2019年3月15日 金曜日
相続内容を秘密にできる秘密証書遺言とは
遺産相続のために遺言書を遺したいが、その内容は誰にも知らせず、秘密にしておきたい。
しかし、遺言書の存在だけは明確にしておいて、自分が死んだ後に、確実にその遺言書を執行してもらいたい。
このように思うとき、あなたはどうしますか?
遺言書にはいくつか種類がありますが、上記のような状況にぴったりな「秘密証書遺言」について解説していきます。
相続時に使う遺言
内容を明かさない秘密証書遺言とは
秘密証書遺言の存在意義
秘密証書遺言とは、その名の通り、遺言内容を明かさないまま、その遺言書の存在と、その遺言書が間違いなく、本人が作成したものであることが証明された遺言書のことです。
秘密証書遺言は、遺言書原本は遺言人が保管しますが、公証人が秘密証書遺言作成を依頼されて、実際に作成したという事実は、公証役場に記録されます。
そして、遺言者が亡くなった後に、遺言者作成の秘密証書遺言が存在することを証明してくれます。
秘密証書遺言の作成は簡単!
遺言者が作成した遺言書を持参して、証人2人を連れ立って公証役場に行って、公証人の前で遺言書を出します。
中味は見せないまま、公証人と証人2人の前で、遺言者は遺言書を封書に入れます。
公証人と証人2人は、遺言書を遺言者が間違いなく作成したことを確認します。
そして、公証人が封書の表にその旨を明記し、日付と署名押印をします。
公証人に続き、証人2人も各々署名押印し、最後に遺言者本人も署名押印します。
この封書をのり付けして封印します。
これで、秘密証書遺言は完成です。
この秘密証書遺言を、遺言者本人が持ち帰って、保管します。
最も使われる自筆証書遺言書とは
全文自筆で作成する遺言書なので、自筆証書遺言といいます。
遺言書であること、具体的な遺言内容、日付、署名押印がもれなく明記されている必要があります。
遺言内容が法的に有効な遺言書かどうかを家庭裁判所が検認するのは、遺言者が亡くなった後になります。
遺言内容は、具体的かつ誰が読んでもわかる内容、また、誰でも読める丁寧な文字でなければ、裁判所の検認時に無効とされてしまう可能性もあります。
全文を消えない筆記用具で自筆していること、署名押印をしていることで、本人が作成した証明ができます。
書き損じの訂正方法は、法で定められていますので、もし訂正方法だけが間違っていた場合でも、遺言書が無効となってしまいます。
そのため、書き損じたときは、面倒でも初めから書き直すことをおすすめします。
日付の明記は、遺言書が複数ある場合に、日付の新しい方が有効な遺言書となります。
遺言書が一つしかない場合でも、日付が明記されていなければ、その遺言書は無効です。
この遺言書が最も使われる理由は、手紙を書くのと同じように、手軽に作成できるためです。
さらに、2019年1月から、財産目録の作成にかかる負担も軽くなりました。
遺言書の添付資料に限って、手書きではなくても、預貯金の通帳のコピーや不動産登記簿のコピー、証券のコピー等を利用してよいことになったのです。
そのため、番地の書き損じ、預貯金の口座番号や預金の種類の書き損じ、書き忘れなどで遺言書が無効となる心配が、従来よりも少なくなりました。
また、2020年7月10日には、法務局の遺言書保管制度が実施されますので、法務局に自筆証書遺言の保管を依頼することもできます。
法務局に遺言書を預けると、遺言書全文の画像を全国の法務局で共有できるようにする作業の一環で、遺言書が法的に有効なものかどうかもチェックしてくれますので、家庭裁判所の検認手続きを省くこともできるようになります。
法的効力のある公正証書遺言とは
公正証書遺言は、遺言者が遺言したい内容を公証人が代筆して遺言書を作成してくれるので、家庭裁判所の検認手続きが不要となります。
公正証書遺言作成を依頼して、公正証書遺言ができあがったら、遺言者が公証役場でその遺言内容を証人2人と一緒に確認します。
内容に間違いがなければ、遺言者・証人2人が各々署名押印します。
最後に公証人が、日付・証明押印をして、公正証書遺言のできあがりです。
公正証書遺言は、裁判で争う余地のない最高裁判決と同様の効力を持った遺言書ですが、法定相続人の遺留分減殺請求権だけは退けることができません。
もし、公正証書遺言に法定相続人が不服を申立て、法定相続分の2分の1の遺留分を請求するために、遺留分減殺請求権を行使した場合は、提訴した法定相続人に遺留分を支払わなければなりません。
もちろん、遺留分減殺請求権を誰も行使しなければ、公正証書遺言どおりに相続は執行されます。
相続財産を秘密証書遺言で相続するメリット・デメリット
メリット
秘密証書遺言は内容を秘密にしたまま存在の記録が残る
前述した通り、遺言書の内容は秘密にしたまま、遺言書の存在だけを明確にすることができます。
