2019年1月28日 月曜日
経営者が亡くなった場合、会社の相続はどうなる?
会社の経営者がなくなった場合、経営者が所有していた財産や負債は、相続財産となります。
会社の相続財産はどんなものがあり、相続税の課税対象となるのでしょうか?
今回は、会社の相続財産となるもの、会社法人組織の場合と個人事業主の場合をそれぞれ解説します。
株式の相続方法(上場株式と非上場株式)についても合わせて確認して行きましょう。
目次
相続財産となるものは?
会社の経営者が所有していた財産は、経営者が死亡した時点で所有していた財産のほぼ全部が相続財産にあたります。
相続財産は、現金、預貯金、有価証券、土地・家屋などの不動産など経済的価値のあるもの、貴金属、骨董品、自動車が挙げられます。
賃借権も相続財産となり、相続人は借家や借地をそのまま受け継ぐことになります。
相続財産はプラスになるものだけでなく、借金・債務などマイナスのものもあります。
▼プラスの財産
- 不動産(土地・建物)
一軒家、マンション、農地、店、貸地など
- 不動産上の権利
借地権など
- 現金・預貯金・有価証券
小切手、株価、貸付金、国債など
- ゴルフ会員権、著作権など
- 車、骨董品、宝石など
▼マイナスの財産
- 借金、銀行や人からの借入金
- 未払いの医療費などの債務
相続財産には、相続税がかかる財産と相続税がかからない財産があります。
課税対象となる意外な相続財産としては、ゴルフ会員権や著作権、名義預金などが挙げられます。
贈与・財産の引き渡しも、財産を受け渡している相続と同じとされて相続税が課税されます。
相続人が悩むのは、経営者に借金や債権があった場合にどうするかという問題です。
経営者の借金、ローン、クレジットカードの未払い残高、滞納している税金なども相続人に引き継がれます。
プラスの相続よりもマイナスが多い場合は遺産相続に詳しい弁護士に相談して、相続放棄することも検討すると良いです。
そして、経営者は連帯保証人になっていないかどうかも確認する必要があります。
経営者が死亡しても、連帯保証債務は原則として放棄できないため相続人に引き継がれます。
経営者の住宅ローンの残高が残っている場合は、「団体信用生命保険(団信)」に加入していれば保険が賄うため問題ありません。
遺産の中には相続できる財産とできない財産があり、相続税の課税対象も区別が困難です。
生前に準備ができる場合は、相続人が困らないように財産目録を作っておくことをおすすめします。
遺産相続の手続きは、弁護士などの専門家に相談してスムーズに相続できるように準備しておきましょう。
会社法人組織の場合
亡くなった経営者が会社法人組織の場合、何が相続されるのでしょうか?
会社法人組織の場合は、相続の対象は経営者が持っていた株式、貸付金など個人的な資産です。
役職の代表取締役は引き継ぐことはできません。
株式を相続することは、会社の株主になり、株主総会に参加して会社の重要な決定権が与えられます。
そのため、今後は会社の方針に関わり経営者になりたい気持ちがあれば株式を受け取ると良いです。
経営者が会社に貸したお金である貸付金も相続の対象になります。
株式を相続する場合は相続税がかかるため、株式にどれだけの価値があるのか把握しておく必要があります。
上場株式の評価方法は、以下の最も低い金額を評価します。
▼上場株式の評価方法
- 評価する日の終値
- 評価する月の終値の平均
- 評価する月の前月の終値の平均
- 評価する月の前々月の終値の平均
▼非上場株式の場合
- 類似業種批准方式…規模の大きな会社の場合
- 純資産価格方式…規模の小さい会社の場合、株主一人の分配額で評価
- 併用方式…中規模の会社の場合、⑴と⑵を併用する
遺産分配する場合は、基本的に相続者間で話し合って決めます。
ただし、法定相続分により、配偶者に1/2、残りを子供たちで等分することが決められています。
個人事業主の場合
経営者が個人事業主の場合、事業用の財産であったとしても全て個人の財産になります。
この場合、相続法定相続税の課税対象になり名義を変更しなければなりません。
個人事業主の相続は、事業用財産の債務も含まれるので相続税が課せられます。
しかし、所有者が会社であれば、その財産は相続財産には該当しません。
相続が発生したとしても所有名義を変更する必要はないのです。
何が個人用でどれが会社なのか区分けするだけでも、非常に困難な作業と言えます。
相続はプラスだけでなく、思ったよりも債務が多い場合は返済に苦労することになります。
そのような事態を避けるためには、分かりやすく事業内容が理解できる業務管理簿を作ることをおすすめします。
あまりに債務が多い場合は、相続を放棄することができますが、相続放棄の期限は相続人になってから3ヶ月以内です。
3ヶ月を過ぎてから気が付いても、債権を放棄できまずに後悔するケースも少なくありません。
そんな時は、生命保険に加入していれば、多額の債務を背負ってしまったとしても現金で精算できるので安心です。
株式の相続
株式を相続するには、納税対策や分割方法など前もって準備が必要です。
