2019年3月14日 木曜日
相続には自筆証書遺言を遺しておくべき??
自分が亡くなった後、築き上げてきた財産を、「遺したい相手に思うように財産を受け継い
でもらえるように」という気持ちがあるなら、遺言書を遺しましょう。
また、法定相続では、財産を遺したい相手には十分な財産が遺せない場合も同様です。
しかし、遺言書の書き方やルールがわからない人もいると思います。
そんな方のために、この記事では、誰でも簡単に作成できる自筆証書遺言について解説します。
自筆証書遺言とは
遺言書作成のために必要事項とは?
お手紙を遺すようなかたちで、気軽に作成できる遺言書を「自筆証書遺言」といいます。
自筆証書遺言とは、その名の通り、全文自筆で書くもので、日付と署名押印の明記が絶対条件です。
この条件には、しっかりとした理由があります。
全文自筆は、本人が書いたことを証明するものです。
日付は、遺言書を複数作った場合、後の日付の遺言書の方が有効とされるので、もっとも新しい遺言書である事を証明するものです。
本人の筆跡と印鑑を使うことで、最終的な遺言者本人の意思であることを伝えることができます。
また、他人が書き換えたり、偽造されたりしないように、消すことができない筆記用具で書く事が前提となっています。
そのため、筆記用具は鉛筆やシャーペン、消えるボールペン等、改ざん可能な物で書かれた遺言書は無効となります。
これらの内容は、民法968条に定められています。
民法968条 | 自筆証書遺言 |
1号 | 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。 |
2号 | 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。 |
2019年からの自筆証書遺言
財産目録は、添付資料とすれば、自筆でなくても良くなった
これまで、自筆証書遺言は全文自筆が原則でしたが、財産が大量に遺っているため、列記するのが大変な人の場合は、財産目録を別途添付する旨を遺言書本文に自筆で書いて、財産目録だけワープロやPC、コピーを利用して作成することができるようになりました。
PC作成の場合は、コピーの代わりにスキャナで読み込んだり等、変換ミスや等の誤字脱字、転記ミスが防止できます。
また、財産が多くない場合でも、少しの誤記によって、「財産が正確でない」という理由から、遺言内容がすべて無効となることもあるので、通帳や不動産登記謄本、証券等のコピー、壷や宝石の写真も有効となりました。
この制度は、既に2019年1月から施行され、適用されています。
このように、自筆でない財産目録の内容は、あくまで遺言書本文ではなく、添付資料として認められています。
財産目録をPC等で作成した場合は、最後に自筆署名押印を、コピーの場合はそれぞれのコピー1枚につき自筆押印が必要です。
この自筆の署名と押印が、PCやコピー等の財産目録が遺言者本人の納得した財産の目録である事を証明します。
遺言書の保管を法務局がしてくれる制度ができた
現在、自筆証書遺言は自分で保管しなければならないのですが、2020年7月10日からは、法務局で保管することができるようになります。
また、法務局は遺言書を保管するだけでなく、遺言書が法的に効力のある正しい様式で書かれているかどうかのチェックも行います。
そのため、今まで遺言書は家庭裁判所の検認が必要でしたが、この検認作業が必要なくなります。
さらに、遺言書を預かった法務局は、その原本を保管するとともに、全国の法務局に、相続人の依頼の元、遺言内容や遺言書、預かっている証明書の画像データを共有します。
そのため、相続者は、お近くの法務局で遺言書の存在やその内容を確認することができます。
さらに、被相続人が亡くなった後に、相続人の誰かが遺言書の存在の確認を問い合わせると、他の相続人にも通知してくれます。
今までは、自筆証書遺言を作成しても、亡くなった後に保管しておいた遺言書が隠されたり、発見されなかったり、存在自体が無いものとされてしまい、遺言書が効力を発揮しない可能性がありました。
この法務局の遺言書保管制度を利用することで、遺された遺族も遺言書の存在の確認が近くの法務局でできます。
また、法務局がしっかり保管してくれますので、遺族に遺言書を隠されたり破棄されたりされる心配もなくなります。
2020年7月施行までに少し時間があるので、詳細な情報までは公開されていませんが、原本の保管をしてくれて、裁判所の検認作業も省略することができる便利な制度が、来年7月から施行されると覚えておくとよいでしょう。
相続時に自筆証書遺言が必要なケース
相続時に自筆証書遺言が必要なのは、どのようなケースでしょう?