できあがった秘密証書遺言は遺言者本人が保管しますが、遺言者が秘密証書遺言を○年○月○日に遺言者の依頼を受けて、証人2人とともに作成したという記録が、公証役場に残ります。
その記録には、遺言者本人の名前と、確認をした公証人、証人の氏名、日付が明記されます。
秘密証書遺言は封印するので、偽造や変造ができない
秘密証書遺言は、封書の中に入った遺言書を、公証人と証人2名が、遺言者本人が作成したものに間違いないと証明するものです。
後から別の遺言書に差し替えられたり、書き加えられたり、訂正されたりしないように封印するのです。
そのため、遺言書の偽造や、変造の心配がなくなります。
遺言書本文は全文自筆でなくても良い
秘密証書遺言は、遺言書が遺言者本人のものであることを公証人が証明してくれるので、全文自筆である必要はありません。
遺言書の本文は、ワープロやパソコンで作成した文書の印字、自筆のコピーでも第三者の代筆でも問題ありません。
全文自筆の場合は、間違えた際に書き直すのが非常に面倒ですが、ワープロやパソコンは修正が簡単です。
ただし、署名押印だけは、自筆と押印でなければなりません。
署名押印がパソコンの印字やコピーだと、遺言書自体が法的に無効となります。
デメリット
公証人の署名があっても家庭裁判所の検認が必要
遺言書の中味については、公証人・証人は確認しません。
そのため、遺言書が法的に有効なものかどうかはわからないので、公証人の署名のある秘密証書遺言でも、家庭裁判所の検認作業が必要です。
遺言者が保管するので紛失の可能性がある
公証役場に秘密証書遺言作成の記録が残るとはいえ、遺言者本人が遺言書を保管するので、遺言者が保管した場所を忘れてしまったり、第三者が遺言書を見つけて破棄してしまったり、隠したりして、遺言書が紛失してしまう可能性もあります。
遺言書がないと、家庭裁判所の検認ができませんので、遺言書は無かったことになってしまいます。
面倒な手続きと費用がかかる
公証人や証人の手続きが必要なので、公証役場において面倒な手続きと費用(11,000円の印紙代)がかかります。
また、遺言書を書き直したくなった際、自筆証書遺言であれば、ただ自分で新しく作成すれば良いのですが、秘密証書遺言はそうはいきません。
一旦作成したら、その遺言書の偽造・変造が不可能である事が大きなメリットですから、遺言書の変更をしたいときは、一から秘密証書遺言の造り直しが必要となります。
秘密証書遺言の作成方法
秘密証書遺言の簡単な作成方法を冒頭で触れましたが、さらに詳しく解説します。
まず、作成方法については、以下のように法で定められています。
遺言書には、加筆修正方法についても細かく法で定められていますので、訂正には要注意です。
少しでも不備があれば、無効となってしまいます。
民法970条 | (秘密証書遺言)
1項 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。 一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。 二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。 三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。 四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。 2項 968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。 |
参考条文
民法968条 |
(自筆証書遺言)
1項 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。 2項 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。 |
上記の法を踏まえて、作成の流れを、説明していきます。
まず、遺言者が法的に有効な遺言書を作成します。
作成した遺言書を持って、公証役場にアポイントをとってから、証人を連れて指定された時間に公証役場に行きます。
※証人がいない人は、公証役場で証人を探してくれることもあります(有料)ので、どうしても証人が用意できない場合は相談してみましょう。ここでは、証人を用意できたものとして、解説します。
公証人と証人の前で、遺言者が遺言書に押印した印鑑で封印します。
その封書を公証人の前に差し出し、公証人が、遺言者の住所と氏名を書いて、遺言者本人が作成したものに間違いないことを書き記します。
そして、公証人が署名押印をします。
また、公証人が秘密証書遺言を作成した日付も明記します。
