2019年1月31日 木曜日
相続の専門家に相談する前に知っておくべきこと
相続するにあたり、さまざまな問題にぶつかることやトラブルに巻き込まれることがあるでしょう。
そんなとき、自力で解決するのはとても難しいことです。
相続について困った場合は、できるだけ早い段階で相続に関する専門家に相談することが有効的であると言えます。
なぜなら、相続をしなければならない状況であるということは、誰かを亡くし、心も体も弱っているときであり、無理をするのではなく、正しい知識を持った専門家に相談することで、余計な労力や時間を費やさなくてすむ状況をつくった方が今後のためによいからです。そこで、まったくの知識を持たずに相続の専門家に相談に行ってもいいのでしょうか。
できればある程度の予備知識を持ってから相談したほうがいいのです。
そこで今回は、相続の専門家に相談する前に知っておくべきことをご紹介いたします。
目次
相続とは
被相続人が死亡した場合、一定の親族(血族)関係にある法定相続人が財産上の権利と義務(借金などの負債も含む)を共同で引き継ぐことを相続と言います。
ただし、遺言書などで財産の一部を法定相続人以外の第三者に与えるといった主旨の記載があった場合は、この限りではありません。
これは遺言書の内容が優先される「遺言相続」の効力のためです。
しかし、いくら遺言で第三者に遺産を分け与える記載があったとしても、法定相続人の遺産の相続は遺留分といって、必ず相続できるもののため、遺言書の内容に不服がある場合は、遺産分割協議を行ったり、家庭裁判所に遺産分割調停手続をしたりすることが可能です。
また、相続には3種類の形式があります。
それらはそれぞれ「単純相続」、「限定承認」、「相続放棄」と呼ばれ、異なる特徴を持っています。まず、「単純相続」ですが、プラス財産もマイナス財産も関係なく、相続することを言います。
要するに、すべての遺産を相続することがこれにあたります。
また、「限定承認」は特殊な相続形式で、プラス財産なのか、マイナス財産なのかわからないときに選択する相続の方法です。
そして、「相続放棄」とは、マイナス財産である負債が多く、プラス財産を相続しても、法定相続人がマイナスになってしまう(負債を抱えてしまう)ときに行うものです。
相続放棄の場合、マイナス財産だけではなく、プラス財産も放棄しなければならないので、どうしても相続したいものがある場合は、適切な相続方法とは言えません。
また、相続放棄は相続開始とされる日から3ヶ月以内に行わなければならないという決まりがあります。
遺産が把握できておらず、遺産の調査をしていて時間が不足しており、間に合わないときは、家庭裁判所に承認または放棄の手続きの期間を延ばす申し立てをすることができます。
このように、相続には、種類があるため、一括りにすることは難しくもありますが、必ず何かしらの相続形式を取らなければならないので、自分が相続する遺産がどのような種類であるかを認識するのは、とても重要なことであると言えます。
各専門家の業務範囲
相続に関する専門家には、司法書士、税理士、弁護士、行政書士がいます。
各専門家は相続について、それぞれ異なった専門分野を持ち、相続に関する業務を遂行することができます。
その業務範囲をしっかり知っておくことで、相続トラブルに巻き込まれたときに迅速に的確な相談をすることができると考えられます。
司法書士
司法書士の業務範囲は非常に広く、専門家の中でも弁護士に並び、一番多くの業務をこなすことができます。
被相続人が亡くなったあとに相続人のために行う司法書士の業務範囲は下記の8点です。
- 戸籍収集などの相続人の調査
- 被相続人の財産の調査
- 遺産分割協議書の作成
- 相続した不動産の名義変更(相続登記)
- 家庭裁判所への遺言検認手続き
- 家庭裁判所への特別代理人申し立て手続き
- 家庭裁判所への相続放棄の申し立て手続き
- 家庭裁判所への遺産調停の申し立て手続き
また、司法書士は相続に関する専門家の中で唯一、不動産の名義変更(相続登記)を行うことができます。
不動産の名義変更(相続登記)とは、被相続人の遺産に不動産があった場合、不動産の登記名義を相続人に変更する手続きのことを言います。
この手続きは、不動産を相続する際には必ず行わなければなりません。
不動産の相続をすることがあらかじめわかっている場合は、司法書士に相談するとよいでしょう。
なぜなら、ほかの専門家に相続に関する相談や依頼をしても、最終的に不動産の名義変更(相続登記)を行うことになったら、司法書士に別途業務を相談し、依頼しなければならないからです。
税理士
税理士の業務範囲は、生前に被相続人が行う業務と被相続人が亡くなったあとに相続人のために行う業務の2つに分けることができます。
生前に被相続人が行う業務は、相続税の試算にはじまり、不動産や保険、生前贈与などの節税対策の提案、節税を意識した遺言書の作成です。
遺言書の作成は司法書士や弁護士でも行うことができる業務ですが、節税に重きを置いた遺言書の作成は税理士ならではと言えるでしょう。
