという内容です。
不要な農地を放棄でき、相続税も不要になるやり方です。
不動産は相続税が高額になりがちで、保有しているだけで維持管理が負担になりますし、固定資産税の支払い義務が生じる為、手放したいと考える人も多いでしょう。
一度保有すると、土地の所有権は簡単には放棄出来ない為、相続するタイミングが所有権を放棄する絶好の機会となります。
ただし、相続放棄のデメリットは、その他に財産があった場合一緒に放棄されてしまう為、相続時の売却益や売却コスト、相続税等をトータルで考えて、農地を放棄すべきか検討した方が良いでしょう。
また、相続権のある人が相続放棄すると、その権利が次の相続順位の相続人に移ります。
もし、相続人の誰も所有したくないと考えているなら、全ての相続人が相続を放棄する手続きを取らなくてはなりません。
相続権の放棄には期限が決まっており、原則相続を知った時点から3ヶ月以内に手続きを行わなくてはなりません。
繰り返しになりますが、相続放棄は農地の相続を避けたいケースには有効なやり方ですが、そのほかの全ての相続権を手放すという事を意味しますので、よく考えた上で手続きを行いましょう。
農家へ売却
相続した農地を農家へ売却するやり方もあります。
相続税の支払いの為に、使用予定のないものは売却して現金化したいと考える方も多いでしょう。
しかし、売買には実は高いハードルが存在します。
その理由は、農地は食料を生み出す国全体の財産だという思想がある為です。
売買するには農業委員会の承認を受ける必要があります。
農業委員会から承認を受ける為には、売る相手が、農業に関して求められる水準を超えていなくてはなりません。
農地を全て使用するか、耕作面積の広さや、農業機械の有無、農業を常に行うか、農業従事者が足りているか、などが基準となります。
農地は農業を始めたいという人が気軽に購入する事が出来ないような仕組みになっている事がわかるかと思います。
既に近隣で農業を行なっている人で買い手がつけば良いのですが、それが出来ないケースは買い手を探すのも労力がかかると思っていた方がいいかもしれません。
農地転用を行ってから売却
売却にはかなりの制約がある事を上記で述べました。
農地のまま買い手を見つける事が難しそうだと感じた場合、転用というやり方があります。
農地転用とは、「農地を農地以外のものにする事」を指します。
転用をする為には、農地法で厳しい制約がかかっており、農業委員会か都道府県知事の承認を得なくてはなりません。
そもそも農地には転用出来る土地と出来ない土地が存在します。
その基準は、農業に適した土地であるかどうかが鍵になっています。
高い収穫が期待される土地ほど転用が難しくなっています。
逆に、鉄道の駅から近く、今後市街地として発展が期待されるような周辺環境に位置する立地なら、転用の見込みがあります。
まずは、自分が相続する農地の種類を確認し、転用の可不可を確認しましょう。
ただし、買い手がつかない場合もある
今までに売却の2種類のやり方を紹介しました。
農地として売却できそうなケース、もしくは転用で売却できそうなケースはいいのですが、いずれのやり方でも売却出来ない見込みはあります。
農地の売却はそのほかの土地と比べて売却の難易度が高く、時間がかかる事も覚悟しておかなくてはなりません。
生産性の高い有用な土地であれば、他の農家へ売却出来る見込みはありますし、都市化が著しい場所に位置する土地であれば、転用で売却出来る見込みは高いでしょう。
しかし、いずれにも該当せず、農地としても転用しても魅力の低いケースというのは存在します。
そもそも、農業の後継者がいないという事は、それだけその土地の収益化が困難という事を意味します。
買い手がつかなかった時は、相続税に加え、今後継続的に固定資産税を支払わなければなりません。
もし、農地を相続するが不要か農業の継承を希望しないケースは、そのまま売却出来るのか、それとも転用によって売却出来る見込みがあるのか、そもそも相続を放棄すべきなのかという困難な選択を迫られます。
農地の扱いには農地法によって厳しい制約がある為、専門家の助けを借りながら、自分にとって一番いいやり方を検討する事が大切です。
農地に転用した場合、相続税の節税効果はある?
農地への転用によるメリット
前で述べたやり方とは逆のパターンになりますが、宅地から農地へ転用する事もできます。
例えば、もともと不要な住宅があったのですが、維持管理の手間を考え解体したとします。
解体後の宅地は、住宅用地として受けていた特例の恩恵がなくなってしまい、固定資産税が上がってしまいます。
実は、宅地より農地の方が固定資産税が優遇されており安いので、宅地から転用できれば、固定資産税を抑える事が出来るというメリットがあります。
宅地への変更は様々な制約があり、難易度が高いですが、逆の場合はそこまでの制約はありません。
先にも述べた通り、農地の相続税評価額の算出には固定資産税評価額が使われています。
固定資産税が抑えられるという事は、つまり、相続税を節税出来る事につながりますので、非常にメリットがあります。
農業も継ぐなら、相続税の納税猶予・免除の可能性も
お伝えしてきた通り、農地を相続し、相続人が今後も農業を継続するという条件であれば、一定の相続税を猶予・免除してもらえるという特例があります。
ですから、転用した土地で農業も継ぐなら、相続税の納税猶予・免除の見込みもあります。
ただし、相続税の納税猶予を適用する為の被相続人の条件に、下記のいずれかに当てはまる事、と定められています。
・死亡の日まで農業を行っていた
・生前に農地を一括贈与した
・死亡の日まで営農困難時貸付や特定貸付を行っていた
つまり、相続税を節税する目的の為だけに相続対象の土地を宅地からわざわざ農地へ転用するのであれば、名目上の変更だけでは相続税の猶予・免除の特例が適用されません。
相続税の猶予・免除には被相続人が農業を行っていた確かな実績が必要となります。
農業を継ぐかどうかで相続税の節税効果は大きく変わる
これまで見てきた通り、農地の相続にかかる相続税は、農業を継ぐかどうかで大きく異なります。
それは、繰り返しになりますが、農地の特性上、日本の食糧生産自給率に関わる国全体の重要な資産であり、より多くの農家に農業を継承してほしいという思想が根底にあるからです。
あなたに農地の相続の見込みがある場合、まずは自身が農業を継ぐかどうかを検討するべきです。
もし、農業を継ぐと決めたケースでは、相続税が猶予・免除される特例制度があり、相続税を節税出来る見込みがあります。
また、農業の継承を希望しない選択肢の場合は、農地を相続放棄する・農地として売却する・転用して売却するというやり方があります。
それぞれのやり方によっては相続税の支払いを避けられたり、現金化して相続税の支払いに充当出来るというメリットもありますが、デメリットや難しさも孕んでいます。
相続税に関する制度をしっかりと理解した上で、然るべき手続きをとり活用しましょう。
まとめ
農地は食料自給率にも関わる重要な土地だからこそ、さまざまな制度が定められています。
その結果、一般的な不動産の相続よりも手続きが増えてしまい、少々面倒です。
また、納税猶予特例は非常に優れた税制度なのですが、同時に将来の仕事や生き方まで決めてしまう重要な制度です。
そのため、申請期限は設けられていますが、安易に活用するのではなくしっかりと農業を続けていくべきかどうかを考えてから手続きを行いましょう。