2019年1月30日 水曜日
山林を相続する場合に知っておきたい知識
財産を相続する場合、不動産が対象となることは珍しくありません。
しかし、不動産と言っても自宅などではなく山林を相続する場合、どのように手続きが必要なのか分からない方が多いのではないでしょうか。
そこで、今回は珍しいケースである山林の相続について詳しく解説していきます。
不動産の相続
まず、基本となる建物と土地をセットで相続するケースについて触れておきましょう。
不動産を相続する場合、土地と建物それぞれの評価額を算出し相続税額を求めます。
建物の場合には固定資産税評価額がそのまま相続税額を求める評価額となります。
一方、土地の価格は日々変化していますので、路線価を活用した以下の計算式で評価額を求めます。
「路線価×奥行距離による奥行価格補正率価×土地面積」
この計算式で算出した評価額に応じて相続税を申告し、その税額を納めます。
また、相続した不動産の名義を変更するために「相続登記」を行います。
不動産の相続は評価額を求める計算や登記などが必要となるため、他の財産を相続する場合とは少し特殊な性質を持っています。
そのため、しっかりと不動産の相続のポイントを整理しておき、適切な手続きができるように準備しておきましょう。
山林の相続税評価上の区分や評価方法
ここからは、山林を相続する場合の評価額などについて説明していきます。
山林の区分(3種類)
山林は以下の3つの区分に大きく分けられます。
- 純山林
- 市街地山林
- 中間山林
純山林とは市街地から遠く離れた場所にあり、評価に関して宅地の影響をほとんど受けない山林のことを際しています。
一方、市街地山林は文字通り市街地にある山林のことを指しており、土地評価に宅地の影響を受けてしまう山林のことです。
そして、中間山林は純山林と市街地山林の中間に位置する山林で、市街地近郊にあるような山林を指しています。
また、中間山林は純山林よりも売買価格が高い水準であることも、要件の一つとなっています。
単純に山林の場所による区分が分けられているように思えますが、実は宅地の影響を受けるか受けないかという特徴が山林の評価方法にも大きく影響しています。
つまり、相続する可能性がある山林がどの区分に属しているのかで評価方法が異なるため、きちんとどの区分の山林かを確かめておく必要があります。
山林の評価方法
山林の評価方法は純山林と中間山林の場合、市街地山林の場合で方法が異なっています。
そこで、それぞれの評価方法について確かめていきましょう。
純山林と中間山林の評価方法
純山林と中間山林は宅地から離れている場所にあることが多いため、周囲に路線価が定められていないことがあります。
そのため、固定資産税評価額を活用した倍率方式にて相続税評価額を算出します。
倍率方式の計算式は以下のように分かりやすいものです。
「固定資産税評価額×評価倍率」
評価倍率とは、固定資産税評価証明書に記されている倍率のことで、その土地がどのような土地なのかで倍率が異なっています。
今回の場合は山林ですので、山林の評価倍率を使用して計算を行います。
例えば、山林の固定資産税評価額が1,000万円、山林の評価倍率が2.2倍である場合には、1,000万円×2.2=2,200万円となり、相続税評価額は2,200万円であると算出できるのです。
また、固定資産税評価証明書には固定資産税評価額も記載されていますので、この書類を用意するだけで目的の山林の相続税評価額を算出できます。
市街地山林の評価方法
単純な計算であった純山林と中間山林とは異なり、少し複雑な計算式となるのが市街地山林の評価です。
市街地山林の場合、倍率方式に加えて宅地比準方式でも相続税評価を行います。
宅地比準方式とは、山林が宅地である場合の価格から、山林から宅地にするための造成費を控除した金額を1㎡の評価額とする方法です。
宅地は整地した段階の価格となっており、山林から宅地にするために必要となった費用が上乗せされた上での評価となるため、実際の山林の価格とは大きく異なります。
そのため、造成費を宅地の価格から差し引くことで、元の山林の価格を算出しているのです。
例えば、宅地としての評価額が15万円/㎡、造成費が5万円/㎡、敷地面積が200㎡の場合、相続税評価額の計算は以下のようになります。
山林の相続税評価額=(15万円-5万円)×200㎡
それでは、この計算式を解いていきましょう。
(15万円-5万円)×200㎡=10万円×200㎡=2,000万円
つまり、この例の場合の山林は相続税評価額が2,000万円となります。
山林の評価を行う際の注意点
山林の評価を行う場合、市街地山林のみ評価方法が少し異なります。
しかし、相続する市街地山林が、倍率方式を用いて評価をする区分に該当する場合は倍率方式で計算をしなければいけません。
さらに、その山林が宅地にできないような場合には、比準方式による計算式は行いません。
この場合には、倍率方式ではなく近隣の純山林の評価額を参考にした価格が、そのままこの市街地山林の評価額となります。
そのため、市街地山林の場合は計算方法だけでなく、倍率方式の区分に該当しているか、宅地として活用できるのかなどもきちんと調べなければいけません。