また、被相続人が亡くなったあとに相続人のために行う税理士の業務範囲は、下記の4点です。
- 戸籍収集などの相続人の調査
- 被相続人の財産の調査
- 遺産分割協議書の作成
- 相続税の申告手続き
相続税の申告手続きは、専門家の中でも税理士だけが行える業務です。
このほか、相続税を多く納めすぎてしまったことがわかっときに行う相続税の還付金の申告も税理士が行える業務のひとつです。
このように、税理士は相続税に関することに特化した業務を行えるため、財産が多い場合は、節税なども含め、税理士に相談するとよいでしょう。
弁護士
弁護士も司法書と同じように相続に関する多くの業務をこなすことができます。
被相続人が亡くなったあとに相続人のために行う弁護士の業務範囲は下記の8点です。
- 戸籍収集などの相続人の調査
- 被相続人の財産の調査
- 遺産分割協議書の作成
- 家庭裁判所への遺言検認手続き
- 家庭裁判所への特別代理人申し立て手続き
- 家庭裁判所への相続放棄の申し立て手続き
- 家庭裁判所への遺産調停の申し立て手続き
- 遺産相続トラブルに関しての代理交渉
弁護士は遺産相続のトラブルが起こった際、遺産分割調停手続きなどの代理交渉を唯一行うことができます。
相続トラブルの内容が遺産分割に関わる問題だった場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
行政書士
相続に関する業務は、行政書士の対応範囲が一番狭いといった特徴があります。
被相続人が亡くなったあとに相続人のために行う行政書士の業務範囲は下記の3点です。
- 戸籍収集などの相続人の調査
- 被相続人の財産の調査
- 遺産分割協議書の作成
残念ながら、行政書士ができる相続手続きはすべてほかの専門家である司法書士、税理士、弁護士も行うことができます。
そのため、特化した部分が行政書士にはありません。
あえて言えば、料金が安いといったメリットではないでしょうか?
これは依頼できる業務が少ないことが理由なので、相続手続きの項目が少なく、料金を抑えたい人にとってはメリットであると言えるでしょう。
また、司法書士のところでも述べましたが、相続手続きはほとんどの場合、不動産を含んでいます。
相続手続きを依頼する場合、行政書士だけで手続きが終わることは稀であり、別途別の専門家に依頼せねばならず、費用がかさみます。
ただし、行政書士だけでなく、司法書士も在籍している事務所であれば、別途費用が必要にはならないので、多くの相続手続き業務が発生しそうな場合はあらかじめ司法書士も在籍している事務所を選択するとよいでしょう。
専門家選びの注意点
専門家を選ぶときは、自分が相続について悩んでいることやどのような相続トラブルに巻き込まれているかを理解しておく必要があります。
専門家には得意分野があるので、相続トラブルの内容に即した専門家を選ぶことが、相続トラブルの解決の早道となります。
相談内容を明確にする
まず、専門家を選ぶために、相談内容を明確にしましょう。
生前に遺言書の作成をしたいのか、遺産分割の配分が上手くいかずにもめているので協議をしたいのか、不動産を相続することになったものの、自分が何をしたらよいのかわからないので教えてほしいなど、さまざまな悩みがあるはずです。
そのため、ご自分がどういったことで悩んでいるのかを明確にし、専門家を選択した上で、相談をするようにしましょう。
専門家毎のメリットを考える
専門家にはそれぞれその専門家にしかできない業務があります。
弁護士の場合は、遺産分割や配分などの遺産相続トラブルに関しての代理交渉を得意とし、また専門業務としています。
代理交渉は弁護士しかできない業務であり、遺産分割協議や遺産分割調停、また調停に代わる審判などを行う際に、弁護士に依頼する必要があります。
司法書士であれば、不動産の名義変更(相続登記)に長けており、この業務は司法書士でなければ行うことができません。
また、司法書士は弁護士と並び、こなせる業務が多いため、相続について相談するのであれば、司法書士がよいと言われることがあります。
相続トラブルがない場合であれば、弁護士ではなく、司法書士に相談してもよいでしょう。
また、税理士は相続税に関することに詳しく、相続税の計算だけでなく、土地の評価による節税対策なども行ってくれます。
相続税が発生する場合は、相続税の申告が必要となりますが、この業務を行えるのは、税理士のみです。
ですから、相続税の申告がある場合は、税理士に相談するようにしましょう。
そして、行政書士は弁護士、司法書士、税理士に比べると、できる業務が少なく、依頼する必要性を感じないかもしれませんが、相続に関する書類の作成には長けています。
特に相続に関して、大きなトラブルがない場合は、行政書士に相談するのもよいでしょう。
おおよその費用を知っておく
専門家によってかかる費用は異なります。
そのため、各専門家に依頼した際にかかる費用を知っておくことで、自分の抱えている相続トラブルのためにかかる費用のおおよその金額を知ることができます。
