2019年2月27日 水曜日
相続の際に商標権は相続税評価対象となる?
相続財産は、きわめて多種多様です。
被相続人の職業によっては、商標権や特許権などの知的財産権が含まれている場合があります。
そのような相続財産があっても相続税評価で困らないように、本コンテンツでは相続における商標権・著作権・特許権・ゴルフ会員権の取り扱い、ならびに相続税評価方法についてご紹介します。
目次
相続税とは
相続税とは、被相続人から相続または遺贈(遺言の指定により遺産を取得すること)によって遺産を取得した個人に対し、その取得した遺産の額に応じて課される国税です。
相続税の納税義務者は、被相続人が死亡し相続が発生してから10ヶ月以内に税務署へ相続税を申告・納付する義務を負います。
なお、相続税はすべての相続財産や遺産を相続したすべての相続人に対して課されるわけではありません。
相続税法上の課税対象財産額から、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除や最大1億6,000万円の配偶者の税額軽減など、各種の控除可能額を超えた部分に対して相続税は課税されます。
相続税率
相続税率は以下のとおりです。別途算出された相続税評価額に以下の税率を乗じ、カッコ内の金額を控除して得られた額が相続税額となります。
・1,000万円以下:10パーセント(控除額なし)
・3,000万円以下:15パーセント(50万円)
・5,000万円以下:20パーセント(200万円)
・1億円以下:30パーセント(700万円)
・2億円以下:40パーセント(1,700万円)
・3億円以下:45パーセント(2,700万円)
・6億円以下:50パーセント(4,200万円)
・6億円超:55パーセント(7,200万円)
インターネットでは家族構成のパターンに応じた速算表を見かけますが、あくまで法定相続割合のみのケースに留まっています。
各相続人の相続税額は実際の分割割合に応じて変わりますので、この点に注意してください。
また、相続税は諸制度や法律などが複雑に絡み合っており、計算方法も煩雑です。
このため税金について何も知らない人が単独で申告をした場合、誤った知識に基づいた計算などにより必要以上に多額の税金を支払ってしまったり、あるいは過少申告となり税務署から追徴課税などが課されてしまうリスクがあります。
したがって、相続税の申告については多少の費用が生じたとしても税理士などの専門家に依頼することをお勧めします。
相続税評価
相続手続きは、遺産分割協議で相続人を決めて遺産分割により被相続人から名義人を変更し、相続税を申告・納付することで終わります。
相続税に関する一連の相続手続きで大きなポイントとなるのが、相続税評価額の算出です。
一部の資産を除き、相続税は相続財産の時価や取得価額にそのまま相続税率を乗じて計算するのではなく、決められたルールに基づいて相続財産を評価して得られた相続税評価額に対して相続税率を乗じて求められるのです。
相続税を計算するために相続財産の価額を評価するに際しては、国税庁による「財産評価基本通達」による方法で行います。
そして、その評価方法は相続財産の種類によって異なります。
平成31年1月現在における、相続税を計算するための主な相続財産評価方法は以下のとおりです。
宅地
・自用地(自分で使っている土地)…市街地およびその周辺の土地であれば路線価方式、それ以外は倍率方式で評価
・貸宅地(貸している土地)…自用地の評価額×(1-借地権割合)
・貸家建付地(貸家が建っている土地)…自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権
・借地権(借りている土地の使用権)…自用地の評価額×借地権割合
・貸家建付借地権(貸家が建っている借地)…自用地の評価額×借地権割合×(1-借家権割合×賃貸割合)
家屋
・自用…固定資産税評価額×1.0
・貸付用…固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
農地・山林
・純農地と中間農地、純山林と中間山林…倍率方式
・市街地農地、市街地山林…宅地比準方式または倍率方式
・市街地周辺農地…市街地用地としての価額の80パーセント相当額
上場株式
以下4つのうち、最も低い価額
・相続開始日の終値
・その月の終値の平均額
・前月の終値の平均額
・前々月の終値の平均額
投資信託
・ETFやリートなど、上場している投資信託は上場株式の評価に準じる
・上記以外の投資信託は、相続が発生した日に解約請求した場合に証券会社や銀行など指定金融機関から受け取ることができる金額
預貯金
・普通預貯金は、預け入れ残高
・定期預貯金は、預け入れ残高に既経過利子の額を加え、それから既経過利子の額から源泉徴収される所得税額を控除した金額
書画・骨董品など
・売買実例価額、あるいは価値鑑定に精通する人の意見による価格などを考慮した価額
商標権とは
商標権とは、知的財産権のひとつです。
商標には商品やサービスのブランド名やロゴマークなど、様々なものがあります。
自分が作ったこれらの商標を他人に勝手に使われることなく自分で独占的に用いるために、特許庁に出願し登録することで商標法所定の商標権が発生します。
商標権の存続期間は10年とされていますが、更新することで延長も認められています。
各権利の相続税評価方法
以下では国税庁の「財産評価基本通達」に基づいた商標権・特許権・ゴルフ会員権についての相続税評価方法をご紹介します。
相続人が複数いる場合は、どの資産について誰が相続するかということを遺産分割協議でしっかりと決めておく必要があります。
商標権
商標権も知的財産権の一種ですから、相続税の課税対象となります。
商標権は、将来受け取ることができるであろう補償金(収益)額の基準年利率による複利現価の合計額で評価します。
具体的には、「補償金値額×基準年利率による複利原価」でその年の分の評価を行い、これを目標とする年の数の分だけ計算し、それらを合計したものが商標権の相続税評価額となるのです。
特許権
特許権とは、知的財産権のひとつです。
新たに有用な技術を開発した発明者が特許庁に出願申請をし、特許査定を経て設定の登録がされたものについて、特許法所定の特許権が発生します。