また、山林は実際の面積が登記簿に記録されている面積よりも広くなっている場合があります。
この場合には、固定資産税評価額を土地面積の価格に置き換えて土地評価が行われます。
したがって、山林を相続した場合には山林の測量なども行わなければならず、山林の相続税評価額を算出するだけでも大きな手間や負担がかかってしまうのです。
山林相続をする場合の手続き
山林を相続する場合、相続税を納めるだけでなく主要な手続きをいくつか行わなければいけません。
そこで、山林相続に必要となる各種手続きについて解説していきます。
相続登記
初めに少し触れた名義変更のための相続登記。
これは山林だけでなく不動産全般を相続した際に必要となる手続きの1つです。
相続登記とは、法務局へ登記申請を行うことで完了する手続きで、この手続をもって正式にその山林が相続人の所有物であることを認められるものです。
そして、相続登記に期限はなく、しなくても罰金などはありませんので、相続がいつ登記をしても問題はありません。
しかし、相続登記をしていない場合には山林の売却などができず、ただ所有しているだけの状態となり、所有権に関するトラブルが起こる場合がありますので、なるべく早く相続登記を行いましょう。
また、相続登記を行う際には以下のような書類が必要です。
- 死亡した方の出生から死亡時までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
- 死亡した方の住民票の除票
- 相続人全員分の戸籍謄本
- 対象不動産の固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書または遺言書
- 新しい名義となる人の住民票や印鑑証明書
この中で集めるのが大変なものが死亡した方の書類や相続人全員の戸籍謄本です。
死亡した方の戸籍謄本は出生地までさかのぼって集めなければならず、相続人の戸籍謄本は本人しか取得できないからです。
特に、死亡した方の書類は相続が始まったら必ず集めなければいけませんので、可能な限り早く集め始めスムーズに相続を進めましょう。
市町村への届出
一般的な不動産の場合、相続登記だけで手続きは終わりますが、山林の場合には市町村へも別途手続きが必要となります。
これは、平成23年4月の森林法改正により定められた「森林の土地の所有者届出制度」で、平成24年4月以降に森林の土地の所有者になった人は必ず市町村へ届け出をしなければいけません。
相続登記と違って、この届出は相続発生後90日以内に手続きをしなければならず、取得した山林のある市町村へ届出を行います。
ただし、相続の場合には遺産分割協議が行われる場合があり、協議が難航してもらえると手続き期間である90日間を過ぎてしまう可能性があります。
この場合、以下のように相続人全員の共有物として90日以内に市町村へ届け出を行います。
- 各相続人が法定相続分に沿った割合で山林の届出を行う
- 相続人の連名により代表者が手続きを行う
そして、遺産分割協議が終わった後、改めて相続を行う相続人が届け出を行います。
遺産分割協議を行う場合には相続発生時と遺産分割協議成立時の両方において90日以内に届け出が必要となります。
ただし、相続が発生した後すぐに遺産分割協議が行われた場合には相続が発生した日から90日以内に届け出を行わなければいけません。
また、市町村へ届け出を行う際には以下の書類が必要です。
- 登記事項証明書(写しでも可)
- 遺産分割協議書や遺言書など権利を取得したことが分かる書類の写し
- 土地の位置を示す図面
相続登記と違って戸籍謄本などを集める必要はなく、状況に応じて必要となる書類は異なります。
そのため、届け出を行う前に市町村の役所へ確認を行い、必要な書類を用意しましょう。
山林の測量
行政の手続きとは異なりますが、山林の相続を行う場合は適切な相続税を収めるために正確な山林の状況を調べる必要があります。
そこで、山林の測量を行う手続きが必要となる場合があります。
例えば、山林は成長を続けており登記情報と実際の面積が異なる場合や、他の所有者との境界が曖昧になっており正確な面積が分からない場合があり、こうした状況では相続登記などの手続きが行えないのです。
また、もともと土地の測量が行われていない場合や自然災害などで土砂崩れなどが起きている場合があり、こうした状況を改善し正しい土地の評価を行うためにも山林の測量が必要となります。
ただし、山林の測量は必ずしも必要となるものではなく、場合によっては3ヶ月程度の大規模な測量が必要な場合があります。
そのため、なるべく被相続人の生前のうちに測量を行っておき、正しい土地面積を確定しておくことが、スムーズに相続を終わらせるポイントになります。
山林を相続したくない場合
さて、山林を相続する場合について解説していきましたが、山林を必要ない方もいます。
例えば、地方の親がなくなり山林を相続することになったものの、相続人は都心で働いて暮らしており山林の管理が大変になってしまうというケースです。
では、山林を相続したくない場合にはどのようにしたら良いのでしょうか?