- 子供のいない夫婦(遺された配偶者に全財産を遺したい)
- 内縁の場合(法定相続条件では、一般的に戸籍上の妻でない場合は相続できない)
- 不動産等、宝物、宝石等、分割できない財産がある場合
- 誰か特定の人に特定の財産を相続させたい場合
- 相続人がいない場合(一般的に全財産が国に帰属されてしまう)
- 相続に特定の条件をつけたい場合
- 法定相続人でない人も相続人に加えたい場合
上記のように、民法で定められた相続方法では、大切な方に財産を遺せない場合に、自筆証書遺言の作成をお勧めします。
ただし、遺言内容が最優先されるとしても、民法の法定相続人には、遺留分減殺請求権が保証されています。
遺言書の内容に納得できない法定相続人は、遺留分減殺請求権を裁判所に申し立ててれば、その権利が認められて、法定相続分の2分の1を相続することができます。
ただし、相続欠格者の場合は、その権利はありません。
相続欠格者とは、法定相続に関して、下記のような妨害を故意に行った人のことをいいます。
- 遺言書を隠す・破棄する
- 遺言書を遺した方への殺人未遂・殺害
- 自分よりも優先順位の高い法定相続人への殺人未遂・殺害
- 遺言作成時の詐欺行為・脅迫等での不当な管掌
さらに詳しい内容は、下記民法891条に明記されています。
民法891条 | 遺言欠格事由 |
1号 | 相続人が故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、 又は至らせようとしたために、 刑に処せられた場合 |
2号 | 相続人が、被相続人の殺害されたことを知って、 これを告発せず又は告訴しなかった場合 |
3号 | 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた場合 |
4号 | 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、 これを取り消させ、 又はこれを変更させた場合 |
5号 | 相続人が、相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合 |
自筆証書遺言を遺しておくべき理由
自筆証書遺言を遺すことによって、法で定められた法定相続人の法定相続分よりも、遺言に書かれた内容が優先されます。
例えば、子供のいない夫婦で、夫が先に亡くなった場合で、遺された財産は家と土地、預貯金は500万円程度だったとしましょう。
この夫には、母親と姉がいます。
この場合、直系尊属の母親が生きていますので、法定相続人は、妻と夫の母親になります。
妻と義母(夫の母親)が同居している場合は何の問題もないのですが、義母が姉夫婦と同居していた場合、家・土地(2400万円相当)と預貯金600万円を妻が3分の2、義母が3分の1となります。
相続財産である家と土地を、妻と義母で分割するには、売却するしかありません。
そうなると、夫婦で築いた財産にも拘わらず、妻が住む家を無くしてしまうわけです。
このようなケースで「全財産を妻に遺す」という自筆証書遺言があった場合、この遺言書が優先され、住む家を失わずに済みます。
しかし、義母が「遺留分減殺請求権」を家庭裁判所に申し立てることも考えられます。
その場合は、不動産と預貯金を合わせて3000万円相当の財産のうち、義母の法定相続分は1000万円なので、その半分の500万円を義母は遺留分を請求されるはずです。
その場合でも、妻は預貯金から500万円を支払えば、住居まで失う目に遭う心配はありません。
このように、遺留分請求権を行使される可能性がある場合、遺言書が無ければ妻は家を無くすことになるので、少しでも妻に財産を遺したいと思った場合は、必ず遺言書を遺すようにしましょう。
ちなみに、夫が亡くなった当時に、既に母親が他界していた場合は、妻と姉が法定相続人となります。
相続の取り分は、妻が4分の3、姉が4分の1です。
姉が遺留分減殺請求権を裁判所に申し立てた場合、姉の取り分は8分の1となります。
母親の取り分よりも、姉の取り分の方が少なくなります。
しかし、全員が遺留分請求権を行使するわけではないので、遺言書通りに財産は分割されるケースも多いですが、万が一遺留分請求権が行使された場合も考慮して、遺言書を遺すことをおすすめします。
また、法定相続人がいない場合は、遺留分請求権を行使する人がいないので、遺言書を遺すことで、自分の思うように、遺したい人に財産を遺すことができます。
ちなみに、法定相続人がいないうえ、遺言書も無い場合は、全財産が国に寄贈されます。
お墓の相続や、仏壇の相続等の遺留分請求権に該当しない遺言内容は、遺言書通りに遺言内容が実行されます。
財産相続に関係の無い、遺言執行人の指名、補佐人や成年後見人の指名、相続廃除や相続廃除の撤回等の手続き者の指名等も遺言内容は100%実行されます。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言の基本的な書き方とは?
