2019年1月30日 水曜日
貸家建付地の相続税評価額
相続する土地の中には、貸家建付地という一般的な土地とは異なる分類の土地を相続する場合があります。
しかし、貸家建付地といってもどんな土地が当てはまるのか、どのように評価額を計算するのか、把握できていない方は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、貸家建付地に該当する土地や評価額の計算方法などを詳しく説明していきます。
不動産は相続財産の1つ
亡くなった人の親族に待ち受けているのは、相続手続きです。
相続税申告には10カ月という期限が設けられており、故人を偲んでいる間にあっという間に月日が流れ、気が付いたら申告期限を過ぎていたということになりかねません。
相続財産にはさまざまなものがありますが、良く見聞きするのは金融財産と不動産ではないでしょうか。
ここでは、不動産の相続について、とりわけ貸家建付地についてお伝えします。
相続の財産
被相続人の遺産を法定相続人が相続した場合や、法定相続人以外の人でも、遺贈といい、遺言で遺産を受け継いだ場合に、相続財産額が大きいとかかる税金です。
すべての相続人が対象となる税金ではなく、相続人の人数に応じた基礎控除額が決められていますので、その金額を超えないようであれば相続税の申告は必要ありませんし、もちろん納税の必要もありません。
ですから、財産をどのくらい所有しているかを把握しておくことが大切になります。
計算してみたらちっぽけだった、という場合はいいですが、思わぬ大きさで困ってしまうこともあるかもしれません。
相続税の課税対象となる財産は、不動産をはじめ、現金や銀行預金(貯金)、株式などの金融財産、自動車や貴金属、会員権など財産として分かりやすいものから、著作権や商標権、特許権などのほか、売掛金や損害賠償請求権などの債権者としての権利など、保有している権利も含みます。
不動産の相続
現金を相続する場合は、誰がどう数えても金額は同じなので、現金をきっちり正確に分けることで相続が行われます。
それに対して、不動産の財産評価には4つのものさしがあります。
- 実勢価格
実際に取引される価格 - 公示価格
地価公示法における公示価格 - 相続税評価額
いわゆる路線価
- 固定資産税評価額
固定資産税を課税する際の評価額
不動産を相続する時の相続税には財産評価のうち、相続税評価額(路線価)を使う定めがあります。
路線価は、実勢価格の約8割程度といわれています。
しかし、路線価を使うにも、不動産には一つとして同じものはありません。
接道や土地の形などを考慮する必要があり、国税庁の「財産評価基本通達」に基準が定められています。
大まかに定めてあるだけですので、不動産の評価額は人により差が出てきます。
不動産は評価額が大きく、全体の相続税額を左右するものにもなりますので、しっかりと調べていかなくてはなりません。
また、一言で「不動産を相続する」といっても、実際は一つとして同じものはありません。
土地といっても地目は宅地だけでなく、雑種地や山林もありますし、農地もあります。
地目によっては、それぞれに定められた法律もあります。さらにはその形状もさまざまです。
建物についても同様です。
住居用の建物かもしれませんし、会社などの事業用の建物、さらにそれを組み合わせた店舗付き住宅であるかもしれません。
事業用の建物として、マンションやアパートを経営しているかもしれません。
貸家建付地とは
貸家建付地とはどのような土地なのか、該当する条件などを確かめていきましょう。
貸家建付地の概要
相続によって手にする不動産の中には「貸家建付地(かしやたてつけち)」という種類の土地があります。
難しい名前の土地ですが、貸家建付地とは自分で所有している住宅を誰かに貸している状態の土地のことです。
例えば、賃貸マンションや賃貸一戸建てなどが建設されている土地などが、貸家建付地に当てはまります。
貸家建付地に当てはまる条件
誰かに土地を貸している状態というと例えば駐車場を思い浮かべるかもしれませんが、実は駐車場は貸家建付地に当てはまりません。
なぜかというと、貸家建付地は建物がなければ該当しないからです。
他にも、貸家建付地に当てはまらない建物もありますので、貸家建付地に該当するための代表的な条件を見てみましょう。
- 建物が建設されている
- 有料で貸している
- 土地と建物の所有権を有している
- 独立部分が確保されている
この中の独立部分とは、扉や天井などによって他の部分が完全に遮断されている部分を指しています。
マンションの1室などのように、その部屋だけでも貸したり他の目的で使用したりできる部屋のことです。
それぞれの条件を見ると難しく感じますが、賃貸経営をしている建物であり、土地も建物も自分のものであれば貸家建付地として扱われるとおぼえておきましょう。
貸宅地との違い
貸家建付地と同じような土地に、「貸宅地」というものがあります。
一見すると同じ意味の土地のように見えますが、実は評価額の計算式すら違う、異なった性質の土地として扱われています。
貸宅地とは、建物を建設することを目的として第三者に貸している土地のことです。