山林を売却する
山林を相続したくない場合、売却をするのが一般的です。
この場合には、以下のようなケースが考えられます。
- 土地の相続が決まった後に売却手続きを行う
- 土地を売却して売却金を相続人で分配する
ただし、重要なのは土地の売却は登記簿に記された人にしか行えないということです。
つまり、売却金を分配する場合でも必ず相続登記や市町村への届け出をしなくてはならず、その後に売却手続きを行わなくてはいけません。
また、実際に山林を売却する場合には正確な土地の面積や所有権を知るために測量が必要となります。
そのため、売却をする際には想定以上の期間がかかることがあり、すぐに売却ができない場合についてもきちんと考えておきましょう。
相続放棄をする
相続が起きた場合、必ず財産を相続しなければいけないという義務はありません。
財産の状況に応じて「相続放棄」を行うことで、相続する財産を全て放棄することが可能です。
そのため、相続放棄を行えば山林を相続する権利がなくなりますので、相続する必要がなくなります。
ただし、相続放棄の場合は特定の財産だけを放棄することはできず、相続する財産全てを放棄しなければいけません。
つまり、預貯金や他の不動産についても相続権を失うため、財産を何一つ相続することができなくなります。
また、相続放棄は相続の開始を知ったときから3ヶ月以内という期限があります。
しかし、この期限内であっても一度相続放棄を行った場合、撤回はできません。
特定の財産だけを相続したくないという考えだけでなく、総合的なデメリットもしっかりと考慮して相続放棄をするかを決めましょう。
山林の相続で起きる「困りごと」「トラブル」
山林の相続が発生する際には、普通の土地や建物の相続と違った問題が起こる可能性があります。
いざ相続する時になって場所や境界が不明であったり、管理の仕方が分からなかったり、権利関係が曖昧であったり、山林の相続独特のケースもあり、正しい知識を持っていないと、困った事態に陥ることがあります。
ここでは、実際どのような問題が起こり得るか、そしてどのように対処したら良いのかを紹介します。
そもそも場所が分からない
市街地では、相続する土地の場所が分からないということは、まず無いと思います。
しかし、山林や森林となると、相続人のみならず被相続人も明確な場所が分からないという事例は度々起こります。
山林の場所が特定しにくいのは下記のような要因があります。
・山林は明確な境界線が無いことが多く、境界の認識が曖昧であること。
・年月が経つと、山林は地形が変化することもあり、場所や境界が特定しづらくなること。
・元は明治時代に測量、作成された公図が正確で無いことが多いこと。
・不動産として所有していても、普段使用していない土地も多いこと。
そのため、
「他界した親が所有していた山林を処分したいが、具体的な場所が分からない」、「山林を相続したが、行ったことがなく、資料も残っていないので、場所をどう調べたら良いのか」といった困りごとが発生します。
では、相続する山林の場所を特定するには、どのような方法があるでしょうか。
まず、場所を調べるにあたり、準備しておくべきものは以下の資料です。
・公図
・土地登記簿謄本
・住宅地図
公図、謄本は法務局に出向くか、法務局ホームページより取得できます。
それらの資料を揃えた上で、管轄の役所の窓口で相続不動産となる山林に関して相談すると良いでしょう。
役所で管理している地番参考図等の資料で、おおよその場所は特定できると思われます。
自身で調査するのが困難な場合は、土地家屋調査士など専門家に相談してみましょう。
所有する山林の範囲が分からない
相続する山林の所在地は分かっている(または、特定できた)ものの、具体的にどこまでが所有地なのかが分からない、境界が不明確であるというケースも多いです。
そのような場合は、場所を調査する時と同様、公図や役場の資料を基にして、隣接地の所有者を特定します。そして、隣接する所有者立ち合いのもと、資料や現在の状況等を考慮しながら、よく話し合って所有地の範囲を特定していくのが理想的です。
山林の境界が曖昧な場合、以下のように複数の要素を含めて境界を明確にしていくことになります。
・自然の地形(林相、尾根筋、谷筋、水路、沢等)
・公図の形
・実測図(土地区画整理法に基づく確定図、国土調査法による地積図等)
・現地の山林に詳しい人の証言(地域の林業家や森林組合等)
また将来のため、以下のことも行っておきましょう。
・しっかりした境界標を設置すること
・土地境界確定図を残すこと
これによって、将来的にまた相続が発生する時、次の世代に山林という不動産をスムーズに引き継ぐことができるようになるでしょう。
相続後はどのように管理するのか