全文自筆で法律に明記された内容が全て自筆で明記されていれば、法的効力を持つ自筆証書遺言となります。(民法968条を参照)
まずは、冒頭に「遺言書」と明記して、「私○○(被相続者の名前)は、右(横書きの場合は「下記」とする)内容の遺言を遺すものとします」と明記しましょう。
その後は、下記のようなルールのもと、遺言書を作っていきます。
- どの遺産を誰に遺すのか、相続に関する内容を具体的に明記する。
- 心情的な内容や遺したい言葉等があれば、「付記」として最後に簡単に書き遺すこと。
- 遺言内容の後に、お手紙の書式で日付(西暦あるいは元号による年月日)を書く。(日付スタンプは無効)
- 住所・名前(姓名)を書き、押印する。
- 鉛筆や消えるボールペンではなく、消せないボールペンや万年筆で書くこと。
- 書き間違えの訂正は法律で定められた方法でなければ無効。書き損じた場合は、可能であれば書き直した方が良い。
- 遺したい財産については、それぞれについて明確に記載すること。
- 財産の多い場合は財産目録を作成すること。
遺言内容について注意すべきこと
預貯金の場合は、通帳の記載通りに金融機関、支店名、預金の種類、口座番号を記載し、不動産の場合は登記謄本通りに地番まで明確に、誰が読んでも区分ができるように、正確に記載しましょう。
可能であれば、遺言執行者を指定しておくと、遺言書の存在確認や内容の執行がスムーズになります。
また、資産家のように莫大な遺産がある場合は、財産目録の作成が面倒かもしれませんが、不動産や預貯金、株等を漏れなく書くように気を付けましょう。
自筆証書遺言以外の遺言
秘密証書遺言とは
秘密証書遺言とはどういうもの?
秘密証書遺言とは、遺言内容は誰にも公開しないまま、その存在だけを公証人が証明し、その記録を公証役場に残すことができる遺言書です。
秘密証書遺言は、遺言書の中味の確認が公証人もできないので、家庭裁判所の検認が必要です。
さらに、保管についても自分の管理になるので、遺言書が存在すると公証役場に記録があっても、遺言書の保管場所がわからなくなったり、遺族に破棄されてしまった場合、公証人の証明や公証役場の記録は、意味が無くなってしまいます。
秘密証書遺言が役立つのは、本人の筆跡を知らない人、会ったこともない人などに遺言を遺し、財産を分け与えたい場合などです。
また、家族に遺言の内容までは伝えず、遺言書の存在だけを知らせておくことで、家族が遺言内容に納得していなくても、遺言内容を実行してくれると信じている場合にも適しています。
遺言書を秘密証書遺言にする方法
遺言者が封書に入った遺言書を作成します。
秘密証書遺言の場合、公証人が遺言者本人の遺言書であることを証明しているので、遺言書は自筆でなく、ワープロやパソコンで印字した文章で問題ありません。
自筆証書遺言が全文自筆であるのは、遺言者本人の筆跡で、遺言者本人の遺言書であることを証明するためです。
もし、秘密証書遺言の形式に則っていなかった場合でも、自筆証書遺言を秘密証書遺言にした場合なら、自筆証書遺言として効力を発揮できる可能性もあります。
遺言の確実性を上げたいのであれば、自筆証書遺言を秘密証書遺言にすることをおすすめします。
遺言者本人が作成した遺言書を公証人と証人2人の前で、公証人が封のされた遺言書を封書に入れて、その表に遺言者の遺言書である事を証明する旨と日付を明記し、公証人が署名押印をします。
次に、証人2人の署名押印、最後に遺言者本人の署名押印をして、その封書を封印するときに公証人の印鑑で封印します。
そして、公証人と証人の署名後の秘密証書遺言は、自分で保管することになりますが、公証役場に公証人が証明した日付と、秘密証書遺言の証明をした公証人の指名が記録されますので、遺言書が存在する証拠が公証役場に残ります。
公正証書遺言が使われるワケ
公正証書遺言とは?