株式の評価額は相続した時点での時価で評価されますが、非上場株式の相続評価は簡単に計算できません。
非上場株式の相続評価は会社の総合的な要素で評価するため、専門的な知識が必要なので、弁護士・税理士に相談すると良いです。
相続する株式は、相続人が複数いる場合、遺産の分け方を決めるために遺産分割協議で決定します。
相続放棄したい場合は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申し立てをします。
▼非上場株式を相続する際の手続き
- 相続株式の調査する
- 株式を相続するため遺産分割協議書の作成する
- 非上場株式発行会社で株式名簿を書換する
- 株式の被相続人(亡くなった人)の準確定申告と相続人の相続税申告をする
非上場株式を相続するには、株券を発行している会社に直接問い合わせて調査します。
上場株式のように証券会社や信託銀行が管理をしていないため、時間と手間がかかります。
株式は遺産分割を行い、それぞれの相続人が何を所有するのかを明らかにするため、遺産分割協議書を作成します。
▼遺産分割協議の手順
- 相続人の確定
- 相続財産の確定
- 遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書には遺産分割協議で話し合って決めた内容が記載され、署名捺印を行います。
非上場株式の場合は、正確な評価額を計算しなければならないため、弁護士や税理士などの専門家に依頼すると安心です。
非上場株式の相続人が決まったら、非上場株式発行会社で株式名簿の書換を行います。
▼非上場株式発行会社で株式名簿の書換に必要な書類
- 株券(株券がある場合)
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本または戸籍全部事項証明
- 相続人全員の戸籍謄本または戸籍全部事項証明
非上場株式会社では、譲渡制限付株式を発行していることもあり、会社から株式の売渡請求をされる可能性があります。
会社側はふさわしくない人に相続されてしまうことを防ぐために売渡請求が行えるようになっています。
その場合は相続ではなく売渡金を得ることになります。
上場株式と非上場株式
まずは、上場株式の相続の手順をみていきましょう。
▼上場株式の相続の手順
- 相続株式の調査
- 株式を相続するため遺産分割協議書を作成
- 相続人が証券口座を持っていなければ口座開設
- 株式を相続人に名義書換(名義変更)
- 株式の被相続人(亡くなった人)の準確定申告と相続人の相続税申告
まずは、相続される株式がどこにどれだけあるのかを調査します。
上場株式は証券会社や信託銀行などが管理をしているため、問い合わせれば調査が可能です。
株式に関する書類が見つからない場合は、証券保管振替機構を利用します。
証券保管振替機構に登録済加入者情報の開示請求を行うと証券会社や信託銀行を知ることができます。
証券保管振替機構とは、株式の保管や受渡しの手助けをしている機関です。
調査後に株式を相続するために遺産分割協議書を作成します。
▼遺産分割協議の手順
- 相続人の確定
- 相続財産の確定
- 遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書とは、遺産分割協議で話し合って決めた内容を記載しており、誰が何をどれだけ相続するのかを記載して署名捺印を行います。
株式相続には相続人の証券口座が必要なので、持っていない場合は口座を開設します。
上場株式は電子化されるため、株式を相続するだけでも証券口座が必要です。
相続人の証券口座があれば、名義書換をすれば自動的に証券口座へ株式は移動されます。
▼株式の名義書換(名義変更)に必要な書類
- 株式名義書換請求書
- 取引口座引き継ぎの念書
- 相続人全員が同意したという文書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
相続する株式の名義書換(名義変更)に期限はありませんが、確定申告は死亡した日の翌日から10ヶ月以内までの期限があるので注意しましょう。
亡くなった人の準確定申告と、相続人の相続税申告を行い、相続税も税務署に申告することが必要です。
次に、取引相場のない株式である非上場株式の相続方法を見ていきましょう。
非上場株式を相続する場合、遺産分割協議や相続税の申告をするため、株式の評価額を割り出します。
▼非上場株式の評価額の決め方
- 評価上の株主の判定
- 会社規模の判定
- 類似業種比準価格及び純資産価格の算定
- 特定の評価会社の判定
まずは、相続した株について大株主か少数株主かを判断します。
大株主は株式を会社の支配や経営権の行使する目的、少数株主は株式の配当から利益を得ていた場合です。
非上場株式の評価額の決め方は、類似業種比準方式と純資産価格方式、これら2つの併用方式があります。
非上場株式の評価額については、非常に複雑なので弁護士や税理士などの専門家に相談すると安心です。
株式の相続に詳しい専門家は節税対策も行ってくれるので、一石二鳥です。
遺産分割協議を行う