公証役場の日付入印鑑を一緒に押す場合もあります。
その後、証人2人が署名押印し、最後に遺言者本人が署名押印します。
遺言者の印鑑は、遺言書本文の署名押印の印鑑と、封印した印鑑、封書の表に署名押印した印鑑は同じでなければいけません。
秘密証書遺言の訂正については、加筆修正した箇所に、署名押印と同じ印鑑を訂正印として押し、訂正箇所について、遺言書の最後に明記する必要があります。
加筆修正して訂正印を押すだけでは、無効となります。
この修正方法を間違えると、遺言書自体が無効となりますので、間違った場合は、初めから書き直すことをお勧めします。
秘密証書遺言作成で気をつけるべきポイント
秘密証書遺言の保管については慎重に
いくら公証人立ち会いのもと作成した秘密証書遺言であっても、その存在が公証役場に記録されていたとしても、秘密証書遺言の遺言内容は秘密です。
つまり、秘密証書遺言は、その存在の証明と本人作成だという事を公証人が証明しているに過ぎません。
そのため、秘密証書遺言の封書の中味の遺言書は、家庭裁判所の検認が必須となります。
そして、秘密証書遺言は、遺言者本人が保管します。
そのため、たとえば遺言者が認知症になった時などに、秘密証書遺言の保管場所がわからなくなることもあるかもしれません。
また、遺言者が入院したときなどに、法定相続人が遺言者に内緒で、秘密証書遺言を見つけてしまって、封書を開けたり、破棄したり、どこかに隠したりするかもしれません。
秘密証書遺言は、封書の封印を破った瞬間に、もう秘密証書遺言ではなくなります。
また、遺言書そのものを破棄・隠匿された場合は、遺言者の死後、遺言書原本が出てこない限り、家庭裁判所の検認ができずに、遺言書がないのと同じ状況になります。
上記が、秘密証書遺言の一番の注意点といってよいでしょう。
秘密証書遺言も自筆の方がお勧めかも?
また、秘密証書遺言は、前述したように、遺言者本人が作成したことを公証人と証人が証明しているので、遺言書本文に関しては、全文自筆でなく、ワープロやパソコンの印字で問題ありません。
封が開けられた秘密証書遺言は、その時点で秘密証書遺言ではなくなりますが、封書の中が自筆証書遺言であった場合に限り、遺言書の法的効力は維持され、家庭裁判所の検認を受ければ、法的に有効な遺言書として効力を発揮します。
秘密証書遺言のメリットとしての遺言書作成様式は、秘密証書遺言の形式に則った場合にのみ有効な特例です。
そのため、封印を破られた秘密証書遺言の場合、遺言内容がパソコンやワープロで書かれていたら、それはもう遺言書として認められません。
そこで、自筆証書遺言を秘密証書遺言にしていれば、秘密証書遺言として無効となっても、自筆証書遺言として有効であれば、家庭裁判所の検印を受けて、遺言書は法的効力を発揮できます。
ですから、もしもの時のことを考えて、秘密証書遺言も全文自筆の自筆証書遺言をお勧めします。
秘密証書遺言作成時の遺言者本人の印鑑は1つにする
秘密証書遺言作成には、遺言者の押印箇所は下記3つです。
- 遺言書本文の最後に署名押印する⇒遺言者本人の作成証明
- 封書をのり付けして封印のとき⇒遺言者本人が封印した証明
- 封書の表に署名押印するとき⇒本人の意思で秘密証書遺言にした証明
この3つの印鑑を同じ印鑑にする事で、全て遺言者本人の意思でなされた証明になります。
まとめ
この記事を読んで、「秘密証書遺言にする意味ってあるの?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、遺言者本人の名前と顔が一致しない等、筆跡だけでは遺言者本人のものかどうか信じることができないような人に財産を残したいときなどには、非常に役に立つでしょう。
会ったことのない昔の恋人の子供(遺言者の認知していない子)に財産を残すとき、相続人本人が信じないようなときに、公証人の証明は説得力があります。
また、遺言内容を家族に信じてもらえない可能性があるとき、その遺言書が亡くなった本人の意思で作成され、秘密証書遺言にまでしたという事実で想いが伝えられるので、本人の本当の願いであることを証明したい場合にも役立ちます。
たとえば、遺言者が亡くなった後に、「担当してくれていた介護士に全財産の半分を残したい」と書かれた遺言書が見つかったとき、にわかにその遺言内容を信じられず、相続人となる介護士の策略を疑われてしまうような時、公証人の存在は揺るぎないものです。
遺言内容が遺言者本人のものだと証明するのに、「公証人」は最高の証人になるからです。
遺言内容を秘密にしたい、遺言内容は遺言者の固い意思であると証明したい、遺言書の存在を証明したい、この3つの願いが揃ったときには、公証役場の面倒な手続きと費用をかけても、秘密証書遺言を作成する意義があるでしょう。