公正証書遺言は、簡単に言うと、最も法的効力の強い遺言書です。
民法の定め通りに遺産分割をしたくない場合、自分が希望する分割方法で、相続人たちを争わせることなく、スムーズに財産を遺したい人に遺すことができます。
法律事務のプロである公証人(元検事・元裁判官等)が作成する遺言書なので、家庭裁判所の検認も必要ありません。
一般的に家庭裁判所の検認作業に2週間ほどかかるので、そのあいだは相続が確定できません。
公正証書遺言の場合、その期間の短縮ができます。
さらに、公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されますので、遺言書の存在の証明だけでなく、遺言が執行されるまで、遺言書を紛失・破棄される心配がありません。
また、第三者の介入によって、意に沿わない遺言ではなく、遺言内容が純粋に本人の意思であることを公証人が確認をしています。
そのため、公正証書遺言を遺した場合は、遺留分減殺請求権を行使する以外に、遺言内容を争う余地が皆無だといえます。
ただし、公正証書遺言作成後に生じた相続人都合の遺言欠格要件に関しての争いについては、関知していません。
公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言は、遺言者の遺言したい内容を遺言者に代わって公証人が代筆します。
財産目録、財産の分割の仕方、その他遺言内容等を法的に有効な形式で、法的に完璧な遺言書を、公証人が作成してくれます。
そして、公証人が作成した遺言書を遺言者が確認し、間違いがなければ、遺言者本人、証人2人、公証人のそれぞれの署名押印を列記して、公正証書遺言が完成します。
公正証書遺言の原本は、公証役場に保管されますので、遺言者本人に渡されるのは、その写しになります。
ですから、遺言者本人が持っている遺言書の写しを破棄しても、紛失しても、公証役場に原本がある限り、その効力はなくなりません。
しかも、公証人が作成した法的効力のある完璧な遺言書なので、家庭裁判所の検認も不要であり、その効力は揺るぎないものとなります。
ただし、この最も力を持った公正証書遺言でも、法定相続人の遺留分減殺請求権を妨げるわけではありません。
つまり、どのような遺言書を遺しても、法定相続人の誰かが、遺留分減殺請求を家庭裁判所に申し立てた場合、その法定相続人に、法定相続分の2分の1(遺留分)を分け与える必要があります。
誰も家庭裁判所に遺留分減殺請求権を申し立てなければ、遺言内容はそのまま執行されます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
民法が定める法定相続の方法以外で、あなたの財産を遺したい人に、思い通りに財産を分け与えたい場合は、遺言書を遺すことをおすすめします。
自筆証書遺言は、全文を自筆で書く遺言書なので、遺言書である事を冒頭に明記し、財産目録と財産分与に関して、誰が読んでもわかるように具体的に明記したうえで、日付と署名押印をしていれば成立します。
2019年1月から、財産目録については、間違いが発生しないように、預貯金なら金融機関の通帳の表紙のコピー(金融機関名・支店名・預貯金の種類・口座番号・名義が載っている部分)、不動産の登記簿のコピー、株の証書コピー、財宝の写真等を添付資料として自筆証書遺言につけることが許されるようになりました。
この改革によって、住所や口座番号の誤記等で、遺言書が無効となることを防げます。
また、2020年7月10日からは、法務局に自筆証書遺言を保管してもらう事もできるようになりますので、公正証書遺言にしなくても、遺言書の存在の証明や保管もできるようになります。
保管の際に法務局が遺言内容をチェックしますので、面倒な裁判所の検認作業の手続きを省略できます。
後世に遺したい大切な財産がある方や、守りたい親族がいる方にとって、遺言書の知識は終活に必須ともいえます。
また、秘密証書遺言や公正証書遺言、自筆証書遺言との違いを理解して、必要に応じてどの遺言書にするかを決めておきましょう。