経営者が亡くなり、遺産がある場合、誰にどのように相続させるという「遺言書」がない場合は、相続する人の「共有財産」となります。
共有の財産を、相続人の誰が何をどれだけ保有するのかを協議することを「遺産分割協議」といいます。
協議の内容を記載したものを「遺産分割協議書」といいます。
▼遺産分割協議書の作成
- 相続人の確定
- 相続財産(遺産)の調査
- 遺産分割協議を行う
- 遺産分割協議書の作成
相続人全員が合意すれば1人の相続人が全ての遺産を取得しても良く、法律で分配率は決められていません。
相続人が揃わない場合、遺産分割協議書が完成しても遺産分割協議をやり直して、遺産分割協議書を再度作成しなければなりません。
話がまとまらない場合は、裁判所が遺産分割の内容を提案する調停が行われます。
それでもまとまらないときは、裁判所が強制的に遺産分割の内容を決定します。
株式の評価額
非上場株式を相続した場合、相続税評価額がいくらになるのかを計算するのはとても困難です。
株式の相続税評価額は、通常の場合、被相続人が亡くなった日の最終価格が評価額となります。
しかし、非上場株式の場合は取引価格が定められていないためていないため、会社の総合評価で算出します。
▼非上場株式の3つの評価方法
1.類似業種比重方式
同じ事業内容の上場会社の株価の平均値に、1株あたりの配当金額や年利益金額、純資産価額の比重割合をかけて評価を行う方法。
2.純資産価額方式
非上場株式の企業の相続発生時の資産や負債から1株当たりの価格を算出する方法。
3.配当還元方式
配当金の金額から1株あたりの評価額を計算する方法。
非上場株式の相続税評価は、取引価格が定められていないため、相続税の評価方法が複雑で困難です。
正確に手続きするためには税理士など専門家に依頼することをおすすめします。
会社相続のための手続き
会社経営者が亡くなった場合の相続手続きは、株式会社の場合と個人事業の場合により異なります。
株式会社は法人にあたり、所有していた株式だけが被相続人の相続財産となります。
社長や代表取締役の役職、会社所有の財産は会社のものにあたるため、相続財産ではありません。
代表取締役を決めることができるのは会社の株主であり、代表取締役の地位は相続できないのです。
個人事業の場合は、事業用財産も含めた個人資産すべてが相続の対象となります。
生前から資産状況を明確にして、遺言書を残しておくと相続人は相続手続きがスムーズになります。
売却し現金化する
相続した株式を会社に売却する場合は、2つのやり方があります。
複数の相続人がいる場合は、相続人全員が証券口座を作り移管依頼書を作成して株式をその口座に移します。
しかし、このやり方は非常に手間と時間がかかり、株価は常に変動するため、相続人によって取得金額に差が出るデメリットがあります。
そこで、株式を現金化してから分割して相続すれば手もかけずに平等に分配することが可能です。
相続人一人が代表となり、すべて売却して現金化してから全員に分割する相続方法です。
代表する相続人だけが証券口座を開設すればよいので手間がかかりません。
後は、相続人それぞれが譲渡所得税を申告すれば良いだけなのでスムーズに現金化できます。
生前贈与を利用する
株を生前贈与する場合は、誰にいくら贈与するかを自由に決められるのがメリットです。
配偶者だけ、子供だけ、法定相続人に入っていない孫にも贈与することもできます。
さらに、生前贈与すると節税にも役立ちます。
相続の場合は全額を渡すため相続税がかかりますが、生前贈与ならば、小額ずつ渡せば贈与税を節約することが可能です。
贈与税は年間110万円までの基礎控除があり、110万円以下の贈与には贈与税がかかりません。
▼贈与税の計算式
(贈与財産価額−110万円) × 税率 − 控除額 = 贈与税
基礎控除額を超えた部分は10~55%の累進税率で課税されます。
死亡退職金扱いにしてもらう
亡くなった人の遺族(妻や子供)に支払われる退職金を死亡退職金といいます。
死亡退職金は相続税の課税対象になるので、死亡退職金を受け取った遺族は相続税を納めることになります。
しかし、死亡退職金の非課税枠があり、受け取った金額の一部または全部は非課税になります。
死亡退職金の合計額が非課税限度額以下のときは課税されません。
▼死亡退職金の非課税枠の計算方法
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
相続と事業承継の違い
事業承継とは会社の経営・事業を後継者に引き継ぐことをいいます。
地位や権利、株式や不動産などの資産を引き継ぐ話し合いが行われます。
事業承継は、会社の事業を親族などに継承されますが、事業譲渡は会社の事業を譲渡されます。
相続とは、遺産相続の遺産分割を利用して、後継者に株式を相続させることです。
経営者が亡くなった後の事業承継は相続の一部になります。
専門家に相談がおすすめ
今回は、会社の相続財産となるもの、会社法人組織の場合と個人事業主の場合をあげてみました。
非上場株式の相続は非常に手間と時間がかかり、専門知識が必要となります。
そのため、税理士または弁護士の専門家に相談することをおすすめします。