基本的に専門家に相談する場合は、無料相談に申し込み、そのあと見積もりを元に一体どのような業務を依頼しなければならないか、そのためにはどれほど費用がかかるのかといったことを比較することになります。
多くの専門家の事務所のホームページでは、料金プランを明確にして相談者の不安を拭うようなサイトづくりがされています。
料金プランのことで気になることがあれば、無料相談のときにしっかり質問しておくとよいでしょう。
また、遺産が高額であればあるほど、かかる費用が高額になる傾向にあります。
下記は各専門家の連合会による費用の平均を表にまとめたデータです。
税理士の費用については、日本税理士連合会にデータの掲載がないため、弁護士、司法書士、行政書士の費用のみの費用データとなります。
≪弁護士の費用の場合≫
JFBA 日本弁護士連合会「市民のための弁護士報酬の目安 [2008年度 アンケート結果版]」のデータを元に表を作成しています。
【A-14 遺言書作成と遺言執行】
公正証書遺言作成手数料 |
10万円前後 |
20万円前後 |
30万円前後 |
40万円前後 |
50万円前後 |
その他
|
公正証書結遺言作成手数料の割合 |
50.70% |
30.20% |
12.70% |
0.80% |
2.10% |
3.50% |
遺言執行者にもなっているおきの遺言執行者手数料 |
20万円前後 |
40万円前後 |
60万円前後 |
80万円前後 |
100万円前後 |
120万円前後 |
その他 |
遺言執行者にもなっているときの遺言執行手数料の割合 |
18.30% |
27.10% |
18.60% |
8.20% |
19.60% |
2.10% |
6.00% |
【A-15 遺産分割調停】
着手金 |
30万円前後 |
50万円前後 |
70万円前後 |
90万円前後 |
130万円前後 |
150万円前後 |
その他 |
着手金の割合 |
31.10% |
41.40% |
7.10% |
8.40% |
6.40% |
2.40% |
2.30% |
報酬金 |
60万円前後 |
100万円前後 |
140万円前後 |
180万円前後 |
220万円前後 |
260万円前後 |
300万円前後 |
その他 |
着手金の割合 |
11.70% |
30.70% |
12.00% |
14.90% |
11.50% |
4.50% |
9.20% |
5.60% |
※引用:JFBA 日本弁護士連合会「市民のための弁護士報酬の目安 [2008年度 アンケート結果版]」より
≪司法書士の費用の場合≫
日本司法書士会連合会 司法書士の報酬 「報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施)」第1 遺言書作成サポートのデータを元に表を作成しています。
平均値 |
|
遺言書サポート |
51,504円 |
引用:日本司法書士会連合会 司法書士の報酬 「報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施)」より
≪行政書士の費用の場合≫
日本行政書士会連合会「報酬額の統計 平成27年度報酬額統計調査の結果」のデータを元に表を作成しています。
平均(円) |
最小値(円) |
最大値(円) |
最頻値(円) |
|
遺言書の起案及び作成指導 |
57,726 |
2,000 |
500,000 |
50,000 |
遺産分割協議書 |
59,807 |
3,000 |
810,000 |
50,000 |
相続人及び相続財産の調査 |
59,230 |
3,000 |
615,600 |
50,000 |
相続分なきことの証明書作成 |
17,335 |
1,000 |
10,000 |
10,000 |
遺言書執行手続き |
370,797 |
15,000 |
3,300,000 |
300,000
|
引用:日本行政書士会連合会「報酬額の統計 平成27年度報酬額統計調査の結果」より
上記の表からわかることは、各専門家に依頼した際にかかる費用の平均値です。
この平均値を元に、自分が相談しようとしている各専門家の事務所の料金体系が低額であるか高額であるか判断する際の材料となります。
ただし、実績が多い事務所や定額制の事務所、また出来高制の事務所など、料金体系はさまざまです。
目安として平均値を用いるくらいがちょうどよいと言えるでしょう。
専門家に相談するなら
専門家に相談するなら、それぞれの専門家の得意分野をまずはよく知ることです。
知ることにより、自分が抱えている悩みや相続トラブルを最善の方法で解決してくれる専門家はどの専門家であるか、おのずとわかってくることでしょう。
業務を依頼したときにかかる費用に関しては、不安な面も多いでしょうが、料金体系を事前ホームページやパンフレット請求をするなどして調べた上で、無料相談のときに疑問点をしっかり解決し、不安のない状態で専門家に相談することが大切です。