したがって、土地は自分のものなのですが、建設されている建物は貸している方のものなのです。
貸家建付地に該当するためには土地も建物も自分が所有していますが、貸宅地では土地のみが自分の所有となります。
つまり、貸家建付地と貸宅地の大きな違いは、建物を自分が所有しているか、していないかという少しの違いです。
しかし、評価額は大きく異なり、その結果納める税金も変化するため、貸家建付地か貸宅地なのかをしっかりと確かめておきましょう。
貸家建付地の評価方法
それでは、貸家建付地の評価額を算出する計算方法を解説しますので、実際に計算をしてみましょう。
計算方法
貸家建付地の評価額を算出する場合、以下の計算式によって求めます。
「自用地とした場合の価格-自用地とした場合の価格×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」
それでは、正確に計算を行うために、それぞれの価格や計算項目について解説していきます。
自用地
自用地とは、自分で使用している土地や使用できる状態の土地のことを指します。
例えば、まだ何もしていない状態の土地や、自分が住んでいる建物の土地のことです。
貸家建付地は第三者に建物を貸しているため、売却したり活用したりするためには、住民を退去させるなど手間が必要です。
つまり、貸家建付地を売却する際には自用地よりも評価額が下がります。
計算式では貸家建付地の評価を適切に行うために、その基準として自用地とした場合の価格を用いています。
そのため、貸家建付地を算出するためにはきちんと自用地としての価格を調べておく必要があります。
借地権割合
土地の評価額の基準となる路線価図には、A~Gまでのアルファベットが一緒に記載されています。
このアルファベットが借地権割合を表しており、アルファベットによって以下の割合が設定されています。
- A:90%
- B:80%
- C:70%
- D:60%
- E:50%
- F:40%
- G:30%
例えば、100Bと記載されている場合は、路線価が10万円、借地権割合は80%となります。
借地権割合は路線図に記載されていますが、言い換えると路線図を見なければ分からないということです。
そのため、貸家建付地の評価額をきちんと算出するには、路線図を手元に用意して適切にその内容を読み取ることが必要です。
また、自用地としての評価額を考える場合にも路線価が必要となります。
借家権割合
借家権とは建物を借りて使用する権利です。
そして、借家権は相続の対象となり、相続した人は引き続きその建物を借りて使用できます。
借家権割合は、貸している建物の価格の中に借家権がどれくらい含まれているのかを表す割合です。
つまり、建物の何%を貸しているのかを確かめる割合なのです。
借家権割合は、法律で定められており、現在は全国で一律30%となっています。
法律によって決められているため、改定によって変わる可能性がありますので、常に新しい情報を手に入れるように心がけましょう。
賃貸割合
賃貸割合とは、対象となる建物に独立部分がある場合、その独立部分の賃貸状況を表す割合です。
言い換えると、賃貸マンションなどの空室状況から、現在どれくらいの面積が賃貸されているのかを表す割合のことです。
賃貸割合を算出するためには、以下の計算式を用います。
「課税時期に賃貸されている独立部分の床面積の合計/独立部分の床面積の合計」
例えば、合計500㎡の面積のうち400㎡を貸している場合は、400/500となり賃貸割合は80%となります。
ただし、相続時に一時的に借り手がいない場合など、以下の要件を満たす場合には賃貸されているものとして考えることができます。
- 各独立部分が課税時期の前に継続的に賃貸されている
- 住人の退去後に速やかに新たな住人の募集が行われている
- 空室の期間中は他の用途で使用されていない
- 空室の期間が、課税期間の前後1か月程度など、一時的な期間である
- 課税時期後の賃貸が一時的なものではない
評価の具体例
- 自用地としての評価額は1,000万円
- 借地権割合はC
- 1部屋25㎡の部屋が20部屋
- 5部屋が空室
上記の例を使用して、実際に評価額を計算してみましょう。
まずは、賃貸割合から求めます。
この物件の合計床面積は25×20=500㎡、空室の合計面積は25×5=125㎡です。
賃貸割合は、375/500=75%となります。
続いて、この賃貸割合を用いて貸家建付地の評価額を算出していきます。
すると、1,000万円-1,000万円×70%×30%×75%=1,000万円-157万5,000円=842万5,000円となります。
つまり、上記の例の貸家建付地の評価額は842万5,000円だと算出できます。
それぞれの要素の数字が分かれば、計算自体はそれほど難しくありませんので、一度挑戦してみましょう。
特例の評価となるもの
相続税の土地評価額を算出する場合、小規模宅地特例という特例が認められています。
そこで、小規模宅地特例の概要や貸家建付地との関係について説明していきます。
小規模宅地特例とは
主に住宅の土地の特例として定められている小規模宅地特例。
では、どのような土地がこの特例の対象となるのでしょうか?