特許権は、特許出願から20年経過した場合や、一定の期間内に相続人が現れない場合には消滅すると定められており、さらに特許料(毎年納付)を納付しない場合は消滅してしまいます。
したがって、速やかに被相続人の特許権について特許料の納付状況等の調査を実施し、特許庁長官に相続の届出を行う必要があります。
特許権者は、その発明を独占する実施権、他人に対して専用実施権、通常実施権を許諾する権利等を有します。
これらの権利は、財産権の一種であり、相続の対象となります。
しかし、遅滞なく特許庁長官に届出る必要があり、届出によって初めて効力が生じます。
特許権の相続税評価方法は、その特許権を自ら行使しているか、あるいは他人に行使させているかで異なります。
特許権を自ら行使している場合の計算式は、以下のとおりです。
これは営業権の相続税評価額の計算方法と同じです。
なお、営業権持続年数は原則10年とされています。
特許権の相続税評価額=超過利益額(平均利益額×0.5-標準企業者報酬額-総資産額×0.05)×基準年利率による複利年金現価率
特許権を他人に行使させている場合は、「補償金値額×基準年利率による複利原価」でその年の分の評価を行い、これを目標とする年の数の分だけ計算し、それらを合計して計算します。
つまり、商標権の相続税評価方法と同じです。
著作権
著作者の思想または感情を創作的に表現したものであり、美術・音楽・文芸・学術などの範囲に属するものを著作物といいます。
そして、著作物に対する著作者の権利を通常は広い意味で著作権といいます。
著作権については、申請・登録など特段の手続きを経ずして作者に発生します。
著作者の権利には、人格的権利である著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)と、財産的側面である著作権(複製権、上演権及び演奏権、上映権、公衆送信権等、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権及び翻案権等、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)があります。
このうち、著作者人格権は一身専属権であり、他人に譲渡することはできないため、相続の対象とはなりません。
一方で、著作権は知的財産権のひとつとして相続の対象となります。
著作権の相続については特別な手続等は不要です。
なお、実名の著作権の保護期間は、著作者が死亡してから50年が経過した時点と定められています。
海外では70年に延長されており、日本でも延長について検討されていますなお、既に日本でも映画の著作物の保護期間は、原則として公表後70年となっています。
著作権の相続税評価は、「年平均印税収入額×0.5×評価倍率」で計算します。
年平均印税収入とは、相続開始前3年間における印税収入の平均額です。
また、評価倍率とは複利年金現価率のことで、毎年の複利現価率を合計したものです。
ゴルフ会員権
ゴルフ会員権とはゴルフクラブのメンバーとなる権利のことであり、その実態ははゴルフクラブの株式とゴルフクラブの施設利用権を合わせたものといえます。
また、ゴルフ会員権は金融商品としての側面もあり、多くのゴルフ会員権が株式やETFのように市場で売買されており、時価で取引されています。
ゴルフ会員権の相続税評価方法は、そのゴルフ会員権の取引相場の有無により異なります。
また、預託金がある場合はそれについても評価します。
取引相場があるゴルフ会員権については取引相場(売価格と買価格の平均値)の70パーセントで評価し、取引価格に含まれない預託金がある場合は、その評価額を加算します。
取引相場がないゴルフ会員権については、未上場株式の評価に準じ類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式を用いて算出し、預託金がある場合はそれを加算します。
預託金については、それがすぐに返還を受けることができる預託金等である場合は当該金額そのもので評価します。
また、相続が発生しても一定の期間を経過しなければ返還を受けることができない預託金等については、その預託金に返還されるまでの期間(1年未満は1年に切り上げ)に応じた基準年利率による複利現価率を乗じて得られた金額で評価します。
なお、ゴルフクラブが破綻しプレーもできず預託金が戻ってくる見込みが無い場合、相続税評価額はゼロとなります。
また、プレーはできても預託金が戻ってくるか否か不明な場合は、いったん預託金をゼロと仮定して相続税評価額を算出し、相続税の申告・納付後に預託金が戻ってきた場合は修正申告を行うことになります。
商標権の移転登録申請方法
相続発生を原因とする商標権の移転登録は一般承継として扱われます。
商標権を相続する場合、商標法第35条の規定に従って相続する旨を遅滞無く特許庁長官に届け出ないと、その効力は生じません。
まず、特許庁のホームページから「相続による移転登録申請書」をダウンロードし、商標権の番号・登録の目的・被承継人(被相続人)の氏名住所・承継人(申請人)の氏名住所など必要事項を記載し収入印紙3,000円分を添付します。
この他、必要書類として戸籍謄本や除籍謄本など被承継人(被相続人)が死亡したことを証明する書面や、戸籍謄本や遺産分割協議書など承継人(申請人)が相続人であることを証明する書類があります。
特許庁に移転登録申請書および必要書類を提出し、不備がないと確認され受理されると、特許庁より書面を受け付けた日から原則10日で申請内容が登録原簿に記載されます。
さらに約2週間後、登録済通知書が普通郵便で承継人(申請人)へ送付されます。
これで商標権の移転登録申請手続きは終了です。
まとめ
以上、知的財産権など特殊な財産の相続税評価方法についてご説明しました。
知的財産権は補償金の額や年数を見積もることが難しく、場合によっては著作権や特許権の専門家の意見を取り入れなければならないこともあります。
つまり、恣意的に見積もることはできないということです。
したがって、もし知的財産権を相続することになった場合は、その評価方法や相談先のコーディネーターとして税理士に相談することをお勧めします。