無事に山林の相続が完了すると、次は永続的な管理をしていくことになります。
まずやっておきたいことが、森林組合への加入です。
森林組合は、森林所有者が組合員となって組織されている協同組合で、植林、間伐等の施業委託、行政の補助金や融資制度の窓口業務など、維持管理に関わる様々な業務を行っています。
組合に加入することで、維持や管理に関する様々な情報を得ることができます。
また、山林は定期的な手入れをして樹木を育てていくことで、利益を生む資産となります。管理というと、馴染みの無い人にとっては敷居が高いかもしれませんが、森林の整備に当たっては国や自治体より補助金が出ますので、その範囲内で賄うことができます。
行政への補助金申請の手続きも森林組合へ委託することができるので、作業も含め、自身で難しい部分は委託するのも良いでしょう。
定期的な境界の管理も大切です。
山林の相続時に杭など境界標を設置した後も、長年放置しておくと、雑草が茂り、境界標の場所が分からなくなってしまったり、他人が所有地を利用したり、占領するといった事態も起こります。
定期的に境界周辺のチェック、清掃等管理を行うようにしましょう。
名義変更も行わず放置状態だと、あとが大変
相続する山林があるものの、管理できないからと放っておいたり、山林の場所の特定や共有名義の所有者との調整に難航して、相続手続きがなかなか行えないという事態もよくありますが、相続発生から時間が経つほど、様々な問題が発生するので注意が必要です。
また、相続手続きには期限が定められていますので注意しましょう。
相続放棄や限定承認を行う場合は「相続があったことを知ってから3ヶ月以内」、準確定申告は「相続開始後4ヶ月以内」、相続税の申告は「相続開始後10ヶ月以内」などそれぞれ期限内に手続きを行う必要があります。
期限内に相続手続きせず、山林を放置していた場合、どのような問題が起きるのか見ていきましょう。
・税額が増える
山林相続において優遇される控除や軽減措置が受けられなくなり、また無申告加算税や延滞税が課されることもあり、損をする結果となります。
・相続人が増えてゆく
山林を相続しても、名義変更しないまま放置していると、その土地は法定相続人全員で共有している状態となります。山林を売却する際などに、すべての相続人の同意が必要となるわけです。
また、放置状態が続くと、当初の相続人が死亡して、孫、ひ孫…と、どんどん相続人が増えていきます。この状態で山林を特定の相続人に不動産登記する場合、相続人全員の同意が必要となり、大変な手間になります。
そうなると、益々山林の管理も処分も難しくなります。
・行政上、大きな問題になることも
自然災害や野生の動物による被害が起こった際、山林の所有者が分からないと、すぐに対策を講じることができず、被害が拡大する恐れがあります。
このように相続登記をせず放置しておくと、様々な問題が起き、周辺の住民や相続人の子孫にも迷惑を掛けることになりますので、山林の相続が発生した際には、相続手続き、そして名義変更をできるだけ早急に行うようにしましょう。
相続した山林の使いみちに関する相談先
山林を相続して所有者となったものの、元々林業に携わっていた人でも無いと、活用方法が分からないというのが現実かと思います。
では、相続した山林の活用法について悩んだ時はどこに相談すれば良いのでしょうか。
管理に関しては、まず地元の森林組合に相談するのが一番です。
維持管理を委託する、補助金の申請をする等の窓口にもなっていますので、相続した山林の区域の森林組合に登録、相談に出向くと、様々な情報を得ることができると思います。
もし、相続した山林を手放したいということで、売却を考える際には、付近の不動産業者にも合わせて相談すると良いでしょう。
山林の相続で困ったら
山林の相続は一般的な不動産の相続と比べると複雑になりやすく、市街地山林の場合にはどのように評価をするかで相続税額が大きく変わります。
そのため、山林の相続で困ったら税理士に依頼をして最適な相続方法を相談することが効果的です。
さらに、山林の測量は土地家屋調査士が担当となるため、税理士を探す際には土地鑑定士以外にも土地家屋調査士と連携体制があるかを選ぶ基準にするのもおすすめです。
また、土地の登記などは税理士ではなく司法書士などが専門的に行っています。
したがって、土地家屋調査士以外にも司法書士などと協力体制があることも、相続をスムーズに終わらせるための重要なポイントになります。
特に、相続税の計算や登記に関することを全て一括で引き受けてくれる税理士事業所は、大変な手間がかかることでもすべて任せることができます。
いくつものポイントを比較しながら山林の相続に強い税理士へ、相続の悩みや困りごとを相談し解決させることをおすすめします。