小規模宅地特例の概要
相続税額を算出する際の特例として定められている「小規模宅地特例」。
これは、相続により取得した土地の中で、一定の面積の土地評価額を80%または50%減額することができる制度です。
例えば、土地の評価額が1,000万円の場合、小規模宅地特例を使用することで、相続税の計算を行う際には200万円として扱われます。
つまり、この場合は800万円分の相続税額を納める必要がなくなるのです。
そのため、面積の制限はあるものの、ほぼ全ての相続の場合でこの小規模宅地特例を使用することが相続税対策には必須となっています。
小規模宅地特例の対象となるケース
小規模宅地特例は住宅であれば必ず使用できる、といった制度ではありません。
面積以外にも満たさなければいけない条件があります。
では、小規模宅地特例の対象となるには、どのような条件を満たさなければいけないのでしょうか?
- 同居していた配偶者が土地を相続する
- 同居していた親族が土地を相続し、相続税の申告期限まで売却せず居住している
- 同居していない親族が土地を相続し、亡くなった方に同居していた配偶者や親族がいない
さらに、相続が開始する前3年以内に相続人や相続人の配偶者が所有する住宅に居住しておらす、相続税の申告期限まで売却していない
この3つの条件のうちどれかを満たすことで小規模宅地特例の対象となります。
少し分かりにくいですが、同居している配偶者や親族が相続する場合は、相続税の申告期限までに売却しない限り対象となります。
また、3番目の条件は同居していない親族が相続する場合を示しています。
この場合、過去3年間は賃貸住宅に住んでいること、亡くなった方と同居している親族がいないことの2つが大きな要件となっています。
小規模宅地特例の対象外となるケース
続いて、小規模宅地特例の対象外となる条件について確認していきましょう。
- 同居していない親族が土地を相続したが、その相続人または相続人の配偶者が所有する住宅に居住している
- 区分登記をした二世帯住宅のうち、相続人が保有している土地部分
対象外となるケースで重要なのは、自分で購入した住宅で生活している場合です。
この場合は同居しているとはいえないため、持ち家があるだけで規模宅地特例の対象外となってしまいます。
また、区分登記を行うことで二世帯住宅でも相続が発生し、小規模宅地特例を適用することができます。
しかし、あくまでも特例の対象となるのは亡くなった方の名義となっていた土地に限られ、土地全てが小規模宅地特例の対象とはなりません。
小規模宅地特例などは併用できる?
上記のように、小規模宅地等の特例を使えば、土地の相続税評価額を最大で80%引きにすることができます。
特例適用の宅地の要件をおさらいすると、おおまかに以下のようになります。
- 特定居住用宅地等(住まいに使用している土地)
- 貸付事業用宅地等(人に貸している土地)
- 特定事業用宅地等(事業で使用している土地)
小規模宅地の特例と、先に説明した貸家建付地の評価制度を併せて使うことができたら嬉しいですね。
貸家建付地の小規模宅地特例
さて、貸家建付地は住宅が建設されている土地ですが、貸家建付地でも小規模宅地特例を活用できるのでしょうか?
貸家建付地にも特例が適用される
小規模宅地特例は、同居などが条件に含まれるため貸家建付地は対象にならないと思われがちです。
しかし、別の条件を満たすことで貸家建付地でも小規模宅地特例が適用され、相続税額を抑えることができるのです。
事業継承要件:貸付事業を引き継ぎ、相続税申告期限まで事業を行っている。
保有継続要件:相続税申告期限まで土地を所有している。
上記の2つが貸家建付地でも小規模宅地特例が適用されるための条件となります。
つまり、相続をしてもその土地を売らずに、貸付事業を引き続き行うことで小規模宅地特例を活用できるようになるのです。
また、貸家建付地で小規模宅地特例を活用する場合、200㎡を上限に評価額の50%を減額できます。
ただし、親族にのみ格安で貸付を行っている場合などは、自用地とみなされ貸家建付地として扱われない場合がありますので注意が必要です。
特例を用いた計算方法
それでは、実際にどのように評価額が変わるのか計算してみましょう。
使用するのは、2.2.の計算と同じ下記の例です。
- 自用地としての評価額は1,000万円
- 借地権割合はC
- 1部屋25㎡の部屋が20部屋
- 5部屋が空室
この例での貸家建付地の評価額は1,342万5,000円です。
この貸家建付地の総面積は25×20=500㎡ですので、この内200㎡分の評価額が50%として扱われます。
500㎡のうち200㎡は40%に該当しますので、評価額の40%が特例の対象となり、以下のような計算式が成り立ちます。
842万5,000円×0.6+842万5,000円×0.4×0.5=505万5,000円+168万5,000円=674万円
つまり、本来であれば842万5,000円の評価の貸家建付地が、674万円の評価額として扱われるため、約170万円評価額が下がっていることがわかります。
貸家建付地を使った節税方法
さて、今回の記事の中では土地によって異なる評価額をいくつか取り扱いましたので、改めて記事内で取り上げた評価額と土地の種類と一緒にまとめてみましょう。
- 自用地:1,000万円
- 貸家建付地:842万5,000円
- 小規模宅地特例を適用した貸家建付地:674万円
それぞれの金額を比較してみると、自用地の評価額が最終的には60~70%程度まで減少していることが分かります。
つまり、この評価額の減少を活用することで相続税の節税に繋がるのです。
その節税方法とは、自用地を相続した場合にその上に賃貸住宅を建設する方法です。
こうすることで、土地の評価額が大きく減少しますので、土地にかかる相続税を節税できるのです。
また、建設のための借入金は負の相続財産として。相続する財産からマイナスされるため、土地以外の相続税も軽減できます。
ただし、建設した後の入居率や借入金の返済計画などを考慮しなければ、こうした遺産を全て失うこともありますので、きちんと考えてから実行に移さなければいけません。
制度を活用することで節税は可能ですが、節税だけを目的とした建設は控え、計画的に賃貸住宅を建設しましょう。
貸家建付地の評価で気を付けたいこと
貸家建付地の評価計算に用いる賃貸割合について前述しましたが、相続時に一時的に貸家が空室となっていても、募集が行われている場合には賃貸しているものとみなしています。
しかし、その空室状態は解消できるものなのか、よく考えてみる必要があるかもしれません。
なぜならば、日本では人口減少に伴って住宅が供給過多状態になっていると指摘されています。
田んぼや畑に突如、アパートが建ったという光景を見たことはないでしょうか。
今でも、相続税対策や資産活用としてアパートやマンションなどの貸家を勧めるハウスメーカーは後を絶ちません。
メリットを提示されて「大家になる」という高揚感で、その土地の相場や、借り受ける人の生活スタイルなどを考えることを忘れてしまうかもしれません。
貸家を作ってはいけない、ということではありません。確信を持って貸家を作り、満室にし、貸家建付地の評価計算の賃貸割合を高めて、子どもに相続する…ということはもちろんあり得るでしょう。
しかし、その反面で、すすめられるがまま貸家を建てたら、空室ばかりで相続時には貸家建付地の賃貸割合が低い状態になってしまうかもしれない、そうした大家さんもいるかもしれない、ということを想像してみることも大切かもしれません。
専門家に相談がおすすめ
遺産は、現金よりも不動産のほうが評価額が低いため、相続税対策として不動産を購入する方もいるでしょう。
相続した土地にアパートやマンションなどを建設して賃貸に出せば、貸家建付地の評価額が適用され、一層評価額を下げることができます。
しかし、住宅供給過多の今、貸家建付地の評価額の賃貸割合を高められるほど、入居者はいるでしょうか。
貸家建付地の評価額や小規模宅地特例を受ける以外にも、相続税の節税対策はほかにもたくさんあります。
不動産は一つとして同じものはありません。
また、相続財産も、想像に及ばないような権利の場合もありますし、負の債権かもしれません。
多忙な生活の中で、相続税申告期限10カ月の間に膨大な相続財産の総額を計算し、小規模宅地特例が適用できるかどうかを調べ、貸家建付地の評価額の計算など、相続税の節税にまで手が回るでしょうか。
相続で迷いを生じたら、さまざまな相続案件を解決に導いてきた弁護士や税理士に相談をするといいかもしれません。
無料相談を実施している専門家もいますので、相談をしてみてはいかがでしょうか。
まとめ
貸家建付地は難しい内容が多くなってしまいますが、きちんと理解することで評価額を大幅に下げることができ、納める相続税を抑えることが可能です。
そのため、ある程度自分でも内容を把握しておき、その上で専門家に各種手続きを依頼するのがおすすめです。
特に、特例に該当するかどうかは生前の家族の状況や考え方によって大きく変化します。
賃貸住宅を所有している場合は、今一度その住宅や土地をどのように相続するのか、話し合っておきましょう。